トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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手芸のおばあちゃんを訪ねて

ある晴れた日の午後、
町から20Kmほど離れたところにある村へ
とある有名なおばあちゃんを訪ねに行くことにした。
その方は、学校の教師の傍らで手芸を教えていた。
70年代には「アーラパタクのフォークアート」と題した本が出版されたが、その編集にかかわったのがルーリンツ婦人エテルカおばあちゃんである。

私たちの住む村、セントジュルジから西の方角は深い森がどこまでも続く風景。
ここから二番目の村なのに、距離は20Kmも離れているというから、どんな風であるか想像に難くないであろう。
自然は文句なしに美しいのだが、この辺りは村がほとんどジプシー化されてしまったため、民家は荒廃した感じだ。

私たちの乗った大型バスは森に挟まれた道を、右へ左へとくねりながら進んでいく。
野原では羊を放牧するさまが見られた。
たまに別荘などが見られるだけで、ほとんどが手付かずの自然な状態だ。

私たちが座ったのは、ちょうど真ん中の辺り。
すぐ横には後部ドアがあるのだが、絶えず隙間風が吹いてくる。
見るとこのドアを閉じているのは、いかにも頼りないカギだけ・・・
何かの拍子にパッとドアが開きかねない感じだ。

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私の心配をよそに、バスは無事アーラパタクへと到着。
並木のある通りを、家の番号を見ながら探す。
とあるハンガリーの旅行本に、おばあちゃんのことが紹介されているし、住所も載っているので安心だ。

この地域はドイツ系のザクセン人の村の造りに似ていて、通りぞいに一列にずっと家と門が並んでいる。門は家の屋根に届くほど高いので、中の様子がうかがうことができない。
番号を探し当て、門の扉を開けようとすると犬がほえたので、すぐに家の主が出てきた。

彼女がルーリンツ婦人エテルカおばあちゃんだ。
静かな口調で用件を聞くと、すぐに家の中に通してもらった。

家の玄関に入ると、すぐに赤と白の幾何学模様が目に飛び込んでくる。
「これは、私が小学校3年生の時に作ったものよ。」と指差すほうを見ると、大きな星模様が印象的なクロスが敷かれていた。
こんな完璧な作品を見ると、私は3年生のときに何ができたであろうか・・・と思わざるを得ない。

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特に目を惹いたのは、ミニチュアのベッドに織物が何重にも敷かれ、上には刺しゅう入りの枕が積まれているものだ。

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これは花嫁さんの嫁入り道具である。
年頃の娘は、枕やシーツ、タオルなど生活用品をコツコツと作りためておく。
女性にとって、針仕事がいかに大切であったかがよく分かる。

このセーケイ地方の南部では、一見まるで織物かと見間違うようなクロスステッチ刺しゅうが主である。一目の狂いもない、正確なクロスステッチ・・・
赤一色であるから、なお模様の美しさが生きてくる。

本来は枕の端の部分にだけ、装飾の刺しゅうをしていたそうだ。
それが、だんだんと華やかさを強調して枕の表全体に刺しゅうをするようになった。
枕は正面ではなく、端をチラッと見せるのが本当なのだ。

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織りはおばあちゃんの創作である。
図案は全て自分で考え出したというから、すごい。
作品の製作年をユニークなやり方で入れるのが、エテルカおばあちゃん流。
どこにあるか分かりますか?

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セーケイの民族衣装を着た女の子がブランコをしている。
「 ヒンタ、パリンタ、ザクセンの森にマダールカ(鳥さん) 」
これは、ブランコをするときに歌うわらべ歌のようなもの。

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ブランコをつる板の部分に、1974年製作とある。

女の子が2人糸をつむいでいるそばで、男の子が間に立っている。
「 私は18歳の時に、お嫁に行く支度をしました。 」

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ここでは、お皿を飾る棚のところに、アーラパタク、1970年とある。

これはおばあちゃん自身のことかしら・・・と思っていると、「これはこういう民謡からきているのよ。」と歌を聴かせてくれる。
フォークアートはそれだけ単独にできているのではなく、農村に生きる人たちの生活、あこがれ、ユーモア、趣向・・・・あらゆるものが含まれているのだ。

さらに部屋には、イースターエッグやレースの縁飾りが壁にびっしりと並んでいる。
本当に展示室にでも来たかのようだ。

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おばあちゃんのキッチン。

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どうしてこの村だけがこんなにも針仕事で有名なのかと尋ねた。
すると、おばあちゃんはきっぱりとこう答えた。
「それは私がいたからよ。村に一人でも、古くから伝わるものを大切に残そうと集めれば、それで十分。」

そう、これはちょっとした村の住民の意識の問題なのだ。
もしもエテルカおばあちゃんのような人が、他の村にもいたら・・・そう考えると、エテルカおばあちゃんがいかに貴重な存在であるかが分かると同時に、残念でもある。

おばあちゃんはもう針を持つことができない。
帰るがけに、自分の手を私たちに見せた。
いくつもの作品を生み出したその黄金の手は、高齢のために震えていた。

家を出た後に、教会にもおばあちゃん作の刺しゅうが飾られているというので、見に行くことにした。
小高い丘にひっそりとそびえる教会。

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中はちょうど改装中で、飾りは全て取り除かれていた。
教会をぐるりと囲んで並ぶ墓、この平野の向こうには大都市ブラショフの姿も浮かんでいる。

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このアーラパタクのフォークアートの担い手も、あのおばあちゃんで最後だろう。
通りを行きかうジプシーの人たちを見て、そう思った。
村に住む人も時代と共に、こうして入れ替わってしまうのは寂しいような気持ちだ。

ただあの赤と白の強烈な刺しゅうだけは、ずっとそのままである。


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*こちらは手芸雑誌「ホーム・スウィート・クラフト vol.5
 に掲載されました。
 なお雑誌の記事の写真は、プロの写真家が撮ったものです。
 あわせてこちらもご覧ください。
 
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Genre:海外情報

comments(4)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2008-12-04_23:35|page top

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なんて、素敵な手作業なんでしょう!
写真を拝見し、少し涙があふれてきました。

私もおばあちゃんに会い、
その手に触れたら
その技術を一瞬にして
自分の物に出来たかのような錯覚に陥るくらい
おばあちゃんの手は
まさに黄金の手なんでしょうね。。。
いかに手ですることが大切か、、、、

私も娘二人には
ボタン付けは教えてやりたい。
女の子として生まれたのだから
いつか、大好きな人の
ボタンをしっかりと縫える女の子に
なってほしい。。。

そんな思いになりました、、、


twelvesevnteenさん、どうもありがとうございます!

おばあさんの手は、これまでどれだけの美しいものを作り、皆を驚かせてきたことでしょう。
手仕事の価値を十分にご存知でいらっしゃる方に見ていただけて、光栄に思います。
その素晴らしい手を写真にも収めておきたかったです。

これからの世代の人たちも、この手の素晴らしさを忘れないで欲しいですね。
せめてボタン付けだけでも・・・
管理人のみ閲覧できます
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Re: 日比谷図書館で手芸展示会できます。
鍵コメントさま、
どうもご丁寧に展示会の情報をお教えくださって、
ありがとうございます。こちら、また調べさせていただきます。

あれから、もう二年となりますが、
覚えていただいて嬉しく思います。
今年は本が出版になりますので、秋か冬には展示会をしたいと思っています。
また時期が近づきましたら、ブログでもご報告させていただきます。

どうぞお体にお気をつけて、
美しい春の日々をお過ごしください。


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