トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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町で一番寒い住まい

トランシルヴァニアに寒波が押し寄せてきたのは、
1月の後半。
朝目覚めると、窓ガラスがカチカチに凍って、
まるで押し花をしたような「氷の華」があらわれる。
連日続く極寒の日々に、
家のなかから外に出ることはほとんどなかった。

エルヌーおじさんを訪ねてみようと思ったのは、
その次の日。
熱いハーブティーと、
ジャガイモの煮込みをもって出かけた。

クリーム色の巨大な建物。
奥の薄暗い部屋からは、
かすかに話し声が聞こえてくる。

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中に入ると、
エルヌーおじさんともうひとり。
「 やあ、こんにちは。」
と思ったよりも張りのある声がひびく。

ICIRIPICIRI30 175

窓は、かつてのビニール紙でしっかり固定されている。
焚き火が赤々と燃えているが、
燃え尽きた空気はどこにも逃げ場がなく、
部屋のなかを濁している。
小さな黒い粉が、
まるで虫のように空中をおよいでいた。

「 きのうの晩、警察がきたよ。
 俺を施設に連れて行こうとしてさ。
 でも、俺はがんとして行こうとしなかった。
 ちゃんとした住まいを与えてくれるならだけど、
 一晩だけ住まいがあったって仕方がない。」

「 病院に送ろうとしたやつもいた。
 でも、俺は病気じゃない。」

「 こんなところで、誰もが
 この寒い冬を越すことができると思うかい?」
行こうと思えば、逃げ場はあるはずなのに、
おじさんは何らかの強い意志でここにいるのだ。

「 きのうの晩は、何度あったか知っているかい?」
これまでで一番の冷え込みということだけは、
予想がつく。
「 マイナス35度さ。」
「 いいや、36度だよ。」ともうひとりが口をはさむ。

「 おとといから何も食べていなくて、
 お腹がぺこぺこだ。」と包みから出して、
ジャガイモの煮込みを食べはじめた。

パンを探すように友人に声をかけた。
袋から取り出したパンは、
どれもカチカチに凍っていた。
「 こいつらは凍っても、
 俺は大丈夫だった。」とにっこり微笑む。

「 寝るときに枕であたまを覆って寝るんだけれど、
 顔だけはそのままでね。
 いつか朝目覚めたときには、
 ひげがカチカチに凍っていた。

 もしエスキモーにもヒゲがあったら・・・
 と考えるとおかしくってね。
 ひとりで笑ってしまったよ。
 ほら、彼らは氷の家に住んでいるだろう。」

こんな寒い中でも、エルヌーおじさんのユーモアが聞かれて
ほっとする。

おじさんの友人は、
慣れた手つきで新聞紙で巻きタバコを作り、
火をつけ口にくわえた。

タバコのすい残しの黄色い部分を
新聞紙にくるんでまく。
「 タバコを買う、金がないんでね。」

ICIRIPICIRI30 179

しばらくいると、足の先が凍りつくようになる。
彼は、靴の裏を焚き火にかざして
寒さをしのいでいるようだ。

「 こうやって、よく見に来るんだ。
あいつがちゃんと生きているかどうか、
確かめにね。」

まだこの寒さは続くのだろうか・・・。



トランシルヴァニアをこころに・・・。

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comments(2)|trackback(0)|ジプシー文化|2010-01-30_12:22|page top

氷点下30度の世界

冷えこみの激しい日ほど、
不思議とそらは明るく、冴えているもの。
いつもより、明るい光で目が覚めた。

我が家から一番近い
氷点下の世界は、ベランダ。
ドアひとつ開けただけで、
身も凍るような空気が待っている。

もちろん植木鉢の植物も、
凍りかけている。

窓は、「氷の華」の展覧会。

雲から降ってくる氷の矢があったり、

ICIRIPICIRI30 093

電気がはしったネコのしっぽもあれば、

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青空にぽっかりと浮かんだ、
氷の肺も・・・。

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氷点下30度の表へ出てみる。
氷のような空気が、
呼吸器をつたわって、肺にたまっていくのが分かる。
体の内側から、
冷え込んでいく感じ。

唯一、外界と触れている部分、
顔がヒリヒリと痛む。
特に、アゴの辺りが。

外ですれ違う人は、
みんな下見がちに、足早に歩いている。

どうかこの寒さも、
足早に過ぎていってくれますように。




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comments(4)|trackback(0)|自然、動物|2010-01-29_11:48|page top

セントキラーイ、雪のなかの住まい

ふたたびトランシルヴァニアに
厳しい冬がやってきた。

雪は何日か降りつづくと、
町のあちらこちらが
天然のソリ場、スケート場へと化す。

土曜日の昼前、
友人の誘いでソリをしに村へと向かった。
キャンピングカーの中は、子どもたちでいっぱい。

町から6km南にある、セントキラーイ村。
町外れの小高い丘は、滑るには絶好の場所。
ソリといえば
子どもの遊びかと思っていたら、
ここでは大人から子どもまで夢中になるスポーツのようだ。

ICIRIPICIRI30 002

雪の白さとその冷たさは、
こころまで浄化してくれる。
そして、その静けさ。
あらゆる生き物が姿を消す、厳しい冬。
無機質なようでもあり、
それが不思議と落ち着くときもある。

白樺の木には、
どこか儚げで、幽玄なうつくしさがある。

ICIRIPICIRI30 005

むかし、誰かからこんな話を聞いた。
「 第一次大戦で、たくさんの兵士が捕虜として
 ロシアへ連れて行かれてね。
 やっと開放されて国に帰ったあとでも、
 この白樺をみると、
 辛いロシア時代が思いかえされたそうだ。」

ICIRIPICIRI30 025

かつて夏には、緑の中に
たくさんの白い羊たちが歩いていた原っぱ。

ICIRIPICIRI30 009

しばらくすると、足の先と手がかじかんでくる。
子どもたちのソリ遊びは、
それでも続く。
この丘を上りつめると、

ICIRIPICIRI30 018

ユニタリウス派の教会の前に出てくる。
ふいに、鈍くこもったような鐘の音が響きはじめた。
村の中からも、また高い鐘の音が
かすかに聞こえてくる。
この小さな村に、ユニタリウス派、カルバン派の教会、
カトリックの集会所があるらしい。

ICIRIPICIRI30 033

「 天使をつくってあげましょうか?」と
雪に寝そべって、手足をばたばた動かす。

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雪の天使の出来上がり。

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新しい遊びがはじまった。
車のトランクを開けて、
ヒモを子どもたちのソリに結びつける。
そして、出発。

ICIRIPICIRI30 043

子どもたちのにぎやかな声がはじける。
真っ白な季節の楽しみ。

ICIRIPICIRI30 052

天までとどきそうな木。

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やがて完成すれば、
この雪景色はすべて彼らのもの。

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comments(6)|trackback(0)|自然、動物|2010-01-28_08:20|page top

トランシルヴァニア、冬の城砦教会

ここトランシルヴァニアでは
あちらこちらに見られる、城砦教会。
この町で一番古い文化遺産である、プロテスタント教会。
小高い丘にそびえ立つ、白い塔が目印。

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石が積み上げられた、頑丈で高い城壁。
人々は、教会のなかに立てこもって身を守った。
戦乱の激しかった中世がしのばれる。

