トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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ニワトリとボッザと虫たちと

春のある日、
ひとりで里帰りをしていた私の元に写真がとどいた。
ふわふわとした丸いヒヨコが3羽。
淋しがる息子のために飼いはじめたという。
電話口でも、息子は興奮して新しいペットのことを報告していた。
「今ね、タマゴ二個の大きさになった。」

イースターはもともと春の再生と生命の誕生を祝う祭りであったから、
多産の象徴とされるヒヨコやウサギ、またはネコヤナギが
ポストカードに使われることが多い。

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春に生まれた3羽のヒヨコたちを、
初めて見たときには、もう半分ニワトリ化していた。
声だけは外見を裏切るような、かわいらしいものだったが、
赤いトサカが見えはじめ、クチバシも足も黄色く尖っていて、野性味を感じさせる。
「コルミとチュプケとバルニだよ。」
と息子は一羽一羽を指して紹介する。
3羽のニワトリは、狭い我が家のベランダで日に日に成長していった。

問題は、やがて大きくなった雄鶏のコルミが
大きく鳴きはじめることだ。
朝一番に、ニワトリの一声でご近所の人たちが目覚めたら大変。
アパートの前は一軒家が並んでいて、
そちらからもニワトリの声は聞こえてくるのだが。
とにかく、目に見えて大きくなっていくニワトリたちの今後が大きな問題となった。

「ニワトリはもちろん家畜だから、絞めるべきだ。」
とダンナは平然としていっていた。
ヒヨコのころから名前をつけてかわいがってきたニワトリだから、
息子は当然反対するだろう。
腕にのせて、撫でられるがままにしているコルミを見ながらダンナが言った。
「ニワトリは、ひょっとして人間に一番近い動物かもしれない。」
やがて、焼き鳥の話は話題にならなくなった。

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6月になり、村に通う回数が多くなった。
北向きのドボイの村にも太陽の恵みがいっぱいにふりそそぎ、
春の終わりに植えた種も若草色の芽をふきはじめた。

ダンボール箱につめて運んできたニワトリたちを、
6月の芝がむかえてくれる。
ベランダ育ちの動物たちは、はじめて出会う大自然におびえたようにしていたものの、
やがてミミズを取ったり、草をついばんだりしてのびのびと過ごしていた。

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ドボイ村に二つ土地を買ったのは、息子が2歳のとき。
4年前に家を建てはじめて、いまだに仕事がつづいている。
家が建っている土地には、大きなクルミの木が影を作っていて、
もうひとつの土地は日当たりがよく、リンゴやプルーンの木が毎年たくさんの実をつける。

野生化しているボッザ(エルダーフラワー)の木。
6月になると小さな白い花をいっぱいにつけるが、この花は美味しいジュースになる。
砂糖でカラメルを作り、ボッザの花とレモン汁を入れて、
3晩ほどねかせると、さわやかな清涼飲料水の出来上がり。

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青い空を見上げると、
クリーム色の丸いつぼみと白い花がまぶしく輝く。
6月の旬の味のボッザは、ほかには喩えることのできないもので、
長い冬の間は無性に恋しくなるときがある。
青い空と太陽と、緑を感じさせる味だからかもしれない。

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誰も知らないところでひっそりと咲いていた花。
果物の木が茂っている影で、
春のはじめにはクリスマスローズが咲いていた場所で、
初夏には名もしらない花が、太陽に背を向けて赤紫色の花びらをひらいていた。

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ドボイの村で用事をすませた後は、ツォーファルバの墓場に向かった。
平原の上に広がる空では大きい雲が流れゆき、大きく固まり、
今か今かと雨を降らせるのを待っている。

入り口の門のところでニワトリ番がじっと座っている。
「今のうちに、草のにおいと土の手触りをしっかりとかみしめておいて。」

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花粉と甘い花の香りをベッドにしてすやすやと眠るカナブンたち。
長い夏の一日に昼寝をしたいと思っているのは、
人間だけではないようだ。

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見たこともない鮮やかな赤紫色の虫。
風に吹かれてしまわないように、
黄色い花の上で足をふんばっている。

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雨宿りをしようと、
小さな体をかくすために花を探している。
その花を選んだのは、大きさのため?
それとも美しさのためだろうか。

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いつもはせっかちなハエも、
このときばかりは雨に打たれないように体をしっかりとこわばらせて。

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さきの尖った花に足をとられないように。
この雨雲が去っていったら、
ふたたび青い空目指して飛んでいくのだろう。

