トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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上ドボイの教会

久々の秋晴れの日和。
抜けるような青空と
惜しげもなく降りそそぐ太陽の光に、
何となく心が弾んでくる。

日本からのお客さまを乗せた車は、
お姑さんの故郷、ツォーファルヴァへ到着した。

ダンナの祖母が今年の春に亡くなり、
主人がいない家となった。
かつては家族が住み、
多くの家畜とともに活気であふれていたこの家も、
だんだんと朽ちるに任せてしまうのだろう。

Arkos2010 012

秋の陽気をさえぎるようなブドウの木陰。
かつてここは、おばあさんのお気に入りの場所だった。
いすに腰掛けて、
通りの往来を眺めるのが楽しみだった。
今でもその姿が目に浮かんでくる。

Arkos2010 013

今や巨大な物置となった納屋の向こうには、
畑が広がっている。
トウモロコシ畑のなかに
鮮やかな黄色を放つ、大きなカボチャを見つけた。
持ち帰って、カボチャのランタンを作ろう。

Arkos2010 002

木曜日にこの町に到着したお客様、
貝戸さんご夫妻は東京での生活に区切りをつけ、
1年間をルーマニアで暮らすためにこちらに来られた。

そのお迎えにいった時、満月の夜に小猫と出会った。
「まるでミルクティーみたいな色。」と由希さんが形容した言葉のように、
ふわふわの毛を持っている。

朝の冷たい空気に身を縮ませ、
由希さんのスカーフのなかにもぐりこんでいる。

Arkos2010 018

ここから車で10分ほどで、
家を建設中の、上ドボイ村に着く。

車が通らず、野犬もいない村では、
ネコもゆっくり散歩ができる。

Arkos2010 019

この日は、お隣さんも久しぶりに村へ帰ってきた。
村のジプシーの人たちも総出で、
プルーン狩りをしている。
時折、雪崩のようなものすごい音とともに、
大量の青い実が落ちてくる。

Arkos2010 034

庭では、ヒツジたちがお食事中。
たまにプルーンの実も食べている。

Arkos2010 033

プルーン狩りをした後は、
ブタの脂身のベーコンを焼いた昼食。
夏はキッチン要らず。

Arkos2010 023

青黒く丸々としたプルーンの実。

Arkos2010 026

村の彫刻家バルニの家で、
古く美しきものを愛で味わう。
洋服デザインをされる哲哉さんは、こう口にした。
「ルーマニアの衣装のなかで、
セーケイの男性の衣装が一番好きです。」

いつか息子に贈っていただいたウールのスリムパンツも、
どこかセーケイのものに似ていた。

Arkos2010 074

山に面した村なので、
坂をひたすらに下っていくと中心に出る。
マロニエの並木の奥に、
真っ白な教会の尖塔が見渡せる。

Arkos2010 036

7年前の夏にもここに来ていた。
初めてこの村にやってきたときのこと。
私たちとバルニは、教会と墓地だけを見て
ドボイの村を後にした。
その時は、3人ともこの村に住むことになろうとは
考えもしなかった。

Arkos2010 060

ドボイの教会には、何か不思議なものを感じる。
うす明るいブルーで一面に塗られた天井とベンチ。
ちょうど太陽ののぼる前、
薄明の空をそのまま染めたような色。

太陽のような照明の飾りと黄金の星,
ダイナミックな幾何学模様がしばし見る者の目を奪う。

Arkos2010 043

教会はもう何年も使われていない。
修復が必要なのだが、資金が集まらず
着工できずに今に至っているという。

跡を継ぐ若者も少ない小さな村では、
このように文化遺産が朽ち果てていく現状が見られる。

Arkos2010 047

どこかナイーブなタッチの水彩画。
この大らかさ、力強さが
村の雰囲気に調和しているようだ。

Arkos2010 045

見事な天井の照明部分。
かつては美しいシャンデリアもあったそうだ。
透かし彫りで装飾され、まるで太陽のように輝かしい。
星の瞬きとともに、空間に神秘性を与えている。

Arkos2010 046

アルミのような鉄板が木と組み合わされて、
太陽の光をあらわしている。

Arkos2010 057

古い木板は、
賛美歌の数字を示しているようだ。

Arkos2010 052

かつては、村人たちの冠婚葬祭の舞台となった教会。
村の共同体が弱まっていくにつれて、
もはやかつての権威はなくなってしまった。

小さな村の人々の暮らしを支えてきた教会が
かつての輝かしい姿を取り戻すように、
これから見守っていきたい。

Arkos2010 039






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comments(4)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2010-09-30_06:58|page top

