トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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トランシルヴァニアへの扉  - Erdely kapuja-のRSSフィード

ブログ翻訳

ドボイで揺りかご作り

ダンナの高校時代の友人に子供が生まれた。
ちょうど、もう一人の高校の旧友の結婚式と同じ日であった。

ダンナは何を思ったのか、友人の出産祝いに揺りかごを作ろうと計画を始めた。
確かに今は、村で家を建ててくれることになっている大工さんが仕事で忙しいため、また作業が休止している状態である。
その友人というのは彫刻家なのだから、そんなプロに贈るなんて失礼じゃないか・・・と私は考えるのだが。

そういう訳で、私たちは揺りかご製作のためにドボイへ向かった。
もう一人の彫刻家、バルニと共同で作ってプレゼントするというわけだ。

村で生活を始めて4年になるという友人の家も、だんだんと村の生活らしくなってきた。
芸術家という職業上、村にばかりいるわけにいかないらしい。
この間行ったときに、トマトが植えてあるのを見て意外に思ったのを覚えている。
そして彫刻の庭では、私たちが来るのを歓迎するかのように一輪の紅色のバラが花開きはじめた。

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「ウサギを見に来る?」というので、私は息子の手を引っ張ってアトリエのほうへついていった。
ご主人様の仕事場を守るかのように、大きな犬が2匹も待ち構えている。
もう私たちにも慣れたようで、ほえないので安心だ。
アトリエの中にウサギ小屋がある。

子供の頃に好きだったベンジャミン・バニーを思わせるような灰色がかった茶色のウサギ。
立派な小屋を作ってもらって、心地よさ気に身を寄せ合っていた。
「あと一ヶ月で、子供が生まれるよ。」といいながら、ウサギを大切そうに抱き上げていた。

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やがて作業開始。
木の板を組み立てて、大体の大きさを決める。
「赤ちゃんって、どのくらいの大きさだっけ?」と首をひねる。
私も口を出しながら、ようやくサイズが決定した。

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大きさが決まると、今度は板の接続部分をで切る。
あの大きなチェーンソーが登場。
エンジンを入れると、ものすごい音を立てて高速回転する。
私は怖くて、よく見れたものでない。
それから、きれいにノミで形を整える。

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作業が段取りよくはかどる中、私は昼食の準備。
村から持ってきたトマトをふんだんに使ったパスタの予定だが・・・
暖炉でまきから焚いていると火加減が難しく、途中で何回も火が消えてしまった。
慣れていないので、料理をしている間に火のことをすっかり忘れてしまうのだ。
結局、パスタは茹ですぎのドロドロになってしまった。
ソースの味は悪くなかったので、食べられないことはなかったが・・

食後は、息子を寝かせている間に一人暮らしのユリシュカおばあちゃんを訪ねた。
お昼に茹でたとうもろこしを持って行った。
おばあちゃんはいつも、「あなたを待っていたのよ。」と喜んでくれる。
身のこなしも活発で、声も大きい元気なおばあちゃんだ。

おばあちゃんと世間話をしていると、お客様がやってきた。
初めて会うが、この村に住むおばあちゃん。
二人のおばあちゃんが、世間の悲しい話をため息混じりに語っているのを聞いていると、近所のお下げの可愛いおばあちゃんもやってきた。

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どうやらユリシュカおばあちゃんの家は、近所のおばあちゃんの溜まり場のようだ。
「あなた、誰のところへ来たの?」と初対面のおばあちゃんが聞くので、「バルニのところです。」と言うと、口々に彼のことをほめちぎる。
村において、「よそ者が誰を訪ねにきたか」というのはかなり重要なトピックのようだ。
だから、評判のいい人のところへ来た人はそれだけ待遇がよくなる。
おばあちゃんたちは、バルニから今度は私のこともほめだした。

おばあちゃんたちと午後の時間があっという間に過ぎて、家へ戻ると揺りかごも形が大分できていた。頭と足がくる部分に、きれいな形を描いているところだ。

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形を切り取った後は、歯医者さんの使うようなキィーンというイヤな音のする器具を使って、表面をきれいにこする。ヤスリでもゴシゴシとこする。

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「一度組み立ててみようか?」とダンナが提案。
そして木の板を組み合わせると、見事に揺りかごのような・・・

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しかしよく見ると、それは揺りかごというよりも別のものを髣髴とさせる。
「これ、ちょっと・・・」と私がいうと、「棺おけのようだって言いたいんでしょ。」とダンナ。
一同から苦笑がもれる。

それでも気にせずに作業は続行。
これまで、ぐっすりと眠っていた息子も目を覚ました。
もう日も暮れかかっていた。

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「バスの時間は?」と聞くと、もう時期で最終だという。
それでも作業の手は休まないので、今日はここで泊りが決定したようなもの。
やがて、ドボイの村も薄暗い光から夜の闇に変っていった。
それでも玄関の明かりの中、作業は黙々と続く。
・・・やがて完成。
その頃には、私と息子は暖炉でトーストしたパンに、トマトソースを塗った夜ご飯を済ませていた。

お茶を飲みながら、庭のベンチに座って夜空を見上げる。
まるで空に宝石が飛び散ったかのように、小さな輝きが黒い闇を満たしていた。
そのまたたきを眺めていると、音楽が聞こえてくるかのようだ。
・・・虫や木のざわめきと、星の音楽が一緒になって聴こえてくる。
なんて贅沢な時間だろう。
これは、お金では買うことのできないもののひとつ。

若くして、それをよく知っている友人は偉いと思う。
たった一人で、こんな静かな場所で生活する・・・私にはできるだろうか。

不意にガサガサという音がして、庭の犬たちが闇に向かってほえていた。
ダンナと友人が、門のそばで様子をじっとうかがっていた。
「あれは、クマに違いない。」と言われても、私は姿が見えないので実感はわかない。

人間を怖がるクマは、夜に行動をして果物を採るそうだ。
だからこんな時分は、誰も外を歩かないという。
・・・そう聞いて、ひっそりと静まり返ったこの村が怖く感じられた。

そんな風にして夜が開け、私たちは朝7時半のバスに間に合うように村を下りた。
だんなの腕には、昨晩できたばかりの大きな木の揺りかご。
朝の光が照らす中、門をくぐってあぜ道を歩いていった。

