トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

カテゴリー

FC2カウンター

カレンダー(月別)

10 ≪│2009/11│≫ 12
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 - - - - -

これまで書いた記事は・・・

全タイトルを表示

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Feed Me!

トランシルヴァニアへの扉  - Erdely kapuja-のRSSフィード

ブログ翻訳

あるジプシー老人の告白

その老人は、
ふらふらとおぼつかない足取りで
アパートの脇から出てきた。

黒い帽子に黒いチョッキ姿で、
杖をついている。
遠くからでも、すぐにそれとわかる姿に
思わず駆け出していた。
「 エルヌーおじさん!」

「 どうしたんですか?
お元気ですか?」と声をかけると、
おじさんはまだ寝ぼけたような顔で
わたしを見据えて、それから顔がほころんだ。
目の上には、ちいさなコブができている。

「 今ちょうど、マーリのところから来たんです。
子どもの洋服を届けに行っていて。」
おじさんの娘、マーリはウルクーで貧しい家に住んでいる。
一人で5人の子どもを育て、
牢屋に入っているご主人を待っている。

「 俺もね、孫たちに見つけてきたところさ。」
とビニールの包みを開いてみせる。
中には、封の開いた子どものお菓子や
乾いたパンなどが入っていた。

住宅地にある、小さな公園のベンチに腰掛けるおじさん。
「 前、約束した歌をうたってもらえませんか?」
「 ああ、いいよ。」とおじさん。

koszoru 055

「 ジプシー語の歌は、誰から習ったのですか?」
「 それはね・・。
 俺の母さんの母さん。
 俺のことを可愛がってくれた、祖父母だよ。」
おじいさんは、優しかったおばあさんの面影を思い出してか、
声を詰まらせていた。

「 母さんの名前は、ジュジャといった。
 ジプシーのロングスカートをはいて、
 エプロンをしていた。
 それから、今、君が着ているようなコートをね。
 それは美人で、踊りもうまかった。」

koszoru 061

途中、わたしの顔に
黒く汚れた指を差し出して、
結った髪からわずかに出た髪の毛を、やさしく払った。
「 こんな風に、顔に髪がかかっているのは
 気持ち悪いんだ。邪魔だろう?」

「 お母さんのお写真はありますか?」
「 ああ、もちろん。
 俺の妹の住む村にね。
 あそこへ行ったら、妹といっしょに踊ってやることもできるよ。」
気がつくと、話はどんどん脱線していた。

カメラを向けて、
「 ねえ、歌を歌ってくださいよ。」と仕掛けるダンナ。
「 おお、お前はなんていい奴なんだ。
 お前が好きだよ。
 もちろん、友人という意味でな。」
とダンナのひげ面を指でなでる。

koszoru 058

やがて聞きなれない言葉の響き、
しずかな低い声で不思議な音階がつむぎだされる。
歌い終わってから、
「今度は、ハンガリー語でうたうよ。」
と同じ歌がすこしだけ繰り返された。

koszoru 063

「 この歌はね、
俺の人生をうたったものなんだよ。」
それから、おじさんは急に真顔になって言った。
「 俺はね、うそをつくことが大嫌いだ。
 だから、本当のことを言おう。
 俺はね・・・自分の女房を殺めてしまったんだ。」

「 その理由はふたつある。
 ひとつは、俺を裏切って
 ほかの男を作ったことだ。
 ジプシーの掟では、妻の不義理は許されないとされている。
 そんなときには、こうしないといけないって。」
といって、突き刺すしぐさを見せた。

「 もうひとつは、
 俺と娘の関係を疑ったことだ。
 もちろん、これは嘘なんだが、あれは疑って信じなかった。」

「 ・・・以来、俺は20年間を牢屋で過ごしたんだ。」
よくみると、おじさんの手には、
無数の刺青が彫られてあった。

気がつくと、
手が冷たく凍えるようだ。
「 コーヒーを飲みますか?」
家へもどって、すばやくコーヒーを入れて
おじさんの手に渡した。
もう、アルコールは渡さないほうがいい。
少しのお金を渡しても、すべてあの毒薬に変えてしまうおじさん。

コーヒーをすすりながら、
胸からタバコを取り出して吸いはじめた。
「 それ、どうしたんですか?」
「 今朝買ったばかりなんだが、
 もうこれだけになってしまったよ。」
値上がりした今、ルーマニアでは贅沢品のタバコ。

koszoru 067

タバコをくゆらせながら、
「 君は、俺の質問に答えられるかい?」
私はつばを呑み、
「 ええ、できるだけやってみます。」とおそるおそる答える。
「 ノストラダムスは、いつ生まれたか知っているかい?」

拍子抜けした。分からないと言うと、
「 1893年だよ。」と自信たっぷりに言った。
「 子どもは何人いるか知っているか?」
もう、お手上げである。
「 明日、いっしょに図書館へ行こう。
ノストラダムスの本を探してやるから。」

調子付いたようで、話に拍車がかかる。

「 俺はね、イギリスに行ったことがあるんだ。」
「 そこで何をしていたんです?」
「 あそこで、俺は職業を学んだのさ。
 土木をね。」
「 へえ、すごいですね。」
「 エリザベス女王の宮殿だって、
俺が建てたんだからな。」
「 ・・・・・。」

「 中国にだって、行ったことがある。」
「 ・・・いつですか?」
「 77年だよ。そして78年には日本へわたった。
 空手を学びにね。」

きっと長い牢屋生活の間、
空想があちらこちらに飛んでいったに違いない。

「 待て、まだ話がある。」
と追い討ちをかけてくるおじさんに、
「 また、会いましょう。」と別れた。

きっと、近いうちにまた会えるだろう。
辛い人生を背負いながら、
ひたすらに酒をのみつづけるおじさん。
その低く、泣きすさぶような歌声が
いつまでも耳に残った。



トランシルヴァニアをあなたの心に。。。
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ






スポンサーサイト

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(0)|trackback(0)|ジプシー文化|2009-11-30_01:10|page top

