トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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ブログ翻訳

2014年の終わりに

みぞれで始まった今年の冬。
それからは、再び秋に舞い戻ったかのような暖かさが続いた。
不思議なほど温かく、乾いたクリスマス。
冬の厳しい寒さが姿を隠し、そのまま春がやってくるかのように思えた。

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今年は、我が家のきまりで
買い物をせずに、手作りのプレゼントをすることに決めていた。
せわしく買い物のために時間を費やすこともなく、
冷蔵庫の中は少し寂しいけれど、
その代わりにゆったりと時間が流れた。

息子は妹のために、電気工学でクリスマスの灯りを作った。
色とりどりに眩しい光を放つLEDの飾りは、いかにもこの時代らしかった。
夜な夜なトンカチを叩く音が耳障りで夫をとがめた後、
偶然にも部屋の隅で小さな針金の飾りを見つけてしまった。
ハートや渦巻き模様の細かな飾りを手に取って眺めていると、
「それはクリスマスのプレゼントだよ。アクセサリーを作ろうと思っていたんだ。」と残念そうに漏らした。
時間がなかったため、結局それはクリスマスツリーの飾りとなった。
娘には、ブラウスの生地を裁断して端を手で繕っていたがそれもそのまま。

私は息子のために、フェルトで首からかける財布を作った。
娘には、お手玉を作ることに決めていたので、
イブの夜に息子といっしょに、クリスマスの歌を聴きながら針を持っていた。
小さな俵型の布に、黄色いレンズ豆を詰め込んだ。

祖父母から子供たちへ送られたお菓子やフルーツでツリーの下はにぎやかになった。
こうして私たちのささやかなクリスマスは始まった。
小さないざこざはあるが、平穏で健康に過ごすことができることに感謝した。

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クリスマスは3日の休暇が続く。
その間、町は眠ったようにひっそりと静かだ。
家族や親せきを訪ね、家の中で集うこと。
それだけがクリスマスの過ごし方であるように、
昼と夜の区別がつかないくらいに表はただひっそりとしている。

それから、人々はゆっくりと腰を上げ、
友人や知人を訪ねたり、家に招いたりする。
いつもは静かな我が家も、この時ばかりは来客でにぎやかになり、
オーブンからはお菓子の香りがこぼれ、
鍋から出る湯気が部屋を暖かく包みこむ。

一年も足早に別れを告げようとしていた頃、
冬であったかを忘れていたように雪が降りはじめた。
それから突然、寒さがやってきた。
大みそかの朝、我が家の窓の内側に氷が流れ込んでいた。

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手で触れると、すうっと溶けてしまうほどの細やかな雪。
見渡す限り白い風景が、この年最後の贈り物だった。
その代り、空気は恐ろしく冷たく、あらゆるものを凍らせてしまう。
息を吸い込むと、肺が重く、むせ返ってしまう位だ。

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子どもたちを連れて、そりを走らせる。
沢山のごちそうとお菓子を持って、これから村に向かい、
一年の最後をにぎやかに締めくくろう。
来年も笑って過ごせるようにと願いをこめて。

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comments(2)|trackback(0)|自然、動物|2014-12-31_22:20|page top

村がダイヤモンド色に染まった日

どんよりと重たい雲が空を支配し、
時折つめたい雨を降らせる。
なかなか冬へと移行しない、寂しい晩秋の日々が続いた。

ある日、ねずみ色の空から降るものがきらりと光るのに気がついた。
雪だろうか。
スキースーツに娘を包むと、雪だるまのようになった。
やっとのことで着替えをさせて、表へと飛び出す。
厚いガラスのドアを開けて、
耳に入ってきた音がいつもの雪とは少し違う。
地面に落ちているのは、白い塊ではなく、
透明に光る氷の粒だった。

みぞれのようだ。
指の先で、その塊に触れてみる。
小さなザラメ砂糖が、次から次へと降ってくるみたいだ。
その珍しい光景をしばらく楽しんで家に帰った。



翌日の朝、外は見るものすべてが凍りついた。
はだかの木の枝も、道路や車も、草も・・。
それは、まるで壊れやすいガラス細工のようだった。
つるつるとした木の枝に触れてみると、
厚い氷の中でしっかりとした植物の手ごたえがした。
普段見慣れた景色も、氷の魔法にかかって
これまで見たこともない表情を見せていた。

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週末は、村の友人の家に行く約束をしていたので、
後ろ髪引かれる思いで駅の方へ向かう。
二人の子どもたちとローカル列車に乗ること、
わずか10分で村の駅についた。
プラットホームは雪で真っ白。
町よりも、雪が多く降ったらしい。