上ドボイの彫刻の森

明け方に降った雨で、
しっとりとした空気が立ちこめる朝。
上ドボイの村へと車で向かった。

まだ眠そうな白いもやの中に、
うっすらと浮かび上がる広大な緑の畑。
ちょうどジャガイモの収穫で、
たくさんの人が駆り出されていた。

野原には、秋を告げる
イヌサフランのうす紫色がちらちらと目に付く。

ラツィおじさんの中古の車は、
大人4人、子供一人の重さでやや沈んでいるようだ。
ドアの隙間から吹いてくる風が、もう冷たく感じられる。

町から車で20分ほど行ったところにある、
なだらかな山のふもとにある村が上ドボイ。
3年越しでゆっくりと進める家作り。

概観は相変わらず屋根がついただけの状態だが、
中はコンクリートで地面が固まり、
だいぶん部屋らしきものが見えてきた。

山の斜面にある上ドボイ村。
家のある土地には、
崖を上ったところにもうひとつの小さな庭がある。
ここでも、イヌサフランの花が出迎えた。

doboly 0sz 002

日光があまり当たらない日陰なので、
透きとおるようなうす紫色の花びらも
ここでは色濃く咲き誇っている。

doboly 0sz 003

女性の仕事は、プルーンを収穫すること。
今年の5月に、たくさんのコフキコガネが飛び交っていた
あの木には、たわわに青黒い実が生っている。

プルーンには、
楕円形で種が外れやすいものと、
円形で種が外れにくく
プラムのように水分が多いものとがある。

細長いものはプルーン団子やジャムに、
円形のものはコンポートにすると良いという。
それでもほとんどは、
トランシルヴァニア名物のプルーン酒に使われる。

doboly 0sz 008

とてもじゃないが、
ひとつひとつ手でもぐことはできない程。
ダンナが木に上って、力いっぱい揺する。
枝が大きくしなって、
しっかり熟れた大きな実が
ボトボトと音を立てて飛んでくる。

doboly 0sz 011

甘いにおいを漂わせたバケツがいっぱいになると、
桶の中へいれ、その中で発酵する。
やがて冬になると、
その果実酒を蒸留させる作業があるそうだ。

近所のヒツジの群れが、やってきた。
向かいの家には、久しぶりに
イロンカおばあさんが帰っている。

doboly 0sz 017

去年足の骨を折って、
ひとりで暮らすことのできなくなったおばあさんは、
娘たちのところを転々としている。

「 私の息子はね、
 30の時にヒツジの群れに出くわして、
 猟犬にほとんどかみ殺されそうになったのよ。」

80を過ぎたおばあさんは、
来客があるたびに悲劇的な話を聞かせるのが常だそうだ。

doboly 0sz 005

ドボイの村には水道はなく、
みな共同の井戸を使っている。
今では珍しいつるべの井戸が、
少しきしんだ音を立てながらも活躍している。

doboly 0sz 024

そもそも、この小さな村に土地を買うきっかけになったのも、
2006年の夏、近くに家を買った友人を訪ねたことだった。
ブダペストの美大を出たあと、
静かな村の生活を選び、この村に越してきた。

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バルニの家は、ちょうど森への入り口。
秋になると、夜な夜なクマが山を降りてくるらしい。
こんな証拠も残っている。

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かつて白い涼しげな花をいっぱいにつけていたアジサイも、
秋とともに美しく朽ちていく。

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入り口の高いところには、
木でできたウサギが立っている。

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彫刻家にとって、
森に囲まれた住まいは理想のアトリエでもある。

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ちょうど作りかけの作品は、
木のトレイ。
農村に残る木彫りの古いテクニック。
大きくカーブを描いた連続模様は、
まるで日本の波の文様のよう。

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入り口の門も、
伝統的な形に習っている。

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最小限の飾りで、
こんなにも美しい。
シンプルかつ素朴な模様。

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十字架のオブジェに刻まれたハート。
これだけで、生命をも感じさせる。

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切り株に何気なくおかれた釘や
雑草の一本でさえ、
アーティストの空間では何か意味ありげに
主張しているようだ。

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部屋のなかに入るとすぐ、
真っ赤なタペストリーと緑の家具が
目に飛び込んできた。

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手作りのベッドにかけられた
ベッドカバーとピロカバー。
そしてタペストリー。