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見張りの塔や、敵を射るための小さな穴が
まだそのままに残っている。

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教会のまわりには墓場が囲んでいるものだが、
ここでは城壁のなかにも見られた。

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町から西に6kmにある村、アールコシュ。
石畳の道は、ユニタリウス派教会に通じる。
ユニタリウス派とは、
トランシルヴァニア発祥のキリスト教の一派。
世界ではじめて宗教の自由を宣言したと言われる。

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こんなに穏やかな小さな村にも、
戦の跡がしっかりと刻まれている。

ciganygyerekek 097

階段をのぼって通路に出ると、
小さな覗き窓から村が一望できる。

ciganygyerekek 099

せっかくここまで足を運んだならば、
塔のひとつにある展示場にも足を運んでみよう。
セーケイ人の大男、バーリント・ゾルターンが
郷土の古い遺産を一同に集めている。
古いアイロンから、鉄製の蒔きストーブ、
農耕具から民俗衣装まで幅広い展示品の数々。

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木箱から、そっと取り出して見せてくれるのは、
イースターエッグ。
こちらは木彫りしたもの。

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タマゴの中身をぬいて殻だけにしたものに、
ロウで模様を描いて、染める。
古くから伝わる技法。

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美しいレースのカーテンには、
天使や女神のすがたが見られる。

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白い塔は、鐘つき台。
足場の悪いはしごをなんとか
3階までのぼりきると、おおきな古い鐘が頭上にあった。
緑がかった鐘の表面を、
ハンガリー文様が覆っている。

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まるい窓の外は、
依然として雪景色のまま。

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トランシルヴァニアの昔が偲ばれる
城砦教会には、
この冬の風景がよく似合う。



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comments(0)|trackback(0)|文化、習慣|2010-01-26_17:40|page top

宿無しのジプシー老人

最近、気になることがある。

年末年始とずっと姿を消している、
あのジプシーのおじさん。
いつもの商店の前にも、
ごみ置き場のところにもいない。

かつて寝起きしていた廃屋には、
いつしか南京錠がかけられていた。
閉め出されたのだ。
この寒さの中で、どこへ?
ひょっとして・・・不吉な考えが頭をよぎる。

「 子どもたちよ、来ておくれ。
 俺はもうじき、死ぬのだから。」という歌。
あれは自分のことなのだと言っていた。




ウルクーからの帰り道。
ごみ置き場の前に、マリーの姿を見た。
その後ろには・・・帽子をかぶった、エルヌーおじさん。
「 キスを!」と私の手の甲にくちづける。
その顔は、思いのほか元気そう。
「 髪を切ったんですね。」
ひげも剃ったせいか、いつもより顔が丸く見える。

「 まだ話すことがあるんだ。 
 俺の人生のことでね。とっても大切なことだよ。」
すこし濁った茶色い瞳がじっと見つめる。

「 今はどこに住んでいるんですか?」
「 セメリアの、暖かい家(セントラルヒーティング)だよ。
 他に行くところはないからね。
 朝は8時、9時ごろならそこにいるよ。」
月曜に、探しにいくといって別れた。



その日は、久しぶりに朝から雪だった。
家を出たのは、10時すぎ。
町外れのセメリア地区へと向かった。

道をたずねて、
「墓地のすぐよこにある建物」はすぐに見つかった。
近所のものよりもさらに巨大な建物。
窓ガラスも扉もない、見るからに廃屋。

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社会主義時代の名残を、これほどまでに
とどめている建物が他にあるだろうか。
かつては、つねに火をたいていて、
周辺をあたためていたはずの建物が、今や一番寒い住みか。
20年間も、そのままに放置されている。

本当に、ここに住んでいるのだろうか。
半信半疑で中へと足を運ぶ。

ICIRIPICIRI28 006

ICIRIPICIRI28 017

「 どうやら、ここに住んでいるようだよ。
帽子もある。」とダンナが
一足先に見つけたようだ。
奥のうす暗い部屋に進み入ると、
確かに寝床がそこにあった。
たき火の痕跡もしっかり残っている。
誰もいないようだ。

ICIRIPICIRI28 019

ベッドのすぐ上には、大きく
くりぬかれたように雪景色が広がっている。
ちらちらと、降ってくる雪を眺めていた。

仕方がない、出直そう。
家から持ってきたお菓子の入った袋を、
その寝床に放り投げた。
??
その袋が落ちたところは、
なんだか人間の洋服のようでもある。
よく見ようと、そばに寄ってみると・・・。

ガサッと音がして、
おじさんがむっくりと起き上がった。
「 ・・・ああ、びっくりした。」
といって、身震いをする。

ちょうど物を投げたところは、
おじさんの胸のあたり。
私も負けずに、びっくりした。

起きたてに、胸からタバコの箱を取り出して一服はじめる。
「 今日は、ここに主人がやってくるんだ。
 この部屋を貸してくれてね。
 俺が生きている限り、
 ここに住んでもいいという。ありがたい話だよ。
 奥さんも、スープや缶詰など持ってきてくれる。」

それから消毒用アルコールも取り出した。
「 これが、俺の暖房さ。」と
青い色をした液体を飲む。

タバコの煙がなくても、
口からは白い息がこぼれる。
確かに、ここは寒い。
まだ布団から出られない様子。

問題の窓を見上げて、ダンナが言った。
「 ここに、何か貼り付けるものはないんですか?」
「 ああ、あるんだがね。
 このテープじゃ、どうも駄目みたいだ。」

家に帰って、かわりのテープを探してくる間、
おじさんはまた独り、語りはじめた。
「 俺が話したかったのは、親父のことだよ。
 飲んだくれて、俺たちを外へ送っては
 金を酒に変えていた。
 そして、よく俺たちにも手を上げた。」

「 俺はあのひどい親父が嫌で、
 ついに14歳のときに、ブラショフへ逃げたんだ。
 俺たち兄弟8人で、掘っ立て小屋を作ってね。
 そこに2年間、住んでいた。」

「 警察に問いただされたこともあったけど、何も答えなかった。
 絶対に親のことは知られたくなかった。
 家に連れ戻されたくなかったからね。」

「 あの頃は、他にも俺たちみたいなのがゴロゴロしていた。
 下水道に住んでいたのもいた。」

「 結局、警察が捜索して家に連れもどされた。
 それから、まもなく親父は死んで、
 その葬儀のために馬や馬車を売らなければならなかった。」

やがてダンナが到着したので、
窓の外側からナイロン・シートを貼りつける作業がはじまる。
どうにか簡易の窓ができあがると、
もう12時の鐘の音が聞こえてきた。

「 君のために、喪を明けることにしたよ。」
と寝床のなかから声が聞こえる。
「 俺の踊りは、本物のジプシーの踊りさ。」
雪がとけ、春になったら
ジプシーダンスを見せてもらおう。

おじさんの住処をあとに、
息子の待つ幼稚園へと向かった。




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comments(2)|trackback(0)|ジプシー文化|2010-01-25_14:46|page top