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Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(3)|trackback(0)|アート|2008-08-31_07:06|page top

夏休みの過ごし方

トランシルヴァニアの夏休みは長い。
6月の中旬から、9月の中旬までの3ヶ月間、子供たちは限りなく長い夏の日々を過ごす。
なぜかというと、1日の日照時間は日本と比べるとはるかに長い。
朝5時半から夜9時過ぎまで日が沈まないのである。

日が高いうちは家で過ごし(または正午まで寝ていて)、夕方になってから活動を始めるというのが主なパターンだ。
晩の5、6時から9時過ぎまで公園は子供たちでにぎわう。

私たち東洋人の親子も、近所の公園に頻繁に出没するから、たいていの子供たちは顔を知っているに違いない。私たちも毎日のように顔を合わすから、その公園に通う子供は大かた覚えてしまった。

息子はもう大きいから、大体公園で野放しにする。
最近は仲良くなった小学生のお姉ちゃんたちに遊んでもらうことが多い。
「ターイキー!」とみんなが日本の呼び名まで覚えてしまった。

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私はというと、公園の隅で本を読んだり、針仕事をしたり・・・

私が一人で何かをしていると、決まって話しかけてくる子供がいる。
もう子供といっても、今度高校生になる男の子なので、私と同じくらいの背の高さ。
公園の遊具は幼稚園から小学校低学年向けなので、暇をもてあましているようだ。
この夏に何度か日本語を教えて、彼からもルーマニア語の手ほどきを受けた。

「おばさん(15歳の子に言われると、さすがの私も傷つく)、
あっちにプルーンの木があるから、取りに行かない?」と誘われた。
それで息子たちを呼んで、近所のスタジアムまで散歩に出かけた。

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途中トカゲを発見して大喜びしたり、ピンボールと呼ばれる何かの遊びに使う塗料入りのボールを集めたりして、子供たちはなかなか先へと進まない。

陸上競技場の周りをぐるっと周ったところに、果たしてそのプルーンの木はあった。
ひいおばあちゃんの住む村にもあるような、黄色い大きな粒が無数に枝に張り付いている。
ロビは軽々と木によじ登って、あのレモンのように鮮やかな黄色い玉を次々に手渡した。
味見をすると、梅ほどの大きさのプルーンは甘酸っぱい。

「枝を揺らすよ。」と言って、少年は力いっぱい枝を揺らす。
インド綿のロングスカートを大きく広げて、下で待ち受けるとボトボトという音とともに大きな塊が上から降ってくる。スカートでキャッチしたよりも、私の肩や頭に当たった方が多かったのではないかと思うほどだ。

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やがてスカートを広げると、これだけのプルーン収穫できた。
私たちはプルーンをつまみながら、再び公園へ戻っていった。

きっと果物を食べる、というのが一番の目的ではない。
自分の手で果実を見つけて収穫する、その行為そのもののためにするのだろう。

春には野いちご、初夏には桑の実やサクランボ、夏にはプルーンや杏、秋にはブドウ・・・・こんな風に私まで子供の仲間入りをさせてもらって、冒険を味わってきた。
ずっと忘れていたような、懐かしい感覚を思い出すかのよう。

まだまだ子供たちがこんな風に遊ぶことのできる環境に感謝をしたい。
息子が大きくなっても、こんな風にプルーン狩りができるといい。








                                                                                            

Theme:海外の子育て
Genre:海外情報

comments(2)|trackback(0)|ルーマニアの育児|2008-08-31_05:07|page top

村へサイクリング

おばあちゃんの住む村、ツォーファルバから自転車を借りてサイクリングに出かけた。
トランシルヴァニアの典型的写真、子供たちの写真を撮るのが目的だ。

「トランシルヴァニアらしい写真」というのは意外と難しい。
想像するのは難くないが、実際に写真を・・・といわれると困ってしまう。
雑誌はフォークロアを訪ねるという企画だが、トランシルヴァニアを紹介する写真をという注文がある。

私が押さえておきたいのは

1.ヒツジの放牧・・・ヒツジ使いがいれば、この上ない。

2.丘の風景・・・丘の上に教会がある風景など。

3.馬車・・・農業用、交通手段として大活躍するから。

4.井戸・・・ドボイでいくつも撮りためたものがあるので、これは大丈夫。

5.セーケイの門・・・・この地域特有の門。木の彫刻が美しい。

6.セーケイの民俗衣装・・・トランシルヴァニアでは地域によってさまざま。ここはセーケイ地方。

ということで、後ろ座席に息子を乗せて出発。
ツォーファルバから、舗装のない道路をこぎ進んでいく。
道路は固く、でこぼこになっているので、これを避けるようにして運転しなければならない。
細心の注意が必要だ。

しばらく走って休憩。
のどかな田園風景に包まれる安らぎの時間。

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6kmくらいあぜ道を走ると、隣村テレクについた。
そのまま走り抜けて、今度はその隣のソチョルまで自転車を走らせる。
村の中心には、大きなセーケイの門が立っていた。
屋根のついた、巨大な木製の門。
セーケイのシンボルである、太陽と月のモチーフが両端に見られる。
本来は民家にあるはずの門だが、最近はこのように村の入り口などに建てる習慣があるらしい。

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村の教会を覗いてみることにした。

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ルター派の教会へ入ると、鐘をつく番のおじさんが中を案内してくれた。
幸運なことに、教会の塔にも登らせてもらう。
薄暗く狭いはしごを上へ上へ。
今にもそこが抜けるのではないかと不安に駆られながらも、どうにか頂上へ到着。
150年ものの間、村の住民に時を知らせている古い鐘。

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教会の上からの眺めると、遠くの山並みが見える。
あの山のふもと辺りにドボイがあるのだろう・・・

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今度は、もと来た道をバックをしていく。
途中で、干草を乗せた馬車に遭遇したので、ここぞとばかりにシャッターを押す。
この干草の山は、よくも横倒しにならずにうまく運ぶものだと感心する。

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隣村テレクに戻ってきた。
おばあちゃんのふるさとの村である。
息子がのどの渇きを訴えたので、水をもらうことにした。
ちょうどよく、家の前のベンチに腰を下ろしおしゃべりをするおばあちゃんたち。
「水をください。」というと、すぐに井戸水をくんで持ってきてくれた。