晴れ日の遠足

今年はいつもより、秋が長いようだ。
木々は葉をすっかり落として、
冬の身支度をしているというのに。
まだ、雪はやってこない。

「 はやく、雪が降らないかなあ。」
この土地の人たちは、ほんとうに雪が好きだ。
雪はうつくしいと思う。
同時にさみしいとも思うのは、南国育ちのせいだろうか。
冬の終わりにいつまでも
降り積もる雪を見ては、ため息をついていた。

11月は霧の季節。
たっぷり午前中いっぱいは、
真っ白の空気が視界をさえぎっている。

いつもの場所に戻ってきたミミズクをみると、
ほっとする。
キッチンの窓のちょうど目の前。
赤松の枝に、しっかりとつかまって昼を過ごす。
今日は枝に3匹・・。
数を数えるのが日課になってしまった。

volgyeben 001

霧がすっかり姿を消すと、
久しぶりに青空が顔を出した。
町外れの、谷間へと足をのばす。
手付かずの自然が、手の届くところにあるのは
とても有難い。
それでも、もう開拓の波は
ここへもゆっくりと押し寄せてきている。

volgyeben 004

新しく建てられる住宅地の脇をすりぬけて、
谷間へと下ってゆく。
空気は冷たいのに、
太陽の光はまだ力強い。
しばらく歩いていると、背中のあたりが
あたたまってきた。

volgyeben 005

一面が枯れ色の原っぱに、
鮮やかなオレンジ色と黄色い花。
息子は我先にと走りよっていく。
どこかの家の庭から飛んできた種が、
こうして花をつけたようす。
このままにしていたら、
そのうちに雪の中に埋もれてしまうだろう。
「 取っていいよ。」と言うと、
うれしそうに積んで見せる。

volgyeben 007

久しぶりに見た、すっきりと晴れたそら。
ヒコウキ雲がふたつ浮かんでる。

volgyeben 009

水の枯れてしまった、小川の跡。
すべてが雪で包まれたあとの姿を
ふと思い浮かべてみる。

volgyeben 012

青空には、先ほどの雲が
まだくっきりと跡をのこしたまま。

volgyeben 021

野ばらの実が、ルビーのように輝く。
たぶん、今年最後にみる果実だろう。
もう冬もすぐ目の前・・・。

volgyeben 022




トランシルヴァニアをあなたの心に・・。
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ


Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(2)|trackback(0)|自然、動物|2009-11-26_15:54|page top

ある一日の終わり

あるうす曇りの一日の終わりに、
やっと太陽の光を感じることができた。

そとの風景がいつもとちがう。
窓辺にかけよって、
そっとそらを眺めた。
アパートの4階からの眺め。

ごうごうと轟く滝のように、
雲が北へと流れていく。
ねずみ色の雲を、
溶岩のような橙色がやわらかく染める。

向こうの家並みも、
木々も影と化して
そらの色彩を引き立てているかのようだ。

orko 375

瞬きをいくつもしたあと、
はっと息を呑む。
そらが燃えている。
その橙が私のこころにも燃えうつる。
11月の終わりのそら。

orko 381


トランシルヴァニアをあなたの心に・・。
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(8)|trackback(0)|自然、動物|2009-11-24_02:12|page top

ジプシーのバラード

ここはスフントゥ・ゲオルゲの町はずれにある、
ウルクー地区。
松の森を背景にした、小さなジプシー村。
塀もなく、小さな家と家が寄り添うようにして並んでいる。
舗装のない道には、馬車が行きかう。
野犬に家畜の豚も、歩きまわる。

ダンスのあとで、
その動悸もまだおさまらないままに、
レームスはうたいはじめた。
親から子へと歌い継がれてきた、
哀しいバラード。

ジプシーの置かれる境遇が、
そのまま孤児である息子の心情を
あらわしているかのよう。
文字の文化を持たない彼らは、
歌で踊りで物語で、彼らの歴史を綴ってきたに違いない。

メモリー切れで、残念ながら
録画は歌の途中で終わってしまった。
途中わたしは小型カメラを置いて、
その歌に聞きほれた。

では、レームスの歌をどうぞ。


 

「ジプシーのバラード」 ハンガリー語訳

ああ、どうして
こんなふうに、あんなふうになってしまったんだろう。
ああ、どうしてみんなが
この孤児の俺を傷つけるのだろう。
ああ母さん、その孤児は哀しみのために
いつも酒場で飲まなければならないのだから。
ああ、いつも酒場で飲まなければならないのだ。


あたりを見回しても、俺のそばには誰もいない。
ああ、俺は本当に孤児になってしまったんだ。
ああ、そうだ。俺は本当の孤児さ。 
ああ、俺の心はずっと孤児のままさ。
ああ、俺の心は孤児のままなんだ。


ああ母さん、待っておくれ。聞きたいことがあるんだ。
ああ母さん、聞きたいんだから、待っておくれ。
母さんが行ってしまったら、どこで会うことができるんだい?
ああ息子よ、それなら墓場へ出てくればいいのだよ。
ああ、わたしの墓石に身を投げ出せばいい。
ああ、わたしの墓石に身を投げ出せばいいんだよ。


ああ、お前に三つの枝をあげよう。
ああ、お前に三つの枝を渡してあげよう。
そいつで、墓場をたたいたらいい。
ああ母さん、寝ていないで。起きてきておくれ。
ああ、小さい息子は閉じこめられているんだから。
ああ、小さい息子の俺は、牢屋に閉じこめられているんだから。


ああ、この道はつらく哀しい道なんだ。
ああ、哀しみの石で敷きつめられた道。
その道は、俺の父さんが作ったんだ。
ああ息子よ。その上を泣きながら歩くんだ。
お前が、その上を泣きながら歩くように。


ああ、か細いこの腕が痛む。
ああ、か細い俺の腕が痛くてたまらない。
家族を支えている、この腕が。
ああ、俺のか細い腕が痛むんだ。
母さん、もうじき退屈がこの俺を殺すだろう。
ああ、もうじきに退屈が俺を殺すことだろう。



ジプシーの歌をあなたの心に。。。
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ


Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(0)|trackback(0)|ジプシー文化|2009-11-22_14:22|page top

ウルクーのジプシーダンス(後)

「 ウルクーには、どれだけ踊り手がいるんですか?」とたずねたら、
「 千も万もいるよ。」と返ってくる。
小さいころから、音楽をきいては
自然と体を動かすことが身についてきた人たち。

