トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

カテゴリー

FC2カウンター

カレンダー(月別)

07 ≪│2012/08│≫ 09
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

これまで書いた記事は・・・

全タイトルを表示

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Feed Me!

トランシルヴァニアへの扉  - Erdely kapuja-のRSSフィード

ブログ翻訳

カロタセグの結婚式

カタリンおばさんの家は、
一週間前から結婚式の準備で大忙し。
「昔みたいに、自宅で式をするなら最低でも
二週間は準備が必要だけれど。それでも大変よ。」

結婚式は、花婿の実家から幕を開ける。
空高くそびえるモミの木の飾りは、
この村独特の習慣のようだ。
クリスマスツリーを連想させる
華やかな紙の飾りが、祝いの場に彩をそえている。

kalotaszeg2012aug 319

披露宴に招かれる参加客ではなくて、
ただの見学であるからどこに身をおいていいか分からない。
そうしていると、華やかな伝統衣装に身をつつんだ人たちが
お菓子や飲み物をすすめてくれる。
花嫁花婿に一番親しいものが選ばれ、
このように結婚式を先導する役割がまかされる。

kalotaszeg2012aug 316

花婿が家族に感謝の言葉を添えて、
いよいよ花嫁の家にむけて出発。
ヴァイオリンやブラスバンドの演奏が、
晴れ晴れしく青空に響きわたるようだ。

kalotaszeg2012aug 324

音楽のリズムに合わせて、大勢で村を歩いている心地よさに我を忘れて、
ふと見回すと、黒いスーツ姿の男性の群れの中にいた。
花婿の親類を先頭に、次に男性の集団、
それから楽団で、最後に女性たちがつづく。
教会の席のように、男性女性の区別がここでもしっかりとついている。

丘を下って、村の中心を過ぎてから、
小川を渡す橋をわたると、花婿の家と同じようにモミの木の柱が飾ってある家があった。
花婿が到着しても、門はなかなか開かれない。
ここで儀式的に、花婿の付き添いのものが話をつけて、
ようやく中に入ることができた。

kalotaszeg2012aug 332

花嫁の実家の庭では、白樺の木が飾られて林を作っていた。
花婿が玄関の前で花嫁をもらいにきたことを告げると、
家の中から少女が現れた。
「10年前は、こんな感じだったかもしれないけれど、
もっと年のいったのを出してくれ。」
花婿の付き添いが皆の笑いをさそうと、
今度は伝統衣装をきた美しい女性が現れた。
普通ならば、年寄りのおばあさんが出るところなので、
意をつかれたような空気が流れた。
「ちょっと年が多いような気がするが、
いっそ、これで式を挙げてしまうか。」
それでは場が白けてしまうので、
すぐに白い花嫁衣裳を着た若々しい女性が出てきた。
こうして、若い二人はようやく会うことができた。

kalotaszeg2012aug 333

それから、食べ物と飲み物を手におしゃべりがはじまる。
黒い服に身を包んだボルビおばあさんの姿を見つけた。
近くに行くと、親しい笑みをいっぱいに浮かべて私の腕を組んだ。
おしゃべりをしながらも、おばあさんの腕の温かみが伝わってくる。
「うちの孫娘も衣装を着ているわ。」と誇らしげに少女を指さす。
結婚式で伝統衣装を着る人の数も、年々少なくなっているようだ。

花婿の母親のカタリンおばさんが、あたりを見回しながらやって来た。
あなたを探していたのよ、と手を引くようにして、
花嫁の家の中へとうながす。

一室に足を踏みいれると、
思わず歓声を上げてしまうほどの見事な部屋だった。
空色に赤いバラの花の絵付け家具に、
隙間がないほどに壁を彩るカラフルな皿、
そして、天井に届くほど枕が積み上げられた飾りベッド。
これこそ、花嫁の結婚を待ちに待って、
花嫁の母親が、かつては花嫁自身が手作りした嫁入り道具。
何でも買えば手に入る時代では、
想像も及ばないほど価値のある美しい品々。

昔は、この飾りベッドを馬車に乗せて、
結婚式の行列とともに村を回っていたそうだから、
村人全員の注目を浴びる一大事だったに違いない。
その刺繍が美しければ美しいほど、
その品が多く見事であればそれだけ、
花嫁そのものの価値として見られていたという。

kalotaszeg2012aug 342

黒い鳥が向かいあい、
愛の言葉をささやきあう。
結ばれたばかりの若い二人にふさわしい。

kalotaszeg2012aug 341

部屋から出ると、
玄関の前に花嫁が立って家族に向けて
別れの言葉をささげているところだった。
声をふるわせ、とぎれとぎれに聞こえる声は心をうち、
花嫁の涙が人々の間にじわりと伝染していった。