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一休みをしていると、村はずれの野原で遊んでいる子供たちを見かけた。
ちょうどいいタイミングなので、写真を撮らせてもらうことにした。
いくつか写真を撮った後「何をしているの?」と聞くと、「チョウを採っているんだよ。」と返ってくる。
息子も虫好きなので、仲間に入れてもらう。

上着を地面にかぶせるようにして、「ほら、捕まえた!」という子供。
すぐに友人たちも駆け寄ってくる。
逃げないようにゆっくりと上着を持ち上げながら、手でチョウを捕まえるのだ。
手の中に動くものを確認すると、今度はコーヒーのビンにそれを入れる。
「見せて、見せて!」と子供たちが押しかける。

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珍しい東洋人の息子のために、虫をたくさん捕まえてくれるという。
コーヒーのビンは、まるで水槽のよう。
バッタが飛び跳ね、色とりどりのチョウたちが羽ばたいていた。
息子は、元気よく動き回る虫たちを見て笑顔。

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「ほら、あそこに小川があるから、行こう!」と誘われて、いつの間にか意気投合した私たちは、子供たちと遠足を楽しんだ。
野原を行くと、土手のようなものが見えてくる。
「これ、せっけんの花。」と見せてくれたのは、白い普通の花。
どうしてそんな名前がついたのかというと、水をつけて手でこすると、せっけんの泡のようなものが出てくるから。

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土手を下りると、小川が見えた。
ややコーヒー色をしているが、そんなこと気にもしない。
男の子たちは洋服を脱ぎ捨てると、川に飛び込んでいった。
息子も中に入れてもらう。
水はまだ冷たいようだ。

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しばらく水遊びをした後、元の道を引き返す。
疲れたと弱音を吐く息子を、大きな女の子が負ぶってくれる。
村の子供は、町の子供よりもずっと純粋で、仲良くなるのにも時間がかからない。
もうすぐお別れするのは残念だ。

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原っぱを歩いていると、「ほら、コウノトリ!」と誰かが叫んだ。
青空に真っ黒い大きな鳥の姿。
5羽も6羽も続けざまに飛んでいく。
もうヒナもこんなに大きく、大人のように立派になった。
もうすぐ夏が終わるということを知らせているようだ。

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「テレクに、また遊びに来てくれる?」と聞く子供たち。
別れ際に、写真をもってまた遊びに来ると約束をした。
心地よい夏の遠足を味わって、私たちは自転車をこいで帰っていった。





Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(8)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2008-08-24_07:08|page top

結婚式の悲劇

生まれて初めて結婚式、披露宴というものに呼ばれた。
交友関係が広くはないのも事実だが、理由はそれだけでない。
仲のよい友人で結婚している人が少ないこと、
20代の頃は、日本とハンガリー、ルーマニアの間をうろうろしていたので、
友人の結婚式の時期にちょうどいなかったこともある。

目指すのは、ルーマニア第2の都市ブラショフの隣にある町である。
ここには、ハンガリー語で「7つの村のチャーンゴー」と呼ばれる人たちが住む。
ルーマニア人、ハンガリー系のチャーンゴー人が共存していて、ブラショフに近いためドイツの文化も混ざり合って、特有の文化ができている。まさにトランシルヴァニアならでは。
今はハンガリー系の住民は20%ほどであるといわれる。

私たちはブラショフからバスに乗ってサチェレへと向かった。
ブラショフからブカレスト方面へは、広い平野があって、その先には高い山脈に突き当たる。
この辺りは、2000m級の山が多く見られる。
その山の足元に、細長く広がっているのがサチェレである。

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町の中ではメインストリートが、曲がりくねってどこまでも長くのびている。
そして、道路の狭いこと。歩道に至っては、人がすれ違うのがやっとの幅である。
19世紀~20世紀はじめの民家も見られ、4、5mの高さの門がずらりと並んでいるから圧迫されるような感じを受ける。
これはザクセン人から受け継いだ独特の文化だ。

私たちは、右に左に折れながらも3つ目の村までいきついた。
友人の家を見つけて中に入ると、庭ではすでに華やかな晴れ着に身を包んだ人々がグラスを手に集っていた。結婚式は、まず花嫁の家が舞台となるのである。

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私たちもお菓子と、パーリンカの注がれたグラスを渡された。
それはクミンというハーブで作られた、薄い緑色の蒸留酒である。
砂糖入りなので甘いが、アルコール度数はかなり高い。

やがて大型バスが到着。
一同は門のほうを注目すると、ワインのボトルを掲げたおじさんが何かを叫んでいる。
「花婿を連れてやってきた。美しい花嫁はどこですか?」と少し芝居がかった口調で声を張り上げる。

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おじさんを先頭に花婿や参列者が次々と庭に入ってきて、気がつくと庭は人でいっぱいになる。
家の庭先には、花嫁の家族が待ち受けていて、おじさんはなおもここでも演説をふるわせる。

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これはトランシルヴァニア地方の結婚式の習慣で、大切な花嫁をそう簡単には渡さないという意味らしい。
はじめに、玄関からは白髪のおばあちゃんが現れた。
「ちょっとこれは年がいきすぎる。もっと若いのがいい。」とおじさん。

今度は、紫色のドレスを来た7歳くらいの女の子が出てきた。
「確かに処女には違いないが・・・もっと盛りのを出してくれ。」と言う。
群集からは笑いが漏れる。

やがて3番目に現れたのは、髪に白い花をさし、白いブーケを胸に抱いた美しい花嫁さんの姿。
まるでオーストリア・ハンガリー帝国の王妃、エルジェーベト(シシィ)を想わせるいでたち。
花婿と見つめ合うさまはロマンチックそのものだ。
おじさんは新郎新婦に夫婦がどうあるべきか、結婚生活について語った。

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やがて町の教会へと向かう。
真昼の日差しが降り注ぎ、町は細長い形をしているので一同がバスや車で大移動。

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カルバン派の教会に入ると、中はひんやりと涼しかった。
参列客は、それぞれ席に着いた。
私たちも後ろのほうの席に座った。

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教会のミサが始まった。
牧師がお説教をする間、急に寒くなったのでくしゃみを2回ほどした。
賛美歌を歌った後も、なお話は続く・・・・
私はお酒が入ったせいか急に眠たくなって、半分目を閉じたまま話は上の空。

