トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

カテゴリー

FC2カウンター

カレンダー(月別)

05 ≪│2018/06│≫ 07
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

これまで書いた記事は・・・

全タイトルを表示

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Feed Me!

トランシルヴァニアへの扉  - Erdely kapuja-のRSSフィード

ブログ翻訳

セーク村の信仰告白式

信仰告白式の朝がやってきた。
昨日の午後の雨で大地の熱がすっかり冷めきったかと思いきや、
だんだん熱くなることが感じられる。

エルジおばさんに誘われて、この日の主人公のひとりのおばあさん宅へ散歩した。
ちょうど昼食のロールキャベツを窯で煮る所だという。
「今は4キロの米に8キロのひき肉を使うけれど、
私たちの頃はそれが反対だったわ。」というおばあさんに、
エルジおばさんはこう返す。
「それはまだいい方。私たちの小さいころは、
肉は一切入れずにお米の中にブタの脂身をひとかけ入れただけだった。」
貧しい時代を知る人たちの言葉だ。
今でこそ、御殿が立ち並ぶ豊かな村だが、
昔は無名で、一家で沢山の子どもを養わなければならなかった。

「ロールキャベツは、どんな風に並べたの?」
「バラの形よ。」
見た目も美しい、ロールキャベツが山盛りだ。


szeki konfi (10)


夏の熱い中、昔ながらのやり方でキャベツを煮る。
薪をいっぱいにくべて、やがてこの窯にお鍋を入れるのだ。

 szeki konfi (9) 

昨夜からエステルのお母さんや親せきが代わる代わる、
エルジおばさん宅に訪れていた。
というのは、家にケーキを置いておく場所がなく、
エルジおばさんの家を使わせてもらっていたためだ。
今でもご近所が親戚のように行きかう、いい関係性が続いている。

約束の9時半になった。
14歳になったエステルの着付けを見させてもらう。
部屋には、白と黒の衣装が置かれていた。


szeki konfi (18) 

はじめに、手織り布でできたペチコートを3、4枚重ねてはく。
セークの衣装は、昔ながらの手縫いである。
黒い糸は祝日用で、白い糸は平日用。
白い布の上を流れる、つなぎ目の黒い線がひときわ目を引く。


szeki konfi (11) 

セークの衣装の目玉である、ブラウス。
立体的なブラウスを、小さく折りたたむことができるこの知恵。
袖が横にプリーツが寄せてあるのが特徴だ。


szeki konfi (13) 

昔と違って、今はしっかりと糊をつけて袖にふくらみをつける。
袖をアイロンかけする専門の人がいるというから驚かされる。
「誰かが糊を解こうとして袖を破いてしまったそうだから、気をつけるのよ。」
まるで紙のように固い袖を解くのも、大変な作業。


szeki konfi (17) 

まるで子供のようにブラウスを着せてあげないと、
一人では着ることができない。


szeki konfi1 

次にスカートとエプロン。
黒地にピンクのヒマワリがプリントされたプリーツスカート。
「午前はヒマワリ柄で、午後はバラ柄なのよ。」とエルジおばさんが教えてくれる。


szeki konfi2 

ショールを肩にかけてから、
赤いガラスビーズのネックレスを装う。


szeki konfi (21)


華やかなカロタセグ地方とはまったく違う、シックな色の組み合わせ。
これがセークの美意識なのだ。


 szeki konfi (24)


黒い別珍素材のベストは、
ブラウスの袖のふくらみがあるので、肩のところを外すことができる。


szeki konfi (31) 

テーブルの上にずらりと並んだ、ハンカチーフにリボン。
午前と午後で持っていく柄が違うという。


szeki konfi (30)
 

赤と緑のリボンでできた肩飾り。


szeki konfi (32)


黒いタッセル飾りのついたベストの肩に、
赤いバラの肩飾りを縫い付ける。

 
szeki konfi (34) 

これから、長い髪をお下げに結っていく。
足りない分は、つけ毛を足して、最後に赤いリボンを巻き付ける。


szeki konfi (37) 