エルヌーおじさんと孫のリベゼラとの、
カップルダンスがはじまった。
マネレと呼ばれる、
演歌とダンスミュージックの合いの子のような音楽で
ふたりは楽しそうに踊る。
普段、彼らが日常に聴いているのはこの手の音楽のようだ。

orko 191

しばらく踊ると、おじさんはすぐ疲れが出るらしい。
ふと踊りがとまった。
その後をつないだのは、ウルクーの舞踊団で踊っているレームス。

軽やかな身のこなしでステップを刻み、
指ではじく音も並外れに大きい。
やがてチャパーシュといわれる、
膝や腿をたたいて音を鳴らすときには、
その手の平から生まれるリズムが部屋全体に響きわたった。
まるでひとつの楽器である。

orko 283

大きくかぶりをかぶって、
足を振り上げ、平手でたたきつける。
そのアクロバティックな動きと激しいリズムは、踊りというよりは
むしろ武道のようでもある。

orko 251

「 誰か歌える人はいるんですか?」と尋ねると、
「 ああ、レームスが歌えるよ。」とみなが口々に言う。
先ほど踊ったばかりで
疲れているにもかかわらず、
「 じゃあ、ひとつ何か歌をやるよ。」と快諾してくれた。

張りのあるうつくしい声が響くと、
辺りは水を打ったようにしんとなる。
哀しい物語が、抑揚のある歌声でつむぎだされる。
驚くことは、24歳の若者がこんな民謡を知っていることである。

orko 195

今度は軽快なリズムを膝でたたいて、
ジプシーらしい歌がはじまった。
するとレームスの息子さんがステップを踏みはじめる。
ものすごい速さで足と手が動き、
大人顔負けのチャパーシュが響いた。
しかも履いているのは、ゴム長靴。

ciganytanc1.jpg

一通り踊りを踊って、みんなが疲れてくると、
誰かが「 おい。君も踊れるんだろう?」と私にふってきた。
「 いや、踊れないんです。」と私。
リベゼラが「 大丈夫よ。すぐに覚えるから。」と私の手を引く。
マネレとやらで、ジプシーダンスのステップを真似してみる。
けれどもリズム感だけは、どうにもならない。

今度はレームスが、腕をまわしてきた。
ステップを踏みながら、メリーゴーランドの馬のように一方方向にまわる。
手を上にあげたので、くるりと回ると
「 違うよ。反対向きに。」と指摘される。
やがて、CDの音がフリーズしたので安堵した。

ダンスをしてくれたお礼に、ビールを買いに店に走った。
エルヌーおじさんにも、コップをすすめると
「 いいや。ビールは好きじゃないんだ。
それよりも、あのお酒をくれよ。」としつこくせがんでくる。
私のかばんの中に入っている、あの消毒用アルコールのことだ。

「 いいえ、だめです。あなたの健康のために言うんですよ。」
「 俺は、あの酒を20年間飲んでいるけど、
 何てことないよ。」
すると、ほかのジプシー男性が
「 外に効くんだったら、中にも効くはずさ。」と
無責任なことを言って笑う。

結局、おじさんはいくつか民謡を聞かせてくれる条件で、
その飲み物を手に入れた。

orko 325

また活力が戻ったらしく、踊りをはじめるエルヌーおじさん。
ガーボルという、ジプシー語を話す男も
軽快なステップを踏み、踊りに加わった。

orko 339

「 約束どおり、歌を歌ってくださいね。」とダンナ。
おじさんは、母親から学んだジプシー語を
低い声で歌いはじめる。
その歌の意味が分かるのは、おじさんとガーボルだけである。

orko 368

手ですこしリズムをとりながら、
顔には微笑みを浮かべて。
しばらくすると
「 続きはまた今度。」と言って、歌声がやんだ。

orko 369

帰りにレームスが、
「 家の方まで、俺の馬車で送ってあげるよ。
 あっちの方に用事があるから。」と声をかけてくれた。
息子は大喜び。
雨でぬかるんだ道を馬車は走る。

orko 371

「 日本はどうだい?」と興味深そうにたずねるレームス。
彼らのように、ゆったりとした時間で生き、
大きな家族が寄り添うようにして生活する人たちには
きっと想像もできないだろう。

「 俺は15歳で結婚したんだ。
 俺たちは、みんな早くで結婚するからね。
 それは、いいことだと思っている。」

朝はあつい雲が覆っていたのに、
太陽の光も差してきた。
いつもと同じはずの風景なのに、
どこか違う。
さわやかな風を体で受けながら、
広々とした丘に向かって馬車にゆられていると、
気持ちが開け放たれたようで心地がいい。

 orko 373

また彼らの歌やダンスが
恋しくなったら、きっとあそこへ戻るだろう。



レームスと、9歳になる息子さんのダンス。
(星マークで投票をお願いします。)



ジプシーダンスをあなたの心に。。。
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ




Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(2)|trackback(0)|ジプシー文化|2009-11-21_03:14|page top

ウルクーのジプシーダンス(前)

次にエルヌーおじさんと出会ったのは、
私ではなくダンナだった。
そして、水曜日の10時に会うよう
約束をしてくれた。

私が家を出たのは 、
もう11時もちかかった。
いつものゴミ箱のあたりでおじさんを探すも
見つからない。
いつも寝泊まりしているという、
セントラルヒーティングの建物の中へ。。。
錠がかかっている。
うろうろしていたら、
清掃員のおじさんが尋ねてきた。
{ どうしたんだい?}
{ あの、エルヌーおじさんを探してるんです。}
すぐにおじさんは、向う側から扉のなかへ。

中からは、声が聞こえてきた。
やがて、いつもの笑顔でエルヌーおじさんの登場。
{ これから、踊るのかい?
いいけど、もう大分まえから風呂に入ってないんだ。
せめて、着替えないと。}
そういえば、今日はいつもの酒くささがない、
白面のようだ。

orko 157

やっと見つかったエルヌーおじさん、
今日こそはビデオ撮影にこぎつけたいところ。
{ おれは、ジプシー語も話すんだ。}
{ 本当に? でも、どうして?}
確かここウルクー地区のジプシーは、
ハンガリー語しか話さないはず。