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薄暗い空に、明るい光が差してきた。
大地は天からの恵みをうけて、
緑はいっそう輝きを増すだろう。
長い長い夏の一日が、もうすぐ終わろうとしている。

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comments(8)|trackback(0)|自然、動物|2012-06-30_18:05|page top

五月の木の立つ村で

時は少しさかのぼって、五月。
遠くの町から帰りがてら、
寄り道をしようとバスを下車した。
午後のやわらかな日差しが、村の中心に立ち並ぶ
赤茶色いレンガの家々を照らしている。
バスが通り過ぎてゆくと通りもしんと静まり、
代わりに鳥の鳴き声が聴こえてくる。

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門の脇にある、ひときわ鮮やかな若葉をつけた木が目に留まった。
雪のように真っ白い肌をもつしなやかな幹、
そして風にゆれてさわさわと軽い音を立てる葉っぱ。
白樺の幹をよく見ると、男性の名前が彫られているようだ。

「これは、五月の木といって、
女の子の住む家に、村の少年たちが届けるんだ。
夜寝ている間にね。」
夜がふけてから、若者たちが森や林へとでかけ、
白樺の木を切り、村へ運んでくる。
昔は、恋人だけが想う相手の家に運ぶという習慣だったようだ。
朝目覚めて、少女はどんな気持ちで若葉の木を見たことだろう。

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家の軒先で、甘い香りをいっぱいに放つライラックの花。
五月を代表する、季節の花は、
やさしいうす紫の色とともにその独特の芳香で
甘い夢の世界へと誘ってくれる。

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ちいさな村をあてもなく歩くうち、
珍しく大勢の人が集まる家があった。
足を止めると、ちょうど庭に家を建設しているところのようだ。
若い村の衆たちが集まっては、一杯やりながら休憩をしているところだった。
村に戻ってきた青年が新しい家を建て、
両親の住んでいた古い家を壊してしまうようだ。
家の中に入らせてもらうことになった。

古い民家に入ると、色彩に囲まれるという感じがする。
厳しい寒さのため、窓が小さく、家の中はうす暗い。
代わりに、漆喰の白壁を色彩と文様で埋めつくすことを考えた。
その色や模様は、いつも自然を想わせる。
青々とした草原、色とりどりに花をつける野の花、みずみずしい果実・・・。
この部屋の中で、いかに春や夏や秋を待ち望み、
冬を越していたかが窺えるようだ。

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開け放たれた窓の縁には、ツバメが羽根を休めていた。
ちょうど、泥でできた家から外に出てきたところらしい。
おとぎ話のような、かわいらしい壁絵の部屋と
ツバメがいかにもふさわしい気がして、しばらく見とれていた。

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その姿をよく見ようと近づくと、
突然バタバタという音を立てて、黒い影が部屋をぐるぐると巡っている。
鮮やかなエメラルドグリーンの壁と、
白い天井の星に向かって、力いっぱい羽ばたいた。

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comments(2)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2012-06-24_04:33|page top

伝統を守るもの、伝えるもの


ゆっくりと午前を過ごしてしまい、
急いでヒッチハイクポイントに向かった。
何度か止まってくれた車も、私たちの行き先を聞くと、
残念そうに扉をしめてしまう。

どれくらい待っただろう。
先ほども値段の交渉をして引き返したおじさんが、
ほかに二人客がいるからと乗り合いを勧めてきた。
車に乗って、その客を待っていると、
高齢に近い男性と中年の女性がふたり乗ってきた。
「行き先は?」
と聞かれ、村の名前を言うと偶然同じらしい。
さらに驚いたことに、その二人はスコットランド人だという。

「その村に家を買ったのよ。」
と隣に腰かけた快活そうな女性は、
ルーマニア語からハンガリー語に変えて話しはじめた。
少し話をしているうちに、すべらかな英語が聴こえてきた。
「あの村の人々は自信にあふれていて、
こちらの村はそれは勤勉な人たちでね・・。
カロタセグの村々は、それぞれに個性があって面白いわ。」

村にある古い民家を買い、家を改装して庭をつくり、
土地の農業を支援する協会を設立しているらしい。
「この付近には、美味しい土着のリンゴの種があってね。]
と話しながら目を向けている先には、野生のリンゴの木が列をなす丘があった。
過疎化しているカロタセグの村に、
こうした外の力が活力を与えて、何かが変わっていくかもしれない。

