トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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ブログ翻訳

カロタセグの丘を越えて

よく晴れた木曜日の午後、
カロタセグ地方の村につくと、
すぐにその足で隣村へと向かった。

「 トゥレに向かうなら、 
 少し遠回りだけれどきれいな道と、
 近道だけれどあまりよくない道とがあるよ。」
そう聞いて、
道順をおぼろげに頭の中に詰め込むと、
すぐに出発。

選んだのは、近道であまりよくない道。
村はずれの墓場をすぎて、
すぐに原っぱに出た。

空は青々と澄み切って、
うすく滑らかな雲が泳いでいる。
さわやかに風が吹き、
秋の訪れを感じさせる天気。

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太陽の光をあびて、きらきらと
まるで宝石のように輝く野の花たち。

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原っぱのなかに、
ひときわ目立つのは向日葵。
「 いい香りがするよ。」と
その大きな花のなかに顔をうずめると、
すっぽりと入ってしまうほど。

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背の丈よりも長い、
のっぽの向日葵が立っている分かれ道。
「 トゥレは丘を越えたあちら側だから・・。
 こっちだ。」
と言う旦那のあとをついていく。

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柳の葉っぱが冷たい風をうけて、
さらさらと音をたてる。
今にも、あの雲に向かって羽ばたいてしまいそう。

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やがて丘を登りきると、
乾いた色の大きな道に出た。

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道のとおりすがら、
脇には小さな池が点在している。
中にはどんな生き物がいるのだろう、
と息子はすぐに探索をはじめる。

IMG_2239.jpg

大きな道は、行き止まりになった。
巨大な砂場が目の前に現れると、
ようやく、その道は本当に村に続くのだろうかと心配になる。
広大な土地を見渡しても、
どこにも人の姿は見られない。

真っ白な池。
よく見ると、水が枯れて、
砂がむき出しになっている。
この地方は、磁器の原料となるカオリン石が採れるそうだ。
おそらく、この乾いた池もそうだろう。
 
IMG_2247.jpg

長く雨が降らないので、
まるで亀の甲羅のように
地面にひびが刻まれている。

IMG_2256.jpg

道のない、道をゆく。
はじめは足首を覆うくらいだった草も、
気がつくと腰のあたりまで伸びてきた。
草を掻き分けながらなので、
少しずつしか進まない。
サンダルばきの裸足を
ときどき意地悪な草が引っかいていく。

やっとのことで
雑草の林から開放されると、
きれいに刈り込まれた原っぱが迎えてくれる。
その丘を登りきると・・・。

IMG_2267.jpg

カロタセグ地方特有の
なだらかな丘陵地帯が眼下に広がっていた。
オレンジ色に輝いている野原をみて、
そろそろ夕暮れ時が近づいていることを知った。

IMG_2269.jpg

丘の下にある小さな村めがけて、
勢いよく下っていく。

ベンチに腰をかけておしゃべりをするお年寄り、
野原からかえってきた牛の群れ。
夏の一日の終わりの風景が、
いつもと変わらずに繰り広げられている。

IMG_2291.jpg

墓地へ写真を撮りに行った旦那を待っていると、
先ほどひとりのおばあさんと知り合ったという。

家の中へ足を踏み入れると、
グリーンの織りのタペストリーが、
部屋中を覆っていた。
星や花などのさまざまな模様が浮き上がる。
赤と緑を見せてくれたおばあさんは、
「 私はもう年寄りだから、 
 緑だけを飾るのよ。」と微笑んだ。

IMG_2320.jpg

あたりが暗くならないうちにと、
畑道をずんずん歩く。
群青色から橙色へと変わる
鮮やかな空へと向かって歩いていくと、
いつしか月明かりの夜空に囲まれていた。

暗闇を歩くこと30分ほどで、
先ほどの向日葵の分かれ道にたどり着いた。
村はもうすぐそこだ。



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comments(4)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2010-08-29_05:59|page top