{ おれの母さんの母さんは、
幌馬車に乗って生活していたんだ。
あちこちを放浪してね。}
うつくしい衣装をまとい、
馬車にゆられていくジプシーのイメージが
頭のなかをかすめていく。

orko 165

{ この辺で、ジプシー語ができるのは
俺とガーボルだけだよ。彼はコロンド からきたからね。}
そうしている内に、ダンナと息子が到着。
いっしょに、ウルクーへと向かう。

ふだん歩いている道なのに、
おじさんは、道行く知り合いを見るたび声をかける。
町にいながら、村にでもいる感じ。
エルヌーおじさんには家族もいて、
親戚も知り合いもいる。

途中、小さな店のまえで足を止めたおじさん。
{ 何か、飲み物を買ってくるから金をくれないか。
一杯やらないと、力がでないんだよ。}

お金をわたすと、おじさんは 店に入って
何かを買って出てきた。
おじさんの上着のポケットに入っていたのは、
なんと青い酒。。。
アルコール消毒液だった。
看護婦さんのラベルが
ちょっといやらしい。
アルコール度数70度とある。

{ おじさん、だめですよ!}
私たちは、大慌てでそのボトルを奪った。
この消毒液を飲むと、盲目になるとも聞いたことがある。
{ 俺は、強いんじゃないとダメなんだ。
これに水をまぜて飲んでいるんだ。}

ダンナが店に入って、
安いウォッカを買ってきて渡した。
おじさんはさっそく、プラスティックの容器を開けて
透明な液体を飲みはじめていた。
{ これじゃ、ぜんぜん弱いなあ。}
到着するまでに、
千鳥足になっていたらどうしようと不安にかられる 。

{ 飲まないとやりきれないんだ。
心の苦しみを取りのぞくために。}とおじさん。

おじさんは娘さんが独りで
こども 5人を育てている話をしながら、
{ 俺でも、何か役に立たないとな。
木を切りに行くんだよ。}とやさしい顔になる。
牢屋に入るご主人を
この冬中に出してもらうよう、
請願書を出すつもりと話していた。

やがてウルクーの公民館にやって来た。
すぐに会議室にとおされ 、
撮影の準備にかかる。

orko 172

CDプレイヤーをどこかから調達しないと
と話していると、
{ 近くに住む、ターザンに借りるといい。}と事務員のおじさん。
米映画からとった名前で、
ジプシーに多いといわれる。

ヒゲのターザンが、大きなプレイヤーにステレオを運んでくる。
気がつくと、見物人もできてきた。
エルヌーおじさんの孫のリべゼラも、
私が電話で呼んだダンサーのレームスもやってきた。

音楽は、ハンガリーの農村で収集された
ジプシーの歌。
アカペラの歌声とともに、
おじさんの足が軽やかなステップを踏む。
指をはじいて、
細やかなリズムが刻まれる。

足を交差させて揺れるのは、
おじさん特有の動き。
どこかしらユーモラスな雰囲気が漂うのは、
おじさんの個性のせいだろう。

ジプシーの踊りには、
早いリズムと激しい動きがあるようだ。
しばらく踊ると、額からは汗が流れ
肩で息をついていた。

それではエルヌーおじさんのジプシーダンス、
心ゆくまでお楽しみください。



ジプシーダンスをあなたの心に。。。
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(2)|trackback(0)|ジプシー文化|2009-11-19_23:27|page top

ちいさな出会い

「 まあ、あなたまた来たの?」
ここはジプシー市場。
古着に古靴、古下着に、古靴下・・・となんでもそろっている。
顔をあわせるうちに、私のことを覚えてくれるようになった。

私を抱きしめ、喜んでくれるおばさん。
ほかのジプシー仲間にも、
「 私の友達よ。」と嬉しそうに話す。
 
IMG_5781.jpg

「 ねえ、ムンドラ。
 この服はどう?あなたにお似合いよ。」
とおばあさんは、私を勝手につけた名前で呼び、
次々に洋服をあてがう。

「 他の人にはこれだけだけど、
 あなたには特別安くしといてあげるわ。」
おばあさんの選ぶ服は、不思議と私のツボをおさえている。
いくつか、クラシカルなワンピースやスカートも買った。

おばさんはロマ語とルーマニア語しか話さない。
「 男の子は、どうしてるの?」
「 イマ、ヨウチエンニイッテイマス。」と
これだけ答えるのでやっと。
だから、会話はほとんど交わしていない。
人間には相性があるようで、
言葉なしでも不思議と仲良くなれる人がいるものだ。

いつかルーマニア語が
もっと上達したら、おばさんとたくさんお話ししよう。




市場の中でも、
いつも日陰の方にものを出しているおばさん。

「 ねえ、私のところでは見ていかないの?
 今日はまだ、誰も買っていかないのよ。」
そう声がかかると、興味がなくても
一応、洋服の山をひっくり返して見てみる。

小さなエプロンを見つけて
おばさんにお金を払うと、
「 これで、あたたかいコーヒーでも買ってくるわ。」

IMG_5786.jpg

エプロンをひるがえすと、
スカートのちょうど真ん中にくるポケットから
そっと小さな錠剤を出して飲んだ。




いつか市場を歩いていると、
興味深そうに私に話しかけてくるおじさんがいた。
「 君はどこから来たの? 」
「 そうか、日本か。
 どんな国だっていい、俺たちは同じ神様の子どもなんだから。」

大きな茶色い口ひげを生やした、大柄のおじさん。
他のジプシー男性とは違って、
口調も穏やかだ。
この大きなハットをかぶったジプシー男性は、
ガーボル・ジプシーと呼ばれる。

IMG_5783.jpg

その親しみ深いおじさんの顔を見つけると、
決まってあいさつをするようになった。
おじさんはロマ語とルーマニア語、ハンガリー語を話す。
学校教育もきちんと受けていて、
アドベント派の教会に通っている。

いつごろか、おじさんの顔が暗く、
思い沈んでいるように見えた。
「 聞いておくれ。
 うちの次男の嫁が、可愛い孫を連れて出て行ってしまったんだ。
 まだ3歳だけど、賢くてそれは可愛い男の子さ。
 電話ごしで言うんだ。
 いつ、おじいちゃんたちのところへ帰れるのって。」