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家族ぐるみの付き合いをしているブラ-ガ一家は、
9回目の引越しをこの秋に済ませたところだった。
紆余曲折あって、ようやく望みの場所に落ち着いたのだ。
内装はまだ未完成のようだが、
丸テーブルを囲んで家族が団らんする様子を見ているだけで心が和む。
夏の終わりにここを訪ねた時は、
壁はコンクリートがむき出しで空っぽだった。
「少しずつ整えていくしかないわ。」と、いつもマイペースのエンツィは微笑む。
生活をしながら、少しずつ家を作っていく。
いかにも彼ららしいやり方だと思った。

昼食の後で、子どもたちを庭に連れ出した。
スキースーツで雪だるまのように膨らんでいるから、
万が一そりから落ちても大丈夫。

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庭には、リンゴやクルミなどの木のトンネルが続いている。
みぞれに打たれた側だけが氷の厚い膜で覆われ、さらに粉雪がふりかけてある。

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林の向こう側は景色が開けて、左手に森が見渡せる空き地。
右手の遠くには、山々が真っ白な雪をかぶっている。
土地の終わりに柵があって、そこを越えると先はリンゴ園が広がっている。
春になれば、色とりどりの野の花が咲き乱れるだろう。

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子どもたちに昼寝をさせてから、
3家族で森に散歩に出かけることになった。
村は山手の方まで続いていて、村のはずれがすぐ森である。
突然、耳に心地よく鈴の音が飛び込んできた。
羊飼いと羊の群れだ。
こんな雪ばかりの時でも、放牧に出かけるのだろうか。

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6人の大人と8人の子どもたちが、
小さな小川を飛び越えて、凍った道を進んでゆく。

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通り沿いのさまざまな植物が凍っている様子を見ているだけで楽しい。
門には無数のつららが垂れ、
透明の氷は木々を煌めかせている。

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ローズヒップの赤い実も、氷漬けになった。

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苔むした枝も、

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秋の名残をのこした黄色い葉も、

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夏には紫の花を咲かせたアザミも、

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次の春を待つ木の芽も、
厚い氷の中に封印されているかのようだ。

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急な坂道をのぼり、森の入り口が見えてきたとき、
ひとりまたひとりと脱落者が出はじめた。
先ほどより、木々に張りついた氷の膜も厚く、そして透明度を増している。
「ダイヤモンドの森だ。」とそのとき、誰かが口にした。
私たちはまるでおとぎ話の、魔法使いのいる森の中に迷いこんだようだ。
太陽の光なくとも、きらきらと明るく輝く、
氷と雪の魔法をこの目で見てしまった。
その魔法は永遠ではないことは知っている。
だからこそ、美しいのだ。

子どもたちが、小さな雪だるまを作った。
一人が目を、別の一人が口を、そして髪の毛を。
しばらく眺めてから、茶色く枯れたハコベを頭につけた。

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森の妖精のような、雪ウサギのようなものができた。
子どもたちの無垢な心が生み出した妖精も、
雪と氷の魔法がつづく限り、家の前に立っているはずだ。
明日の朝、目覚めたら一番に確かめてみよう。

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Theme:海外の子育て
Genre:海外情報

comments(4)|trackback(0)|自然、動物|2014-12-13_01:41|page top

森の彼方-トランシルヴァニアへの扉

トランシルヴァニアへ引っ越してから、
もうすぐで7年になろうとしている。

手探りで生活をはじめた1年目。
ジプシーを追いかけたり、
それまで封印していたフォークアートに再会したり、
さまざまなことに挑戦をはじめた2年目。
初めての展示会を試みた3年目。
ヨーロッパ生活に行き詰まり、
東洋に一人旅をしてみた4年目。
ほぼ同時進行で2冊の本を出版した5年目。

何気ない時間の集まりが、こうして記録されていくこと、
ブログは私の生活の一部のようになった。
またブログを通じてさまざまな人と出会い、再会することもできた。

トランシルヴァニアのライフスタイル、
そして手芸の情報を発信するブログ。
トランシルヴァニアの手仕事のショップと、
ヴィンテージファブリックのショップ。
4つのものがバラバラになりかけていた頃、救いの手が現れた。

今年の夏、宮﨑の展示会をさせていただいた、
おおまえ布店のオーナーさんにWebデザイナーであるご主人さまを紹介いただいた。
その展示のDMを製作していただいたことも、その時知った。
イーラーショシュのテーブルクロスの写真。
横長の写真をあえて縦に使って、
黒い背景の文字を加えてもらったそのシャープさと程よい重さが気に入っていた。

その時からホームページ作りがスタートした。
イメージ写真をいくつか選んで送り、
以前から構想していたセーケイの門と
トランシルヴァニアの写真を組み合わせることを伝えた。
それを元に出来上がった下絵を見て、驚いた。