旅のはじめに

8月の半ばも過ぎた頃、
降って沸いたようにして、
旅の誘いがかかった。

革職人の友人夫妻がブダペストの市に出かけるので、
車に乗せてもらえるという有難い話。
早朝5時に集合して、町を出た。

ミルク色した霧の中に、
村が浮かび上がる。
もう秋の気配が漂う。

トゥルグ・ムレシュの町についたのは、
8時過ぎだった。
一時間ほど時間があるというので、
迷わずイェッド村へ向かう。
去年の夏に、5日間を過ごしたところ。

見覚えのある子供も、
もうこんなに大きくなった。

IMG_2115.jpg

カティおばさんにご挨拶をして、
3ヶ月前に忘れたものを受け取った。
「 ねえ、セイコ。言ったでしょう?
 どんなものでも、私のところにあれば大丈夫って。」

ピンク色の壁のお家は、
ただ今キッチンを改装中。
どんな素敵な空間になるのか楽しみだ。

IMG_2112.jpg

向かいの家では、
長男のピシュタの家を作っているところ。
一年ほど消息を絶っていた息子の連絡に、
どんなにか心を落ち着かせたことだろう。



さらに車を走らせる。
やがて盆地のしたに
クルージ・ナポカの町が広がっているのを見ると、
懐かしい思いが胸を突いてくる。
大学時代の半年をすごした町。

8月の20日といえば、
ハンガリーの初代国王イシュトヴァーンがキリスト教を受け入れ、
建国した記念日。
歴史的に重要な町であったクルージでも、
式典などが行われている。

ハンガリー王国の黄金時代を築いた
マーチャーシュ王の生家の前に市が立つ。

IMG_2157.jpg

聖ミハーイ教会は、町のシンボルである。
変わっていく都会の景観のなかで、
ここだけ中世が息づいている。

IMG_2165.jpg

クルージのメインストリート。
はじめは一人で歩いていた学生時代。
やがて旦那が横にいて、
今はこうして息子も一緒にいる。

IMG_2174.jpg

街を歩いていて、驚いた。
黒い電線が、
まるで蜘蛛の巣のように張りめぐらされている。

IMG_2186.jpg

駅から電車に揺られて40分。
いつもの無人駅で降りる。

IMG_2204.jpg

ナーダシュ川と呼ばれる、
葦でいっぱいに覆われた小川にそって、
点在する村のひとつ。
ボガールテルケ村。

小さな一本道に立っていると、
耳のそばで風花がそよそよとささやき始める。

IMG_2208.jpg

ニワトコの黒い実が、
頭をもたげている。
つやつやとした黒い粒が、
まるで宝石のように輝いている。

IMG_2209.jpg

カロタセグの旅がはじまった。




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comments(0)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2010-08-28_07:40|page top

聖アンナ湖での夏休み


平日のとある日、
友人夫妻のところへ出かけると、
「 今から、聖アンナ湖へいかない?」と
お誘いがかかった。

朝晩は涼しいものの、
日中は40度近くまで気温が上がる。
トランシルヴァニア地方に暮らしはじめて3年目だが、
どこか恋しくなるものは水だと気がついた。

町のはずれを流れるオルト川は、
むしろ小川のようで、
このコーヒー色した小さな流れが
あのドナウ川に流れつくとは、
どうも想像がしがたい。

革職人のブラーガ夫妻は、
ルーマニア国内ばかりでなく、
はるかドイツの手作り市まで出かけて、
ちょうど帰宅したところだった。
「 聖アンナ湖にいると、心から休めるんだよ。」とボティ。

