トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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トランシルヴァニアへの扉  - Erdely kapuja-のRSSフィード

ブログ翻訳

森のふもとの小さな村-ヘルマーニ

ミルク色のふかい霧が
辺りをすっぽりと覆っている中、
バスを下車した。
朝9時前なのに、
太陽の光りは十分に届いてこない。

大バツォン村から小バツォン村までの、
小さな田舎道をゆく。
朝露にしっとりと濡れて輝く、原っぱ。
よく見ると、
細やかな真珠のように
水滴がくもの巣を飾り立てている。

Kisbacon 083

徐々に霧が晴れてゆき、
村の赤い屋根瓦や
遠くの畑などが少しずつ浮かび上がってくる。
神秘的な朝の景色に、
心が洗われるようだ。

太陽の光りを背に受けて、また出発。

Kisbacon 084

黄色と紫の野の花が、
まだら模様に緑のわき道を染めている。

Kisbacon 100


上り坂をあがりきったところで、
ふもとに村が姿を現した。
野原の上に腰を下ろして、
食べ物を広げる。
新鮮な朝の風景をおかずに、
皆で朝ごはん。

Kisbacon 119

今年はあいつづく雨のせいで、
麦の刈り取りが遅れているようだ。

Kisbacon 106

ひとふさ折って、
丁寧に皮をはがしてから、
一粒を口にいれる。
粉っぽいが、ほんのりと甘くて、
香ばしい麦の味。

Kisbacon 111

小バツォン村に着いた。
すでに太陽は高く上って、
背中をじりじりと照りつけている。

普段は小川の流れる音がさわやかな村も、
連日の雨で水量が増し、
川岸にはたくさんのゴミが流れついていた。

農業、畜産で生計を立てる村の人たちは、
水の氾濫が心配でならない様子。

Kisbacon 128

ダンナの学生時代の友人を訪ねる。
なんの連絡もなしに
ひょっこりと訪ねても、
自然なおもてなししてくれるのが凄いところ。
庭のテーブルの上になっている、
サワーチェリーを器いっぱいに盛ってくれた。

ふだん出稼ぎに行っている父親に代わって、
サビは町の高校で美術教師をしながら、
週末には畑仕事をしに村に帰る。
今のルーマニアで、こんな風に
村の生活を受け入れる若者はなかなか珍しい。

Kisbacon 194

ちょうど帰省中の姪っ子さんたちとも、
すぐに仲良しに。
子どもたちの手にかかったら最後、
大切な農耕器具も遊び道具になってしまう。

Kisbacon 330

「 先の村に行くのなら、
湧き水を汲んでいくといいよ。
この辺りでも最高の水なんだ。」
と勧められたのは、村からずいぶんと離れた水汲み場。

ここ「森の地方」には、
どこの村にも湧き水が出るといっても過言ではない。
ミネラルたっぷりの炭酸水。

森の中の特別な水汲み場は、
一見するとただの池。
それでも目を凝らすと、
底の方からゆっくりと空気の泡が浮かんでくる。
昔はこの炭酸水の池で、
水浴びをしていたという。

ためしに腕をつけてみると、
水の冷たさが骨にまで染みわたるようだ。
しばらくつけておいて、
すっと水から上げる。
皮膚がなんともいえず、心地よい。
冷たさのせいではなくて、
水の成分のせいなのだろうか。

「 冬のマイナス20度もあるときに、
 ここで服を脱いで入る人もいるんだぜ。」
それを聞いただけでも、
鳥肌が立ちそうだ。

Kisbacon 203

ここからは再び徒歩。
隣のヘルマーニは、この地方の最後の村。
その奥には、もう山があるだけである。

ヘルマーニはかつて陶芸が盛んで、
屋根瓦の工場もあったという。
奥まった村であるから骨董業者に目をつけられ、
価値がある古いものは
もうほとんど残っていないという。

Kisbacon 213

土の道がくねくねと曲がりくねり、
細く長く村を貫いている。
野生の犬たちが道を行きかっている。

Kisbacon 226

通りかかりのおじさんに、
ダンナが陶芸家について尋ねている。
町で生活をしながら、
故郷の村にたびたび帰るというおじさんは、
道案内を請け負ってくれた。

どうやら、野犬だと思っていたのはここの犬のようだ。
「 家に入れておいても、
 こんな風にすぐに塀を乗り越えてしまうんだ。」
2m近くはある塀を軽々と乗り越えてしまう。