どれも別の村の手芸なのに、
不思議としっくりとなじんでいる。

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まるでアンティーク家具のような、
年季を感じさせる木の味わい。
黒ずんだ木の上をすべるように流れる、
木彫りのモチーフ。

doboly 0sz 053

「 これをコバスナで見つけたときは、
 真っ黒の布だったよ。」

家庭で染色されたデリケートな色彩は、
幾何学模様の鋭いかたちをさらに際立たせている。

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私たちの土地へと導く
もうひとつの入り口には、
柳の木のアーチができていた。

ふたつの木がしっかりと手と手をつなぎあい、
これからだんだんと大きくなっていくのだろう。

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生活をすることとは、
美しいこと。
村で孤高に生きる、
アーティストの丁寧な暮らしを垣間見た。




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comments(2)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2010-09-21_06:42|page top

小ボロシュニョー村の秋の一日

ある晴れた秋の日。
友人の別荘がある、小ボロシュニョー村へ招かれた。
その週末は、何家族かがあつまって共同で生活をし、
聖書を読んだり、お祈りしたりという
集まりが開かれるという話。

kisborosnyo 002

小さな村のカルバン派教会。
チューリップのもようが美しい、
教会の壁のレリーフ。

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村の中でもひときわ大きいお屋敷。
ここが友人の母方の家である。

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100年ほど前に、
酒造工場を作って富を築いたという。
友人の祖父母の肖像。

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古い家具や食器で飾られた室内。
祖父母の時代そのままに、
部屋の品々は呼吸をつづけている。

kisborosnyo 034

太陽のひかりが差しこむと、
その古い調度品は生き生きと輝きを取り戻す。

kisborosnyo 039

かつての納屋や蒸留工場は、
すっかり色あせてしまった。
こういう奥まった村へは、
若い世代は生活をすることができずに、
別荘として残すのがやっとのこと。

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大家族がそろっての昼食会。
野外で薪を燃やして料理した、
豚肉とキャベツの煮込み。

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広い庭で子供たちは走り回り、
小川でカエルを捕まえたり、
プルーンの木によじ登って食べたりしている。

柵のむこうは、ジプシーの一家が住む。
子供たち同士は相手に興味津々。
素朴な村の生活になじむ彼らは、
柳の枝で弓を作ったり、
小さな弟をバーベル代わりにして体を鍛えている。

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かぼちゃも黄色く色づいてきた。
おいしそうに見えるが、
こちらは飼料用のかぼちゃ。

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村の民家の中をのぞかせてもらう。
水道のない村のキッチンには、
大きなバケツが並んでいる。
ひとつが手洗い用で、もうひとつが飲料用。

kisborosnyo 068

ファル・ベードゥーは、「壁を守るもの」という意味。
飾りであると同時に、
漆喰で固められた壁を傷から守り、
ベッド脇では冷たい壁を暖かくしている。

クロスステッチで刻まれた信仰の心。
「 毎朝、目が覚めるたび、
 神様、あなたを祝福します。」

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くし入れとブラシ入れ。
オンドリとバラのフリーステッチが素朴な味わい。

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村の空き地に、白い雲のように群がる羊たち。
ひとりの老人がじっと佇んでいた。

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やがて秋がすぎ、
この地方に緑が枯れると、
山を越えて、はるか遠くの土地へと
草を求めて旅をする。
厳しい自然に立ち向かい、
時には孤独と闘う羊飼いの姿は、神秘的である。

「 夏の間は孫といっしょに野原にいたんだが、
 もうすぐ学校がはじまるから、帰ってきたんだ。」

kisborosnyo 095

やがて家に帰っていた孫が帰ってきた。

「 将来は羊使いになるよ。
 僕の父さんも、おじいさんもそうだった。」としっかりとした眼差しで語る。
日本でいうと、中学二年生。

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ゆったりとした時間の中で生きる羊使いは、
たびたび木の枝から美しい彫りのステッキを作り出す。
小さなナイフで少しずつ削ったという。
2007年の作品。

kisborosnyo 116

うっかり話し込むと
羊たちが隣の家の庭に入り込んでしまいそうになる。
慌てて少年は追いかけていった。

kisborosnyo 120

秋の光をいっぱいに浴びて、
ゆったりとすごした日曜日。
ダリヤの花も、美しく色づいた。

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comments(2)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2010-09-15_04:50|page top