そして牧師が起立を告げた。
新郎新婦の誓いの言葉が始まる。
立ち上がると、急に吐き気を覚えた。
頭に重い石がのしかかったような圧迫感、目の前が暗くなる。
早く外に出ないといけない、そう感じて出ようとすると・・・・ドーンと音がして倒れたようだ。

その後、私は教会のいすに寝かせられ、水を飲ませてもらっていた。
ほんの数分間の記憶が飛んでいる。
どこかの優しい人がハンカチに水を含ませたものを手渡してくれた。

やがて式は終わったようで、人の波がだんだんと外へと消えていった。
私たちも明るいほうへと歩んでいく。
外では新郎新婦とその家族が並んでいて、参列客はキスをして挨拶をしている。
ダンナのかつてのクラスメイトの新婦は、「倒れたんですって。大丈夫?」と聞いたので、「もう大丈夫。」と笑顔で答えた。

気を取り直して、今度は披露宴に移る。
大型バスに揺られて、レストランへ直行した。
大きな会場ではたくさんのテーブルがセッティングされていて、生バンドの演奏まである。

例のおじさんが、いわば司会のような役割をしていて乾杯の音頭をとる。
音楽に耳を傾けながら、みな食事をする。

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食事の後は、新郎新婦がワルツを踊り始める。

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それに新郎新婦の両親も踊りに加わり、あっという間にたくさんのカップルがホールの隙間を埋め尽くしていた。ゆっくりとしたリズムに、ゆれて踊る男性女性。
老いも若きもうっとりとした表情を浮かべて踊る姿が、午後の日差しに幻想的に揺らめいていた。

曲が終わると、リズムは一転して古く懐かしい音楽、民俗音楽のような激しいものまでさまざま。
驚くことには、若者よりも中高年のカップルのほうが踊りが好きであるようだ。

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可愛い女の子発見。
セーケイの民族衣装を着た女の子は、お尻を振り振り踊っていた。

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息子にちょうどよい相手である。
私も踊るように勧めたが、息子は絶対にイヤだと言い張る。
せっかく可愛らしいカップルになると思ったのに、残念。

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この披露宴では、話をしようにも隣の人との会話がせいぜいである。
何しろ、バンドの音量が大きすぎるのだ。
することといえば、踊るか飲むかのどちらかである。

帰る前に、やっぱり一度は踊ってみたい。
そう思って誘ったが、ダンナは「もうだいぶ昔から踊っていないから、ここでは恥ずかしくてできない。」と弱音を吐く。
だれか踊りの上手なおじさんが教えてくれないだろうか・・・そう考えながら、楽しそうに踊る人たちを眺めるだけ。

次に披露宴に呼ばれるときまでには、せめてワルツだけでもマスターしておこう。
物足りなさを感じながら、会場を後にした。




Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(2)|trackback(0)|文化、習慣|2008-08-21_05:10|page top

トランシルヴァニアに家を建てる(8)

ドボイの朝は、やはり冷える。
これが8月とは、とても思えない寒さ・・・
朝食を食べて食器を洗ってから、やっと太陽の光が庭を照らし始める。

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朝つゆを体いっぱいに浴びたお花も、やっと顔を出し始めた。
名前も知らない花だが、
夏にこの涼しげなブルーを見ると気持ちまで涼しくなるような気がして好きだ。
ただ今だけは、太陽の光が恋しい・・・。

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朝はまだ仕事がないので、
もうひとつの土地を見に行くことにした。
ひとつ家をはさんだ向こう側にある。
中に入ると、鮮やかなグリーンが目に飛び込んでくる。
こちらは草刈をしなくても、いつもきれいに芝は整えられている。
そのわけは、この掃除やである。
私が入ってくると、突然上のほうから群が駆け下りてきた。

羊は人を怖がるのかと思ったが、もう私に慣れたということなのだろうか、
すぐそばによっても平気で草を食んでいる。
すぐ手を伸ばせば、あのフカフカの毛に触れるほどの距離にまでも行くことができる。
もの静かで、心穏やかなこの動物がだんだん好きになってきた。

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私のお気に入りのミシ君。
この立派な角がトレードマークだ。

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しばらく建設現場で昨日のように水汲みをしていると、
すでに水がドラム缶一杯になったので、私はまた村をうろつくことにした。
村のはずれの墓地に挟まれた場所に、一人で住んでいるユリシュカおばあちゃんを訪ねる。
私の姿を見ると、喜んで迎えてくれた。
「あなたを待っていたのよ。」とおばあちゃん。

しばらく雨続きの為に村に来ることができなかったこと、
昨日は手伝いで忙しかったのでこれなかったことを話した。
しばらくお話をしていると、ちょうど手伝いに来ている近所の男性が中に入ってきた。
水を汲んだり焚き木を切ったりの仕事は、80歳を超えるおばあちゃんには大変な重労働だからだ。

この日の話題は、ドボイにすむ野生動物のこと。
この男性は、次から次に色々な動物の話をしてくれた。
森の王様クマは、毎年秋になると果物の木を目当てに村にやってくる。
それでも人が怖いらしく、夜にそっと忍び寄ってくるそうだ。
朝になってみて木の枝が折れていたり、時には木の幹ごと横倒しになったりと、その痕跡が見られるという。
ユリシュカおばあちゃんも、この家の窓からクマを見たそうだ。電気も通っていないこの家にたった一人、さぞ心細いことだろう。

他にも、キツネも出るそうだ。
キツネは、犬の様な大きさでそれは美しいそうだ。
ただ家畜を襲うという欠点があり、ユリシュカおばあちゃんの飼っていたニワトリも相当な被害を受けたという。それからはもう飼わなくなった。

すると「近所のピロシュカおばあちゃんが、キツネを家で養っていたそうだ。」と村の男性。
キツネたちを、馬やでひそかに飼っていたと話した。
自分の家の家畜は襲わないだろうが、他所にとっては迷惑な話だ。

今年の秋は、初めての実りを見ることができるという期待と同時に、森の動物たちという未知の存在の恐ろしさもある。特にクマに遭って半殺しになったやら、殺されたやらと話を聞くと・・・・