「 こんな辛いのは、生まれて初めてだ。
 自分の親が死んだときだって、こんなに悲しくなかった。
 こころが引き裂かれるようだよ。」

「 どうか神様が、 
 あの若い二人に物事を考える力を与えますように。」
と哀しげなな面持ちのまま、そう言いはなった。




ある夏の夕暮れどき、
三人の子どもたちが道端で通せんぼした。
まるで絵本からとび出してきたかのような、
かがやくような顔をしていた。

ぼろぼろのワンピースに、
くしの通していないぼさぼさの髪、
大きな白いふくろを背負った女の子。
まるで、何かすてきなプレゼントでも
入っているかのようだった。

「 アタシが何してるのかって?
 ブタにえさをやるのに、決まっているんじゃない。」
その大きな瞳には、
思い描いていたナイーブな純粋さというよりも、
不思議な強さ、たくましさがあった。

elopatak 005

洋服もやぶれているが、
白いふくろだってやぶれている。
空き地で、青々しいにおいの立つ草を
ふくろいっぱいに入れて運ぶ女の子。

気が付くと、そらはうす黒く色づきはじめている。
子どもたちは、すでに家路へむかっていた。


トランシルヴァニアをあなたの心に・・・。
              
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(0)|trackback(0)|ジプシー文化|2009-11-15_17:21|page top

セーケイの子どもたちと敬老の日

「 ママ、セーケイの服を着るんだよ。」と、
息子が前から楽しみに待っていたその日がきた。

更衣室に子どもたちを連れて行くと、
一人一人の名前が書かれた紙と
きれいにたたまれた衣装。

男の子は、袖のひろがったシャツに、
すそに飾り模様のついた白いフェルトのパンツ。
そして黒いフェルトのベストがくる。

女の子は、裾のひろがったブラウスに
赤と黒の縞模様のスカートとベストに、
真っ白なエプロン姿。
ディティールを白いレースが彩る。

IMG_5079.jpg

セーケイとは、トランシルヴァニアの東側の
カルパチア山脈沿いに住むハンガリー系のルーマニア人のこと。
もともとは12世紀くらいから、
当時ハンガリー帝国の国境を守る兵士として
呼ばれた民族であるとされている。
みな母国語をハンガリー語として、
自分たちの文化に対する自負が人一倍強い。
周りはルーマニア化されたとしても、
自分たちは負けないという誇りと意志がある。

だから、保護者の方々も
娘息子の写真をお願いしてこられる。
「 うちの娘、はじめてセーケイの服を着るの。
 写真をおねがいね。」

いつもの遊びも、衣装だけで
こんなにも雰囲気が変わってくる。

IMG_5102.jpg

鬼がハンカチを手においたら、
ハンカチを持った子が鬼を捕まえる遊び。

IMG_5119.jpg

クラスでは毎週、民俗舞踊の時間がある。
今日はその発表会。

IMG_5191.jpg

息子は仲良しのボギとペア。

IMG_5206.jpg

それから、一人一人が歌と詩を披露する。
詩は音楽と深いかかわりがある。
第一音節を強くする
ハンガリー語独特のアクセントは、
まるで唄うようでもある。
幼稚園教育でも、詩は重要視されているようだ。

IMG_5281.jpg

それから、カトリック教会から神父さんがこられ、
お話をしてくださった。

IMG_5330.jpg

おじいさん、おばあさんたちが
小さなお孫さんをしっかりと胸に抱いて、
お話を聞く姿。

IMG_5338.jpg

IMG_5343.jpg

「 皆さんにお見せしたいものがあります。
 私が生まれた40年代は、ここがまだハンガリーだった時代でした。
 その63年前に、職人さんがふたつの腕で作ったおもちゃをお見せしますね。」

「 この鈴は、63年間ずっと
 クリスマスがやってくるたびに、こうして鳴っていたんですよ。」
やさしい鈴の音が、響いた。

IMG_5379.jpg

子どもたちは古い木製のおもちゃを、
そっと隣へ手渡していく。

IMG_5373.jpg

時代が変わり、
今の子どもはあふれるほどのおもちゃを持っているけれど、
60年も大切にできるものが
その中にいくつあるだろう。

子どもたちが、おじいさんおばあさんへプレゼントするのは、
黄色い菊の花と、子どもたちの描いた絵。
心臓に病気があるレベカ。
おばあさんとひいおばあさんが見に来てくれた。

IMG_5420.jpg

「 もう、セーケイの服を脱いじゃうの?」
息子は、とても気に入った様子。
いつか、このうつくしいシャツを縫ってあげよう。

IMG_5462.jpg

このあたたかな家族の空気は、
どこかクリスマスを感じさせた。
クリスマスまで、あと一ヶ月とすこし・・・。

IMG_5464.jpg



トランシルヴァニアをあなたの心に・・・。
              
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ

Theme:海外の子育て
Genre:海外情報

comments(6)|trackback(0)|ルーマニアの育児|2009-11-13_13:59|page top

ジプシーの踊り手、エルヌーおじさん

土曜日の正午。
ジプシーのおじさんとの約束の場所へと向かった。

あの時は勢いでどこででも
踊ってもらおうと思っていたけれど、
よく考えたら、通りでは無理。
踊りの音楽もいる。
・・・というわけで、
場所を確保するのが先だと気が付いた。

例のゴミ箱の前、人は誰もいない。
もうひとつのごみ置き場にも、
やっぱりいない。

あの時、酔っ払っていて
すっかり約束のことを忘れてしまったのだろうか。
おじいさんは腕時計を持っている風でもなかったし、
どうやって時間が分かるのだろう。
そういえば、お昼に教会の鐘はなっただろうか。

たいして期待が裏切られたようなショックもなく、
息子の手をひいてぶらぶら歩いていた。
公園で、友達のイザベラらと出会う。
子どもたちはすぐに意気投合して、遊びはじめた。

久々に出会った友人に、
いきさつを話す。
「 私ね、ジプシーのおじいさんを探して、
 踊ってもらおうと思っていたんだけど、
 見つからないの。それも、宿無しのおじいさんなの。」