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車を降りて、二人と別れたあと、
私たちはブジおばあさんを訪ねに家へ向かった。
ところが、門に鍵がかかっている。
通りの横で農作業をしていたおばさんに尋ねると、
同じ村に住む親戚の家に行ったという。
引き返して、教会に向かう通りからわき道にそれていくと、
いつか月明かりの中をいっしょに訪ねたおばさんの家の前にきた。
「ブジおばあさんなら、さっき家に忘れ物をとりに行ったわよ。」
ダンナと息子を置いて、ひとりでおばあさんを探しにいくことにした。

おばあさんがいつも使う、秘密の通り道がある。
80をすぎても、記憶が少しも乱れず、
ちゃっかり者と言っていいほどしっかりとしたおばあさん。
通りから足場の悪い崖を降りて、
小川をこえ、今度は草の生い茂った崖を上ると、
しっかりと手入れのされた畑が見えてくる。
そこを通って、おばあさんの納屋の扉を開けると、
真っ暗の空間には干草のにおいがいっぱいに立ちこめる。
家へと通じる扉は、向こう側からしか開かない。
仕方がないので、納屋の中からおばあさんを大声で呼ぶことにした。
おばあさんがこちらに来るのが穴から確認でき、やっと扉が開かれた。
「まあ、あなたなの!」

洗濯物をたずさえて、先ほどの抜け道を越えていく。
先ほど出会った外国人の話をすると、
「あの家はこちらよ。」とつい寄り道をしてしまった。
いとこの家に戻ると、今度は彼女の姿が見えない。
おばさんを追って、家に向かったと通りにいた人が答える。
ふたたび私が呼びに行くと、ブジおばあさんより10は若いおばさんが
「彼女はよくも、こんな大変な道を・・・。」といいながら、
やっとのことで崖を上がってくる。
こんなに小さな村で行き違いが起こるのが、可笑しくて仕方がない。

村で唯一の図案描きであるブジおばあさんの部屋には、
いつも村の人の注文した生地が山積みになっている。
油紙に大切にしまわれたイーラーショシュの図案の数々は、
村の女性たちの想像力の賜物である。

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かつて村には有名な図案描きがいて、
彼女は誰にもその図案を手渡さず、
イーラーショシュの研究のために人が訪ねてきたときでも、
図案を写したらすぐにしまいこみ、
それは大切に扱ったという逸話もあるほどだ。
その後、彼女の遺品はどうなったかというと、
子どもがいなかったため、親戚の手に渡ったとされるが、
聞いてもどこにあるのかわからないという。

村の女性たちの素晴らしいところは、
今では図案を写すにも合理的な方法もあるし、
一昔前は図案がプリントされた布さえ出回ったにもかかわらず、
昔ながらの方法を守りつづけていることである。
昔ながらの手織りの麻布に直接、
ひとつひとつの線を手で描いていく。

熟練の腕であるから正確でありながら、
その一本の輪郭は、刺繍をする人の感覚で
モチーフの密度や刺繍の幅を自在に変えることのできる
「ゆとり」を与えている。

これから先、村で図案を描く人はおろか、
刺繍をする人もいなくなってしまうのかもしれない。
イーラーショシュという伝統が、生きたものであるのは
こうした最後の世代の人たちにかかっている。

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comments(2)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2012-06-18_21:22|page top

90歳のピアニスト

声を聞いただけで、安心感をあたえてくれる人がいる。
「あなた、去年カロタセグの村で会ったことがあったわね。
声に聞き覚えがあるわ。」
こちらが名乗る前から、彼女は私のことがわかったらしい。
木彫り職人のご主人と刺繍をするマーリアは、宿屋を営んでいる。
息子を連れての旅立ったため、確実に泊まれる場所があることは心強かった。

町の大きな通りに面した、アパート。
階段を上って、屋根裏部屋の一室が私たちの部屋だった。
二階は夫婦の居間や寝室があり、
一階はアトリエや小さな展示室となっている。
古くからのアパートらしく、通路となったベランダからは
大木や小さな畑で緑一色になった中庭が見渡せる。

朝目覚めて、階段を下りていくと、
どこからかピアノの音が聴こえてきた。
朝日の入りこむ通路に、ゆったりとした生命感をあたえているようだった。

居間で朝食をとらせてもらっていると、マリアがこう言った。
「私の祖父母は、どちらもクルージにある
ハージョンガリ墓地にお墓があるんだけれどね。
最近、変な法律ができてしまって、その墓のために税金がたくさんかかることになったのよ。」