いつものキャンピングカーに
大人6人、子供4人が乗り込み、
北へと向かった。

保養地として知られるトゥシュナードから山道に入り、
山を登りきったところにある。
森の深いこの辺りは、クマが出るそうだ。

到着すると、すぐにピクニック。

st.Anna to 050

針葉樹林に抱かれたその湖は、
ヨーロッパでも数少ない、
水の透明度の高いことで有名だそうだ。
ほとんど生物も生息していないという。

その日は、前日の大雨のせいか、
水は茶色くにごっているようだった。

st.Anna to 053

水が冷たいことも恐れず、
子供たちは勇敢に水に飛び込む。

キャンピングカーでドライブ、ピクニックに、
湖で水浴びして、スイカを食べる・・・。
あらゆる夏休みの楽しみを、
ギュッと一日に凝縮したような時間。

時間を惜しむかのように、
いつまでも水から上がろうとしない子供たち。

st.Anna to 133

聖アンナ湖の自然に
やや違和感のある、日本からの浮き輪。

st.Anna to 069

山の上では日が沈むのが早い。
子供たちの楽しみも、すぐに終わりが来てしまう。
深い緑の木々は、
足元に忍びくる夜の気配を、
感じとっているようだ。

穏やかな水面に、
そっと切れ目をいれるようにして
ボートがゆく。

st.Anna to 163

水玉もようが、ゆらぐ。
いつまでも終わらない、
夏を夢みるかのように。

st.Anna to 161



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comments(2)|trackback(0)|自然、動物|2010-08-27_06:25|page top

アーラパタクの刺しゅう展示会に向けて Vol.2

いつものように町はずれの通りに繰り出し、
炎天下でヒッチハイクをはじめる。

バスの往来が少ないこの方面では、
こうするしか仕方がない場面にもたびたび出会うから、
自然、哀れな旅行者に情けをかける車も多い。

待つこと30分ほどで成功。
この日は大型トラックだったので、
助手席にやっとのことで這い上がる。

「 この地方には、赤いアカシアが多いんだな。」
こう話をはじめたルーマニア人の運転手さん。
旦那としばらくのおしゃべりした後、
二番目の村で車から下ろしてもらった。

今年は雨が多いため、
小川の水も澱んでコーヒー色をしている。

IMG_7285.jpg

ノートを手に道を歩き周っていると、
「 誰か探しているのかい?」と声をかけてきた人がいる。
手芸を探していることを告げると、
親切にもこう教えてくれた。

「 この通りを終わりの方まで行くと、
 門にB.Jのイニシャルがあるだろう。そこを探してみるといいよ。」

やがて、茶色く塗られた鉄の門が姿を現すと、
中へと歩み寄った。

ここ2、30年の間に、
人口比が急激に変化したアーラパタクでは、
その治安の悪さを物語るように、
家には必ず大きな犬がいる。
門はしっかりと閉じられ、
往来にもあまりハンガリー人や
ルーマニア人の姿は見られない。

家の中から、
訝しげな表情でおばあさんが出てきた。
目的を告げると、
「 そんなもの、家にはないわ。」
とすぐに顔を曇らせる。

「 ぼろぼろの布でも何でもいいんです。
 少しだけ見せてくれませんか?」
と引き下がらない旦那。

仕方ないという表情で、
奥へ通してもらった。
そして、驚いた。
家の隅々、あらゆるところが刺しゅうで飾られている。
スペースを残すのが勿体ないかのように、
小さな工夫で凝らしてある。

IMG_0206.jpg

リュックサックのような形のものは、
ブラシ置き場。

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水道のない村の民家では、
今でもこういう桶が見られる。
手洗いの上にかけられた、
アンティークのクロス。

IMG_0208.jpg

奥の部屋に通されて、
ベッドの上に転がっている細長い枕を
何気にひっくり返すと、
姿を現したのはアンティークの枕カバー。
赤い刺しゅうの合間に、
糸を一本一本ひきぬいて縫いかがった
カットワークの細やかな仕事。