Kisbacon 237

ひっそりしたこの村には、
あまり若い人がいないようだ。
いくら丈夫で立派な家だとしても、
主人がいなくては家は朽ちてしまう。

Kisbacon 232

門のところに立っていたおじいさん。
「 おいくつですか?」
「 87だよ。」
背筋がピンと張り、しっかりとした声が返ってきた。

hermany2.jpg

村の中心のカルバン派教会。
セーケイの門もどっしりと構えている。

村で見かける若い人や子どもは、
ほとんどがよそから村のはずれに移住してきた
ジプシーたち。
古い住民はハンガリー語を話すが、
彼らはルーマニア語しか話さない。

「 彼らは信心深いようで、
 今のところ問題は起こっていないよ。」

hermany1.jpg

最後の陶芸職人の家は、すでに跡形もなく
何も残っていなかった。

村には、水車小屋が二つもあるという。
今は改装中という部屋の中には、
無造作に道具類があちこちに置かれていた。
珍しい分銅のはかり。

Kisbacon 270

「 石臼は動くんですか?」と尋ねると、
「 もちろんだよ。」と小屋の脇の水路のゲートを上げた。
勢いよくベルト状のひもがすべり出すと、
上から白い粉が吹き出てきた。

Kisbacon 275

屋根裏部屋には、
巨大な歯車が回り続けている。
地の利を生かした、
祖先の知恵の結晶だ。

Kisbacon 284

大きな納屋には、こんなプレートが見られる。
「 神様の助けを借りて、バロー・イムレと
 妻ミクローシュ・エルジェーベトが建設。」
手を取り合う姿が美しい。

Kisbacon 294

「 うちの母さんにも会っていくかい?」
ずっと一緒について来てくれたおじさんが言った。

ブドウのつたが茂った木造の古い家。
そこに85歳になる母親がひとり、
暮らしているという。

Kisbacon 299

まだらに塗られた青い壁。
黒ずんだ古い家具に、刺しゅうやレースなどの
古い布たちが横たわる空間。
白熱灯のオレンジ色の光り・・。

Kisbacon 310

すべてがこの住人にふさわしく、
深みを増すように静かに年を重ねている。
やさしく微笑むおばあさんは、
それだけで十分にその生涯を語っているようだ。

Kisbacon 305

通りには、
ベンチで語り合うお年寄りと
飼い犬の群れが見られる小さな村、ヘルマーニ。
さあ、ひと雨くるまえに帰ろう。

Kisbacon 316






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comments(2)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2010-07-28_14:23|page top

カロタセグ地方の手仕事を訪ねて(後)

雨が去って、
ひんやりと涼しい空気が肌を撫でてゆく。
もう夕方頃だろうか。

行き先は決まっていた。
歩きかけて、立ち止まる。
石造りのどっしりとした二階建てが並ぶ村。
小さな体にクワをかかえて
向こうからやってきたのは、
紛れもないカティおばあちゃんの姿。

SzekesKalotaszeg 716

「 ちょうど、お宅に伺おうと思っていたんですよ。」
83歳になるおばあちゃんは、
ひと仕事した後で、疲れているようだ。
「 どうぞ、おいでなさい。」

SzekesKalotaszeg 720

ちょうど今の時刻は、村人たちが
畑から帰ってくるころ。
夏は、通りに人々が群がって
のどかにおしゃべりしている姿も見られる。

SzekesKalotaszeg 723

家に着くと、
おばあちゃんはその道具を置いて、
手を洗い、部屋の中へと案内してくれた。

SzekesKalotaszeg 728

机の上には、
作りかけの刺しゅうが置いてある。
華やかな輝きを放つシルク糸で、
黒いナイロン生地を、
ざっくりざっくりと大きく刺して、
バラの花を作ってゆく。
これは、お土産ものとしてよく売られている
タペストリーになる。

SzekesKalotaszeg 735

ナーダシュ川流域は、
ビーズ刺しゅうとして名前が知られている。
眼鏡をかけると、年齢を感じさせない針さばきで
縫いすすめるおばあちゃん。
畑仕事や家事の合間に、
あたかも自分自身を取り戻すかのように
豊かな時間が流れてゆく。

SzekesKalotaszeg 739

「 お母さんはどうしているの?」
以前いっしょに来た母親のことも、
ちゃんと覚えている。

日本へ帰ったことを話すと、
「 私は飛行機なんて無理だわ。」と、
澄んだ青い瞳が微笑んだ。

SzekesKalotaszeg 767

その薄暗い部屋に小さな明かりが灯ると、
赤い色彩が目に飛びこんでくる。
宝の箱からは、
次々と魔法のように美しい衣装を取り出すおばあちゃん。
「 私の叔母さんには子どもがなかったから、
 たくさんの衣装を受け継いだのよ。」

SzekesKalotaszeg 780

まさに衣装こそが財産。
艶やかな花模様と色の洪水、ビーズの煌きに包まれると、
不思議と気分も高揚としてくる。

SzekesKalotaszeg 791

未亡人であるカティおばちゃんは、
すでに黒しか身につけない。
それでも、その豪華な衣装を引っ張り出すと、
「 ほらね、これも綺麗でしょう。」と
誇らしげに見せる。