ひとりの少女に三人がかりで着付けをする様子は、
まるでお姫様か貴族の令嬢のよう。
夏でも、膝までくるロングブーツをはかせる。


szeki konfi (39)


黒いスカーフからのぞく、長いお下げの髪。
これが伝統的な美しさ。


 szeki konfi (40)


黒いスカーフをかぶせると、エステルは、
「まるでお葬式みたい。スカーフは嫌いだわ。」と顔をしかめる。


szeki konfi (43) 

最後の仕上げは、ブラウスに手で皺をつけていく作業。
昔はしなかったやり方だが、村で80年ごろから流行ったのだという。


szeki konfi (45) 

優に1時間半をかけて着付けをしてから、
急ぎ足で教会へ車を走らせる。
ちょうど教会の鐘の音が響き渡り、
たくさんの村人たちが昔ながらの衣装で集まっていた。


szeki konfi (48)


お年寄りは今でも日曜日は礼服を着るが、
若者たちはこの時間のかかる衣装に親しめず、限られた祝日にしか着ることはない。
今日の主役である、14歳の少女たち。
白と黒のセーク村のエレガンスは、
時を越えて私たちの心を打つ。


szeki konfi (6) 

牧師さんに促されて、列をなし、
教会の中へと吸い込まれるようにして入っていく。
彼女たちのお母さんも、お祖母さんも、その前のご先祖さまの時代と変わることのない光景が
今もこうして繰り返されているのだ。

  szeki konfi (49) 

赤い刺繍のタペストリーの前にならぶ少女たち。
神のご加護をうけて、これからも美しく育っていくのだろう。


szeki konfi (50) 

午前の礼拝を前に、荘厳な雰囲気で満ちていた。
それは、人々の衣装のせいかのか、
人々の心のせいなのか分からない。
しかし、衣装というひとつの文化を失わずに守ってきた人々のもつ、
特有の美しさは疑いようがなかった。


szeki konfi (46) 

その風景を目に焼き付けながら、
娘のまつエルジおばさんの家へと歩いていった。


スポンサーサイト
comments(8)|trackback(0)|セーク村|2018-06-04_21:41|page top

セーク村のエルジおばさん

セークという、不思議な村がある。
赤い衣装に身を包み、白いスカーフを頭にかぶったおばあさん、
小さな麦わら帽子をちょこんとのせ、白いシャツに青いフェルトベストのおじいさんが、
日常生活を送っている。
昔ブダペストで学生時代を過ごした頃も、通りやメトロの中で幾度となく
こうした「赤いおばあさん」たちを見かけたことがあった。
市では商売心旺盛なたくましいおばあちゃんたちが、
セークの名のもとで何でも売っている。
いつか村で、「これは近くの有名なルーマニアの村で作られたもので、
洪水の被害にあって気の毒だったから販売している」と聞いて、
男性のシャツを買ったことがある。
後に全く別の地方のものだったことがわかり、
それ以来、自然と足が遠のいてしまった。

村で聞き込みをしているうちに、エルジおばさんを探し当てたのもその時だった。
まるで額縁のような大きな枠に布を張り付け、
上から下へ下から上へと針を運搬する、セーク村の伝統刺繍を見せてくれた。


SzekesKalotaszeg2.jpg 

一昨年、手芸ツアーの準備のために訪れたのが5,6年ぶりだったのだが、
エルジおばさんは相変わらず、冬も夏も手仕事をして過ごしていた。
「村では、もうほとんどが日当を稼ぐために
ブダペストに行ってしまったわ。」
貧しい時代を生きてきたセークの女性たちは、
13、4歳になると奉公に出ていたという。
ハンガリー人の詩人カーニャーディ・シャーンドルの、有名な詩がある。
そこでは黒と赤の衣装をきたセークの少女たちが、セークの少年たちとともに
木曜と日曜の夜に集まって踊る風景がいきいきと綴られている。

「私も村から出てはみたけれど、2週間で帰ってきたわ。
村以外のところは好きになれなくてね。」
そうしてご主人さまと一緒に村に残り、
社会主義時代を経て今もここで暮らしている。