カロタセグ地方で出会った極上の衣装

カロタセグ滞在の4日目。
かつてから訪ねてみたいと思っていた、
人里はなれた小さな村を目指す。
すでにもう村を離れて、軽く6kmは歩いてきた。

何でもバスも電車も通らないというから、
ヒッチハイクで運試しを図る。
思ったよりも少ない交通量。
時間はどんどんと過ぎていく。

仕方なしに、村の女性と話をつけて
隣村まで運んでもらうことになった。

車は高い丘をのぼり、
羊使いくらいしか通らない小さな道をひたすら進む。
ひとつ丘を越えてしまうと、
向こう側の風景が見渡せた。
「 さあ、ここからは車道がないから、歩くといいわ。」

IMG_2791.jpg

トウモロコシ畑が続く丘をさらに登っても、
なかなか目指す村は見えてこない。
頭にかぶったスカーフを通して、
真昼の太陽光線が容赦なく降りそそぐ。

舗装のない砂利道で足をとられて、
まっすぐに歩くのがやっとだ。
休もうにも、日陰などどこにも見当たらない。
とにかく、前に前に進むのみ。

村のはずれが見えてくると、
足取りもいつしか速くなった。
村はしんと静まり返って、
人の気配もほとんどしない。

やがて人の声のする家に訪ねて聞いてみると、
ジプシーの若い女性が、
隣人の家へと案内してくれた。

「 この暑いなかを、よく歩いてきたわね。」
おばあさんが水を持ってきてくれた。

長い髪が黒い布と巻きつけられ、
ひとつに編みこまれている美しい髪型。

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手仕事の部屋を探していると告げると、
お隣さんを紹介してくれた。

一人で暮らすおばあさんの部屋には、
枕が高く積み上げられたベッド、
生活空間の中に手仕事が自然と溶け込んでいる。

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クロスステッチのベッドカバー、
織りの縞模様の枕がきちんと並べられている。

IMG_2805.jpg

「 この村は小さいから、
 パンも週に2回しか運ばれてこないわ。

 息子は町で暮らしているから、
 私はシャツを縫ったり、刺しゅうをしたりして生計を立てているのよ。」

やがておばあさんは、
たんすの奥から目にも鮮やかなエプロンをそっと取り出して見せる。

「 私の母親が作ったエプロンよ。
 かつてこれを着て、日曜日の礼拝に出かけていたの。」

IMG_2828.jpg

白熱灯の下でも分かるその美しい色、上質の光沢。
光の当たるベンチにそっと置いてみる。

花模様がうっすらと透けて見えるシルクの布。
その白と赤の鮮やかさは、
まるで日本の婚礼の着物を連想させる。

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四角くシルクのリボンで縁取られたものは、
「窓型のエプロン」といわれ、
カロタセグでもっとも特徴的な衣装である。

シルクの布に施された
豪華なバラもようのサテンステッチは、
ため息をさそう。

IMG_2837.jpg

漆黒のシルク布には、
黄色のチロリアンテープ。
「 昔はこのリボンは、パリでしか手に入らなかったのよ。
 やがてチェコにも運ばれてくるようになってからは、
 わざわざこれを買いに行ったものよ。」

くるくると巻いてあったリボンを解いてみると、
水玉もように刺しゅうがされてある。
極上の衣装は、後姿さえ美しい。

IMG_2831.jpg

日曜日にずっしりと重いエプロンを身につけて、
教会へと赴く。
それ自体が、神様に出会う儀式のように
洗練された行為のように思われる。

IMG_2830.jpg

見せてもらった写真たての中に、
おばあさんの母親がこのエプロンを身に着けて立っていた。
先ほど手に触れた衣装が、
この古い写真の中にも息づいている。
それは不思議な感覚だった。

IMG_2840.jpg

小さな村に再び出る。
あれほど強く世界を照らしていた光は、
少しやわらいでいた。

教会の壁にもたれるようにして、
いすに腰掛け、針仕事をするおばあさんたち。
こんなところで手芸の会が開かれている。

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教会の作る日陰の下で、
お隣さんとおしゃべりに花を咲かせて・・・。
きっと針仕事も、家の中よりずっと
はかどるのだろう。

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内の一人に、家の中を見せていただく。
カロタセグの透かし彫りの家には、
モミの木と狼のモチーフの飾り。

IMG_2867.jpg

桃色のカーテンに透かされた家の中。
おばあさんの自慢の手仕事は、
すべてこの部屋の中に封印されている。

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家具も花なら、クッションもカバーも花。
ランプまで花のもよう。
どうして、こんなに花を愛でるのが好きなのだろう。