ジプシー職人、バードゴシュ

ウルクーにジプシーの職人がいる、
そう聞いて町外れのジプシー居住区へと向かった。

バードゴシュというのは、
古くからのジプシー特有の職業で、
亜鉛で雨どいなどを作る職人のこと。

商人に多いガーボルという姓を持つ男は
コロンドという村の出身で、
こちらに行商にきたときに、
ここのジプシーの女性と知り合い結婚をした。

ジプシーでも、
「定住(家)ジプシー」と呼ばれる
ほとんどよその民族に同化してしまったものたちと、
「放浪(テント)ジプシー」と呼ばれる
民族衣装を着て、ジプシー語を話すものたちに
分けられるという。
そして両者は、あまり交わらないようだ。

松林の入り口にひっそりとたたずむ、
エメラルドグリーンの壁が目印。
共同井戸から水があふれ続け、
下水施設もないから、
ウルクーの道はいつも泥だらけ。

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塀がぐるりと囲んでいるだけで
木も庭もない、殺風景な家。
扉をひらくと、ベッドがふたつと
蒔ストーブだけの小さな部屋の中にいた。

いつかカロタセグ地方で見た
小鳥とモミの木のモチーフの
亜鉛細工を注文したいと話すと、
「ああ、いいよ。写真を持っておいで。」という返事。

ちょうどおばあさんがやってきて、
男の子たちの散髪をしているところ。
ダンスの名人で、タロット占いもするというハイニおばさん。
「 いつも、こうやって孫たちの髪を切っているのよ。」

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なかなかじっとしてくれないので、
子どもの髪を切るのってむずかしい。

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ベッドの上に座っている、
かわいい女の子・・・と思ったら、男の子のようだ。
「 この子の名前はイシュトヴァーンよ。
 ずっと女の子がほしかったんだけどね。」
とお母さんが言った。

ICIRIPICIRI28 310

カラフルな布きれで髪に編みこんで、
なかなかおしゃれ。
「 この子の髪の毛も切るんですか?」とたずねると、
「 いいえ!とんでもない!」との返事。
どうやら三男坊だけは、
女の子のように育てたいようだ。

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散髪が終わったばかりの子どもたち。

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アーラパタクの村で見た、
美しい亜鉛細工の雨どい。
次は、この職人の仕事を見にこよう。

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comments(2)|trackback(0)|ジプシー文化|2010-01-23_22:12|page top

アーラパタクのジプシー・アート

ハンガリー人、ルーマニア人、
ジプシーが共存する村、アーラパタク。

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機織機を探してぶらぶら歩いていると、
とても気になる洗濯物を発見。

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ご近所さんに尋ねてみた。
「 ここは、ジプシーの人が住んでいるのですよね?」
「 ええ、そうよ。
  ここの人は、信心深いからまだ大丈夫。」
安心して、その家の主人を訪ねることにした。

「 すみません。あの・・手芸が見たいんですけど。」
私たちの話すのを聞いて、ジプシーのおばさん。
「 ハンガリー語でも、大丈夫よ。」

IMG_8021.jpg

「 あの、奥にあった洗濯物を見て。
 とっても素敵なものをお作りになるんですね。」
例の手芸を写真に撮らせてもらうように、お願いした。

「 どなたがお作りになるんですか?」
「 私の嫁よ。今ちょうど、出かけているわ。」とおばさん。

蛍光色の鮮やかな花。
大きく手を広げたような、枝ぶりはダイナミック。
どことなく、メキシコっぽい色使い。

IMG_8006.jpg

花壇からのびた花のモチーフは、
ハンガリーのフォークアートによく見られる。
だけど、この色彩ときたら・・・
ジプシーのもの以外の何者でもない。

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サテンステッチなのだろうか。
びっしりと糸が埋め尽くされて、
しっかりとした厚みがある。
よそで刺しゅうか図案集から借りてきた図案が、
ジプシー風に味付けされたという感じ。

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「 他にも、まだあるのですか?」と尋ねると
おばさんが中へ通してくれた。
蛍光オレンジの壁に、緑のドアを開けて・・。

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扉の上にも、刺しゅうのクロスが見られる。
細長いクロスを、中心でチョウのように結んで飾るのは
ルーマニア風。

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「 手仕事をするお嫁さんは、いつごろ帰ってきますか?」
と聞くと、夕方ごろとの返事。
お花をつむ少女の描かれた、クッションカバー。
刺しゅうの仕方にしても、配色にしても、
配置にしても・・・常識やぶりで、どれも驚きにみちている。

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村で用事をすませて、帰り道。
再び、ジプシーおばさんのところへ立ち寄った。
門のところにいた、ひげの男性に
手芸をする奥さんに会いたいと告げる。

先ほどの家の、別の入り口を中に入ると、
小さな部屋にたくさんの子どもたち。
うつくしい眉をした若い女性が、そのお嫁さん。

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「 ローザという名前は、あなたのこと?」と聞くと、
「 いいえ。私のお母さんよ。ヘテに住んでいるの。」
そういえばここ周辺のジプシーたちは、
あの閉鎖されたジプシー村ヘテからやってきた、
と誰かから聞いたことがあった。

刺しゅうをする糸を見せてほしいと告げると、
棚の中から小さくなった糸巻きをいくつか出してくれる。
ウールのような、化繊のような太い毛糸。
どれも見たことのないような、鮮やかな色ばかり。

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「 これだけ作るのに、どれくらいの時間がかかる?」と尋ねると、
「 2、3週間よ。」との答え。

話をしていると、
またご近所さんが中へ入ってくる。
生地と糸を持ってまた来ると告げて、
人でいっぱいの部屋を後にした。

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ハンガリー人の几帳面な赤のクロスステッチと、
ジプシーの自由でカラフルなフリーステッチ。
どちらも別の魅力があって、
それでいい。

向こうの丘には、
人口増加であふれかえるジプシーの居住区が見られる。
アーラパタク村の将来を、
暗示するようである。

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comments(10)|trackback(0)|ジプシー文化|2010-01-21_16:00|page top

アーラパタクに刺しゅうを訪ねて(後)

ふだんよりも一段と強い太陽のひかりで、
雪もすっかり姿を消した。
アーラパタクの中心部には、
ドーム型のオーソドックス教会がそびえ立っている。
道行く人は、ほとんどがジプシー。

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道を尋ねると、本通から折れていく
小さな通りを指差さされる。
ここは、古くからの住民が多いとされる所。

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「 ジュルジ先生のお宅はどこですか?」と聞くと、
緑色の家だといわれる。
門を押して、中へとお邪魔させてもらう。

中庭からも、家の住人の個性がうかがえるような
たくさんの木彫りの飾り。

中から出迎えた老夫婦に、
目的を告げると喜んで中へ通してくれた。

ご主人のジュルジおじさんは
かつては先生をしていたのが、
今は木彫りをしている方。
手作り市などにもよく出品されるそう。

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こちらが、奥さまのエニクーおばさん。

部屋の壁にずらりと並んだ木の板は、
シューイコローと呼ばれる
洗濯板のようなもの。
昔、村では男性が女性にささげる
愛の贈り物として、自らの手で彫ったものだった。
ハートやチューリップなど
愛のシンボルで埋め尽くされている。

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木彫りと赤の刺しゅうが、
あたたかく心地よい空間を生み出している。

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円のなかに花びらが浮かんだようなモチーフは、
ロゼッタと呼ばれる太陽のシンボル。
タペストリーには、ダンスを踊るセーケイの女性たちと、
音楽を奏でる男性が描かれている。