やがて男性が帰ると、おばあちゃんは手芸の好きな私のために作品を見せてくれた。
どれも若い頃に作ったという作品。

こちらは、家の壁に飾るタペストリー。
昔ながらのデザインに、気の利いたセリフを入れるのが面白い。
生地に模様プリントしたものを買って、刺しゅうを入れるそうだ。

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「 口で言うよりもすることのほうが難く、
  食べることよりも料理することのほうが難しい。 」

主婦の方なら、まさに同感と思うだろう。

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同じくタペストリーだが、こりらはルーマニア語で「おはよう。」と書いてある。

こちらはトランシルヴァニア、カロタセグ地方の有名な刺しゅうイーラーショシュというテクニックだ。

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その名の通り、布に絵を描くようにして自由なデザインで刺しゅうがしてある。
世紀転換期には、あのエルジェーベト王妃(シシィ)をも夢中にさせたカロタセグの刺しゅうは、今やトランシルヴァニア中で見られるほどポピュラーになった。
幸運のシンボルである蹄鉄のなかに、チューリップが入っている。

ユリシュカおばあちゃんが大きく広げているのは、森の動物のタペストリー。
ここドボイにぴったり合う、図案である。
端のほうには猟師の姿も。

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こちらは織物。
昔はどの家にも機織機があって、冬の間はずっと女性の大切な仕事であった。
おばあちゃんの織物は、シンプルな白同士の組み合わせ。
リネンとケンデルといわれる荒い植物繊維で織られている。
この織り糸の太さとテクスチャーの違いが、柄をさらに際立たせているようだ。

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・・・と写真撮影に夢中になっていると、長居をしてしまったらしい。
近所のお姉ちゃんに連れられて、息子が私を探しに来た。
相変わらず、年上の女の子と遊ぶのが好きなようだ。

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そろそろ昼食の支度をする頃だ。
まず焚き木から火をおこすことから、料理は始まる。
何度も失敗したが、ようやくコツをつかんできた。
最初は細い枝の様なものに火をつけ、紙を下に入れてから、徐々に大きい木を入れていかないといけない。

昨日家に忘れてきたポークステーキを温め、ジャガイモとソーセージ、羊のチーズで層を作って焼く。
サラダも添える。
昨日の名誉挽回とばかりに、今日はボリュームたっぷりだ。

村で料理をするのは、普段とはまた違った感じである。
村では時間があるので、余計なことに気をとられないで料理に専念できる。
そしてやっぱり、ガスよりも炭で作ったほうが料理は美味しい。

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食事の後は、息子を寝かせる。
男性たちの仕事もはかどっている様子。
今度はさらにコンクリートを上に上げるために、木の板で台を作る。
チェーンソーで板を切りそろえてから、釘で固定させる。

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この後、ラツィおじさんが手に釘を打ってしまうというアクシデントがあった。
相当痛いらしく、指からは血が流れていた。

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・・・が、ようやくコンクリート作業もこれで終わろうとしていた。
土地から40cmまでの高さにコンクリートは流し込まれ、土台は完成。
私たちの作業は、これがヤマだ。
後は、大工さんを呼んでの作業となるので、素人は余り出る幕がないそうだ。
家が建ってから、今度は内装作業が待っている。

また一日が終わろうとしている。
道ではガチョウたちが、息子の持ってきたボールで遊んでいた。
あの長いクチバシで「難だろう?」としきりにつついていた。

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これからしばらく、土台が安定するまでは仕事がない。
暑さでコンクリートが割れないように、たまに水をかけるだけだという。
ドボイの家作りも、ひとつの作業が終わった。

これが今年の秋までにできるかどうか・・・
まだまだ仕事は続く。

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Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(2)|trackback(0)|村に家を建てる|2008-08-15_07:30|page top

トランシルヴァニア地方へようこそ

カタカタとなる馬車の音、
まるで青空にうかぶ雲のように
野原では牛やヒツジの群れるすがた、
緑ふかく野生動物であふれる森・・・・。

トランシルヴァニアはルーマニアの西部に位置する、
カルパチア山脈にかこまれた地方。

この山にかこまれた環境では、
ハンガリー人、ドイツ系のザクセン人、ルーマニア人、ジプシー・・・
その他にも多くの民族が、何百年もとなりあって生活していました。

そのためフォークロアが色濃くのこり、
それぞれの民族の特色をじかに伝えてくれます。
色とりどりの民族衣装や、教会建築、そして民俗音楽や舞踊。
まさにトランシルヴァニアは、フォークロアの宝庫。

手つかずの自然の中で、
スローでやさしい生活を営んでいます。
古きよきヨーロッパ文化の面影をのこす、
ここトランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?


トランシルバニアへの扉

・ トランシルヴァニアの村のゆったり生活
私の暮らすセーケイ地方を、主にご紹介。
     
・ トランシルヴァニアの村で家作り
トランシルヴァニア、コヴァスナ県、フェルドボイ村にて。(2008年6月着工~現在)

・ トランシルヴァニアの祭り、イベント
民俗習慣から、町のイベントまで盛りだくさん。

・ トランシルヴァニアの町の幼稚園生活
2008年3月から、息子がハンガリー系の幼稚園に通っています。

・ トランシルヴァニアの文化、習慣
日常を彩るさまざまな習慣、出来事。

 トランシルヴァニアの食文化
トランシルヴァニアで食べるいろいろなもの。

・ トランシルヴァニアの自然
とびきり美しいトランシルヴァニアの自然の姿をどうぞ。

・ トランシルヴァニアのジプシー
北インドから流れついたといわれる流浪の民、ジプシーの取材。

・ トランシルヴァニアのアート
トランシルヴァニアの建築、芸術、工芸。

・ トランシルヴァニアのフォークロア

・ トランシルヴァニアの町
地方色あふれるトランシルヴァニアの町へもどうぞ。
comments(0)|trackback(0)|その他|2008-08-11_21:12|page top

トランシルヴァニアに家を建てる(7)

目覚めて、外を見ると真っ白の深い霧ばかり。
夏の真っただ中に、珍しい天気である。
「秋が来たようだ。」とダンナもつぶやく。
霧があるということは、天気はきっとよくなるに違いない。
そう思いながら、道中の空を眺めていた。

やがて、巨大な真綿のようなもので覆われていた空の合間に鮮やかな青が見え始めた。
今日も天気に恵まれそうだ。

ドボイにつくと、今日の主役であるセメント・マシーンに登場してもらう。
まだおろしたばかりなのでピカピカ。
工事現場でしか見たことのない、この不思議な機械。
家を自分たちで建てることの多いトランシルヴァニアでは、個人でも普通に所有している。
まるで、コインを投入して動くおもちゃのようだ。

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あの40kgものセメント袋をまた運び込んで、この大きな口の中にスコップで放り入れる。
さらに水と砂利を中に入れる。
そしてスイッチを押すと、ぐるぐると中をかき混ぜてくれる。
しばらく待つと、ドロドロのコンクリートの出来上がり!

