まだ冬の入口にさしかかった、ある日のこと。 町に寄ったついでに、ジプシー市場に立ち寄った。 トランシルヴァニアにはさまざまなジプシーが定住しているのだが、 特にガーボル・ジプシーと呼ばれる人たちは、流浪の民としての歴史が長く、 民族衣装に身を包み、伝統に固執することで有名だ。 男性は大きな帽子をかぶり黒づくめの服を着て、大きな髭を生やしている。 一方、女性はというと華やかな花柄の衣装を身に付け、長い髪をスカーフで覆っている。 そうした商人ジプシーたちが、古着などを売っている。 車から降りて、私は次男を抱き、 旦那は長女の手をとって買い物をしていた。 それほど寒さも厳しくなかったので、 子供たちにそれほど厚着をさせずにいたのだが、 ジプシーの売り手のおばさんがそれを見て、驚いた風にこういった。
「まあ、子供たちが風邪をひいたら大変。」 すぐに、売り物のスキースーツや帽子をご主人に持ってこさせ、 「これを着させなさい。」と言って手渡した。 赤いスキースーツと青いスキースーツを頭から被せて、 耳まで隠れる毛糸の帽子をかぶせると、子供たちはいかにも雪国育ちのようだ。 1歳の息子と3歳の娘を抱きしめると、 金髪で青い目をしたおばさんに笑顔で手を振った。
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