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プロテスタント教会で使われる
賛美歌のブックカバーも、刺しゅうの赤で包まれる。

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「 私はよその村からお嫁にきたんだけど、
 刺しゅうをはじめたのはそれから。」
熟練した刺しゅうの作品を前に、
彼女の努力の跡がうかがい知れた。

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この地方のクロスステッチは、
細長くのばした斜めのラインを、ダブルにして刺してゆく。
「編みクロスステッチ」と呼ばれる。
目にも留まらぬ速さの、刺しゅうテクニック。

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「 夏の間は、ここで作業をするのよ。」と
見せてくれたのは、屋外に設置された小さな部屋。
いまでも農村で見られる「夏のキッチン」ならぬ、
「夏のアトリエ」である。

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この家も、例にもれず強盗の被害にあったそう。
緑色の壁に、木彫りが目印の家。

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「 村にはまだ作り手がいるのよ。」
エニクーおばさんに導かれて、
民家をいくつか訪ねるがあいにく留守だった。
3軒目の家で、やっと家の主人に出会えた。

外から持ちだしてきた靴の泥を、
ホウキではたき落とす。
「 いいから。どうぞ、中へお入りなさい。」とエルザおばさん。

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エメラルドグリーンの壁に、
赤い刺しゅうが目に飛び込んでくる。

IMG_8139.jpg

「 うちの子供たちは気にも留めないけれど、
 この間、お医者さまにプレゼントしたら、
 それはそれは喜んでいたわ。
 ずっと、ひざの上でやさしく撫でていらしたの。」と微笑がもれる。

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刺しゅうもするけれど、エルザおばさんの得意なのは
ロイトと呼ばれるフリンジ作り。
村の女性から、注文を受けて作ることもあるそう。

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こちらは若い頃の作品。
自ら染めた糸で一面にクロスステッチを施した
ベッドカバー。
すそのフリンジも、同じウール毛糸でできている。

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フリンジを編むところを見たいという私のために、
奥から持ってきたのは編み台。

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いすに腰掛け、
細長い赤い糸の目を数えはじめる。
「 エテルカ先生から習いはじめたときは、
 きれいにできなくって。背中に汗が流れたわ。」と
懐かしそうに話す。

IMG_8226.jpg

「 いい。編むときのポイントはね、
 軸になるはじめの糸をきつく引っ張ることよ。」と
説明しながらも、手は結んだり、開いたり・・・。

自在にかたちを変える、
うつくしい手の動きに見とれていると、
赤い糸はねじられ寄せられて、
確実に模様が出来上がっていく。

IMG_8236.jpg

「 次は、花のかたちを作るわね。」と
今度はひとつひとつの糸を結びながら、
斜めに模様を作っていく。
先ほどとは違って、
横に引っ張るようにした細やかな手の動き。
 
IMG_8263.jpg

まったく違う、二つの編み方が出来上がった。
糸の太さでも、質でもまた雰囲気が変わるそうだ。
「 やっぱり細い糸の方が、きれいだけどね。」とエルザおばさん。

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帰り間際に、こんな話になった。
「 この村は、よそと比べてすっかり立ち遅れてしまったわ。
 人が少なくなればなるほど、村人たちは協力するどころか、
 お互いに冷たくなっていってしまった。」

機織機を探しにきたはずが、
いつしか手芸を訪ねる旅となった。
この活気を失った村に、
まだ明かりは灯っている。
ただその火を絶やさないようにしないといけない。

IMG_8289.jpg

手仕事の村アーラパタク。
もしかしたら、
女性の手のチカラで
何かを変えていけるかもしれない。

IMG_8291.jpg



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*アーラパタクの女性の手の技は、
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comments(6)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2010-01-19_08:29|page top

アーラパタクに刺しゅうを訪ねて(前)

うっすらと、雪の白が町をつつんだ日曜日。
町のはずれでヒッチハイクをはじめた。

思ったよりもはやく、車が止まった。
目指すはアーラパタク。
どこかに機織機があるという話を聞いての、
あまり当てのない旅。

はだかの木々の合間から見られるまぶしい白に、
目をほそめる。
珍しくくっきりと鮮やかな青空のしたで、
冷たい風が吹いている。

「 途中のエルーパタクで、湧き水をくむから
止まってもいいかい?」と運転席から話しかけるおじさん。
車を降りると、待ち構えていたように
やってくるジプシーの子どもたち。
低く枯れたような声で、
ルーマニア語で物乞いの言葉を投げかける。

IMG_7926.jpg

車はその次の村、アーラパタクで止まる。
少しばかりのお金を差し出したが、
ご主人さまは笑顔で首をふった。

この付近でもっとも荒廃した村のひとつ、
アーラパタクは半数以上がジプシー住人といわれる。
一人暮らしの老人が、不安で夜も眠れない村。
一週間で、なんと10件もの強盗があったという。

知人のゾルティおじさんも、その一人。
家のすべてを売り払って、老人ホームへ引っ越した。
おじさんが声をかけておいてくれた隣人が、
機織機を持っているというので
こうしてやってきたのだが・・。

肝心のお隣さんの家も知らなければ、
名前すら分からない。
昼間は、穏やかな小川沿いに
おじさんの家があった。

IMG_7933.jpg

おじさんのお隣さんを呼んで聞いてみる。
機織機という単語さえ知らない、
ダンナのたどたどしいルーマニア語を耳にしながら、
半分もうあきらめ始めた。

親切にもルーマニア人のおじさんは、
ご近所でそれらしき人のところへ案内してくれる。
家からご主人、続いて奥さまが出てきた。
「 機織機はありますか?」と聞いても、
首をかしげる。
「 それなら、何か手芸でもいいのですが。」
途中でハンガリー人ということが分かって、
急にハンガリー語に切り替わる。

いきなり他人が訪ねてきて、
こんな風に聞いても困惑するのも無理はない。
「 少しなら、うちにもあるけど・・。」と
おばさんが門を開けてくれた。

中に入ってみて、驚いた。
少しどころか、ドアも壁も、
ソファーの上も赤、赤、赤・・・。
すべてが赤い刺しゅうで飾られた空間だった。

IMG_7947.jpg

小さな棚の、小ビンの下にも
赤い文様が渦を巻いている。
キリストの教えの書かれたタペストリーも、
すべてがクロスステッチ。

IMG_7949.jpg

さらに奥の部屋へと案内してくれるおばさん。
織物、レース、刺しゅう・・・
あらゆる手仕事を広げて見せてくれる。

「 うちの子供たちはね、
 町に住んでいるんだけど、まったくこんなものに興味ないのよ。
 私が死んだ後は、教会に寄付しようかと思っているの。」

IMG_7986.jpg

「 これはね、私が学生の頃に作ったエプロンよ。」
女性らしさがぎゅっと凝縮されたような小物が、エプロン。
この白いエプロンをしめたら、
少女のころのような初々しさが取り戻せそう。

IMG_7982.jpg

「 エテルカ先生が、私たちに手芸を教えてくれたのよ。
 授業のときに、刺しゅうの図案を写すように言われて・・。
 ほら、まだ取ってあったわ。」

「カエルの目」と呼ばれるモチーフ。
キリスト教以前の古い信仰のあとが、
こうしたフォークモチーフの中に見られるという。

IMG_7997.jpg

こちらが、そのモチーフを作品にした
クッションカバー。
花嫁道具の必需品であり、
飾り用のベッドの上に重ねて置かれたことから、
もともと刺しゅう部分は端にきていた。