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ここでも男性3人の中ですることはないと追い払われ、結局水運びをあてがわれた。
この周辺の家の者たちは、皆でひとつの井戸を使う。
私たちの土地からははす向かいなので近いが、ユリシュカおばあちゃんの家からはかなり距離がある。
一人暮らしのお年寄りにとって大変なことは言うまでもない。

巨大なモニュメントのような井戸は、てこの原理で動く。
とはいっても、バケツいっぱいはかなりの重さだから力仕事である。

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まず空のバケツを、上に向かおうとする力に逆らいながら下に下ろす。
バケツに水をためたら、上に引き上げる。
これがかなりの重労働で、あの太い棒を下から上へと力いっぱい手繰り寄せないといけない。
そしてバケツが持ち上がったら、持ってきた空のバケツに水を注ぐ。
上への重力があるから、バケツは宇宙遊泳するかのように不安定で、的を定めて水を入れるのは難しい。

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水が一杯になったら、空のバケツを元の井戸の中に戻す。
・・・が、この空のバケツがヘタするとするっと手から抜けて上へ上りかねない。
かなりの力が上へとかかっているようで、体ごと上へと持ち上げられるような感覚になる。
井戸にふたをしたら、今度は水いっぱいのバケツを両手で運んでいく。
このバケツの重いこと。
肩全体が真横にぴんと張って、硬くなる。
歯を食いしばるようにして、やっとのことで目的地にたどり着いた。

生まれてこの方、水というものは蛇口をひねれば出てくるものと思っていたが・・・・
初めて有り難味が分かったような気がした。

何度か井戸と土地の間を往復して、ご近所のおばさんと遭遇した。
私がやっとの思いで井戸から持ち上げるバケツを、おばさんは慣れた手つきでするすると持ち上げる。
笑顔までこぼれている。
さすがは村で育った人だ。
体も相当鍛えられているのだろう。

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さて重労働をする私たちの傍ら、息子はというと・・・
やはりカタツムリ遊び。
今度は、木に登らされていた可哀相なカタツムリたち。

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私が疲れて、一休みしていると。
向いのイロンカおばあちゃんのところにいた、ジプシーの若夫婦が手招きをしている。
何かと思ったら、写真を撮って欲しいとのこと。
私はドボイの村人たちのカメラマンになったかのようだ。

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イロンカおばあちゃんが中に来るように誘ったので、お邪魔する。
おばあちゃんは洋服にアイロンをかけていたが、手を休めて、私に見せるために刺しゅうのクロスなどを広げて見せてくれた。
お嬢さんが作ったという、大きな壁掛け。
ラッパを吹く天使たち。
「神様のご加護が、この家にありますように・・・」とある。

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もうお昼が過ぎたので、食事の支度に取り掛かる。
村から持ってきたジャガイモをたっぷりと茹でて、下ごしらえ。
これをサラダ油であえるかして、すでにできているポークステーキを温めるだけ。
あとは、きゅうりのサラダにしよう。
などと考えていたら、お肉がどこにもない!

そうだ、袋に包んで車に乗せるばかりにして置いたのに、見事に忘れてしまった・・・・と青くなる。
現場では朝から作業をしてお腹をすかせた男性3人。どうしよう。

すると友人が「ヨーシュカおじさんのところへ行ったらいい。」と話すので、カゴとお財布を持ってドアをノックした。
中には、おばあちゃんが一人。
朝から労働をしている男性3人に食べさせるものがないので、卵を分けてもらうよう頼んだ。
お金を払いたいというと、「お金で分けるものはない。」とおばあちゃん。
きっと分けるほどはないのだ、とあきらめて帰ろうと思っていたら、「いくつ要るの?」と聞いてきた。
私が「3,4個。」というと、6個の卵を持ってきてくれた。

こんな風に物がなくて困っているときに、この6コの卵はとても有難かった。
かごに入れて、大切にして持ち帰ってジャガイモと一緒に焼いた。

昼食後、砂利の山を近くに作るよう頼まれたので、大きなスコップを手に作業した。
ただでさえ重さのあるスコップが、砂利をいっぱい乗せるとさらに重みが加わる。
それを前へ前へと放り投げる。
家を建てるという仕事の、ほんのわずかな部分でしか加勢できない。
だからこそ、できることは精一杯やりたいと思いながら、真上に照りつける太陽の光を感じながら山を積み上げる。
そして、バケツで水運び。
いつしか私の手の平もカサカサで硬くなり、小さな水ぶくれがひとつできていた。

やがてその日の作業も終わろうとしていた。
あれだけ深かった溝も、全て灰色のコンクリートで塞がっていた。

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明日も朝早くからの作業が待っているので、今日はドボイに泊まることにした。

日差しが西に傾き、太陽の光もオレンジを帯びてくると、村の通りも活気が出てくる。
ヨーシュカおじさんの羊たちは、プルーンの木にむかって一直線。
鈴なりになった黄色や赤の可愛い実を、美味しそうにほおばっている。

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「こら、ジュジャ!そっちはダメ!」と言っているほうを見ると、丸々と太った羊。
穏やかな笑顔のおじいさんは、「この子は、どれだけお金を積まれたとしてもあげられない。」と話した。
いつか読んだ星の王子様の一説のように、おじさんにとってジュジャはただの羊ではない。特別な存在なのだ。
家畜というのは、ただ食べものを供給するものだけでなく、こんなにも人間と近い関係になれる。
そう思うと、見る目が不思議と変わってくる。