「今の人たちは、もう手仕事をしなくなったし、
手作りのものは一切飾らなくなったわ。」
それでも、エルジおばさんは手を休めずに働きつづける。
娘婿の母親であるジュジおばさんがやってきた。
ふたりは一緒に手織り布を織っているのだという。
セークのブラウスは、昔ながらの手織り布を使っているからで、
今でも正装として作られている。


szeki erzsineni (2)

 
ジュジおばさんは糸巻き機を回転させながら、
糸を巻きはじめた。
右手で輪を回しながら、左手で均等に巻き取っていく。
カラカラという音が耳に心地よく、
仕事の風景は実に美しいと思った。
時代を遡り、遠き過去をのぞき見たような感覚がする。


szeki erzsineni (1) 

エルジおばさんの部屋は、
今でも60年前の嫁入りの時と変わらない。
12個の枕カバーが天井に届くほど積み上げられ、
すべてセークのアウトライン刺しゅうで作られている。
折りたたんだ縞模様の毛布の下には、
華やかな色のウールの手織りのベッドカバーが何層にもなって続き、
さらに白い手織りのベッドカバーが見られる。


szeki erzsineni (4)


「私の娘も手織りに刺繍、マクラメも編んだし、何でもできるの。
嫁入りの時に必要だったからね。」
50歳くらいの娘さんは、町に出るまでは民俗衣装だけで暮らしていた。
嫁入り道具もすべて自分の手で作った。
村に電気が通ったのも60年代になってから・・。
それなのに、この生活の差は何だろう。
何が人々を変えてしまったのだろうか。
苦労して作った嫁入り道具ももう必要がなくなり、
町へ出た人々はほとんど伝統衣装に袖を通すこともない。

暇をもてあそぶ娘に、おばさんは自家製のハエ取り機を渡した。
「さあ、これで悪い虫をやっつけるのよ。」


szeki erzsineni (3) 

久しぶりの土砂降りが降った後、
村へと散歩に出た。
昔は5000人も住んでいたこの村は、かつては塩鉱山で栄え、
町と呼ばれたこともあった。
「町見物へ行くのよ。」通りで会う人に、エルジおばさんは言った。

村に住むオランダ人のおじさんが博物館を営んでいる。
完成したばかりだという展示室に入らせてもらった。
展示されていたスピンドルを手に取り、
羊の毛のような色をした大麻を束にしてクルクルと巻きはじめた。
時おり、口で手先を湿らせながら器用に巻とる姿に見とれてしまう。
「ここで糸を紡いでくれたのは、あなたが初めてだ。」とご主人さんも喜ぶ。


 szeki erzsineni


この2日間、おばさんの話から、その仕事する姿から
私は本来の村の姿を感じ取っていた。
貧しい村で倹しく、ひたむきに働きつづけた村人たち。
今その生きる姿勢を感じさせてくれる人は、この村であってもごくわずかに違いない。

「私たちはいつも手仕事とともに生きていたの。
ものがないのが当然だったから、何でも1から作るしかなかった。
それは、生活の一部なのよ。」
エルジおばさんの言葉が、今も耳に残っている。








comments(2)|trackback(0)|セーク村|2018-06-01_13:24|page top

セーク(シク)村の手仕事を訪ねて(後)

午後になるとたちまち、
どこからか雨雲がやってきては、
地面を湿らす。

 

SzekesKalotaszeg 177 


また一雨こないうちにと、
目指す家の門を叩いた。 
玄関口からは、様子を伺いに外に出てきたのは
小柄なおばあさん。
 「 機織りを見せていただけませんか?」
おばさんは一瞬考えたあと、
 「 どうぞ。」と小声で言い、
家の中へと案内した。 
薄暗い部屋のなかに、
ぴんと張られた縦糸のあまりの白さに、
鳥肌が立つ。


 

SzekesKalotaszeg 184 


小さな部屋の中、
大きな機織機を動かしはじめると、 
生活空間はたちまちにアトリエに早代わりしてしまう。
 ただじっと、その動きを見つめ、
その音に耳を澄ます。


 