彼女は目を丸くして、噴き出した。
「 それじゃあ、もう忘れてしまったのかもね!」

そうして、もと来た道の方をみやると、
帽子をかぶったそれらしき姿が見える。
友人と息子を置いて、
「 ちょっと行ってくる。」と駆け出した。

小さな野菜市場のそばの、ごみ置き場。
おじいさんは、いつものように
帽子をかぶり、ステッキを持って歩いている。
ちょうど近くに来たときには、
小さな残飯袋を手に握っていた。

「 こんにちは。」と声をかけると、
おじいさんは嬉しそうに微笑んだ。
かろうじて私のことは覚えているらしい。

「 お昼に、この前会った場所で
探していたんですけど、見つからなくて。
そうだ、スープを持ってきたんです。」
とおじいさんの手に、袋を手渡した。

「 ありがとう。」としずかに微笑んだ。
おでこのところに、赤く血がにじんでいる。
どこかで、酔っ払って転んだんだろうか。

「 今日も、あちこち、ゴミを探して
 うろうろしていたからね。」
その日も、やっぱり酒臭かった。

「 おじさん、どこで寝ていらっしゃるんですか?」
「 俺がどこで寝ているのか、教えてやろう。
 ほら、あそこ。扉が見えるだろう。」
指を差しているのは、ちょうど今来た公園のあたり。

「 あの、建物を誰かが買い取って
 レストランにするんだけど。
 それまでは、そこで寝泊りして良いってことになってるんだ。」
かつて共産主義時代に、この一帯の集合住宅を暖めていた、
セントラルヒーティングの施設があった建物。
あれから、ずっと何にも使われていない。

今日はビデオ撮影ができないこと、
それまで場所を探しておくから、
月曜日にまた探しに来ることを告げた。

「 それでも、俺も何時か知っておかなくちゃ。」
と偉そうに言うおじいさん。
「 そうね、午後の3時にしましょう。」
そういいながらも、多分また
彼を探すことになるだろうと思った。

IMG_5681.jpg




火曜日の朝、やっとジプシーの長である
ディマ・ミハーイ氏と電話がつながった。
ウルクーの公民館へ出向いて、話をする。
公民館は、いつでも大丈夫との許可が下りた。

「 そういえば、エルヌーおじさんが
 昨日、ここに来たな。
 何でもダンスを踊ってほしい人がいるって。
 誰も信じなかったけれど。」
エルヌーおじさん、きっと覚えていないだろうと
思っていたのに・・・すこし胸が痛んだ。

帰り道、歩いていると
「 いつ写真を持ってきてくれるんだ?」といつものように
呼び止められる。
いつか愛馬と愛娘といっしょに、
何枚もの写真を撮らせた青年。
「 家にあるから、今度もって来るわ。」と納得させる。

すると後ろから、また私を呼び止める声。
振り返ると、女性が何人か歩いてくる。
「 あの失礼のないようにお願いしたいんだけど、
私の家と、子どもたちの写真を撮ってくれません?」と中年くらいの女性。

なにか深刻そうな顔。
事情を聞くと、どうやら県からの援助をもらうために
自分の住環境を知らせる必要があるらしい。
ご主人様は、森に木を切りに行って捕まったそうだ。
以来、5人の子どもたちを一人で育てているという。

「 また、いつここに来るんですか?」と聞かれたので、
「 今日か明日、
 ここでダンスを踊ってもらいたい人がいるから。」と答える。
「 エルヌーおじさんでしょ。
 私のお父さんよ。」と彼女。
本当に、あのエルヌーおじさんのお父さんなのだろうか。
だって、浮浪者なのに。

「 お父さんはね、うちに住んでいるんだけれど
 けんかすると、ふらりと出て行っちゃうのよ。
 いつも飲んでばかりだし。」
身寄りのない、浮浪者のおじいさんだと思っていたのが、
なんだか安心した。

偶然の縁で出会った、
娘さんとお孫さんと家のほうへ歩いていく。
これから、娘さんはエルヌーおじさんを探し出し、
あとでウルクーで会うことに決まった。

家のそばのゴミ捨て場。
ジプシーのおばさんが佇んでいた。
「 エルヌーおじさんを見ませんでした?」と聞くと、
「 もう家に帰ったよ。
 寒いから、帰るって行っていたわ。」とおばさん。
「 あのおじさんは、誰かが情けをかけてお金をあげたりするんだけど、
 すぐに飲んでしまうのよ。
 青い酒(消毒用のアルコール)を飲んで
 ここにひっくり返っていて、病院に運ばれたこともあったわ。」
それから、声をひそめて言った。
「 ねえ、パンになるものをおくれよ。
 きっと、あなたはよい事をしたって神様はいうから。」

それからビデオ役のダンナと息子を連れて、
ウルクー地区に向かった。

IMG_5708.jpg

先ほど会った、お孫さんのリベゼラを呼び出すと
すぐに迎えに来てくれた。
家の中へ通される。
子どもたち、そして女性たちでいっぱいの部屋。
エルヌーおじさんの姿はどこにも見られない。

「 探したんだけれど、どこにもいなかったのよ。」と娘のマリさん。
ピカピカのCDプレイヤーや、ペルシャじゅうたん、
きれいなコーヒーカップの並んだ棚。
ジプシーらしい、鮮やかなインテリアの
思ったよりも裕福そうな家。
ここは、マリさんのお姉さんの家のようだ。

IMG_5717.jpg

仕方がないので、世間話を少ししてから帰ろう。
「 そういえば、ジプシーの音楽はありますか?
 ちょっとかけてくれません?」と聞くと、
思っていた民謡調のものではなく、
ルーマニア語のダンス音楽だった。

3歳になるという女の子。
お母さんは、ジプシースカートを上から着させる。
リベゼラのお兄さんもやってきて、
ジプシーダンスがはじまった。

IMG_5761.jpg

IMG_5767.jpg

エルヌーおじさんから娘さん、
お孫さん、ひ孫さんにまでつながるダンサーの血。
「 ジプシーの血の中に、
 リズム感がしっかり根付いている。」とはよく言われるが、
その通りなのだろう。
リズムに合わせて、からだを揺らす
その小さな少女を見ながら思う。