SzekesKalotaszeg 808

色とりどりのチロリアンテープに、
びっしりとビーズが散りばめられたブイカ。

「 あなた、これを着てみなさい。」
ずっしりと重いその上着を、
友人のSちゃんに羽織らせる。

SzekesKalotaszeg 836

袖を通してみたら、きっと分かる。
その作り手のひと針、ひと針の重みが。
そこにはビーズやリボン、フェルトの物質だけではなく、
カロタセグの女性のこころが縫いこまれているはず。

カティおばあちゃんも、
孫の晴れ姿を見るように嬉しそうだ。

SzekesKalotaszeg 841

カロタセグの遺産を守りつづける、やさしい番人。
この先どれだけの間、
この衣装たちは、
受け継がれていくのだろう。

SzekesKalotaszeg 853



次の日は、朝から雨。

いつもの通りに駅からは歩きなのだが、
今回はたくさんの荷物を抱え、
途中でいよいよ大降りになってきた。

メーラの中心には、
透かし彫りの美しい家が建っている。
カロタセグの美しい旋律が今にも、
耳をついてきそうなダンスのモチーフ。

SzekesKalotaszeg 954

村に来ると、決まって訪ねる家がある。
一人暮らしのキーシューおばあちゃんは、
刺しゅうで足を駄目にしたといわれる。

初めてその戸を叩いたときには、
ちょうど退院した後で、
大きく腫れあがった脚をひきずり、
家へ招いてくれた。

あれから一年、
体は随分とよくなり、また手芸も再開させたようだ。
いつものように、
水玉カップにコーヒーを入れて、
もてなしてくれた。

SzekesKalotaszeg 974

メッレヴァローと呼ばれるベストは、
余すところがないほどに、
びっしりと総刺しゅうされる。
優に2ヶ月はかかるという大作。

SzekesKalotaszeg 987

若い女性は赤、
こちらは年配の女性用なので
深い色合いとなっている。
やわらかな布が、刺しゅうで固くなるほど。
ウール糸の上にはさらに、
シルク糸で輝きをさらに加える。

SzekesKalotaszeg 976

もう他に作る人がいないといわれる、
男性シャツの刺しゅう。
白い生地に、白の細やかな刺しゅうは、
よく目を凝らしてみないと、
その美しさに気がつかないほど。

色が限られた男性の衣装ほど数が少なく、
そして驚くほどの技術や時間が費やされている。

SzekesKalotaszeg 968

「 これはどうなっているの?」
湧き上がる疑問をこらえられずに、
おばあさんに次々と質問を投げかけると、
なだめるように
「 よく見ていなさい。」
と朗らかな声が飛んでくる。

SzekesKalotaszeg 993

よく日に焼けた
ふくよかな指先が、
白い布の上を泳ぐように、
細やかな動きを見せる。

小さな糸の繊維を一寸の狂いもなくすくい、
細やかな穴を開けてから、糸でふさぐ。
神業の針仕事に、大きくため息がもれる。

ふと手を止めて、こう言った。
「 いい。手芸にはヒミツがあるの。
 それを知らなかったら、
 いくら見ても、縫ってみても駄目なのよ。」

その指と目と精神で、
おそらく数え切れないほどの布に魔法を施し、
その謎を探りえたに違いない。
 
SzekesKalotaszeg 1022

手芸を愛するものにとって、
彼女は魔法使いのおばあさんのよう。
色や煌びやかな輝きにも
決して引けをとらない、
自然な陰影だけで魅せる刺しゅう。

SzekesKalotaszeg 965

次の目標は決まった。
一日ここにいさせてもらって、
キーシューおばあちゃんのその神業をそばで見、
刺しゅうをしてみよう。

カロタセグの真の遺産は、
美しい文化を守り、腕を磨きつづける
このおばあさんたちなのだ。




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*カロタセグのビーズ刺しゅうについて、
 詳しくはもうひとつのブログにて。
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comments(2)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2010-07-25_23:46|page top

カロタセグ地方の手仕事を訪ねて(前)

いよいよカロタセグでの一日が明けた。
線路のレールのずっと向こうに、
朝もやが立ち昇っている。

SzekesKalotaszeg 500

プラットホームでは、
買い物客か、通勤客か。
のんびりとおしゃべりをしながら、
列車を待つ人でにぎわう。

SzekesKalotaszeg 502

ちょうどこの日は、
フニャドの町で朝市が立つ日。
野菜市に動物市、洋服から日用雑貨まで。
たくさんの買い物客が行きかう。

SzekesKalotaszeg 504

町の中心に位置する、
カルバン派教会へ立ち寄る。

牧師さんから
ずっしりと重たい鍵を預かってはみたが、
右へ左へまわしてもなかなか開かない。
しまいには通行人の助けで、
あっけなく門が開かれた。

まっすぐに天をさす、
とんがり屋根の教会はトランシルヴァニアのシンボルともいえる。
小さな木の板が張り合わされた、
伝統的な技術は今にも残る。

SzekesKalotaszeg 545

聖書の教えを第一として、
それまでの装飾を一切に取り払った。
カトリック教がアカデミックなアートを擁護したのに対し、
トランシルヴァニアのカルバン派では、
土着のフォークアートとの結びつきが見られる。