SzekesKalotaszeg 214 


横糸の入った筒を、右へ左へと動かす。 
バタンと厚い木の板で、
生地を押して整える。 
その一定のリズムが、なんとも心地よい。


 

SzekesKalotaszeg 220 


機織に向かうその姿は、
まるで鍵盤をたたくピアニストのよう。 
美しい旋律の代わりに、美しい模様が紡ぎだされる。 
織っているうちに、
自然とおばあさんの顔には笑みが浮かんだ。


 

SzekesKalotaszeg 228 


たっぷりと時間を吸い込んで黒ずんだ木目。 
この機織機は、
どれだけの夏と冬を越してきたのだろう。


 

SzekesKalotaszeg 242 


セークの村でも唯一の、
立体模様の織りを作りだすカティおばさん。
 村の人たちからの注文に応じて、
機織をつづけている。 
結婚式や葬式など、
今でも織りのクロスは生活のあらゆる場面を彩っている。


 

SzekesKalotaszeg 201 


先ほどまでの雨雲はとたんに姿を消し、
ふたたび青空が戻ってきた。 
丘の上にあるペンションへと戻り、
セークでの半日も終わった。


 

SzekesKalotaszeg 178



朝日が差してきた。
なだらかな曲線を描く谷あいを一望する、
ペンションからの風景。

 

SzekesKalotaszeg 284 


ゆっくりと朝食を食べ、
村へ向かうと、もう畑仕事を済ませた
おばさんたちがやってくる。 
真っ白なブラウス、紅色や黒のプリーツスカート。 
もったいないほど美しい日常着。


 

SzekesKalotaszeg 286 


人づてに聞いた、刺しゅうの職人さんを訪ねる。 
ジュジャさんは、
「 これが一番古い衣装よ。曾おばあさんから伝わるもの。」  
と美しい衣装を次々と見せ、説明をしてくれる。 
細やかなプリーツの寄せられたスカートは、
すべて手縫いで作られてある。


 

SzekesKalotaszeg 335 


「 私はね、生まれてから一度も市販の服を着たことがないのよ。
 
ブダペストに出かけようとも、いつもこの衣装。」 
年の頃は、50前くらいだろうか。 
高校を出たばかりのお嬢さんがいる。 
ふくよかなその指先からは、
驚くほど繊細なバラ模様が生まれる。


 

SzekesKalotaszeg 388 


縁にバラ模様の連なったスカーフは、
セークの女性の晴れの服装である。 
サテンのようななめらかな光沢の黒地に、
鮮やかなバラの模様が美しい。


 

SzekesKalotaszeg 436 


ご主人さまのために作ったという、
アコーディオンプリーツのシャツ。
 「 シャツの袖には、
日曜日の朝は必ずアイロンをかけるの。 
そうしないと、綺麗なプリーツが寄らないからね。」


 

SzekesKalotaszeg 339 


胸からは、刺しゅう入りの
細長いネクタイがちらりとのぞく。 
未婚の男性は赤を、
既婚の男性は黒を見につけるという。


 

SzekesKalotaszeg 340 


お隣のお嬢さんにつれられて、
セークの部屋を見せてもらう。 
まだ中学生くらいの少女のために
すでに嫁入り道具が用意されている。 
家の富を手仕事に注ぎ込む、セークの伝統的な価値観が
ここにもしっかりと根付いている。


 

SzekesKalotaszeg 417 


衣装も見につけず、
針仕事もしない今の世代の少女たち。 
彼女たちの時代には、
セークの村はどんなにか変わっていることだろう。


 

SzekesKalotaszeg 428 


少女が持つ絵付けをした額縁には、
若き日の両親の結婚写真が収められていた。


 

SzekesKalotaszeg 434 


診療所の前では、
女性たちがおしゃべりに花を咲かせる。


 

szek4.jpg 


こんな風に、紅い布が干してあるというのも
セークならではの風景。


 