IMG_8001.jpg

アーラパタクの文様の中には、
鳥や鹿なども多く見られる。
ここで見られるのは、
プロテスタント教のしるしとされるペリカン。
母鳥がヒナに口から食べ物を与える姿が、
神と信者の関係を物語るとされるから。

IMG_7956.jpg

「 他にも、手芸をする人を探しているのですが。」というと、
まだ村には作り手がいるらしい。
ノートに名前を書きとめて、お暇した。

まだ氷ののこる小川では、
ジプシーの村人が馬車で桶を洗っている。

 IMG_8027.jpg

ハンガリー人が通う、プロテスタント教会。

IMG_8030.jpg

その隣に立っている、
古いお屋敷にはいくつかのジプシー世帯が住んでいるようだ。
かつてはルーマニア人の貴族が住んでいたのが、
今ではほとんど窓ガラスもついていないほどに
荒廃している。
小さな洗濯物が、風で揺れていた。

IMG_8035.jpg

手芸の伝統がすでに途絶えたと思っていた村、アーラパタク。
これからどんな手の文化に出会えるかと、
胸が高鳴った。



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comments(2)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2010-01-18_18:25|page top

彼と彼女のこと

彼女は、いつも少年みたいなしぐさをして、
子猫みたいに人になつく少女だった。

彼は、壊れそうなこころの神経質なひとだった。

指揮者の彼と
美大生になる彼女は、
クルージ・ナポカの町で出会った。
いつしか、彼らはひとつ屋根のしたで
暮らしはじめた。

「 あの人は、頭がおかしい。」と
周りは彼女の耳にささやいた。
言葉はそれでも、彼女の耳をすりぬけて
空気のなかに消えてしまう。
気がつくと周りから
だんだんと人が去っていった。

私は、彼らのところへ足を運んだ。
バスルームで
美容師さんごっこをしたり、
近所の子どもたちを中に呼んで、
部屋の中で花火を見たこともあった。
フォークダンスのクラブに行ったこともあった。

お互いに寄りかかるようにして、
ひっそりと暮らしていたふたり。
ふいに、彼らの姿が消えた。

日本で大学に通う私に、
その知らせを運んできたのは友人だった。
「 日本人男性と女性が、
ドナウ川に打ち上げられた。」
新聞記事にそうあった。

それから半年後、
私はウィーンにいた。
町のはずれの、澱んだ色の寂しげな川にむかって
小さな花束を投げた。
早い流れが、あっという間に
とおくへ運んで見えなくなった。

彼と彼女との記憶とは、
まったく結びつかない場所で
しずかに目をふせた。

今から、8年前のこと。
彼と彼女の死を悼んで・・・。


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comments(2)|trackback(0)|その他|2010-01-16_08:32|page top

ジプシーの彼女

こんなに空気がなまあたたかく感じる晩は、
生まれてはじめて
湖のほとりに野宿した時のことを想い出す。

ハンガリーの留学時代、
急に思い立ってバラトン湖に出かけ、
うす暗い闇のなかで
出会った水面。
そこには、まだ生まれたての月が
光りかがやいていた。

家からもってきた毛布に
包まって、芝生に横たわる。
私を真ん中にして、
片側には、今のダンナ。
もう片側には、今は亡き彼女。

彼女は、
まるでインドの王女さまみたいだった。
黒く輝く瞳に、
甘くとけるような笑顔を浮かべていた。

ふと思いついて汽車にのって、野宿なんて
今やもうできない。
そして、いっしょに行こうと誘う彼女も
もういない。

生あたたかい風がほほをなぞって、
まぶたに黄色い光を感じ、
目覚めた朝。
そして、水の気配・・・。

目の前には、
終わりのない湖があった。



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comments(4)|trackback(0)|その他|2010-01-15_10:27|page top

日没後の儀式

午後6時すぎ。
町の中でも一番高いアパートの14階。
友人宅の窓からは
毎晩、カラスの群れが見られる。

トランシルヴァニアの冬の風物詩といえば、
このカラス。
夕暮れ時になるとものすごい数となって、
けたたましい声をあげて
飛びまわる。

ちょうどそのとき、
夜のショウが始まった。
そらが真っ暗につぶれるように
無数の鳥が舞っている。
しばらく、群青色をひっかきまわして、
もとの場所に戻ってきた。ふたたび静けさがもどる。

「 もうしばらくしたら、また始まるわ。
 これを何度も繰り返すのよ。
 きっと、ねる前の体操かなんかじゃないかしら。」

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はじめはひっそりと、
建物の屋上で様子をうかがうようにして
合図を待っている。

ICIRIPICIRI27 280

不意に、何羽かが
空めがけて飛び立つと、
いっせいに他の仲間たちもあとに続いた。

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暗い闇に包まれるまえに、
群青色のそらを染める無数の黒い影。

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comments(0)|trackback(0)|自然、動物|2010-01-13_00:11|page top

1月の小春日和

いつになく
太陽のひかりが、あたたかい。

いつもの重いコートはぬぎさって、
こころも体も軽くなった。

雪がとけて、
通りのわきの水路に
たえまなく水が滴り落ちる。
その音をききながら、
ふと口ずさんだ
ハンガリーの古い歌。

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ふと、思いついた。
これを私の言葉に置きかえてみよう。

「 春風が、水をよぶ。
 花よ、花よ。
 鳥もみんな、相手を選ぶ。
 花よ、花よ。

 さぁ、私はだれを選ぼう。
 花よ、花よ。
 あなたは私、私はあなた。
 花よ、花よ。」

二つの言葉でうたう、春の歌。
地上数センチのところで浮いているかのように
足取りも軽く、
雪どけの村を歩いた。

ICIRIPICIRI27 165

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ハンガリー民謡が見つからなかったので、
とある有名グループのヴァージョン。



Tavaszi szel vizet araszt,
viragom viragom.

Minden madar tarsat valaszt,
viragom viragom.

Hat en immar kit valasszak,
viragom viragom.

Te engemet es te engemet,
viragom viragom.