お孫さんが気持ちよさそうに、
刺しゅう枕と戯れている。

IMG_0171.jpg

はじめは半信半疑だったのが、
次第に自分の自慢のコレクションを見せたい気持ちからか、
親切に見せてくれたルイーザおばあさん。

「 それでも、本当に返してくれという保障はあるのかしら。
 これは私にとって、大切なものだからね。」

若い頃の自分、自分の母親が手で縫ったものは、
お金に換えることのできない価値をもつ品。
それが分かるだけに、なかなか説得するのも難しい。

IMG_0186.jpg


何軒かの家を回って、
体力的にも気力的にも疲れが出てきた頃、
帰る間際にこういう提案が出た。
「 ねえ、あのジプシーの家も見てみようか。」

16.06.2010 21-01-41

一軒目は、刺しゅうといっても
私たちが思っていたものと違うものが出てきた。

「 あの家の庭で、いつか赤い刺しゅうを見たことがある。」
と二軒目の家へと近づいていく。
洗濯物を指差して何かを伝えていると、
中へ入るように言われた。

犬が怖いので、
おそるおそる中へと入る。
洗濯物が万国国旗のように吊るされている。

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小さな家の庭に、
たくさんの子どもたち。

05.08.2010 23-13-11

「 こんなものもあるのよ。」
鮮やかなバラの刺しゅうは、
いかにもジプシーらしいデザインと色彩。

「 これはいくら?」と聞くと、
しばらく考えた後、
「 やっぱり、これはあげられないわ。」といった。

05.08.2010 23-14-13

「 少し待っていて。」といわれたので、
庭に腰掛け待っていると、
近所の家に探しに行っているらしい。
旦那もお金の両替に行ったので、
しかたなく一人で待つことになる。

小さな女の子をあやすおばあさん。
彼女がこの家の主人のようだ。

05.08.2010 23-21-28

旦那が両替のために買ってきたクッキーは、
一口サイズが全部で20個ほどの小さなもの。
あきれた。
子どもたちの数というと、
もう10は軽くこえている。

「 ひとり一個、二個ほどだね。」と苦笑しながら、
一人ずつ子どもたちに配った。

05.08.2010 23-32-02

やがて家の主が、布でパンパンにふくれた
買い物袋をふたつほど抱えてきた。
ピロカバーの表部分、
大きなタペストリー、クロスなど
合わせて20個ほどがテーブルに詰まれた。

それをひとつずつ、
丁寧に広げて、観察する。
どれも状態がきれいなもの。
どうやってこんなに集めたのか・・・。

「 ハンガリー人が家を売り払ったときに、
 おそらくこういう布もそのまま家に残ったんだろうね。」

人によっては、その価値が分からず、
自分の親が縫ったものでも
平気で焼いたり捨てたりする人もいるという。

「 今の若い人たちは、
 もうこんなもの好まないからね。」
「 もう流行おくれだそうよ。」
と当然のことのように言う村の人たちにも出会った。

今の時代だからこそ、
手で何かを生み出すことに価値があると思うのだが、
村で生まれ育った若者たちに限って、
その価値が分からない人が多いのは哀しいことだ。

そういう村の人々の意識を変えるためにも、
展示会をする必要がある。
後で気づいた時には、
もう何も残っていないということにならないためにも。

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私たちは手持ちのお金をほとんど使い果たし、
袋一杯の手芸品に換えて、
ジプシーの家を後にした。



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comments(6)|trackback(1)|セーケイ地方の村|2010-08-17_02:10|page top

アーラパタクの刺しゅう展示会に向けて

シェプシ・セントジュルジの町の
ランドスケープともいえる、
セーケイ民族博物館。

ルーマニアのちょうど真ん中に固まって住んでいる
ハンガリー系セーケイ人は、
12世紀ごろにはすでに、
当時のハンガリー帝国の国境に
兵士として配置されていたといわれる。

セーケイの門と呼ばれる
高さ3m以上の木彫りの大きな門を建てて、
特権身分を示していた。

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ここセーケイ地方に残る
数少ないフォークアートが、
アーラパタクに伝わるクロスステッチ刺しゅう。
20世紀のはじめから中ごろまでに有名になり、
数々の展覧会へ出品されていた。

トランシルヴァニアの刺しゅうといえば、
カロタセグのイーラーショシュがあまりに有名になりすぎて、
よその地方の刺しゅうは忘れ去られようとしている。

ジプシー化してしまった村は、
もうハンガリー文化の火も消えつつある。
そういう事実を目の当たりにして、
この町で展示会を開催しようと思い立った。

まずは会場探しから始まった。
コヴァスナ県の県庁舎へ
アーラパタクの記事の載った日本の雑誌などを手に、
タマーシュ・シャーンドル氏を訪ねた。

「 私たちセーケイ人は、
 日本人とはもともと縁深いはずだからね。」

展示会のために会場を探していると伝えると、
セーケイ名物の大きな口ひげを撫でて、
タマーシュ氏はこう言った。

「 私のコレクションで世界地図の展示をしようと計画していたのだが、
 君たちに場所を譲るよ。」

すぐに携帯を鳴らし、
セーケイ博物館の館長に話をつけてくれた。
こうして運良く展示会場も決まり、
村での収集活動がはじまった。
 
アーラパタクのカルバン派教会。
牧師さんの口から、
その展示会についてを説明してもらうようお願いをする。
教会の入り口から、
すでに刺しゅうの世界が広がっている。