IMG_2882.jpg

カロタセグ地方でも有名な、
イーラーショシュ刺しゅう。
おばあさんは、青い線だけの布を広げて見せてくれた。

「 この村でも、刺しゅうの図案を描く人がいてね。
 いつもそこへ持っていくのよ。」

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教会で賛美歌を歌う、アンナおばさんを訪ねた。
「 こんにちは!」と玄関から叫ぶと、
「 どなた?」と返ってくる。

少し返答に窮して、
旅行のものであることを答えると、
奥から出てきたのは、活発そうな女性。

「 まあ、誰が私のことを話したの?」といいながらも、
むしろ喜んでいる様子。

イーラーショシュの図案を描いているところを見たいと告げると、
たんすの中から、手織りの布をさっと取り出して、
「 それじゃあ、あなたのために特別な図案を描いてあげましょう。」
と唄うように言った。

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型紙の入った小箱から、
ひとつずつ可愛い形を取り出していく。
私の好きな鳥のもようを出すと、
すっと青いボールペンがその脇をなぞっていく。

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「 さあ、ここには大きな花をつけましょう。
 こんな風に、きれいな飾りをつけてね。」とおばさんのメルヘンの世界が、
その古いリネンの生地の上にどんどんと膨らんでいく。

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アンナおばさんは、最後まで笑顔で
外国で出稼ぎをしている息子や孫たちの話をしながら、
あっという間に、小さなクロスにフォークロアの花を咲かせた。

お支払いを・・という私を制して、
「 これは、心からの気持ちで描いたのよ。いらないわ。」ときっぱり答える。

「 刺しゅうができたら、
 きっと完成したものを見せてちょうだい。」

IMG_2979.jpg

小さな村。
村を後にしたのは、
もう日がオレンジ色にかすんで見えた頃だったけれど、
体は不思議と軽かった。
車も通らない、原っぱの中の道をどんどんと上っていく。

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太陽の光は、もう体を心地よく包むだけだった。
小さな丘をいくつも越えて、
元来た道とは違う方角へと歩みを進める。

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カロタセグの丘を足で歩いて、
探した手芸の旅。

冬に雪で閉ざされた中、
人々はどのように手芸と向き合っているのだろう。
まだまだ、旅はこれからも続きそうだ。

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*トランシルヴァニアの手仕事について、
 詳しくはもうひとつのブログにて。
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comments(4)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2010-09-11_06:37|page top

カロタセグのルーマニア村

ルーマニアでの列車の旅には、
数々の忘れえぬ思い出がある。

8人がけの小さなコンパートメントで、
思いもよらぬ出会いや再会などの
ドラマが繰り広げられる。

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その日は、向かいでおしゃべりをしている
ルーマニア人のおばあさんたちと一緒になった。

IMG_2401.jpg

手織りの袋が気になったので、
聞いてみると、その村ではまだ手仕事が残っているとの話。
ノートにメモをして、
地図でその場所を確かめる。

同じカロタセグ地方のようだ。
ハンガリー人の村の方が有名な、カロタセグ地方。
ルーマニア人の村へも行ってみよう。
こうして、旅の予定は決まった。



朝早い電車に乗って、
小さな駅で降りる。
周りには村らしきものは見られない。

先を歩いていたおじさんに声をかけて、
調べておいた村の名前を聞いてみると、
ちょうどおじさんもそこへ向かう途中だという。
「 この村の神父がいとこだから、
 よくここには来るんだ。
 いっしょにおいでなさい。」

真っ青な空の下、
素朴な十字架の飾りが
旅の安全を祈ってくれているようだ。

IMG_2504.jpg

丘を越えて下を見晴らすと、
山を背景に大きな村が姿を現した。

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ちょうど夏の終わりは、
村では仕事が大忙し。
冬に家畜のえさとなる飼料をつんだ馬車が、
勢いよく通り過ぎていく。

IMG_2516.jpg

村の真ん中にあるルーマニア正教教会の横にある
民家に入っていく。
納屋でちょうど仕事をしているらしき、
家の主人に話しにいく、おじさん。

その主人とやらの声だけが聞こえる。
怒りで顔が硬直しながら、
ダンナがその声を訳して聞かせてくれた。
「 この村には、ハンガリーからたくさんの外国人がやってきた。
 もうこの村には、まったく衣装なんて残っていない。
 あいつらの目的は、ルーマニア人の民俗衣装をなくすことなんだ。」