トランシルヴァニアの歴史的、文化的中心地は今も昔もクルージ・ナポカである。
その墓地では、トランシルヴァニアを代表する偉人や知識人、貴族などが眠っている。
貴族をはじめとする裕福層だった人たちは、
社会主義化されると、
国外に亡命をしたり、財産を没収させられたりして、
不遇な時代をすごすこととなった。
やっと最近になって、先祖代々の土地を返却されたという話も聞くことがある。

「私の父は、もう90になるんだけれど、
一日中ピアノを弾いているのよ。聴こえてきたでしょう。」
やがて、その本人がガウンを着て入ってきた。
私たちと同じテーブルにつき、
朝食をつまんではおしゃべりをする。
ピアノを弾いているところをぜひ見たいとお願いをすると、
快い返事がかえってきた。

居間から階段をはさんで、向こう側にある部屋がそうだった。
部屋の扉をあけてもらうと、
先ほどまで聴こえていたほのかな音が大きく力強いものへ一変した。
年のせいで確かにゆっくりとしているが、ひとつひとつの音が力強い。
音楽の世界に浸りながら、
ひとり過ごすことができるなんてなんて幸せなことだろう。

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ピアノの音色とともに、その部屋の雰囲気に圧倒される。
壁をうめつくす油絵や古い写真、古く品のよい調度品の数々。
ある写真を指差して、マーリアが言う。
「これは、バルトークなどの弟子だった有名なピアニストで、
後にアメリカに渡ったんだけれどね。
私の父も彼から習ったのよ。」
医科大に通う前は、
音大の試験を受けてピアノ課にも在籍したことがあるという。

さらに、棚の上に置かれたトロフィーの数々は、
テニス選手という老人のもうひとつの顔を物語っている。
「この町にテニスコートを作ったのは、父が初めてだったのよ。」
長生きの秘訣はと尋ねたら、
きっとテニスとピアノという答えが返ってくるに違いない。


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comments(0)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2012-06-17_14:21|page top

カロタセグの信仰告白式

村で一夜が明けた。
朝早くペンションを出て、
昨夜のヒッチハイクポイントへと向かう。

予定していた場所へたどり着くことができなかった代わりに、
ダンナが近くの村へ行くことを提案してくれた。
もしうまく車に拾ってもらえたとしたら、
という仮説に基づいている。

カロタセグ地方はプロテスタント宗教圏である。
生まれてすぐに洗礼を受けるカトリック教徒に対して、
プロテスタント派では成人してから
正式に宗教を受け入れることを教義としている。
今日はちょうどその信仰告白式が行われる日であることを知った。

太陽がそろそろと顔を出し、
なだらかな丘をオレンジ色に染め上げる。
すぐに車が止まった。
大急ぎで、その車に向かって雪崩れかかる。
「オラデアまで行くよ。」とおじさんが言った。

車の中で安心したのか、
息子がダンナに後部座席から話しかける。
それを耳にして、運転席のおじさんもハンガリー語で話しはじめた。
ルーマニア人とハンガリー人の人口がほぼ半数ずつの町トゥルグムレシュから、
目医者にかかるために車を急がせている。
「子どもがいるのが見えたからね。」とおじさん。

私たちは、いくつか村をすぎた後、
とある村の前で車を降りることにした。
そこはハンガリーにつながる国道が通るので
戦後、たくさんのお土産屋が軒を連ねるようになった。
カロタセグの有名な刺繍をはじめ、
今ではありとあらゆる大量生産の品がごちゃごちゃと並んでいる。

通りを一本入ると、静かな週末の村が開けた。
電信柱にはコウノトリが巣を作っている。
その巣には、たくさんのスズメが住みつくから、
タイヤが置かれることもあるそうだ。

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村をうろうろ歩いていると、
門の前をほうきで掃いているおじさんがいた。
声をかけると、なにやら陽気に話しはじめる。
酒のにおいが鼻をついた。
私たちの目的を聞くと、
「刺繍をするおばさんのところへ、俺が連れて行ってあげるよ。」
と案内役を買って出た。

おじさんの案内で訪ねた家からおばさんが出てきて言う。
「そうねえ、イーラーショシュは昔は作っていたけれど、
もう白いカットワークの方が最近は売れるそうだから・・・。」
村の人の需要というよりは、通りがかりの旅行者向けのために作られるようだ。