kalotaszeg2012aug 344

カタリンおばさんの刺繍したイーラーショシュのクロスは、
ドーナツ型のお菓子の間を通して巻かれる。
結婚式の晴れの舞台にふさわしい赤い刺繍。
これは、結婚式の後も清潔の部屋に飾られ、
結婚式のシンボルとしてずっと大切に保管される。

kalotaszeg2012aug 349

行列はもと来た道をもどり、
私たちの住む家の横を通って、今度は坂の上の教会へと向かう。
ジンデイと呼ばれる、木の板で敷きつめられた
とんがり屋根の教会はカロタセグの象徴として親しまれている。

kalotaszeg2012aug 359

花嫁の涙もすぐに乾いて、笑顔が灯った。
世にも美しい教会で誓いを交わし、
村人たちに見守られて結ばれる。
二人の幸せを想い、教会を後にした。

kalotaszeg2012aug 365

★トランシルヴァニアの手芸に関しては、
もうひとつのブログにて。
結婚式とイーラーショシュ

スポンサーサイト

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(2)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2012-08-31_05:15|page top

夏の日の遠足

真夏の太陽の下、
村での生活が流れるように過ぎていく。

火をおこして薪で食事をつくり、
たらいを水でいっぱいにして洗濯。
日中はりんごの木の下でマットを引いて、
手仕事をしたり読書をしたり。
夕暮れ時に原っぱから家路につく家畜の群れを見送り、
新鮮な牛乳を求めにご近所へ散歩する。
夜はまたたく星を眺めながら炭火でナスやジャガイモを焼くこともあった。

村での生活が慣れはじめたある日、
その日常から一歩踏み出すために近くの村を目指すことに決めた。
村にはバスも電車も通らないため、
車のない私たちは歩くしか手段がない。
村を流れる小川に沿っていくと、ある村に行き着くという話をきいた。
以前は村の人たちも歩いて近隣の村に行っていたが、
車が普及してからは行き来がとだえ、
しだいに草が繁茂して道も消えてなくなったという。

村はずれのジプシーの家族の住む家をいくつか通り過ぎると、
小さな流れにぶつかった。
石を飛びこえ、向こう岸にたどりつくと、
岩がそりたつ林の中を歩いていた。

kalotaszeg2012aug 112

時折、足元をとげのある雑草がかすめていくけれど、
自然のままの小道は遠足気分をかりたててくれる。

kalotaszeg2012aug 118

雑草の生い茂る道から視界がひらけると、
今度は藁が積みかさねられ、巨大な山となっているのに出会った。
まるで精霊の住処のようだ。

kalotaszeg2012aug 136

きれいに草の刈られた芝生の先には、
青りんごの木が実をいっぱいにつけていた。
落ちたりんごを拾って食べていると、
突然、人の怒鳴り声が落ちてきた。
不安になって近づいていくと、
村のルーマニア人のおじいさんが鎌を手に立っていた。

kalotaszeg2012aug 219

「ああ、ジプシーの子供たちかと思ったよ。
最近、うちの土地にやってきては、りんごをたくさん積んでいくんでね。
そこにプルーンもなっているから、味見をしていきなさい。」
おじいさんは90歳。
ただひとり、この村のはずれまで来ては草を刈っている。
持ち寄ったクッキーをいくつか手渡すと、
美味しそうにほお張りながら語っていた。

気がつくと小川が途絶えたので、
緑色の丘を登っていく。

kalotaszeg2012aug 144

あたりには白樺の林がすずしげな音をたてて風になびいていた。
植物は乾いた大地に根を張り、精一杯に花を咲かせている。
もう少しでも雨が降ったなら、
花も緑も息を吹き返すだろうが、ここ数週間雨が降らない。
緑色の大地に、忽然と茶色い谷が現れた。
美しい自然がここだけ切り取られて、
砂の発掘場となっている。

kalotaszeg2012aug 146

小川沿いの道が見えないので、
仕方なく砂山から県道に入り、小さな村を素通りしてさらに進む。
道なりに植えてあるりんごの木の下で食事を取りながら休憩をして進むけれども、
目指す村は一向に見えてこない。
カロタセグ地方特有の丘の連なる風景では、
村々はまるでひとつの世界のように孤立して存在している。
それなのに、文化を共有して、ひとつの地方として確立しているのが面白い。

後ろから馬車が近づく音が聞こえてくると、
みるみる内にその姿はちかづいてきて、
干草のにおいをいっぱいに運んできた。

kalotaszeg2012aug 165

「ブナ・ズィウア。」とあいさつをすると、
坂の途中でおじさんは馬車をとめて、
後ろに乗った少年が息子に手を差し出した。

kalotaszeg2012aug 167

悠々と丘を登っていく馬車を、追いかけ歩いていると、
今度は少年が馬車を降りて、席を譲ってくれた。
ふわりと体が浮くような感覚で、
馬車がゆっくりと動き出す。
坂を上りつめ、下り道に差しかかると、
馬車の後ろに取り付けてあるブレーキをかける。
馬の蹄の音も、スピードに合わせてだんだんと早まっていく。