泥でぬかるんだ道を、ひきかえす。
そこには、野犬のごとく普通にブタが歩いている。

IMG_5774.jpg

彼ら、ジプシーたちのぎりぎりの生活。
いかにも必死そうな、
実はそうでないような生き方。
不幸そうでもあり、
ユーモアがありそうでもある。
目を背けたくなるときもあるが、
何かひきつけて止まないものもある。

いつ、エルヌーおじさんに会えるだろう。



トランシルヴァニアをあなたの心に・・・。
              
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ












Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(6)|trackback(0)|ジプシー文化|2009-11-10_16:01|page top

晩秋のトランシルヴァニア

11月1日は死者の日。
日本で言うと、お盆に当たる。

グレーとほんの少しの水色が溶けあった空に、
裸の木が寒々しい。
墓場では、赤々とロウソクの光が
静かに燃えていた。

IMG_5474.jpg



つぎの日の日曜日。
私たちは、クリズバに来ていた。
亡き舅の生まれ故郷に、お墓がある。
すでに親戚、知人もいない寂しい村。

IMG_5522.jpg

冷たい風がからだを容赦なく吹きつけてくる。
空からは、パラパラと粉雪がふりはじめる。
大きなかごや荷台いっぱいに
花をのせて、運んでくる人たち。

IMG_5504.jpg

IMG_5510.jpg

最後の光をあびて育った花々で、
お墓をきれいに飾りつける。

IMG_5506.jpg

シェレシュ・アンドラーシュの墓。
民俗学者と書いてある。
小さな菊の花を置いて、
ロウソクに火を灯した。

IMG_5512.jpg



その翌日は、空気が凍るように冷たかった。
冬の風が、街路樹の葉っぱをたたき落とすかのように、
赤や黄色の葉っぱが
通りをすっかり覆っていた。

IMG_5527.jpg

落ちたての葉っぱの色。

IMG_5528.jpg

子どもたちにとっては、格好の遊び場。
どうか、道を掃いてしまわないように。

IMG_5526.jpg

紅葉をみる、最後のチャンス。
しっかり洋服を着こんで、
町はずれの森のほうへと繰り出した。

空気にふれる部分、
特に頬と手が冷たい。
もう昼が近いのに、水たまりには氷の膜がはっていた。

歩いて15分ほどで、もう森の入り口に着ていた。
ブナの木の葉が、太陽の光をあびて
黄金色にかがやく。

IMG_5532.jpg

フカフカのオレンジ色の落ち葉をふみ、
森のなかへ。
ときおり風に吹かれて、
上からは木の葉がふってくる。

IMG_5545.jpg

ブナの大木の幹のところに
腰をおろす。
しばし、その色彩の渦のなかに身をおいてみる。
秋がいかに華やかな季節であることが
しみじみ感じられる。

IMG_5548.jpg

ブナの葉っぱ。
若い葉も年寄りの葉も、おなじく落ちて、
そして冬の間は、雪の下にじっと身をひそめている。

IMG_5555.jpg

落ち葉の中に、木の目。
木はいかにも、人に似ているような気がして
はっとするときがある。

IMG_5575.jpg

ブナの林の向こう側は、
もう裸の山だった。
ほんの少し前までは、
あんなに鮮やかな色をしていたのに。

IMG_5586.jpg

銀色の穂が揺れている。

IMG_5587.jpg

山を降りて、道路まで出た。

IMG_5592.jpg

これから数ヶ月は、
雪に閉ざされるトランシルヴァニア地方。
枯れてゆく植物を見て、
彼らは死者を想い、供養する。
そして再び、植物が力を取りもどして緑をつけるとき、
イースターという復活の行事を祝う。

道路から見えてきたのは、
緑の葉っぱを食んでいる羊たち。

IMG_5597.jpg

エステナと呼ばれる、羊の小屋のなかに
大人しくおさまる羊の群れ。

IMG_5598.jpg

羊たちもやがて、草を求めて
羊使いとともに旅に出る。
来年の春、また緑が地面を覆いはじめる頃、
また山脈を越えて戻ってくる。

緑の葉っぱとも、羊たちとも
しばらくのお別れ。


トランシルヴァニアをあなたの心に・・・。
              
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(8)|trackback(0)|自然、動物|2009-11-08_01:00|page top

月夜の晩の出会い

いつものように、
毎週木曜日の家庭教師の時間がおわって、
かえり道。

いつもよりも数倍も明るい月のひかりを眺めながら、
ここちよく歩いていた。
ふと近所のスーパーから、
ひとりの帽子をかぶった老人が歩いてきた。

その風貌に、なにか思い出すものがあった。
しばらく、おじいさんの跡をつけて
歩きながらよく観察する。

勇気をふりしぼって、たずねてみた。
「 あのう、あなた踊りをする人ですよね?」
そのぼうしの頭が振りかえり、
私の目をじっとみつめた。
「 ああ、そうだよ。」

「 いつか、セントジュルジ祭で
踊っていらしたのを見たんです。
とってもお上手でしたよね。」とほめると、
その表情がふとやわらぎ、
ほほえみさえ浮かんだ。

「 あの後でビールをおごった奴、
誰だか知っているかい?
あれは、バラージュとかいう歌手なんだよ。」
NAPRA(ナプラ)という、ハンガリーのエスノ・ロックのバンドが
迫力あるコンサートをしていた。
そのとき突然に踊りだしたおじいさんのダンスがあまりに
素晴らしかった(味わいがあった)ので、
そのご褒美にビールを持ってきた男がいたのだ。

「 踊りを見せてくれませんか?」
「 どこで踊ったらいい?」
「 ウルクーの、どこにお住まいなのですか?」
ウルクーとは、この町のジプシー居住区のことである。
「 俺はいつでも、この地区にいるよ。
 このゴミ箱のあたりにね。」
私たちは、商店から離れて
うす暗い、ゴミ箱のあたりに立っていた。

「・・・恥ずかしいことに、俺は宿なしなんだ。」
「 こんなに寒いのに・・・。
 毛布はあるんですか?」
「 ああ、ゴミのあたりなら
 何か見つかる。」
おじいさんの息がアルコール臭いのに、
そのとき気が付いた。
あの祭りのときにも、確か飲んでいるようだった。