古い家があるからと言われて、
おじさんの案内で一軒の家にたどりつく。
木彫りの古い門は、今にも倒れそうに斜めになっている。

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古い木造の家に跡につづいて入る。
小柄なおとなしそうな女性の案内で部屋に通されると、
空色の絵付け家具に、たくさんの手仕事、花模様の絵皿などが
一度に目にとびこんできた。
100年もの時が止まったまま、
自分の身がそこに投げ出されたかのような心地を味わった。

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「これが私の祖母よ。
古いスカーフを身につけているわ。」
と滞りながらゆっくりと女性の口が告げる。
その堂々とした気品のある姿は、
極上の刺繍をそなえた衣装に決して引けをとらない。

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彼女は次々と美しい刺繍を目の前に広げて見せてくれる。
その愛着が、たんすの置くから衣装箱の中から
そっと包むようにして運ぶ仕草に感じられた。
変わりゆく外の世界とはうらはらに、
祖母の遺産をひたむきに守りつづける女性の精神が胸をうつ。

やがて教会の鐘の音が高らかに、
ミサのはじまりを知らせてくれた。
小高い丘を登ると、とんがり屋根の白壁の教会が姿を現した。
5月の日差しをさえぎり中に足を踏み入れると、
鮮やかな緑の葉っぱが円を描くようにして並んでいる。
細いしなやかな幹に緑の葉を茂らす白樺の木は、
この式に臨む少年少女たちそのもののように初初しい。

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賛美歌をおくテーブルの上には、
参列者のために野の花のブーケが並べられている。

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カロタセグ地方のカセット型の天井は、
中世の美意識を今に伝えている。
聖書のエピソードからとったイメージや、
刺繍にも見られる回転する花のモチーフ、
太陽や月、星を象った絵模様がさんさんと輝いている。
刺繍のステッチを思わせる、幾何学模様の縁取りが美しい。

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教会は修復を繰り返しながら、今に伝わっている。
そのため、部分部分に別の時代の顔をうかがい知ることができる。
カーネーションの花束に蛇がよじ登っているような、不思議な図。
天井の絵とは違い、素朴な味わいがある天井画が
天井桟敷の席へ続く階段脇に見られる。

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鐘の音が十分に鳴り響いてたあと、
やがて民俗衣装に身をつつんだ16歳の若者たちが
牧師の跡に従ってやってきた。

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牧師のお説教や賛美歌のあとは、
信仰告白式がはじまった。
若草色に輝くまばゆい白樺の葉に包まれ、
紫と白の藤の花のシャンデリアの下で
若々しい声が神への信仰を誓う。

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牧師の尋ねる質問に、長々と滞りなく答える若者たち。
一生のうちで、これだけ宗教の意味を深く考える機会はないのではないかと思うくらい、
完璧な回答が彼らの口から響きわたる。
家族や親類たちに見守られながら、
彼らは自分たちの精神を高め、今まさに子どもから大人へ脱皮しようとしている。

9人の若者がひとりひとり話すので、約1時間ほどかけて式は行われる。
家族への思いを話す少女が、
急に胸をつまらせ、声を振るわせた。
その様子を見ている私たちの心にも、かつての自分の姿が重なり浮かんでいることに違いない。

やがて、苔で覆われた壇に膝まづき誓いを立てる。
イエスの血を表すぶどう酒と、
イエスの身を表すパンを口にして、
正式なプロテスタント派となった彼ら。

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やがて、一人また一人を教会を後にする。
祭りのあとの人のいなくなった教会で、
先ほど儀式が行われたばかりの神聖な場所へしずかに歩み寄った。
刺繍のクロスが、重ねあわされた祭壇には、
神聖なぶどう酒とパンが置かれている。
周りには、緑色の苔が小高い丘をなしていた。

木は永遠に緑色をしていない。
それでも、彼らの心はこの信仰の日を胸にもちつづける限りは、
この苔のように永遠の緑でいられるのかもしれない。

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薄暗く冷たい教会の中から、
ふたたび5月のまぶしい日差しをまみえたとき、
生まれ変わった若者たちと同じように晴れやかな気持ちが胸に宿っていた。

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comments(3)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2012-06-06_20:07|page top

信仰告白式の前日

お祭りでにぎわう村をぬけだして、
私たちは次の村へと向かった。
週末なので、電車は夕方にならないと来ないので、
村はずれで車を待つことにした。

クルージの町に戻る車ならば、
そこからバスに乗りついで下地方の村へ。
先のオラデア方面に行く村ならば、上地方の村へ。
親切な中年女性の車が止まり、クルージに向かうと話した。
そこで、次の行き先が決まった。