カロタセグ名物のイーラーショシュ刺しゅうの赤が、
やさしく出迎えてくれる。

SzekesKalotaszeg 530

ルーマニアで少数派のハンガリー人にとって、
教会は大切なアイデンティティでもあった。

19世紀ハプスブルクに対して武器をとった、
ハンガリーの英雄コシュートの、
喪の花輪の下で。

SzekesKalotaszeg 517

天井を仰ぎ見るのも忘れてはならない。
「カセット状の天井」と呼ばれる、
小さな絵がぎっしりと敷きつめられている。
花模様や動物文様、太陽や月、星などのコスモス(宇宙観)が、
見る人を中世の世界へといざなう。

SzekesKalotaszeg 532

刺しゅうのステッチのような幾何学模様のなかに、
黒鳥やライオン、ラクダ・・
これらのエキゾチックなモチーフは、
空の星座を意味するという見方もある。

SzekesKalotaszeg 540

昼には、またもとの村に帰ってきた。
友人の叔母さんマグディさんのご好意で、
車で約6km離れた、イナクテルケに向かった。
人里離れた小さな村。

SzekesKalotaszeg 555

スカートにエプロンの手作りの洋服は、
カロタセグ女性の作業着。

SzekesKalotaszeg 559

カロタセグ地方には、
建設用の石を採掘する工場がいくつもあるという。
そのため、70年、80年代に建てられた
石の民家も数多い。

馬や羊、鳥など
素朴な村らしいモチーフ。
カロタセグの民の「装飾好き」は、
いろいろな所に垣間見ることができる。

SzekesKalotaszeg 568

思わず目がひきつけられらた、
驚くべき門のデザイン。
風車のようなロゼッタ文様は魔よけとして使われ、
チューリップ、ハートは豊穣多産を願うモチーフとされる。
中世にも、女性の生殖器を描いたものが
教会の中に彫られていたというから驚きだ。

「 これは、もうずいぶんと古いものなのよ。」
持ち主のおばあさんも、見慣れたもので
何ということもなく語る。
門の上のほうに、1881年という年代も見られた。

SzekesKalotaszeg 564

マグディさんから、
知り合いの知り合いというおぼろげな情報で
ある人物を探す。
「私がそうよ。」と、
通りでおしゃべりをしていた女性。
「絢爛の間を見せてください。」

SzekesKalotaszeg 574

赤と白の星模様の枕は、
織りでできている。
レースで縁どりされたような、
どこか少女っぽい香りの甘い雰囲気が漂う。

SzekesKalotaszeg 601

エルジさんのお母さんは、家具の絵付けで有名な人だった。
ここの村の家の家具は、
すべてその職人の手によるという。
「 昔はね、エナメルで色を塗っていたから、
 いつまでも色や光沢が損なわれなかったけれど、
 もう今では絵具が手に入らないわ。」

SzekesKalotaszeg 610

エルジさんも絵付けの技術を母から学んだ。
イースターエッグには、
鮮やかな花の絵が描かれる。

SzekesKalotaszeg 620

カロタセグの家の財産は、
そのずっしりと重い女性の衣装。
この地方では特に装飾に力が注がれて、
ビーズがびっしりと縫いこまれている。

SzekesKalotaszeg 598

私の目当ては、この刺しゅうが密集された
イナクテルケのベスト。
村によって色や図案が違うそうだが、
この鮮やかなグリーンが特に美しい。

SzekesKalotaszeg 593

年配の女性は、こちらを装う。
一家にひとつのベストを、
母親から娘へと代々受け継いでいく。

SzekesKalotaszeg 597

花嫁衣裳のビーズの冠。
一つ一つが手作りの衣装の数々には、
煌びやかなもの、華やかなものを好む
カロタセグの民の憧れがぎっしりと詰め込まれている。

SzekesKalotaszeg 648

カロタセグでは、代々一人しか子どもを産まない習慣があったという。
やせた土地のため、出稼ぎに行って
蓄えた富を残すように。

娘が二人となると、
この豪華な嫁入り道具一式を二つ揃えなくてはならない。
逆に息子だけの場合は、
お嫁さんが二つ分もらえることになる。



帰り道、おばあさんが呼びとめて
家へ招き入れてくれる。
「 私はお客様が大好きなの。
 これまでも外国からたくさんの友達がやってきたわ。」

SzekesKalotaszeg 699

これまでにいくつか訪ねた家は、
外国人=買い物客とみなされ、
正直、少し疲れていた。

一人暮らしのおばあさんの精一杯のおもてなし、
嬉しそうに語る子どもたちや外国人客の話に、
いつしか心が和んでいた。
コーヒーを一杯飲んで、
今度は、長い道のりを歩くことになる。