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私たちは夕ご飯の買い物をしに、村のお店へ行った。
夕方の7時ごろ、お店は村人たちの溜まり場になる。
バルニは友人を見つけたらしく、お店の中でビールを開けて飲むことになった。
店の周りの庭でも、ビールを片手におしゃべりをするおじさんたちが見られる。
村には酒場がないので、それもかねているらしい。

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男性の輪の中で話しに混ざるのも何だと思っていたら、近所に住む三つ編みのかわいいおばあちゃんがやってきた。

明日83歳のお誕生日を迎えるおばあちゃんは、まだまだ元気だ。
これから牛が放牧から帰ってくるので、新鮮な牛乳を買いに行くところだという。
私もお供をした。
おばあちゃんの乳絞りを見学して、家に帰った。

もう9時ごろは薄暗く、冷え冷えとしている。
私は、晩方の村の空気を満喫した後、眠りについた。









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comments(5)|trackback(0)|村に家を建てる|2008-08-09_06:06|page top

トランシルヴァニアに家を建てる(6)

ドボイの家作りの記事を最後に書いてから、もう半月にもなるのに一体どうしたのだろう・・・と思われても仕方がない。
ここトランシルヴァニアだけでなくルーマニア全土で大雨が降り続き、作業が中断してしまったからである。

家の区画に沿って溝を掘り終えたので、次の作業はセメントで土台を作ること。
ただ雨が降ったらだめなのである。
だから今回の雨は、私たちにとっては有難いものではなかった。

家を建設する私たちだけではない。
農作業をする人たちにとっても、冬に家畜のえさとなる干草を運ばなければならない大切な時期に思わぬ雨の連続。
それどころか、村のご近所のヨーシュカおじさんは雨の中で作業をしたために肺炎になって一週間入院したという話だ。
誰にとっても、よくないこの雨・・・

やがて、ある朝。
いつものような白く厚い雲の間から青空がでてきたので、私たちは作業を再開することになった。
まずは、町の資材やさんでセメントを買う。
40kgのセメント袋を38コ買って、およそ10万円。
経験のない私には、安いのか高いのかよく分からない。

ダンナは先に、トラックに乗って村に向かった。
私たちも後を追う。
広々とした平野に出ると、空はもう青く光っていた。

私たちの車がドボイの土地に着くと、だんなの乗った車はまだ到着していなかった。

土地は雨が続いたので、しっとりと黒く湿っているようだ。
春にクリーム色の花を咲かせたボッザは、すでに実がなり始めている。
この実が黒くなると、ジャムになるらしい。
ボッザは野生だから手はかからないし、お花はジュース(こちらを参照)に、実はジャムにと便利な植物だ。

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そしてダンナとセメントを乗せた赤いトラックがやってきた。
今までのんきに散歩をしていたガチョウは、車を見ると血相を変えて一目散に駆け出した。
息子は大笑い。

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そして、これから作業が始まる。
あの40kgもの袋を抱えて運び、雨を防ぐようにビニールの上に置いていかなければならない。
運転をしていた資材やさんがコンクリートの袋を渡し、ダンナたちが次々に運んでいった。
袋からは、真っ白な粉が煙のように舞っていた。

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この40kgという大きさ、相当なものである。
日本では、だいたいお米の袋も20kgだと記憶している。
それでも大変なのに、40kgはその倍だ。
私も一度は手をかけて、持ち上げようと試みたがビクともしない。
・・・仕方なく、あきらめて息子と遊ぶことにした。

水を汲みに来た、近所のおばさんが息子を見て「うちの孫のジョンビカと遊びなさい。」と声をかけてくれたので、遊びに行く。
ここは、数世帯の家族が一緒の土地に家を建てているらしく、誰と誰がどんな関係なのかよく分からない。
私たちはおばさんの家に通されると、女性が何人かテレビの前に座っていた。

先ほどのおばさんが、ダンナたちが2人で作業しているので、息子に電話をして応援するように話してくれた。
こういうところが村のよいところだ。

息子は外で虫探しを始めたので、仕方なく私もテレビに注目する。
ブラウン管の中では、ルーマニアの南部オルテニアや東部モルドヴァの風景が写されていた。
どこも水、水、水・・・
そうルーマニアの平野部ではこの大雨のせいで洪水が発生し、大変な被害をこうむっているのだ。
話は聞いていたが、テレビがないのでこんな映像を見たのは初めてだ。
民家は、屋根が見えるだけですっぽりと水の中につかっていた。
ボートで救助されるお年より、避難所で過ごす人たち、水に囲まれる家畜の姿・・・・
一同はそれを見て、険しい表情でため息をついていた。

これら被害にあったのは、ほとんどが村に暮らす人たちである。
私たち町に住むものにとっては仕事場がある限り生活は維持できるが、彼らにとっては家畜や土地が仕事であり財産なのだ。
同じように村で生活する人には、それがどういうことか痛いほどよく分かるのだろう。
「生涯ずっと働いてきて、全てを失ってしまった・・・」と誰かが言った。

「ドボイは、こんなに高いところにあるからよかったですね。」と私が言うと、「もちろん。ここが水につかった時には、他の村はまず残っていないはずよ。」と返ってくる。山に面した村の利点である。この辺りには、氾濫したとしてもそれほど大きな川はないのでよかった。

皆が朝食の支度を始めたので、私は庭に出た。
息子は6歳になるジョンビといっしょに遊んでいたので、私も加わった。

ジョンビが家の家畜を見せてくれる。
立派な馬や豚、コブタ・・・と次々に見せてくれる。
コブタたちは私たちの姿を見ると、ブーブーと叫びだした。
「隣にいるお母さんのところへいって、おっぱいが飲みたいんだよ。」とジョンビが説明してくれた。
息子はコブタがなくのが面白いらしく、そこを離れようとしない。

ジョンビは子犬を探しているようで、庭を歩き回っている。
「あそこにあるのは、馬の肉だよ。」というほうを見ると、確かに肉のようなものが遠くに・・・
「子馬が怪我をして、殺さなければならなかったんだ。ほら、あの犬がくわえているのが馬の頭。」と、全く慣れたもの。
私は思わず目をそむけた。

ダンナも語っていたが、村の子供たちは小さな頃から動物を通じて、生や死を目で見て学んでいる。
だから町の子供たちにはない、独特のたくましさがある。
ダンナは半分、おばあちゃんの村で育ったようなものだから、村のよいところ悪いところはよく分かるようだ。