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comments(2)|trackback(0)|自然、動物|2010-01-11_23:00|page top

イェッド村の別れ

ジプシーの髪結いの儀式のあと
カティおばさんの家に戻ると、もう深夜2時。

ベッドが足りないので、
私はカティおばさんの隣へ。
「 ほら、言ったじゃない。よそへ行くことなんてなかったのに。
 私たち、いっしょでも十分でしょ。」
同じ布団をかけて、
微笑むカティおばさん。

半年前に知り合ったのが嘘のよう。
まるで親戚のおばさんのようだ。

その日は、7時前に牧場見学の予定なので
6時半に目覚まし時計をセットしておいた。

「 ほら、もう起きないと!」と張りのある声で、
目ざましコールがかかる。
時計は、まだ6時。
おしゃべり相手がほしかったのか、
私だけ早く起こされてしまった。

真っ暗闇の中、
牧場で乳絞りを見学したあと、
ムンドラのところへ。
「 ねえ、髪を結ってもらいたいんだけど。」
「 もちろんよ。すぐに行くわ。」

蛍光ピンクとオレンジのリボンを差し出した。
ムンドラの慣れた手つきが半分に髪を分けて、
耳のよこ辺りから編みはじめ、
あごのあたりまできたら
リボンを織りまぜてゆく。
ぎゅっときつく締められた髪の毛で、
顔のヒフが引っ張られる。

黒い髪と蛍光色のリボンが絡みあい、
だんだん細くなってゆくと、
その先を小さく結ぶ。

「 あなたの髪は誰がやっているの?」とてるこさんの問いに、
「 これは私が自分でやるのよ。」と答え、
リボンの先が編みはじめの部分に差し込まれる。

昨夜は母親に結ってもらったあの花嫁は、
これからは自分の手で髪を結いあげる。

髪を結うという行為、
その神聖さを保ち続けるジプシー女性たち・・。

すべての髪が丸く収まると、
今度は女性のしるしであるスカーフが巻かれる。
このスカーフは、ふだんは取ることはない。
女性の美の象徴である髪は、
そのカラフルなスカーフの中に
閉じこめられるのだ。

背筋に一本、何かが通ったような気分。
気持ちが引き締まる。

髪を結ってくれたムンドラとも、
もうすぐお別れ。
「 ご主人が、子どもさんを可愛がらなかったのは、
 本当なの?」
「 いいえ、彼はシャイなのよ。
 でも、お母さんはそれが分からないの。
 彼は言ったわ。私を迎えにくると。」
彼女はきっぱりとした口調で、そう言った。

「 あなたがどこにいようが、きっと探すわ。
 幸せになってね。」
見ると、彼女の瞳はすこし潤んでいるようだった。

表に出て、お別れの挨拶。
てるこさんは、表にあったホウキをもって、
「 ねえ、カティ。こうやって、またがってみて。
 カティなら、きっと飛べるはず。」

DSC06728.jpg

カティおばさんが聞いた。
「 今度はいつ来るの?」
「 まだ分からないけれど・・。
 7月、8月、9月、10月、12月・・・と、 
 この村はもう5回目よ。
 きっと、また縁があるはず。」

カティおばさんに写真を託された。
亡きご主人さまといっしょの、
セピア色の写真。
「 これを大きく引き伸ばして、
 部屋に飾りたいの。」
きっと今度は、写真を手に
またイェッドの村を訪れるだろう。

こうして30日、イェッド村をあとにした私たち。
てるこさんたちは、
その後また大晦日を過ごしにイェッド村へ引き返し、
私はブカレスト行きのインターシティ(特急列車)で、
スフントゥ・ゲオルゲへ。

まるで黒い大蛇が乗っているような、
ジプシー・ヘアをお土産に、年越しをした。
2010年のお正月。

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comments(0)|trackback(0)|ジプシー文化|2010-01-11_01:42|page top

End of my journey

2009年10月に製作された、
ファッションブランドMeanのショートムービー
「End of my journey」が
劇場公開されます。

「 ジプシーとは何なのか?」をテーマに、
トランシルヴァニアのウルクー、ヘテ、ニャーラシュパタク、イェッド、
ヴァイダセーントイヴァーン、それから
カルパチア山脈を南下してクレジャニ村まで。

ジプシーを追った一週間の旅が、
フォトグラファー加藤アラタさんのうつくしい映像と
タラフ・ドゥ・ハイドゥークスの音楽で再現。

Meanのファッションをまとったジプシーのモデルたち、
タラフ・ドゥ・ハイドゥークスのメンバーや、
ジプシー村の人々・・。
ヨーロッパの今を生きる、
ジプシーの人たちの息づかいが
より身近に感じられることでしょう。

1月16日(土)に渋谷アップリンクのイベント内にて
開催されます。
どうぞこの機会に、
足をお運びください。

関口義人の「ジプシーを追いかけて」
Vol.21 ─ ルーマニア再訪~トランシルバニアからクレジャニへ



10月のジプシー撮影旅行

ジプシー撮影の旅ーMeanの服とともに

イェッド村での再会ーMeanの服とともに

クレジャニのヴァイオリン弾き(前)

クレジャニのヴァイオリン弾き (後)

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comments(0)|trackback(0)|ジプシー文化|2010-01-10_23:33|page top

ジプシーの髪結いの儀式

深夜11時。
カチカチに凍った白い道を、
おそるおそる歩んで向かうのは、花婿の家。

ちょうど私たちの前で車が止まり、
ジプシーの家族が家の中へと入ってゆく。
私たちも後に続いた。

扉が開かれると、
部屋の中のひかりとあたたかな空気、
騒がしいリズムと、大勢の人のむせ返る熱気とが
一気になだれこんできた。

カティおばさんに言われたとおり、
ジプシー語で祝いの言葉を投げかける。

黒いハットをかぶった、
口ひげのガーボル・ジプシーたちに囲まれた。
ビデオカメラをかかえ、
カメラで写真を連発する東洋人たちに
興味の目がつきささる。
「 Speak English?」
「 イタリアーノ?」
「 エスパニョール?」
「 ロムネシュティ?」
「 マジャルル?」

せわしそうにお皿にのせた料理を運ぶ、
ジプシー女性たち。
スカートはいつもの花柄だけれど、
いつもよりずっと華やかに着飾っている。

奥の部屋にどうにかしてたどり着き、
すすめられたいすに腰かける。
裸電球がひとつの小さな部屋には、
テーブルが並べられ、
コンクリートのはげかけた壁には
ペルシャじゅうたんがかかっている。

DSC06709.jpg

DSC06706.jpg

見慣れないグレーのペットボトルを、誰かが手渡した。
「 これ、なに?」
「 エネルギー・ドリンクだよ。」
カフェインたっぷりの栄養ドリンクを飲んで、
みんな朝までのパーティに備えるようだ。

隣にいたガーボルが声をかけた。
「 いいかい。ここにいるのは、
ブリバーノシュだよ。ジプシーの長さ。」
グレーの帽子をかぶった、恰幅のいい男だった。

花嫁と花婿を探しに、
また先ほどの玄関口に引き返す。
花嫁婿は別室で控えているから、
まだ出てこないようだ。

小柄のガーボルがやってきて、こういった。
「 俺たちは、ガーボルというジプシーだ。
 一言でジプシーといっても、色々でね・・。
 ほら、見れば分かるだろう?
 口ひげに、もみ上げ、そしてこの帽子だよ。」
どこか愛嬌があって、親しみやすい。
ハンガリー語を流暢にあやつる。

ふと、向こうの部屋がざわつき始めた。
例の帽子のおじさんたちが、
大声で何かを叫んでいる。

花婿のお兄さんが、困ったような顔でやってきた。
「 君たちには悪いんだけどね・・。
 困ったことになったんだ。
 君たちがビデオをまわしたり、カメラに撮るのをよく思わない連中がいるんだ。」
その雰囲気を察して、尋ねた。
「 ・・・では、帰ったほうがいい?」
「 ああ、そのほうがいい。
 少し食べたり、飲んだりしてからでいいよ。」と申し訳なさそうだが、
きっぱりとした口調だった。