SzekesKalotaszeg 704

電車線路や主要道路から6kmも離れた、
孤立した村の社会。
だからこそ伝統が残ってきたのではあるが、
有名になった一方で、
観光化の悪い部分をも垣間見てしまった。

一本道をゆくと、
先ほどまでのお天気が信じられないほど、
雨雲がどんどんと迫ってくる。
小雨に濡れながらも、前に進んでいく。
車もこないので、ヒッチハイクもできない。

やがて後ろからやってきた車は、
パトカーだった。
車が止まる。
中に乗り込んだ。

こうしてやってきた、隣村ボガールテルケ。
雨はすでにやんでいた。

SzekesKalotaszeg 712




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comments(6)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2010-07-21_05:48|page top

セーク(シク)村の手仕事を訪ねて(後)

午後になるとたちまち、
どこからか雨雲がやってきては、
地面を湿らす。

SzekesKalotaszeg 177

また一雨こないうちにと、
目指す家の門を叩いた。
玄関口からは、様子を伺いに外に出てきたのは
小柄なおばあさん。

「 機織りを見せていただけませんか?」
おばさんは一瞬考えたあと、
「 どうぞ。」と小声で言い、
家の中へと案内した。

薄暗い部屋のなかに、
ぴんと張られた縦糸のあまりの白さに、
鳥肌が立つ。

SzekesKalotaszeg 184

小さな部屋の中、
大きな機織機を動かしはじめると、
生活空間はたちまちにアトリエに早代わりしてしまう。
ただじっと、その動きを見つめ、
その音に耳を澄ます。

SzekesKalotaszeg 214

横糸の入った筒を、右へ左へと動かす。
バタンと厚い木の板で、
生地を押して整える。
その一定のリズムが、なんとも心地よい。

SzekesKalotaszeg 220

機織に向かうその姿は、
まるで鍵盤をたたくピアニストのよう。
美しい旋律の代わりに、美しい模様が紡ぎだされる。
織っているうちに、
自然とおばあさんの顔には笑みが浮かんだ。

SzekesKalotaszeg 228

たっぷりと時間を吸い込んで黒ずんだ木目。
この機織機は、
どれだけの夏と冬を越してきたのだろう。

SzekesKalotaszeg 242

セークの村でも唯一の、
立体模様の織りを作りだすカティおばさん。
村の人たちからの注文に応じて、
機織をつづけている。
結婚式や葬式など、
今でも織りのクロスは生活のあらゆる場面を彩っている。

SzekesKalotaszeg 201

先ほどまでの雨雲はとたんに姿を消し、
ふたたび青空が戻ってきた。
丘の上にあるペンションへと戻り、
セークでの半日も終わった。

SzekesKalotaszeg 178



朝日が差してきた。
なだらかな曲線を描く谷あいを一望する、
ペンションからの風景。

SzekesKalotaszeg 284

ゆっくりと朝食を食べ、
村へ向かうと、もう畑仕事を済ませた
おばさんたちがやってくる。
真っ白なブラウス、紅色や黒のプリーツスカート。
もったいないほど美しい日常着。

SzekesKalotaszeg 286

人づてに聞いた、刺しゅうの職人さんを訪ねる。
ジュジャさんは、
「 これが一番古い衣装よ。曾おばあさんから伝わるもの。」 
と美しい衣装を次々と見せ、説明をしてくれる。
細やかなプリーツの寄せられたスカートは、
すべて手縫いで作られてある。

SzekesKalotaszeg 335

「 私はね、生まれてから一度も市販の服を着たことがないのよ。
 ブダペストに出かけようとも、いつもこの衣装。」
年の頃は、50前くらいだろうか。
高校を出たばかりのお嬢さんがいる。

ふくよかなその指先からは、
驚くほど繊細なバラ模様が生まれる。

SzekesKalotaszeg 388

縁にバラ模様の連なったスカーフは、
セークの女性の晴れの服装である。
サテンのようななめらかな光沢の黒地に、
鮮やかなバラの模様が美しい。

SzekesKalotaszeg 436

ご主人さまのために作ったという、
アコーディオンプリーツのシャツ。
「 シャツの袖には、
日曜日の朝は必ずアイロンをかけるの。
そうしないと、綺麗なプリーツが寄らないからね。」