やがてダンナが呼びに来て、作業が終わったので帰ると告げた。
私たちは挨拶をして、ジョンボルたちの家を後にした。
私はまだ別の仕事があると思ったのに、半日遊んだだけでドボイを去るのは不本意だったが仕方がない。

帰りがけに隣村ナジ・ボロシュニョーに寄って、家に取り付ける窓を見ることにする。
家を建てるときには、色々なものを買わないといけないので大変だ。
1.5Mほどの窓だが、小さな仕切りで細かく分けられているのは余り気に入らなかった。
中古なので2つで1万円という値段だが、これも相場はよく分からない。

家から出ると、家の主人がコブタを見せてくれた。
ピンク色の肌のきれいな体。まだ生まれたばかりのせいか、ブタなのに清潔である。

これから、予防接種をするという。
ネコほどの小さなコブタを持ち上げて、針で耳の辺りを刺す。
ブタはちょっと鳴いたが、すぐに止んだ。

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それから、あるコブタを机の上に置いて押さえつけたので、何だろうとカメラを構えると・・・
ブタのまたの辺りにハサミを持ってきたので、思わず顔を背ける。
オスブタの、あそこを切ってしまうのだ。
そうすると育ちがよくなるのか、お肉が美味しくなるらしい。
この儀式を免れたブタたちは、きっと「あー、メスでよかった。」と思っているだろう。

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今日は夕方まで、おばあちゃんのところで過ごして町へ帰った。
一日、野原で草を食べていた牛たちも帰宅をするところ。
明日から、本格的な作業が始まる。

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日曜日のミサ

日曜日。
その日は例になく早起きをして、身支度を始めた。
教会のミサに行くことになったからだ。
私はキリスト教徒ではないから、どんな服装で行けばいいのか分からない。
だんなに聞いてみた。
1.清潔な服装・・・つまりシミやしわのないように。
2.余り派手でない服装
3.肌を余り見せない・・・ミニスカートやパンツはだめ。

考えた挙句、濃紺に小さな花柄の長袖ワンピースを取った。
すると私の姿を見て「おばあちゃんみたいだ。」と一言。
それでも目立つよりかはましである。ただでさえ、東洋の顔なのだから・・・

9時半に、近所の男の子が呼び鈴を鳴らした。
私は息子を連れて、アパートを走って降りた。
若い友人ロビは、8年間学校でプロテスタント学級に通っていたらしい。
普通の授業に加えて、キリスト教の授業が週に5回ほど入り、また教会の行事にも参加するという内容だそう。
私の為にミサの説明をすると、案内役を買って出た。

やや遅くおきたせいもあって、教会が遠いので先を急ぐ。
目指すのは、小高い丘の上にある「要塞教会」だ。
トランシルヴァニアでは、中世から残る要塞教会が有名で、うちのいくつかはユネスコ世界遺産にも登録されている。
石畳の道を登ったところに、分厚い石垣にしっかりと守られるようにして教会が立っている。
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来る途中ですでに10時を知らせる鐘が鳴り響いたので、遅刻は覚悟の上である。
中に入ると、牧師さんが教会の真ん中ほどにある台に立って演説をしていた。

牧師さんは黒いマントをまとって、抑揚のある口調で聖書の話などをしていた。
頭の上には大きな王冠がかぶさり、プロテスタント・ルター派の象徴らしいペリカンの姿もある。
あの大きいクチバシでえさをやるペリカンが神、子供たちが信者を象徴しているらしい。

聴衆の方を見やると、ほとんどが中高年の姿。
私たちのような(!)若者の姿はごくまれである。
若者があまり宗教に関心がないというためもあるだろうが、夏休みのこの時期はみんな昼ごろまで寝ているせいもあるだろう。

私がここにきた理由はミサの話を聞きに来たというよりも、教会と教会に通う人たちの写真をとりにきたからだ。
1つお話が終わって、1つ歌を歌い、またお話・・・という流れで一時間近く続く。
聖書どうこうの話は上の空で聞いていたが、普通の倫理的な話はわりと興味を持って聞けた。
息子はすでに我慢できなくて、外に飛び出して庭で遊んでいるようだ。

そろそろミサも終わりのようす。
すると牧師さんが「今日は何組か洗礼に来ています。」と話した。
なんていう偶然。
後ろを見ると、もうすでに入り口の辺りで正装の人たちが立っている。
腕には小さな赤ちゃんの姿・・・
光り輝く純白の衣装に身を包んだ赤ちゃんは、まさに天使そのもの。

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赤ちゃんとその両親、その祖父母、そして親戚や友人たち・・・・
一組でそれだけの人たちなのだから、4組となったときにはもう教会の中はかなりの込み具合。
私もすかさず、まるで知り合いの様な顔をしてその中に加わる。

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ちなみに洗礼のときに立ち会った友人、親戚などをクリスチァン・マザー(またはファザー)という。
この洗礼のおかげで、友人もまるで親戚のようなよい関係になるのである。

赤ちゃんは、黒い衣装のおじさんから水をかけられるのだからたまったものではない。
小さな銀の水差しで赤ちゃんの頭に水をかけた後、神父さんのキスで祝福される。

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キリスト教圏において、洗礼というのは大切な行事である。
村では、洗礼されていないと共同墓地に入れてもらえないそうだ。
だから、できるだけ早くに子供を洗礼させるという。
息子もいつか洗礼をさせないといけない・・・周りの人たち(特にひいおばあちゃん)を安心させるためにもそう考えている。

やがて教会から出てくる人たちの、すがすがしい笑顔。
洗礼を終えて、晴れてキリスト教徒となった天使たちは、やや疲れ気味。
本人よりも、周りの人たちが安心と喜びの面持ちである。

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これから(キリスト教徒としても)一歩一歩踏み出していく彼らに、心からの祝福を送りたいと思う。



トランシルバニアをあなたの心に・・・
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教会の外にいた、人懐こいネコ。

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comments(2)|trackback(0)|文化、習慣|2008-08-05_04:29|page top

手芸のおばあちゃんを訪ねて

こちらの記事は、日本ヴォーグ社の雑誌「ホーム スウィート クラフト
10月号に掲載される予定ですので、それまでは非公開といたします。

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