16.06.2010 18-10-27

村の人たちに展示会についての理解をしてもらおうと、
その刺しゅう展の概要を話す。
できるだけたくさんの人たちの協力を
必要としていることを訴えた。

協力者の名前と住所を
ノートに書き取る。
「 夏は畑仕事が忙しいから、
 夕方6時以降でないと困るわ。」

IMG_7298.jpg

刺しゅうの名人ピロシュカおばあさんは、
畑仕事の合間に、ガレージの中で
今も作業をつづけている。

ワークショップも開かれる予定なので、
刺しゅうの講師として招くことになりそうだ。

05.08.2010 20-28-05

イレーンおばさんの所では、
100年ほど昔の穀物袋をお借りすることになった。

嫁入り道具のベッドを再現するために、
ベッドカバーやピロカバー、
穀物袋を美しく積み上げて展示する必要がある。

IMG_7341.jpg

昔のカバーは、
こんな風に底の部分にだけ刺しゅうがされてあった。
決して使われることのなかった、
嫁入り道具の象徴としての作品は、
裏返しにして何十年とたんすの中にしまったまま。

IMG_7339.jpg

都市文化の流行を受けた刺しゅうも見られる。
信仰をテーマにした言葉が書かれたタペストリー。
「 神様がそばにいれば、何も恐れるものはない。」

村の民家は壁が漆喰なので、
こうしたタペストリーは壁を守るためのものでもある。

IMG_7380.jpg

韻を踏んだ、
簡潔な詩のようなものも見られる。

「 やわらかなベッドで、おだやかな夢を。」

言葉を針で刻み込む。
その神聖な行為によって生まれた言葉が、
そこで暮らす人々を守り続けるのだろう。

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アーラパタクの刺しゅうのモチーフには、
中世を起源とするもの、
それよりも古いものと多様である。
模様というかたちに
彼らの民族の謎が秘められているようでもある。

IMG_7403.jpg

ギゼラおばさんは、
古く美しいものをこよなく愛するひとり。

「 私は若い頃、町の役所で勤めていたから、
 あなたのお父さんはよく知っていたわ。」

民俗学者シェレシュ・アンドラーシュの名は、
この村でも知られている。
その名前も、私たちの仕事をいくらか助けてくれている気がする。

チューリップが彫られた、糸紬の棒。
男性は女性のために、美しい彫刻を施して、
この仕事道具を贈っていた。

IMG_7388.jpg

ギゼラおばさんが、お隣さんの家へも案内してくれた。
長い通路には、
赤い刺しゅうのカーテンがひらめき、
好奇心を駆り立てる。

IMG_7421.jpg

赤いステッチが生活の中に溶け込んでいるのが、
見てとれる。
老夫婦がにこやかに迎えてくれた。

IMG_7423.jpg

「 目がよく見えていたころは、
 注文にも応じて作ることがあったけれど・・。
 もうなかなかできないわ。」

隣には脳に生涯を持つ息子さんが座っている。
きっと子どものためにも、
そのひと針ひと針を動かしてきたのだろう。

IMG_7451.jpg

ギゼラおばさんも手伝いながら
ひとつひとつの作品をめくり、鑑賞する。

その年代、年代によって
糸の力強さ、素材の移り変わりを
目の当たりにする。

IMG_7456.jpg

先ほどまで太陽が出ていたかと思うと、
すぐに雨雲がやってきて、
雨粒や稲妻をまきちらしていく。
変わりやすい、夏の天気。

IMG_0256.jpg

展示会まであと二ヶ月半。
それまで、何度となく
この村へと通うことになるだろう。




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comments(2)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2010-08-14_18:25|page top