SzekesKalotaszeg 339

胸からは、刺しゅう入りの
細長いネクタイがちらりとのぞく。
未婚の男性は赤を、
既婚の男性は黒を見につけるという。

SzekesKalotaszeg 340

お隣のお嬢さんにつれられて、
セークの部屋を見せてもらう。
まだ中学生くらいの少女のために
すでに嫁入り道具が用意されている。

家の富を手仕事に注ぎ込む、
セークの伝統的な価値観が
ここにもしっかりと根付いている。

SzekesKalotaszeg 417

衣装も見につけず、
針仕事もしない今の世代の少女たち。
彼女たちの時代には、
セークの村はどんなにか変わっていることだろう。

SzekesKalotaszeg 428

少女が絵付けをした額縁には、
若き日の両親の結婚写真が収められていた。

SzekesKalotaszeg 434

診療所の前では、
女性たちがおしゃべりに花を咲かせる。

szek4.jpg

こんな風に、紅い布が干してあるというのも
セークならではの風景。

SzekesKalotaszeg 453

黒いブーツがずらりと並んでいる、古い民家。
ベルギー人が家を買い取り、
住んでいるという。

szek5.jpg

こちらはハンガリー人が別荘にしている、
古いカヤブキの家。
こういう古い家を村の人よりは、
外国人が珍しがって買い取ることが多いようだ。

SzekesKalotaszeg 475

土で塗り固められた壁。
家の壁をより白く見せるために、
青が使われていた。

SzekesKalotaszeg 477

家の中は、まるで展示場さながら。
部屋を彩る鮮やかな色が、
光りの少なさを補って、
生き生きと明るいものにしている。

SzekesKalotaszeg 478

中世の残る村に
まだまだ後ろ髪を引かれながらも、
町行きのバスに飛び乗った。



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*セークのファッションについて、
 詳しくはこちら。
 ICIRI・PICIRIの小さな窓、セークのファッション美学

*セークの機織について、
 詳しくはこちら。
 ICIRI・PICIRIの小さな窓、セークの立体織り

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comments(4)|trackback(0)|その他の地方の村|2010-07-15_06:35|page top

セーク(シク)村の手仕事を訪ねて(前)

トランシルヴァニアの中でも、
とりわけ有名なセーク(シク)村。
以前訪ねたのは真冬の閉ざされた環境のせいか、
どこか閉鎖的なように感じられた。

なだらかな山が続くこの一帯は、
メズーシェーグと呼ばれる。
四方を丘で囲まれた環境のせいか、
フォークロアが豊かな地方として知られている。

ゲルレからバスに揺られること20分ほどで、
すぐにセークに入った。
緑の丘に抱かれた村は、
それだけでひとつの世界のようである。

村の中心の教会の前には、
美しい衣装の人たちが見られる。
ちょうど、日曜のミサが始まるところのようだ。

バスから飛び降りると、
吸いよせられるようにして
黒い衣装の女性の跡をついてゆく。

SzekesKalotaszeg 015

大きく広がったアコーディオン・プリーツは、
まさにセークの衣装の顔である。
夏の太陽に照らされて、
その陰影がくっきりと移し出される。

SzekesKalotaszeg 032

黒いベストにスカート、
白のブラウスの控えめな色合いが、
可憐な女性の美しさを引き出している。

肩に留まったバラ飾り、
そして黒いスカーフの赤いバラ刺しゅう、
スカーフの下から、
お下げと赤いリボンが長く腰まで垂れる。

szek2.jpg

男性は、麦わら帽子に青いベスト。
刺しゅうのネクタイが、
白いシャツの胸からそっと顔を見せている。

教会のミサが厳かにはじまった。
日曜日のミサには、晴れの衣装を見につける。
どこでもその規則は変わりないはずなのに、
中世の古い教会に、
これだけの人数がお揃いの衣装で並んでいると、
ぴんと厳かな空気が張りつめるようだ。
まるで、何百年もの時間をタイムスリップしたかのよう。

SzekesKalotaszeg 039

一時間のミサのあと、
重い荷物を下ろそうと宿を探す。
セークには三つの通りしかないと言われる。
昔は町と呼ばれたほど大きな村は、
三つの地域に分けられる。

SzekesKalotaszeg 072

手違いでペンションが予約されていなかったことが分かり、
炎天下のなか宿を探す羽目になった。
ハンガリーから大型バスで観光客が着ているため、
村のペンションはどこも一杯だという。
村人を探すにも、日曜日の午後は
しんと水を打ったように静かだ。

やがて親切なハンガリー人団体客の招きで、
ツアー観光の中へと入れてもらう。
急きょ、同じペンションで部屋を空けてもらい、
ほっと一安心。何とかなるものだ。

村のおばさんが、糸紡ぎのレクチャーをしているところ。
麻を育て、くしをかけて、叩き、それから糸を紡ぐ。

SzekesKalotaszeg 078

隣国ハンガリーにとっては、
トランシルヴァニア地方はノスタルジアをそそる、
文化のルーツともいえるところ。

荷物を置いて身軽になったので、
さっそく村を散策に出かける。
「 村の下の方に、刺しゅうをする人がいたと思うわ。」という
おぼろげな情報を頼りに通りを下っていく。
途中で道を尋ねたら、
その女性が「うちにもあるわよ。」と家へ招き入れてくれる。