SzekesKalotaszeg 453 


黒いブーツがずらりと並んでいる、古い民家。 
オランダ人が家を買い取り、 住んでいるという。


 

szek5.jpg 


こちらはハンガリー人が別荘にしている、
古いカヤブキの家。 
こういう古い家を村の人よりは、
外国人が珍しがって買い取ることが多いようだ。


 

SzekesKalotaszeg 475 


土で塗り固められた壁。
家の壁をより白く見せるために、
青が使われていた。


 

SzekesKalotaszeg 477 


家の中は、まるで展示場さながら。 
部屋を彩る鮮やかな色が、
光りの少なさを補って、
生き生きと明るいものにしている。


 

SzekesKalotaszeg 478 

中世の残る村に
まだまだ後ろ髪を引かれながらも、 
町行きのバスに飛び乗った。


 トランシルヴァニアをこころに。

にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ

 *セークのファッションについて、詳しくはこちら。
 



*セークの機織について、詳しくはこちら。 

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(4)|trackback(0)|セーク村|2010-07-15_06:35|page top

セーク(シク)村の手仕事を訪ねて(前)

トランシルヴァニアの中でも、
とりわけ有名なセーク(シク)村。 
以前訪ねたのは真冬の閉ざされた環境のせいか、
どこか閉鎖的なように感じられた。
なだらかな山が続くこの一帯は、
メズーシェーグと呼ばれる。 
四方を丘で囲まれた環境のせいか、
フォークロアが豊かな地方として知られている。
 駅からバスに揺られること30分ほどで、
すぐにセークに入った。 
緑の丘に抱かれた村は、
それだけでひとつの世界のようである。 
村の中心の教会の前には、
美しい衣装の人たちが見られる。
ちょうど、日曜のミサが始まるところのようだ。 
バスから飛び降りると、
吸いよせられるようにして
黒い衣装の女性の跡をついてゆく。


 

SzekesKalotaszeg 015 


大きく広がったアコーディオン・プリーツは、
まさにセークの衣装の顔である。
 夏の太陽に照らされて、
その陰影がくっきりと移し出される。


 

SzekesKalotaszeg 032 


黒いベストにスカート、
白のブラウスの控えめな色合いが、 
可憐な女性の美しさを引き出している。 
肩に留まったバラ飾り、
そして黒いスカーフの赤いバラ刺しゅう、 
スカーフの下から、
お下げと赤いリボンが長く腰まで垂れる。


 

szek2.jpg 


男性は、麦わら帽子に青いベスト。 
刺しゅうのネクタイが、
白いシャツの胸からそっと顔を見せている。 
教会のミサが厳かにはじまった。 
日曜日のミサには、晴れの衣装を見につける。 
どこでもその規則は変わりないはずなのに、
 中世の古い教会に、
これだけの人数がお揃いの衣装で並んでいると、 
ぴんと厳かな空気が張りつめるようだ。 
まるで、何百年もの時間をタイムスリップしたかのよう。


 

SzekesKalotaszeg 039 


一時間のミサのあと、
重い荷物を下ろそうと宿を探す。 
セークには三つの通りしかないと言われる。 
昔は町と呼ばれたほど大きな村は、
三つの地域に分けられる。


 

SzekesKalotaszeg 072 

手違いでペンションが予約されていなかったことが分かり、 
炎天下のなか宿を探す羽目になった。 
ハンガリーから大型バスで観光客が着ているため、 
村のペンションはどこも一杯だという。 
村人を探すにも、日曜日の午後は
しんと水を打ったように静かだ。 
やがて親切なハンガリー人団体客の招きで、
ツアー観光の中へと入れてもらう。 
急きょ、同じペンションで部屋を空けてもらい、
ほっと一安心。
何とかなるものだ。 

村のおばさんが、糸紡ぎのレクチャーをしているところ。 
麻を育て、くしをかけて、叩き、それから糸を紡ぐ。

 

SzekesKalotaszeg 078 

隣国ハンガリーにとっては、
トランシルヴァニア地方はノスタルジアをそそる、 
文化のルーツともいえるところ。 

 荷物を置いて身軽になったので、
さっそく村を散策に出かける。
 「 村の下の方に、刺しゅうをする人がいたと思うわ。」という 
おぼろげな情報を頼りに通りを下っていく。 