モノクロのセーケイの門には鳥がとまり、
羊が群れるドボイ村の風景やイーラーショシュの図案描きのおばあさん、
教会を目指すパールタの少女などがコラージュのように組み合わされている。
まぎれもないプロの仕事にため息がもれる。

さらに動くアイコンやさまざまな工夫が添えられて、
HPは晴れて12月5日に公開された。

morino-kanata01.png

Transylvania(トランシルヴァニア)の名前の由来が
ラテン語で意味するもの、そのままをとって「森の彼方」とした。
東洋から遠いことはもちろん、
西洋からも、森のさらに向こうという名が付けられたこと。
トランシルヴァニアの特徴をよく表しているからだ。

こうした協力してくださる方々のためにも、
自分の仕事に責任をもって今後も活動をしていきたいと思う。

友情価格で、しかし仕事は最大級にしてくださった大前弘樹さんに、
そして奥さまの大前真奈美さんに感謝をいたします。

森の彼方-トランシルヴァニアへの扉

デザイナー大前弘樹さんのHP
SHIORI

また大前さんのブログでも、HP森の彼方を
ご紹介をしていただきました。
sheepeacefulrest

comments(2)|trackback(0)|その他|2014-12-07_20:47|page top

イーラーショシュの縫い手を探しに

旅のはじまりは霧の中。
夢うつつの心持で、村の通りを歩いていた。
電車がくるのを告げるサイレンの音が、
まだ眠たい頭の中にうち響いている。

駅へと向かう一本道。
太陽が昇ってゆくにしたがって、まるで魔法のように霧が消えてゆく。

kalotaszeg osz2014 (11)

村人たちはおのおのボストンバッグや、
巨大な買い物袋を手に提げて、列車を待っていた。
どこか遠くへ旅行に行くのではない。
一年に一度の市に出かけるのだ。

もの凄い音を立てて列車が止まった。
列車の中はコンパートメントの中はもちろん、
通路まで人が立ち並んでいる。
娘を抱いて、なんとか通路を進もうとしているとき、
中から声をかけられた。
大学生くらいの若者が席を譲ってくれるらしい。
お礼を言って、席についた。

8人用のコンパートメントは、すべて大学生の男女で賑わっていた。
私たちの頃とは明らかに違う身なりや振る舞い。
15年ほど前、お金はないから買い物よりも
もしろ好奇心で出かけたものだった。
友人たちといっしょに農家の納屋で干し草の中で眠ったこともあった。

山間の村が見えてくると、気持ちがはやる。
無人駅で列車がゆっくりと動きを止めると、
プラットホームのない地面に列車から飛び降りなければならない。
気が付くと、人と物とでごった返す会場の中にいた。

着替えや娘のオムツ、食料などを積んだ大きなバックパックを知人の所に置いて、
買い物に出かける。
しばらく見た後、娘が疲れて眠ってしまったようだ。
紐でしばりつけられたカンガルーの親子のような私たちを見かねて、
娘を寝かせるようにと誰かが声をかけてくれた。
買ったばかりの子ども用スカートを上にかけて、
スヤスヤと寝息を立てている。

kalotaszeg osz2014 (12)

娘を置いて近場を散策していると、
しばらくして泣きわめく娘を抱いてその女性が現れた。
「通りかかった人が、大きなお人形を売っているのかと思ったようで
びっくりしていたわ。」と微笑む。

やがて買い物を終えた頃、駅の方に向かって歩き出した。
線路の近くの原っぱに、若者たちが座り込んでいる。
はや夕暮れ時に差し掛かっていた。

kalotaszeg osz2014 (17)

旦那と娘は、線路の間を走り回ったり、
線路に腰かけたりして遊んでいた。

kalotaszeg osz2014 (14)

列車の時間が近づくにつれ、人の群れが膨らみはじめた。
気がかりなのは、これだけの人が列車の中に入るかということだ。
目指す村に行くには、この列車しか止まらないので、
何としても乗らなくてはならないと意気込んだ。
期待と不安の混じった心持で私たちが見たものは、
わずか3両ばかりの列車だった。

あっけにとられて走るのも忘れてしまった。
群衆がまるでアリのように入り口にたかり、
列車をよじ登って何とか中に入ろうとしていた。
怒りよりも、むしろ笑いがこみあげてくる。

結局、次の急行列車で最寄りの町で降りることになった。
電話で話していた通り、友人が出迎えに車で着てくれたので、
快適に村の友人宅に到着した。




ハンガリーに住んでいるはずの友人とローカル列車で出くわしたのは、
今から3年ほど前のことだ。
カロタセグの村に住まいを決めて、引っ越したばかりの頃、
その時もまた葡萄がなっていたように記憶している。

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あれから、彼らにも子どもが誕生した。
画家で修復家のレベンテとピアニストのレーカ。
理想の素敵な夫婦に育てられる息子さんは、どのように成長するだろうか。
一年前はねんねの赤ちゃんだった二人も、
大きく成長して通りを駆け回るようにまでなった。