一般にハンガリー語では「清潔の部屋」という
女性の手仕事をしまった部屋のことを、
ここでは「セークの部屋」と呼ぶ。

カラフルなウールの機織のベッドカバーが
幾層にも重ねられ、その上には
真紅の織りのクッションカバーが高く積み上げられる。
決して使われることのない、
生活用品はまさに目で愛でるべきもの。

SzekesKalotaszeg 065

青い壁には、所狭しと
機織のクロスにアンティークの皿、
家族の写真や、絵画などが飾られている。

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「 刺しゅうはされますか?」と尋ねると、
奥の部屋から、作りかけの刺しゅうを見せてくれる。
1mほどはある大きな刺しゅう枠は、
まるでキャンバスのようだ。

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その大きなキャンバスを胸に抱き、
ひと針入れては、裏からひと針を出す。
ただひたすら、その繰り返し。

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「 あ、これなら。私にもできそう。」
友人がそうつぶやいた。
そうフォークアートは、本々は難しい技術を要するものではない。
畑仕事や家事、育児・・・
たくさんの仕事の傍らに、物質的に豊かでなかった村の生活を
より美しく生活を彩ろうと努力してきた、
その証なのだから。

エルジおばさんの家を出ると、
先ほどまでの青空は跡形もなく、
だんだん雲行きが怪しくなってきた。

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小川のほとりの小さな一軒家。
おばあさんが招き入れてくれた。
富の象徴である「セークの部屋」もなく、
ささやかな老夫婦の生活が垣間見られるような部屋。

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ハンガリー語を流暢に話す、ルーマニア人のおばあさん。
「 私の子どもたちはみんな、遠くへ行ってしまったわ。
 もう80だからね、いくら呼ばれたってどこへも行けないわ。」

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先ほどエルジおばさんから聞いていた、
機織の名人のおばあさんを探す。
「 ああ。カティおばさんは、すぐそこよ。
 ねえ、うちにもいいものがあるから、寄っていかない?」

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もう、ここは村のはずれ。
この先はただ緑の丘がつづくだけ。
村はずれの家の門を開いて、中へ入った。

SzekesKalotaszeg 175



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*エルジおばさんの刺しゅうについて、
 詳しくはもうひとつのブログにて。
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comments(8)|trackback(0)|その他の地方の村|2010-07-13_09:39|page top

旅のはじめに

旅に出るということは、
自分の殻をひとつ破って
外の世界へ飛び出すこと。
そこでは世界に対する好奇心がすべてのようだが、
実は自分の内面と向き合うことでもある。

旅をライフワークとする長年の友人がやってきて、
ふたり旅に出ることになった。
身が凍えるような夜行電車にゆられ、
向かった先はクルージ・ナポカ。
ここは、大学時代に忘れえぬ半年を過ごした町。
町はあれから大きく膨れ上がり、
今の私には大都会のように思える。

これから、北にあるゲルレの町へ向かう。
町のはずれからバスに乗ると、
「ねえ、あなた。もしかして・・・。」と後ろから声がかかった。
やさしい黒い瞳の彼女は、
大学時代に同級生だったマグディだった。
「 声ですぐに分かったわ。懐かしい!」

彼女と会うのは、
かれこれ8年ほどになる。
彼女の実家にも何度か遊びにいき
あれだけ仲良くしていたのに、
卒業以来、すっかり連絡も途絶えていた。

彼女はあれから、
民俗学者カッローシュ・ゾルターンの設立した基金で
働いていると話は聞いていた。

「 私の仕事は事務なんだけれど、
 そこの寮では、近隣の村から子どもたちを集めて教育することを
 目的にしているの。」

「 子どもを親から離して・・と非難する人もいるけれど、
 いろいろな家庭の事情で、弱い立場にいる子どもたちを
 良い環境で育てることを目的としているのよ。」

彼女は、昔ながらの優しい声で、
そして強く思いをこめて、
子どもたちがどんなに変わっていったか、
どれだけその寮が心の頼みとなっているかを語った。

「 今日からハンガリーの子どもたちがやってきて、
 サマーキャンプが始まるの。100人以上もだから、大変よ。
 雨が降らないことを願うばかりだわ。」

やがてバスはヴァーラスウートに止まり、
彼女は手をふり降りていった。

私はたった一人の子どもを育て、
その間、彼女はたくさんの子どもたちと日々接し、
世に送り出している。
それからもバスの中、
思いは10年前の学生時代を駆け巡っていた。

やがてバスは、小都市ゲルレに到着した。
セーク行きのバスが来るまで、
町を散策する時間がありそうだ。

町の中心の広場には、
真っ白いカトリック教会がそびえ立つ。

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今日は日曜日。
ちょうど中では、ミサの合唱がこだましていた。