丘の斜面が段になっているのは、
昔はどこも畑になって村人たちが働いていたからだそうだ。
今では、ほとんど働き手がいないため、ただの放牧地となっている。
このように孫を畑に連れて行き、
仕事をさせる大人ももうあまり見られない。

夏の香りをいっぱいにのせた馬車が、
にぎやかな音とともに村にたどり着いた。


Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(2)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2012-08-26_20:14|page top

村の一日

朝早く、夢のなかでまどろみながら、
動物たちの足音とともにカランカランと鳴るベルの音を聴いていた。
村の朝は、早い。
動物たちとともに目覚め、
朝露にぬれた原っぱで畑仕事がはじまる。

カタリンおばさんの家は、結婚式の準備で大忙し。
親戚総出で一週間前から、
家の壁を塗りかえたり、窓を拭いたり、
料理を作ったりの大仕事がつづいている。

ゆっくりと朝食をとっていると、
おばさんの姪子さんが一人息子ゾルターンを連れてやってきた。
息子に遊び相手ができたので、
一日中、庭の砂場で子供たちが遊んでいる。
焼けつくような太陽の光も、大きなリンゴの木の陰がカーテンを作ってくれる。

昼が近づくと、
庭に薪をくべて火を燃やし、
そこで煮炊きをはじめる。
炭になると、今度はナスやリンゴを置いてじっくりと焼き、
ナスのペーストや焼きリンゴを作る。
最小限のものを村の店で買うだけで、
後はいろいろな人から譲ってもらったもので十分に事が足りる。

日がだんだん西に傾き、
太陽がオレンジ色に変わりはじめたころ、
牛や馬たちが野原から帰ってくる。
一日の最後に見る風景が、村の生活の中で一番好きだ。
真夏の日差しが和らいで、
村人たちも軒先のベンチに腰をかけて、
家畜が家の門に入っていくのをおしゃべりをしながら眺めている。
しずかな通りもこの時ばかりは、にぎやかな活気で満ち溢れている。

kalotaszeg2012aug 045

カタリンおばさんの所へいくと、
ちょうど帰ったばかりの牝牛の乳を搾っているところ。
小さな木造の小屋に、まだ夏の原っぱの熱気がこもっているようだ。
「今年は日照りだからね。
いつもより牛乳の量が少ないよ。」
まだ湯気の出ている白い液体のいっぱいになったバケツを家に運ぶと、
そのまま小さなコップに入れて勧められた。
「これが本物のバイオの飲み物よ。」
真っ白い乳がのどを通っていくと、
さわやかな甘さが口の中を広がっていく。
夏の原っぱの太陽の光をあびた牝牛の体の熱が、
そのままに真っ白い乳の温度となって伝わってくるようだ。

ペットボトルいっぱいの生暖かい牛乳を持って、
なんとも幸せな気持ちで
紺色に染まった坂道を下っていく。
豆電球のともる小さな部屋で夕食をとった後、
小さな訪問者が家の庭に来ていた。
ダンナの大きな手にのったハリネズミは、
おそるおそる身を縮めながら、針をいっぱいに逆立てている。
先ほどの牛乳を皿に注いでしばらく放っておくと、
丸い鼻を出して物凄い勢いで舌を動かし
みるみる内にぜんぶ飲み干してしまった。
小さな動物が慣れはじめたと思った頃、
不意にその小さな体は闇の中に姿を消していた。
上には、星がいっぱいにまたたくばかりだった。












Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(8)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2012-08-15_17:39|page top

カロタセグの夏休み

夏の終わりの一ヶ月を、
海でも山でもなく、
カロタセグのしずかな村で過ごすことに決めた。
いつもは急ぎ足で眺めた風景も、
今度はまた違った表情を見せてくれるかもしれない。

カタリンおばさんの案内で、一軒の小屋で荷物をひも解いた。
数年前まで、エプロン作りで有名なおばあさんが住んでいた家。
部屋の中はマットレスだけ。
家から持ってきたお皿とスプーン、町で買ったおなべがひとつ。
それでも、夜には電気がつき、
錆びたガスコンロを備えつけて
やがて生活らしいものがはじまった。

カタリンおばさんから、週に二回新鮮な牛乳を買い、
ペーテルおじさんからは甘くとろけるハチミツを、
エーヴァからは真っ赤に色づいた大きなトマトとキュウリをもらった。
家の横には青リンゴの木が、たくさんの実を落としてくれる。
日に一度は、薪をくべて鍋でジャガイモのパプリカ煮をいっぱいに作る。

kalotaszeg2012aug 081

たくさんの人の親切な心に支えられて、
村の生活は前途洋洋。
これから3週間、
村での生活がはじまる。

kalotaszeg2012aug 036

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(0)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2012-08-14_01:51|page top