「 ご家族は、いらっしゃらないんですか?」
「 ああ、家内と別れたんでね。」
「 ご両親もいらっしゃらない・・・。」
「 ああ、父さんも母さんも、
 死んだんでね。」
母さんというところで、
おじいさんの黒い瞳がすこし潤んだようだった。

「 おじさんのお名前は?」
「 俺の名前は、ドイツ語なんだ。
 君には書けないはずだから、俺が書くよ。」
差しだしたボールペンをにぎって、
ノートにおぼつかない文字が並ぶ。
「 ディマ・エルンス」とやっとのこと解読できた。
ドイツ語の名前・・・ということは、彼の両親はドイツ系の住民だろうか。

「 どちらから、来られたんですか?」
「 インドからだよ。」
と大真面目な顔で、答えるおじいさん。
どうやらジプシーがどこから発祥したという意味で、
かん違いしたようす。

それから、
「 俺は、ブラショフ県の出身だよ。」
と寂しそうに答えた。

ポケットの中でいつしか握っていた紙幣、
「 パンはありますか?」とたずねると首をふった。
店にはしって、パンを買ってきて渡す。

「 あんたに、何をいいたいか分かるかい?
 俺はね、これでも高校まで出ているんだ。」
アメリカの何とかいう作家のはなし、
フランスの何とか二世とかいう王様のはなしをした。
どれも、聞いたことのない名前だった。

「 怒らないでおくれよ。
 俺はね、学のない人間だって
 馬鹿にされたくなかったんだ。」
「 いいえ、そんなこと思っていません。」
おじいさんの肩をたたいた。

私たちは、
土曜日の正午にその場所で
会うことを決めた。
「 じゃあ、
 土曜日の、教会の鐘がなるころに。」
私たちは別れた。

明るい月夜のした、
いつしか小走りに歩いていた。


トランシルヴァニアをあなたの心に・・・。
              
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ



*2008年春のセントジュルジ祭の、
 コンサートの出来事は、こちらです。


Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(0)|trackback(0)|ジプシー文化|2009-11-05_20:56|page top

ドボイ村、秋の遠足

あたたかな秋の午後、
私たちはドボイにいた。
まだ初雪がくる前のこと、9月の終わりのことである。

宮崎からのお客さまがみえたので、
枝にサロンナ(ベーコンの脂身)を刺して、薪で焼く。
私の庭で、ワイルドな昼食会。

うつくしいドボイ村からの眺めを見せたくて、
丘の斜面めがけて出発した。
村はずれで、ジプシーの子どもたちに出会うと、
いっしょに連れて行ってとせがんできた。

結局、いっしょに遠足に行くことになる。
「 ねえ、この前とった写真はどうなった?」と聞いてくる。
夏に遊びにきた、台湾人の友達が撮ったもののことだ。
今年の夏からお客さまが多かったので、
すぐには誰のことか分からない。

男の子たちは、馬に乗って
アクロバットな芸も披露する。
さすがにジプシーの子どもたちは、たくましい。

IMG_3463.jpg

少し歩いただけで、もう村が目の下に見えてきた。
まるで守られているかのように、
森のなかにひっそりとたたずむ村。

IMG_3491.jpg

蒼い空に、
ローズヒップの赤がまぶしい。
野生のバラからとれる、この実は
ビタミンCが豊富で冬の大切な食料である。

IMG_3472.jpg

その真っ赤な実を摘みはじめると、
子どもたちはすぐに手伝ってくれる。
「 これ、何に使うの?」
「 お茶をね、作ろうと思うの。」
トゲに気をつけながら、取らないといけない。
カメラ・ケースの中は、
すぐに鮮やかな赤でいっぱいになった。

IMG_3486.jpg

女の子たちは、私とNさんの間を行ったりきたりしながら、
手をつないだり、腕を組んだりする。
恥じらいとか、照れというものはないから、
あっという間になじんでしまう。

dobolygyerekek4.jpg

体格は5歳の息子と同じくらいなのに、
やせ馬を使いこなす男の子。

IMG_3477.jpg

馬の背をたたいて、
丘の上まで猛スピードで駆け抜けて行ってしまった。

IMG_3499.jpg

もう、ここは丘の上。
やわらかくカーブを描いた地面は、
あたたかく包み込むようだ。
秋のにおいと色を、からだいっぱいに感じる。
遠くのほうに、小さな村も見られる。

IMG_3526.jpg

さえぎるものがない広い台地、
ここは最高の乗馬場。

IMG_3538.jpg

言葉も通じないのに、
ジプシーの少女たちと仲良しに。
「 ほら、あんまり引っ張っちゃ、駄目よ。」
感情がストレートな彼らには、
こちらもストレートに返さなくてはいけない。

dobolygyerekek1.jpg

もう、お隣のお姉さんのように
こき使われるNさん。

dobolygyerekek2.jpg

やせ馬の上に、子どもたちが息子を乗せてくれた。
「 馬から落ちたら、大変。」と
過保護心がはたらきそうになるが、抑える。
たくましい彼らを見習わないといけない。

dobolygyerekek5.jpg

いたずらっ子のジュジャが、おんぶする。
「 今度は、俺の番。」と男の子も。
泣き笑いをする、可哀相な息子・・・。

dobolygyerekek.jpg

「 もう、この先は行かないほうがいい。
 クマが出るって、お父さんが言ってた。」と男の子。
「 そう?こんな日中に?」と聞くと、
そうだという。
ドボイ村の奥には、深い深い森が広がっている。
夜な夜な、クマが村を徘徊するというのは本当のはなし。
では、引き返そう。

帰り道、
みんなが楽しそうに並んで笑う。
ジプシーの子どもたちに振りまわされながらも、
ここちよい秋の遠足をプレゼントしてもらった。

IMG_3546.jpg

「 ほら、キレイでしょ。」
大きな葉っぱがかぶさった枝を、
もって来てくれた少女。
燃えるような赤の葉っぱが茂っている。

IMG_3555.jpg

この秋の赤は、
今でも私の家で燃えつづけている。
オレンジ色の陽を浴びながら、
丘を歩いた夕方を思い出させるように。




トランシルヴァニアをあなたの心に・・・。
              
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(0)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2009-11-03_14:51|page top