町のハンガリー名は、サモシュ・ウーイヴァール。
「サモシュ川の新しい城」という意味。
かつてはアルメニア人が移住してきて、
カトリック教会を中心に栄えた町だった。

トランシルヴァニアには
アルメニア人の多く住む町がいくつかあるが、
ほとんどはハンガリー人に同化していった。
ユダヤ人と同様に、商業を主として栄えた民族であったらしい。
私のダンナのお祖母さんの系統も、アルメニア系だという。

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日曜日の静かな町並み。
馬車通行可の標識が、
のどかなトランシルヴァニアを象徴する。

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バスの乗車まで時間があるので、
トイレを借りがてら、お茶を一杯のむことにする。
戸口の小さな、寂れたバーに入った。

エメラルド・グリーンの壁に、
酒のボトルが並んだカウンター、
目の縁を黒く染めた若い女性が支給する。

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「こんな町まで何をしに来たの?」と不思議そうに尋ねられる。
かつての共産主義の名残をたたえる飾りに
目が釘付けになった。

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日曜の昼どきに、
一人で飲んでいるおじいさん。
額縁に飾られているのはヌード写真なのに、
雰囲気のあるインテリアの中では
古い油絵のように錯覚される。

SzekesKalotaszeg 011

甘ったるいホット・チョコレートをひとすすりしてから、
バス乗り場へと向かった。




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comments(2)|trackback(0)|トランシルヴァニアの町|2010-07-12_09:07|page top

セーケイの花模様-バルジャシュ村

高くそびえる屋根をもち、
デコラティブな装飾で彩られたセーケイの門。
それは、トランシルヴァニアの国境を何百年と守りつづけた、
セーケイの民にとっての誇りともいえる。

コヴァスナ県とハルギタ県の境にある、バルジャシュ村。
ひときわ目をひく、豪華なセーケイの門がある。
それは、1568年以来
14世代にわたって家具の絵付けを職としてきた
シュトゥー家のものである。

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屋根の下には、ハトの小屋。
ぐるぐると円を描く植物のつるとチューリップ、
鳥はハンガリーの土着のモチーフとして
よく知られている。

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右側は乗り物用の入り口、
私たちは左側の
木の扉を開いて中へ。

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この門は、1975年に
亡きシュトゥー・ベーラが作ったもの。
木製の鳥がしっかりと鍵をかけ、家を守っている。
こんなところにまで、
ユーモアのあふれる仕掛けがしてある。

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そもそもシュトゥー家のご先祖が
この村に住むようになったのも、
貴族であるダニエル家の屋敷のために
家具の職人が必要であったから。

この自然豊かな環境には、
いくつかの鉱山がある。
彼らが代々、染料として使用している石も
そこから掘られているという。

ニスを使わずに自然な光沢が得られ、
その色合いは深みがあり、
使えば使うほど味わいが生まれてくる。

セーケイの住文化を伝えるのが、
この「髪結いの椅子」。
そのうつくしい形は、
髪を結い上げた女性に喩えられる。

背もたれの部分が取りはずしがきき、
その家庭の、とある秘密を
伝える役目もあるという。

vargyas.jpg

二つ並んだ椅子の顔が向かい合わせになっていたら、
その夫婦は仲がよい状態で、
もし反対向きにひっくり返されていたら・・・。
来客はすぐに、その空気を読んで
退散しないといけない。
いかにも、セーケイ人らしいユーモアである。



「 いい感じの古い家があるから、見てみよう。」と誘われていったのは、
古びた赤レンガの民家。
ブドウのツタが白い壁の上を這い、
涼しげな影をつくっている。

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中を見たいと伝えると、
家の主人らしき女性が快く通してくれた。
大きな家なのに、驚くほどがらんとした
家具のすくない室内。

鉄細工のうつくしいアンティーク・ランプ。
小さな電球ひとつで照らされた、
古い家の夜の生活はどんなにか
静かなものだろう。

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隅に置かれたたんすは黒光りして、
花模様をいっそう鮮やかなものに見せている。
かつては華やかな嫁入り道具で、
いっぱいだったであろう。

「 昔は古い刺しゅうなどもあったのだけれど、
お客さまにあげてしまったわ。」と家のご主人。

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振り返ると、
部屋の隅からじっと視線が注がれている。

erdovidek 355

「 こんにちは。」と挨拶をすると、
やさしい微笑みが返ってくる。
おばあさんは
その古い屋敷にふさわしく、
まるで少女のように生き生きと澄んだ瞳をしていた。

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おばあさんの年は、90歳。
多くの言葉を交わさなくとも、
その表情から人生の足跡が
何となしに伝わってくるようだ。

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「 神さまが、保ちつづけてくれますように。」
その古い屋敷と、そこで暮らすおばあさん。
ふたりに心をこめて、家を後にした。




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comments(2)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2010-07-10_04:56|page top