途中で道を尋ねたら、
その女性が「うちにもあるわよ。」と家へ招き入れてくれる。 
一般にハンガリー語では「清潔の部屋」という
女性の手仕事をしまった部屋のことを、 
ここでは「セークの部屋」と呼ぶ。 
カラフルなウールの機織のベッドカバーが
幾層にも重ねられ、
その上には
真紅の織りのクッションカバーが高く積み上げられる。 
決して使われることのない、
生活用品はまさに目で愛でるべきもの。


 

SzekesKalotaszeg 065 


青い壁には、所狭しと
機織のクロスにアンティークの皿、 
家族の写真や、絵画などが飾られている。


 

SzekesKalotaszeg 093 


「 刺しゅうはされますか?」と尋ねると、 
奥の部屋から、作りかけの刺しゅうを見せてくれる。 
1mほどはある大きな刺しゅう枠は、
まるでキャンバスのようだ。


 

SzekesKalotaszeg 115 


その大きなキャンバスを胸に抱き、
ひと針入れては、裏からひと針を出す。 
ただひたすら、その繰り返し。


 

SzekesKalotaszeg 110 


「 あ、これなら。私にもできそう。」
友人がそうつぶやいた。
 そうフォークアートは、本々は難しい技術を要するものではない。
 畑仕事や家事、育児・・・
たくさんの仕事の傍らに、
物質的に豊かでなかった村の生活を 
より美しく生活を彩ろうと努力してきた、その証なのだから。 
エルジおばさんの家を出ると、
先ほどまでの青空は跡形もなく、
 だんだん雲行きが怪しくなってきた。


 

SzekesKalotaszeg 158 


小川のほとりの小さな一軒家。
おばあさんが招き入れてくれた。 
富の象徴である「セークの部屋」もなく、 
ささやかな老夫婦の生活が垣間見られるような部屋。


 

SzekesKalotaszeg 169 


ハンガリー語を流暢に話す、ルーマニア人のおばあさん。 
「 私の子どもたちはみんな、遠くへ行ってしまったわ。
 
もう80だからね、いくら呼ばれたってどこへも行けないわ。」


 

SzekesKalotaszeg 173 


先ほどエルジおばさんから聞いていた、
機織の名人のおばあさんを探す。
 「 ああ。カティおばさんは、すぐそこよ。
 
ねえ、うちにもいいものがあるから、寄っていかない?」


 

SzekesKalotaszeg 182 


もう、ここは村のはずれ。
この先はただ緑の丘がつづくだけ。
 村はずれの家の門を開いて、中へ入った。


 

SzekesKalotaszeg 175 


 トランシルヴァニアをこころに。

にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ

 *エルジおばさんの刺しゅうについて、
 
詳しくはもうひとつのブログにて。 

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(8)|trackback(0)|セーク村|2010-07-13_09:39|page top

赤い薔薇のセーク村

イェッドからカロタセグ地方へ向かって、
旅のしめくくりはセーク村。
 ルーマニア語ではシクと呼ばれる村は、 
ハンガリーの古い伝統を守りつづけていることで有名である。
 みやこうせい氏の著書「ルーマニアの赤い薔薇」では、 
セークの女性たちの赤い衣装のうつくしさが
愛情をこめた写真と文章で紹介されている。

 クルージ・ナポカの駅で待ち合わせ。
 迎えにきてくれたのは、村出身のヤーノシュさんと
奥さんのジュジャ。
 「 日本とは縁が深くてね。もう何人もの日本人が家にやってきたよ。 
僕の母さんは、日本のテレビ番組でも紹介されて、
日本に呼ばれたこともあったんだ。」
と陽気なヤーノシュさん。 
彼の母親クララさんのところに、
日本の女優さんがホームスティした番組を
 確か学生時代に見たことがあった。 