でこぼこ道のある村での記憶

6月の冷たい雨のふる中を、
車から下ろされて閉口した。

その日はラツィおじさんの車で
はるばるムレシュ県へやってきたのだが、
用事を済ませる間、
どこで待つかという話になり、
ダンナの一存でこの小さな村で降りることに決まった。

どんよりとした灰色の空、
雨のせいで肌寒い。
でこぼこ道には、
大きな水たまりがあちこちに生じている。

村のはずれの看板には、
この道路の不整備を訴える
ユーモラスな詩が書かれてあった。

Heviz 003

「泉」という名前の、小さな村。
ドイツ系のザクセン人の暮らしていた地方が
すぐ目の先のため、
家並みもどことなくドイツ文化の香りがする。

その家並みの中に、
黒い服のおばあさんが現われた。
なんとなく、そちらの方へついて行く。

Heviz 004

小さな曲がり角を曲がって
上り坂をゆくと、
そこは墓場の入り口だった。

おばあさんはなおも、
墓場の小道を登ってゆく。
その姿はやがて、
ルーマニア正教の教会へと消えていった。

Heviz 005

すべなく
そこで立ち尽くしていると、
後から後から
同じように黒い衣装のおばあさんたちが、
かさを手に坂を上ってくる。

「 こんにちは。」と声をかけると、
皺だらけの優しい顔が微笑んだ。
「 まあ、あなた。
 どこからやってきたの?」

黒いブラウスにスカート、
エプロンをかけている。
手作りの衣装だということはすぐに分かった。

「 これから、この教会でミサが始まるのよ。
 さあ、中へお入りなさい。」

小人みたいな
黒い服のおばあさんたちに囲まれ、
その人懐こい笑顔に包まれると、
不思議と足が中へと吸い込まれていくようだった。

平日の午前中にもかかわらず、
薄暗い教会の中には
電灯の光りが赤々と燃え、
黄金色の壁画を照らしていた。

おばあさんたちは、小さな階段を上り
二階へとあがった。

黄金に輝く壁画の文様、
お香の煙と、
黒尽くめの男性たちのコーラスが
小さな空間に響きわたる。

言葉も文化も分からないが、
宗教の力というものを
なんとなく肌で感じていた。

おばあさんは椅子を勧めると、
「 どう、気に入った?」と誇らしげに微笑んだ。
ほとんど村から出ることもなく
一生を過ごしたであろう、
おばあさんたちの人生を彩る大きな舞台のひとつが
この教会であったに違いない。

ずいぶんと時間が経っていたらしい。
その薄暗い祈りの場から
目を覚ますようにと、私を呼ぶ声がした。

小さな不思議の国へと迷いこんだ、
そんな体験だった。



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comments(0)|trackback(0)|その他の地方の村|2010-08-13_23:36|page top