ポーズをとるジプシーの女性たちにカメラを向け、
談笑しているてるこさんに事情を説明する。
「 ビデオやカメラなしなら、大丈夫かしら?」

「 こんなお祝いの席で、
 皆さんに不快感を与えたくありません。
 カメラやビデオを置くから、この目で見させてください。
 そして、新郎新婦を祝福させてください。」
花婿のお兄さんに頼むと、
「 ああ、それなら大丈夫だよ。」
と今度は口調も明るくなった。

「 その代わり、そのビデオやカメラをここにしまってくれ。」
たくさんの人のいる中で、
大切な仕事道具を置いていくのは、決心のいること。
けれども、ここで誠意を見せないといけない。
てるこさんたちは承知して、
部屋のたんすのなかにすべての持ち物をおいた。

先ほどのガーボルが来て、こう説明する。
「 俺たち、ジプシーの間では
 こういう儀式を写真に撮ったりしないんだ。
 君たちには君たちだけの習慣があるように、
 こちらにはこちらの習慣がある。」

これからは、しっかり周りの様子に気をつけて、
何か不穏な感じがあったらすぐに出て行かないと。
ただ問題は、彼ら同士の言葉が分からないことだ。

玄関口で、向こう側の様子をうかがうと
まだ口論が続いているようす。
イェッドの女性たちに聞いてみた。
「 ねえ、私たちのこと?」
「 ええ、そうよ。」
と申し訳なさそうに、うなづく。

ダンス音楽が鳴り響いた。
ふり返ると、ビデオ担当のトシさんがジプシーのおばあちゃんと
仲良く頬をよせて踊っている。
音楽がやむと、おばあちゃんに
「 踊りが上手ですね!」とほめる。
「 私はカティのいとこよ。
 会ったら言っておくれ。ギダに会ったってね。」

先ほどの花婿の兄は、てるこさんが気に入った様子。
「 君はうつくしい。嫁にきておくれ。」
と私に愛の言葉を通訳させる。
「 ロマ(ジプシー)?ハーザッシャーグ(結婚)?」とおどけて
手をさしだすのに、キスをするジプシーの男。
本気で連れ去ってしまったらどうしよう、
とはらはらする。

大物たちが集まる、向こうの部屋では
髪結いの儀式がそろそろ始まる頃だ。
たくさんの人の後ろで、
向こうはほとんど見えない。

ジプシー男性たちの大合唱が聞こえてきた。
ハンガリー語だ、と思った。
酒に酔い、気持ちよさそうに歌う大きなハットの男性たち。
ただ部屋が仕切られているというだけではない。
ジプシーとガッジョ(よそ者)の
境界線をしっかりと肌で感じる。

やがて花嫁の長い髪を、
お母さんとお姑さんが二つに編んでいく儀式がはじまったようだ。
それから、後ろでひとつにまとめ上げて
スカーフを結ぶ。
結婚式の深夜0時に、
少女が成人の女性に生まれ変わるのだ。

「 ほら、花嫁のお母さんが泣いているよ。」
イェッドのジプシー女性が耳にささやきかける。
壁にそっと顔を押しつけて背伸びをすると、
まだ若い母親が目をふせ、
うつくしい娘の髪を結っていた。

「 幸せで、泣いているんだよ。」と今度は
花婿の弟が話す。

中では、参列者が携帯電話でその様子を撮っている。
「 彼らは、撮ってもいいのね。」と苦笑する
てるこさん。

それから、花嫁ダンスがはじまった。
カティおばさんが言っていたように、
お金をしっかりとポケットに入れて順番をまつ。

隣に立っていたのは、花嫁の父親ではなく
あのジプシーの親分。
「 花嫁さんと、踊ってもいいでしょうか?」とたずねると、
自分の頬を指差す。
挨拶のキスだ、ととっさに判断して、
おじさんの頬にキスをした。
周りがわっと、盛り上がった。

赤いエプロンを見につけた
ういういしい若奥さま。
そのポケットにお札をいれる。
ダンスの音楽が鳴って、
花嫁さんのかわいらしい手をとって、
くるくるとコマのように回す。
一分ほどで終了。

ケーキののったお皿を渡すおかみさんが、
「 まあ、キスなんかして!」と怒っているようす。

誰かが言った。
「 ジプシーの男にキスをしたら、いけないんだよ。」
「 ええ、そんなこと知らなかった!」と叫ぶ。
 
そう話している間にも、てるこさんは
ジプシーの親分の前に深々と土下座をして、
もうキスをしてしまった!
まわりが、先ほどより大きくドッとわきあがった。

慌ててその場を去ると、
いすに腰掛けて、チョコレートケーキをほおばる。
舌がしびれるほどの、濃厚な甘さが口いっぱいに広がる。
ジプシーの喜怒哀楽の激しさ、
古臭いダンス音楽、
キッチュな洋服のセンス・・・すべてがミックスされて、
その味といっしょに溶け込んだ。

隣に座っていたジプシー女性に尋ねる。
「 花嫁と花婿はどんなふうに知り合ったの?」
「 どこかの噂で、花嫁の美しいことを聞いて、
 そこの村に会いに行ったそうよ。
 会って二回目で、そのまま家に連れ去ったのよ。」

あまりにも突然で、衝動的な結婚・・・。
ジプシーの結婚は、よく「駆け落ち」とか、
「花嫁を盗む」とかいう言葉で表現される。

相手のことをよく知らずに、結婚相手を選ぶ。
その場合、もちろん女性の意思よりも
男性の意思が尊重される。
もしも、少女の両親が気に入らない相手ならば
娘を連れ戻すこともあるそう。

一週間ほどで、
花嫁の両親がやってきて、
髪結いの儀式が行われ、正式に夫婦とされる。
それから、法的に結婚届を出すのは、
ずっと後になることが多いといわれる。

「 私の場合は、4年付き合ったんだけどね。
 そこにいるのが、主人よ。」
ダンスがはじまり、
ものすごいステップでジプシーダンスを踊る人たち。

身支度をはじめると、
例のジプシーのボスが缶ビールを手渡して言った。
「 俺たちは、同じ人間だ。
 ハンガリー人だろうが、ルーマニア人であろうが、ロマ(ジプシー)であろうが・・・、
 日本人であろうがね。
 大切なのは、ここなんだ。」
と自分の胸を指差した。
先ほどの口論の口火をきった張本人が、
今はこうして私たちに真心を伝えようとしている。

理解しづらいしきたりや常識の違い。
私たちが枠の外側にあるという事実は、
依然として変わらない。
けれども、
そのこころをふとその枠の隙間から
のぞき見したような夜だった。




トランシルヴァニアをあなたの心に。。。
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comments(12)|trackback(0)|ジプシー文化|2010-01-08_15:04|page top

ジプシー村のカティおばさん

「 大丈夫よ。私たち、言葉がなくても
 なんとか通じ合えるわ。」と次の日、カティおばさんが笑顔で言った。

てるこさんの話によると、
あれから皆で酒盛りがはじまって、
カティおばさんにお化粧をほどこしたら、
ご機嫌になって踊りはじめたそう。

「 カティの踊りがもう止まらなくって。
 コーヒーをいれながらも、体を揺らしていたくらい。」

ユーモア好きだけれど、
いつも規律正しいカティおばさんからは
想像できずにびっくりした。

カティおばさんの穏やかな表情が、
その人生を物語っている。
「 私は35年間主人に連れそって、
 まったく問題もなく。幸せだったわ。
 それは立派な人で、ガス修理屋としてきちんと働いていたのよ。」