「 教会の中も見せない。」という言葉で、
私たちはすぐに家に背を向けた。

仕方なく、ノートに書かれたおばあさんの名前を
頼りに村を歩く。
神父がこのような民族主義者なら、
村の人々の考えもそうなのだろうか。
多少の不安を覚えながら、村を訪ね歩く。

やがて、アニタおばあさんの家を突きあてた。
黒いスカーフをかぶり、
黒ずくめの衣装を着た小柄なおばあさんは、
ニコニコと出迎えてくれた。

たんすの中から、
手織りの布を見せてくれる。
「 今日は孫たちが来ているから・・。
 また別の時に、ゆっくり見せてあげるわ。」とおばあさん。

IMG_2539.jpg

親戚の女性が、今度は
お母さんの家へと案内してくれるという。
「 うちの家には、もっと古いものがいっぱいあるわよ。」

IMG_2548.jpg

うす青く輝く壁を、
赤や黄色の華やかな絵皿がぎっしりと敷きつめている。
「 この絵皿をすべて、売ってほしいという人もいたわ。
 当時は、アパートの1部屋が買えるほどの値段でね。
 でも、私は売らなかったわ。」

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ウールの男性用のコート。
カラフルなフェルト生地が、
はさみこまれてフリンジのように揺れている。

IMG_2591.jpg

「 この村でも、これほど古い衣装はほかにはないはずよ。」
とたんすの奥から出してくれたのは、
ずっしりと重い男性のシャツ。

かつて村の女性たちは、
渾身の力をこめて縫い上げたシャツを
花婿への贈り物とした。
その女性の力が込められた刺しゅう。

IMG_2631.jpg

繊維の亜麻から栽培し、
それを糸に紡いで、織って布に変え、
さらに細やかな刺しゅうを施して、
洋服に仕立て上げる。
途方もない時間、そして人の手の技・・。

それを着たものも、
作ったものもすでに亡くなっている。

時間の風化で色味を帯びてきた白の色味、
光を浴びて輝きを増す
象牙彫刻のような花の模様。
あまりにも美しい傑作のシャツは、
なぜか抜け殻のような哀しささえも漂わせている。

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列車での出会いから、
美しいシャツとの出会いが生まれた。
旅の不思議さ、面白さは
こんなところにあるのかもしれない。



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comments(2)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2010-09-10_01:46|page top

ボガールテルケの教会

秋風にそよそよとなびく、
葦に囲まれた一本道が村への入り口。

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その細い道の中ほどで
ふと足をとめると、
左手に白い塔の教会が見えてくる。

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日曜日の朝。
11時になると、鐘の音が
村のすみずみにまで鳴り響く。
やがて小さな村の通りには、
いつもより華やかな民俗衣装を着たおばあさんや、
スーツに身を包んだおじいさんたちが、
あふれだした。

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教会は、一週間の大イベントがはじまる前にも、
真っ白な灯りに照らされて、
村人たちの来るのを待っている。

プロテスタント教会は、
農村に息づいてきたフォークアートで
その内装を飾ることを奨励してきた。

ここカロタセグ地方では、
何よりもまず女性の針仕事が有名だが、
カセット状に並んだ天井絵が素晴らしい。

天井いっぱいに埋め尽くされた花模様は、
「民衆的ルネサンス」と呼ばれる。
中世を起源とする、古いもの。

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むかし収穫祭の後で、
麦穂で大きなリースを編む習慣があった。

膨大な年月を経て色あせた天井画と、
黄金色から黒ずんだ茶色へと風化したリースが、
教会の空間を特別なものにしている。

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教会の空間を彩る白いカットワーク刺しゅう、
その下には、赤のイーラーショシュが透けて見える。
太陽の光が刺しゅうの赤色を奪わないように、
という配慮がうかがえる。

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人魚がひとり、
花を手に持っている。
おとぎ話が生まれてきそうな、
メルヘンチックなモチーフも見られる。

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古いオルガン。
もう少しで、この部屋いっぱいに
賛美歌のメロディーが満たされるだろう。

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「 神様をたたえなさい。
 そうすれば、あなたの心の望みが満たされるでしょう。」
聖書の言葉が、一文字一文字、
丹念な針仕事で形作られている。

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安息の日曜日。
村の一日は、教会の高らかな鐘の音で呼び起こされる。





トランシルヴァニアをこころに。

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comments(2)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2010-09-07_04:20|page top
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