ドイツ文化の足跡-ヴィスクリ城砦教会

ブラショフから北へ。
山をひとつ越えると、
そこはザクセン人の土地である。
赤レンガに石造りの門の並ぶ小さな村は、
まさにおとぎ話の世界さながら。

どこかしら現代から忘れられたかのような、
古ぼけた寂しさを感じさせるのは、
この村々のもともとの住民が
はるか遠く、ドイツへと移ってしまったからだろうか。

国道沿いに見られる、
そんな美しい村々を横目で見ながら、
今度は小さな横道へとそれた。

地図で見ると、
国道から20キロほど離れた奥まったところに
ヴィスクリと呼ばれる村があるらしい。
ルター派の古い城砦教会は、
世界遺産にも指定されている。

やっと舗装されたような小さな道を進むと、
すれ違う車も見られず、
多少不安な心持になってくる。

6月の豊かな緑に包まれて、
車を先へと走らせる。

Heviz 231

やがて、村の入り口が見えてきた。
ドイツ系のほかの村のように、
パステル色にお化粧したかわいらしい家が、
きっちりと向かい合わせに規則正しく並んでいる。

3m以上はある大きな石造りの門は、
中の様子がうかがえないから、
本当に住人がいるのかどうかも分からない。

こんなに奥まった村だから
さぞ閑散としているのだろうと思っていたら、
大通り沿いには歩く村人たち、
お店やバーやレストランまで見られるから驚いた。

イギリスのチャールズ皇太子が
村に別荘を買ったこともあり、
外国からも観光客が多いそうだ。

大通りをつきぬけて、
丘を登ったところに城砦教会への入り口があった。

松林の中の歩道を進むと、
古びた赤レンガに黒ずんだ木のベランダ、
真っ白い壁の建物が姿を現した。

Heviz 074

白い壁の上を、ピンクのバラが這っている。
そのゆったりとした雰囲気は、
どちらかというと貴族の屋敷か古城。
ドイツ系の住民がほとんどいなくなった今、
教会としての役目は果たしていないようだ。

Heviz 077

教会の番をしている
ザクセン人のおばあさんは、
ドイツ語なまりの英語で案内をしている。
他にもイギリス人観光客の姿が見られた。

重厚感のある
木造の扉を開いて中へ。

heviz1.jpg

古い木の柱や壁の染料が、
まひるの光りに照らし出されていた。

Heviz 080

立派な外観からは意外なほどに、
こじんまりとしたささやかな空間。
かつては、ここに住む人々の
生活の節目節目を彩る舞台であった場所。

今では呼吸を止めてしまったかのように、
ただ沈黙している。

Heviz 086

奥の扉は、教会の塔へと導いている。
積み上げられた石の塔は薄暗く、
ひんやりとした空気が流れている。

Heviz 100

途中の窓からは、
外の光りがもれている。

Heviz 103

何階ほど上ったのだろうか。
ようやく天井部屋に到着。
明かりの方へ。

Heviz 119

暗さになれた目に、
鮮やかな緑が飛び込んできた。
まるで空を飛んでいるような感覚。

村の周辺には、
なだらかな野原が広がっている。

Heviz 129

戦争の激しかったトランシルヴァニアでは、
教会に村人たちが立てこもり、
戦いを重ねた。

教会をぐるりと囲む防壁も、
相手を威嚇するような強さが込められている。

Heviz 121

今いる足場は、
このように木が張ってあるだけ。
板と板の間からは、
はるか下にある下界が透けて見られるから、
自然、足取りも慎重になってしまう。

Heviz 143

干からびた瓦の赤は、
いくつもの戦争を見てきた
この教会のたどってきた足跡が
伺えるようだ。

かつての住民が去ってしまってからも、
生き永らえてきた教会。

30年ほどの間、
主人を亡くしながらも、
ずっとこの村を守りつづけてきた。

Heviz 145

帰り道、
振り返って車を止めた。

緑の丘にそびえたつ、
ヴィスクリの城砦教会。
中世の記憶が、
この人里はなれた小さな村に痕跡をのこしている。

Heviz 229




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comments(2)|trackback(0)|ザクセン地方の村|2010-08-09_06:55|page top

8月のブルーベリー売り

トランシルヴァニアの8月。
巨大な入道雲と青空と、
焼け付くような太陽。
そして、不意にやってきては
去ってゆく灰色の雲と雨粒。

IMG_7486.jpg

灰色の建物のすきまから
「 ラズベリー。
 ラズベリーは、いかがですか。」
と大きな声が響いてくる。

森の恵みの豊かな地方では、
野生のラズベリーやブルーベリーなど
赤や黒に輝く小さな果実の粒がもたらされる。
そうした自然の実りに、
いち早く敏感なのはジプシーの人々。

カゴやバケツ一杯に詰まれた、
その夏の味覚を売り歩く風景は、
この時期の風物詩でもある。

ブラショフの町をゆく、
トローリーバスのなかで出会った風景。

不意に、輝くような色彩が
目の端に飛び込んできた。
黄緑と紫の花柄のスカーフが、
しっかりとバケツの口を覆っている。

視線を感じると、
女性はすぐにその布をひるがえした。
バケツ一杯のブルーベリー。

Sutohaz 039

刺激的な色彩と甘酸っぱい果実の香りが、
乾いたバスの車内を
夏色に染めた一瞬だった。




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comments(4)|trackback(0)|文化、習慣|2010-08-06_17:46|page top