長距離バスに乗ったとたん眠気に誘われて、
気がつくと緑のかがやく森の中をバスは走っていた。
隣で頭をたれている息子を、深い眠りからゆり起こして
下車の心構えをする。

カロタセグ地方に国道ができると、
そこはハンガリーからの観光客の通り道になり、
村の様子も急激に変わっていった。
道路沿いにずらりと立ち並ぶお土産やさん、
そこで売られるものは地方の手芸品から
どこで作られたかも知れないありとあらゆるものまで・・。
それにしたがって、手芸の形もいつしか
早く簡単にできるものへと変わっていってしまった。

家の前では、おばあさんたちがベンチに腰かけ、
手を動かしている。
パーントリカ刺繍と呼ばれるもので、
バラのリボンの図案を大きく引き伸ばしたもの。
化繊の生地にシルクの糸で大きなステッチで刺繍されるため、
短時間でできるようになっている。

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教会の前には、白樺の幹が鮮やかな緑をかがやかせて立っている。
少年たちが忙しそうに動き回っていた。
教会の中に入りたいと告げると、
「明日、ここで僕の信仰告白式があるんです。」としっかりした少年が答え、
中へと通してくれた。

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青空を模したような、鮮やかな青に赤い刺繍がくっきりと冴える。
現在は赤や黄色や白で色付けされているカロタセグの家具も、
もともとは青だったといわれている。
古い民家の壁も漆喰をより白く見せるために、少量の青い塗料を混ぜていた。
また青は白に比べて、汚れが目立ちにくいというのもあるのかもしれない。

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うえを見上げると、カセット型の花模様が
ひとつの世界を造っている。
夜空にまたたく星のような花模様は、
天をより近く感じるための人々の工夫なのだろうか。
この下で、生命の誕生を祝福し、
若者たちを成人へと生まれ変わらせ、
若い男女の結婚を誓わせる。

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「明日の式では衣装を着るの?」と尋ねると、
普通のスーツを着るという。
比較的大きな村なのに、16歳を迎える若者は3人だけ。
衣装を持ってはいても、この村ではもう着ることがないのかもしれない。


村を出ると、そのまま国道沿いを歩いて次の村を目指す。
すぐ横を猛スピードで車が駆けぬけるので、
5月の美しい景色をゆっくり味わうこともできない。
人々はいつから忙しさの代わりに、
季節の移り変わりを感じるゆとりをなくしてしまったのだろう。

やがて隣村につくと、小川のほとりで休憩をした。
持ち寄ったパンなどをかじっていると、
大きな鳥が近くをはばたいて去っていく。
「黒いコウノトリだ!」とダンナが叫ぶ。
人里にくらす白いコウノトリに比べ、
森に住処をさがす黒いコウノトリはきわめて珍しいという。
カメラを探すことも忘れて、ぼんやりと大きな黒い羽を見つめていた。

息子が小川に足をつけて遊んでいるとき、
向こう岸から、ジプシーのおじいさんと孫が手をつなぎ歩いてくるのがふと目についた。
二人は河川敷を降りて、小川を渡ってくるように見える。
川の流れをしばらく見た後、
靴も脱がずにそのままジャブジャブと足をぬらして歩いてくる。
流れに足がとられそうな、ちいさな子供の手を強く引っ張りながら、
おじいさんは小川を渡りおえると、また何事もなかったかのように歩きはじめた。
ズボンのすそも靴もびしょぬれ。
やがて家に帰るころには、きっと乾くのだから気にもしないのだろう。

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ちいさな村を歩き、目的の手芸の作り手をさがすも
なかなか思ったような作り手には出会えない。
丘の上にある教会を見てから、
村を出るころにはもう西日が傾いていた。

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国道に出ると、ヒッチハイクを開始する。
ちょうど私たちが歩いてきた隣村が遠くに見える。
なだらかな丘が緑色のじゅうたんで包まれているように温かそうだ。
テントがあればここでキャンプができそうだが、
あいにく持ち合わせていない。

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1時間たって、すっかり日が沈んでしまった。
暗くなると、見知らぬ旅人を乗せてくれる人もいないだろう。
仕方なく元きた道を戻って、村のペンションを探すことにした。

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comments(6)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2012-06-03_03:33|page top
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