「 でもね、たった一つ後悔したのは、
 籍を入れておかなかったこと。
 だから、私は年金がもらえないの。」

去年の10月に村に訪れたときには、
カティおばさんはハンガリーに出稼ぎに行っていた。
ニンジンの収穫をするために、この村からも何人ものジプシー女性が
かりだされて行ったそう。

「 カティは、ご主人さまがなくなってから
結婚をしようと思ったことはなかったの?」
てるこさんが尋ねる言葉を、ハンガリー語に置きかえる。

「 ええ、一度もないわ。
 もししたいと思ったら、100回はできただろうけどね。」
冗談かと見たら、真剣そのもののまなざし。

カティおばさんは
52歳でご主人さまをなくしてから、9年たつ。

「 面倒なのよ。
 主人がいたら、ああしなさい、こうしなさいと言われるし。
 もしかしたら、お酒を飲む人かもしれない。
 一人で生活するのは、もちろん寂しいけどね。」

今度は大声なって、
てるこさんに向かって言う。
「 あんた、ここでいいロマ(ジプシー男)を探していきなさい。」
 私が見つけてあげるから。トシにもね。」
とカメラマンにもうなづく。

「 いい?私に日本からいい男を連れてくるのよ。
 若くて、かっこいいのがいいわ。」
冗談をいって大笑いしたあと、
ふと真面目な顔でこう言った。
「 ねえ、セイコ。
 あなたにも一度も言ったことなかったけれど、
 私は、心に辛いものを抱えているのよ。」


カティおばさんの言葉はこうだった。
おばさんの長男のピシュタが、奥さんといっしょにスロヴァキアへ出稼ぎにいった。
やがてピシュタは奥さんと別れてしまい、
それ以来、一人息子のチャビはカティおばさんがみることとなった。

やがて17歳になるまで面倒をみたあと、
チャビはスロヴァキアにくらす母のもとへと旅立つ。
すでにご主人さんを亡くしていたカティおばさんには、
彼を学校へ行かせることもできなかったから。

チャビは去年の2月に、
久しぶりに父親に会いに行った。
ほかの兄弟といっしょにハンガリーで働いていたピシュタは、
息子にこう約束した。
次の日も同じ場所で会おうと。
それから、ピシュタはその場所に現れず、
以来ずっと行方が消えているという。

「 捜索願も出したわ。
 それでも、何の音沙汰もないの。」とため息をつく。

「 おかしいのはね、
 チャビがそれからというもの、
 まったく連絡を取ろうとしないということ。
 それまでは、ことあるごとに電話をくれていたのに。
 もしかして、息子について何か知っているのかもしれない・・・。」

「 元気だったら、それでいいのよ。
 誰かいい人を見つけて、暮らしているのなら。
 私だって、それならそっとしておいてあげたい。」
とカティおばさんのいつもの笑顔が、
思い悩む母親の顔になっていた。

「 さあ、もう出かける時間よ。
行きなさい。」とカティおばさん。
時計はもう、11時を指していた。

ジプシーの結婚式である、髪結いの儀式に呼ばれた私たちは、
カティおばさんの不思議な話に心をひかれながらも
雪の凍った夜道へとくりだした。



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*カティおばさんについての記事は
 コチラ
 

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comments(2)|trackback(0)|ジプシー文化|2010-01-07_14:42|page top

たかのてるこさんとジプシーの旅

彼女との出会いは、電車の中。
2009年の終わりにやってきた、
台風のようだった。

世界の35カ国をめぐり、
各地を生きる人たちと心の交流をする。
それが、彼女の旅のやり方。
「 英語が上手なわけでも、
旅慣れているわけでもないけれど。
こんな私でもできる、旅の素晴らしさを伝えたい。」
と瞳をかがかせて語る。

ブカレスト-トゥルグ・ムレシュ間を結ぶインターシティ。
電車に揺られて、
ジプシーのことを熱く語る彼女の話は、止まることを知らない。
「 私がジプシーに惹かれるのは、
 きっと私自身が一人立ちしたいと思っているから。
 生きていくことへの強さ、たくましさを彼らから学びたい。」

今回は、通訳としての仕事。 
ロマ語のほかに、ハンガリー語を話す
トゥルグ・ムレシュ周辺のジプシー村へ向かう。
もうそろそろ・・と時計を見たら、
まだ二時間しかたっていなかった。

やがて、6時間の長いたびを経て
トゥルグ・ムレシュの駅に到着した。

「 まるで、妖精の国にきたよう!」と感動を声にする
てるこさん。
アット・ホームなペンションは、
10月にMeanの撮影旅行で泊まった
想い出深いところ。

一夜明けて、
イェッド村へ出発した。
雪がふぶいて、真っ白になった道を
スーツケースがゴロゴロと転がっていく。
「 テー・バフタロー!」とジプシー語の挨拶をしながら笑顔をふりまく
てるこさん。
カメラ、ビデオでの撮影がはじまった。

DSC06466.jpg

DSC06472.jpg

DSC06469.jpg

うすでのコットンスカートをはいた女の子。
「 寒くないの?」と聞くと
「 寒いけど、大丈夫よ。」という返事。

やがて、ピンク色の壁が目印の
カティおばさんの家が見えてきた。
門のところでおばさんの名を呼ぶと、
ほっかかむりをした笑顔のカティおばさん。
「 待っていたわよ。さあ、中へ。」と
ボリュームたっぷりの声を張り上げる。

「 優しい魔女みたいだね。」
とてるこさん。

夏にはキッチンだった場所に、
ハデハデのクリスマスツリーがたっている。
色とりどりのボンボン飾りに、
赤いリボン、丸いオーナメント・・・。
「 いつもより、ずっとみすぼらしいんだけどね。
 今年はちゃんと準備できなかったから。」

DSC06727.jpg

カティおばさんがコーヒーを入れると、
お友達のおばさんがやってきた。
てるこさんの迫力たっぷりのボディランゲージで
皆は大爆笑。
カティおばさんは、すぐに彼女が気に入った様子。
「 テリー、あなたにロマ(ジプシー男)を探してやるから。
 この村に残るのよ。」

今度は近所のリンコおばさんの家へ。
ムンドラが、アロハシャツ姿で登場。
「 見てるだけで、寒くなるわ。」と身震いをする
てるこさん。

DSC06478.jpg

リンコさんは、ご主人さまに先立たれて
4人の娘さんと2人の息子さんを育てている。
43歳とまだ若い。

DSC06480.jpg

長女のムンドラは20歳で、
結婚していたのが、ご主人が気に入らず
彼女が家に連れ戻したという。
「 この前、クリスマスのときに彼が会いにきたんだけど、
 息子を見て、抱きもしない、キスもしようとしない。
 だから怒って、家にも入れなかったわ。」と
いつも穏やかなリンコさんが、声を荒くする。
ムンドラは、隣でしずかにそれを聞いていた。


トランシルヴァニアの夜は、はやくやってくる。
カティおばさんとてるこさんのマシンガン・トークですっかり疲れ果て、
その日は友人宅で就寝。

イェッド村にくるのは、
7月にはじめて訪れて以来もう5度目。
この村と人々との
不思議な縁を感じずにいられなかった。




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