ジョルトシュ・クララさんの日本とのつながりは、 
80年代に村の結婚式でみや氏とであったことからはじまる。
 「 その当時はね、外国人をここで見ることはほとんどなかった。
 ミヤが結婚式のときに、ベンチで寝ているのを見かねて、母さんが家に呼んだんだよ。
彼とはそれからの付き合いさ。」

 当時のルーマニアでは、
セクリターテと呼ばれる秘密警察がはびこっていた頃。
 素性の知れない外国人を家に招くことは、それなりにリスクもあったに違いない。 
セークでは古くから
男性たちは建設業に、女性は家政婦として村を出ていくのが習慣だった。 
クルージ・ナポカの町の中心部にある公園で、
夜になるとセーク出身の若い男女が集まり、
 踊りを踊っていた。
この話を基にして、詩も生まれたという。 

昔はクルージやボンツィダの屋敷だったのが、
今では行き先がブダペストになった。
 村からは毎日ブダペスト行きの長距離バスが
出ているというのだから、驚きだ。 
国境を越えて、ハンガリーの首都へは
ここから8時間ほどはかかる。 
そういえば、赤い衣装を身にまとった女性たちが
町のなかをそぞろ歩き、
 メトロに乗っているのを何度ともなく見たことがある。
 まだ見ぬセークの村に想いをはせているうちに、 
うっすらと白粉をはたいたような山並みをいくつもこえて、
車が走ってゆく。


 

szek 156 


「 この山の辺りから、もうセークだよ。
 
村にはね、湧き水がふたつあってね。 
ひとつは普通の水なんだけれど、もうひとつは塩水なんだ。」 
その塩水を何に使うかというと、
燻すまえのベーコンを漬け込むといいそうだ。


 

szek 160 


セークには三本の道しかない。 
フェルセグ(上)通り、
チプケセグ(レース)通り、
フォッローセグ(熱い)通り。 
人口は、2000人ほどの大きな村。
 昔は上地方と下地方に分かれていて、その間でも人は交わらなかったといわれている。 
それために、より純粋な
セークの文化が守られてきたのだ。 
やがて車がとまり、
二軒あるうちのひとつの方へ通される。 
小さな男の子が、ヤーノシュめがけて
抱きついてきた。 
その後ろからは、
赤い衣装に白いスカーフをかぶった女性が笑顔で迎える。
そう、今日は日曜日。
家族団欒の日だったのだ。


 

szek 172 


日曜日のミサのあとに、
家族いっしょに昼食を食べるのが安息の日のすごし方。
お料理が上手なクララさんの食事は楽しみだった。
 お肉と野菜のエキスがぎゅっと凝縮された
コンソメスープ、
そして
ローストチキンとグリンピース・ピラフに舌鼓をうつ。


 

szek 174 


 セークといえば、名物は
プルーンの蒸留酒。 
パーリンカという、二度も蒸留させて
濃い果実のエキスを絞りだす酒には、 
アルコール分が40~50%も含まれている。
 小さなグラスに注がれた
その透明な液体の清々しい甘い香りをかぎ、 
すこし舐めてみるだけで十分。 
食事のあとは、
クララさんお得意のお菓子が出された。 
TV番組でも、彼女のお菓子の腕前が
存分に発揮されていた。 
モノの少ない共産主義時代に、 
少ない材料で工夫を凝らして作られた
ホームメイドのお菓子。
 時間がかかるから、今や
その家庭の味も存在が危ぶまれている。
 今日のデザートは、
ケシの実のスポンジケーキと、
チーズクリームのクッキー。


 

szek 184 

ケーキは、卵白でふんわりとやわらかな舌触りで
ケシの香ばしい風味と、
 プリンみたいなカスタードクリームがいっしょに溶けこむ。
 上には、しっとりとリキュールがしみこんだ、 
ビスケットがのっかっている。 
塩味のクッキーの中に、
チーズクリームがはさまれたお菓子は、 
軽くてさわやかな味わい。 
「 バラージュが、クリームをぬるのを手伝ってくれたのよ。」とクララさん。 