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ゆっくりと朝食を頂いた後、
荷物をまとめて出発しようとする私たちをレベンテが制した。
丘の向こうの隣村まで車で送ってくれるというのだ。

さりげない気遣いをする彼に、いつも甘えさせてもらっている。
大きなリュックと荷物、さらに娘を抱いて丘を越えるには、
優に一時間はかかっただろう。
あっという間に、私たちは村の中心広場に来ていた。

今回の旅の目的は、イーラーショシュの縫い手を探すことだ。
テーブルクロスを作ってほしいという依頼を受けて、考えた。
刺繍のうまいお姑さんに作ってもらうのは簡単だが、
むしろ村の女性に注文を渡した方がためになるのではないか。
それを知った村の人たちが、再び針を持つようになるかもしれない。
さらに、若い世代に繋がっていけばそれが理想だ。

ところが村が高齢化していることもあり、なかなか刺繍の作り手が見つからない。
村の牧師さんに尋ねると、「村に二人注文を受けてイーラーショシュを縫う人がいる。」との情報を得た。
名前をノートに書きつけて、出発した。

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門を開けて、家の扉をたたくときに緊張する。
見知らぬ旅人を快く受け入れてくれるだろうか。
このような大作を、私を信頼して引き受けてくれるだろうか。
「エルジおばさんですか?」
やせて眼鏡をかけたおばあさんがうなずく。

青いタペストリーのかかったこじんまりとした部屋。
テーブルには、温かいスープが置いてあった。
教会から戻ってきて、ちょうど昼食を取るところだったのだ。

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悪い時に来たにもかからわず、焼き菓子を切って勧め、
私の話を聞いてくれた。
「私もたくさんイーラーショシュを縫ったわ。」と静かな声がいった。
作品を見せてほしいというと、奥の部屋に通された。
玄関では、やりかけの刺繍のクロスが横たえてあった。

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イーラーショシュは、70年代に大きな流行があったため、
誰でも簡単にできるポピュラーな刺繍として知られるようになった。
ここカロタセグ地方では、19世紀末からすでに
ヨーロッパ各地の博覧会に出品され、王侯貴族の女性たちに愛されるようになった。
村の貧しい女性たちに仕事を与えようと、
「カロタセグの偉大な母」といわれるジャルマティ夫人が村に注文をもたらしたのだ。

その当時と大きく違うのは、村の女性たちが
本来の意味での刺繍文化から大きく遠ざかってしまったことである。
手仕事が生活の中に深く根ざし、
娯楽と必要とを兼ねていた時代は終わってしまった。

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ただ今でも、かろうじて村で出会うことができるのは、
美しいものはすべて自分の手で生み出さなければならなかった時代を経験し、
よそから伝わる流行ではなく、
生まれ育った村に古くから残る価値観や美意識をよしとする世代の人々。
彼らは刺繍を通じて、先人たちの知恵や技術、精神のあり方を今に伝えているのだ。

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最後に、エルジおばさんに刺繍をするところを見せてもらった。
しずかな部屋で、おばあさんが針を上に引く音のみが聞こえてくる。
まるで、ここだけ時間が止まったようになる。
白い布に、赤い糸がゆっくりと広がっていった。

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幸運にも、始めの村ですぐに縫い手が見つかり、肩の荷が下りた。
村のはずれの木陰でパンをかじったあと、駅に向かって歩み始める。
白い犬が私たちを導くように、目の前を走っていく。

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そうして、目の前に開けたのはなだらかな丘の続く風景。
羊の毛の色のような枯草に、まばらに緑が広がり、
森の木々は赤や黄色に色づいている。
丘の向こうの森の中に、目指す駅がある。

kalotaszeg osz2014 (33)

眠りに入った娘をしばし、木陰に横たえる。
穏やかな秋の日は、永遠に続くもののように思わせる。
あらゆる生命が姿を消す、暗くて厳しい冬がくることなど、知らないかのように。
ただ穏やかな色を投げかけている。

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背中の重い荷物さえなければ、最高のハイキングだっただろう。
坂道を下ると、小さな小川の橋があって、さらに上道がつづく。
動悸が激しくなり、手に汗がにじむ。
坂を上り切った所で、目の前が開けて駅が現れた。

冷たい湧水を飲んだり、木から落ちたクルミの実を拾ったりしている内に、
待ち時間も過ぎていった。
宿泊をするエルジおばさんの家に帰りつくと、
リンゴの木に小さな花がついていた。
まるでその日いちにちのご褒美のように、
真っ赤なリンゴに混ざって甘い香りを放っていた。

kalotaszeg osz2014 (36)
comments(2)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2014-12-04_21:29|page top