居間にもセークの色と模様が
ぎっしりと詰め込まれていて、 
その重みのあるクッションの針目だとか、 
深い黒に赤い花が冴えわたる絵付けされた家具に
目が釘付けになる。


 

szek 195 


「 これはね、最近私が描いたものよ。 
木目だけの棚だったのだけれど、
ほら、こうするだけで生まれ変わるでしょう。」
 日本家屋にも違和感なく収まってしまいそうな、
その色合いの家具を見て、うなづく。


 

szek 190 


セークの刺繍は、
どこか粗野で丸みのあるモチーフが特徴。 
丸いバラだとか、円のなかにニワトリがあったりという、
素朴さが魅力。 
「 この刺しゅうはね、針を表と裏に返して縫うから
とても時間がかかるのよ。」 
最近では、この伝統的なステッチを使わず、
簡単なものに変わってきているようだ。


 

szek 318 


 ミサがはじまる前に、
本宅の方へと案内してもらった。
 もともとはこちらの家に住んでいたのが、
今は客室として利用しているらしい。
 「 ここに、ミチコも泊まったのよ。」 
パジャマ姿の女優さんと、クララさんの写真に
思わず笑みがこぼれる。

 女性の手仕事がいっぱいに詰まった
ティスタ・ソバ(清潔の部屋)は、
 ここではセークの部屋と呼ばれる。 
普段は使われることのないこの部屋を、
一言で物置などとはいうことはできない。 
そこには嫁入り道具や、家族の写真など、
大切な家の歴史が刻まれているから。


 

szek 256 


ボクレータという藁でできた
花嫁、花婿の髪飾りは、 
その長い年月とともに、
ガラスの中にそっと封じ込められる。
 クララさんたちのもの、 
息子さんたちのものが
あたかも同じ時を刻んでいるかのように並んでいた。


 

szek 261 


セークの衣装の中でも有名なのは、
アコーディオン・プリーツの袖つきのブラウス。
 昔はパンを焼いた後のかまどに入れていたのが、 
後には専用のアイロンでプレスして
この立体的な造形美が生まれるようになった。
 坊やも、いつかはこの晴れ着に袖を通す日がくるだろう。


 

szek 219 

高く積み上げられたクッションと、 
幾層にも折り重なった華やかな色彩の毛糸織りのベッドカバー。 
彼女に子供ができ、
孫に囲まれても、その色はあせることなく 
若かった彼女の手のぬくもりを
そのままに伝えている。


 

szek 239 


村としては大きな規模のセークの教会。 
おそろいの皮のジャケットに着替えた人たちが、
表で待っていた。
 特別な行事もなく、
民俗衣装でミサに通う姿はもう他所では見ることはできない。


 

szek 319 


ひっそりとした、
古い石造りの教会のなかへ。 
13世紀にタタール人が侵攻してから、
再び建てられた教会。
 古びたフレスコの壁画と
薄暗くひんやりとした石の温度が、 
保守的な村の人々とぴったり寄りそうようだ。

 

szek 332

szek 333 


また、表には雪が降りはじめた。
 クララさんと別れたあと、
車はもとの山をいくつも越えてゆく。
 「 村が、恋しくなることはない?」たずねると、 
「 ああ、僕はたまにね。」とヤーノシュさんが答える。 
 彼はブカレストで三週間仕事をしたあと、
残りの一週間をすごすためにクルージの家に帰る。
 ジュジャは子どもさんとふたり、
シンデレラの城のような家で暮らしている。
 「 歌をうたいましょうか。」
うっすらと暗闇に包まれた雪景色を眺めながら、 
家族の奏でる民謡の調べを聴いていた。 
山の中にひっそりとたたずむ故郷を想って、
遠く離れた地で仕事に励み、
 故郷に錦を飾るために村へと帰っていったセークの民。 
確実に変わりつつある、
彼らの生活を想った。


 

szek 349 


 トランシルヴァニアをこころに・・・。

にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ

 *クララさんの手仕事の部屋を、詳しく
もうひとつのブログにてご紹介しています。

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(19)|trackback(4)|セーク村|2010-04-06_22:03|page top