トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

カテゴリー

FC2カウンター

カレンダー(月別)

04 ≪│2017/05│≫ 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

これまで書いた記事は・・・

全タイトルを表示

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Feed Me!

トランシルヴァニアへの扉  - Erdely kapuja-のRSSフィード

ブログ翻訳

アール・ヌーヴォーの宮殿へ

その旅行計画は、いつものように
降って湧いたものだった。

夜行列車で300kmほど離れた町、
トゥルグ・ムレシュ(ハンガリー名 マロシュ・ヴァーシャールヘイ)まで
行くことになった。
その旅行の発端は、とあるインターネットの広告であった。

ピカピカと黒光りした鉄のボディに、
黄金色の唐草模様の入ったヴィンテージ・ミシン。
それは、旧ソビエト時代に作られたもの。
このミシンを求めに、わざわざ親子3人で
はるばる旅行をすることになった。

夜行列車はカルパチア山脈を北西に伝って走り、
トゥルグ・ムレシュに到着したのは朝8時前。
まだ朝日の昇らない町の中を
歩き始めた。

トゥルグ・ムレシュは、ハンガリー系、ルーマニア系の
住民比が約半々の町である。
それだけに民族間の確執もあるようで、
90年代初めには両住民の衝突もあったといわれる・・・。

屋根がふっくらと円形になった、
エキゾチックな雰囲気の建物が見えてきた。
ユダヤの教会シナゴーク。

maros.jpg

そう忘れてはいけない、
かつてはユダヤ人も多く住んでいた。
トランシルヴァニアのユダヤ教会には
まだ一度も入ったためしがない。
残念ながら、その扉も閉ざされていた。

朝もやの中を路上で軽く朝食を済ませ、
まずはミシンの持ち主の家を訪ねた。
ミシンは思ったとおりのずっしりとしたもので、
状態もよかったので直ぐに購入。

ミシンの後は、町の散策に出かける。
トゥルグ・ムレシュの町を歩いていると、
孔雀の羽をあしらった門や、
チューリップを様式化した壁面の飾りなど・・・
いかにアール・ヌーヴォー建築が多いかに驚かされる。
通りには、中世からの石畳も見られる。

私たちが世紀転換期の世界に浸っていると、
ギラギラと目新しいブティックの列、
そして社会主義時代の巨大なモニュメントがドンと現れ、
思わず苦笑してしまう。

やがて最大の目的である文化会館が見えてきた。
20世紀はじめに建てられた劇場+コンサートホール。
20世紀ハンガリー芸術の金字塔・・・と私は呼びたい。

BETHREHEM 048

ちなみに隣は警察である。
まさか警察のためにこんな美しい建物が計画されたなんて
考えにくいし、元々は何に使われていたのだろう。
フォークアートのチューリップを模った、
セラミックがキラキラと輝いていた。

maros2.jpg

ルーマニア語、ハンガリー語で書かれた
「文化会館」の文字の下には、
モザイク画が見られる。
HUNGARIAの玉座に座るのは
擬人化されたハンガリーそのものだという。

maros10.jpg

別の壁には、
民俗衣装を着て機織りをしているような、
糸を紡いでいるような女たちの姿。
楽器を弾いているようにも見える。

BETHREHEM 015

入り口の扉の鉄格子も、
まるで孔雀のようなハートが渦を巻いている。
西欧に端を発したアール・ヌーヴォーも、
東欧にまで伝わると
今度は土着のフォークロアと結びついた。
ハンガリーでは、これを「ハンガリー様式」と呼ぶ。

BETHREHEM 018

入り口まで来てみて、愕然とする。
張り紙には、月曜休館の文字。
あっと声を上げる。
「ちゃんと調べてくるんだった・・・。」

この建物の一階は、ツーリスト・インフォメーションになっている。
私たちは帰りの汽車を調べようと中に入った。
事務員がテキパキと、時刻表を書き取っている間に
ダンナが文化会館へ入れるかどうかを尋ねてくれた。
「 一階だけなら入れると思います。
 こちらへどうぞ。」と思いがけない返事。

私は、半分夢心地で中へと足を踏み入れた。
中へ入って、思わずあっと声が出る。

BETHREHEM 026

自分の体が、そのままタイムスリップしてしまった感じ。
これまでアール・ヌーヴォーを外から眺め、
感じることは多かったが、
360度全てがこの世界・・・・
まるで鳥肌の立つような、
不思議なパワーを感じる。
これだけ密集しても、
これだけさまざまな要素が入り混じっていても
何の違和感もなくまとまっている。
まさに装飾の力なのだ。

BETHREHEM 027

BETHREHEM 044

正面へ進むと、
天使の像にはさまれた碑が見られる。
ハプスブルク帝国の皇帝ヨセフ・フェレンツによって建てられた
この文化施設への寄付したものの名前が挙げられている。
公爵や実業家、弁護士、医者・・・・。
社会主義時代には、この碑は取り除かれたままで、
ここ最近やっと元の場所に取り付けられたそうだ。

BETHREHEM 029

正面と、劇場入り口をはさんで両脇には
クルシフーイ・クリーシュ・アラダールによる
フレスコ画が見られる。
幻想的で透明感にあふれた色彩、
物語や伝説をテーマにした
ドラマチックな光景に思わず息を呑む。

ハンガリーのキリスト教受容するまえの、
シャーマンを中心とした信仰世界。

BETHREHEM 030

画家がこよなく愛した、
トランシルヴァニアのカロタセグ地方の民族衣装。

BETHREHEM 036

maros8.jpg

BETHREHEM 046

中へと招かれて、劇場も見学。
うすいブルーの壁に黄金色の装飾が、
夜明け前にまたたく星のよう。

よくよく見てみると、
それは星ではない。
ハンガリーのフォークロアに見られる
鉢から体をくねらせて伸びたチューリップ。

どうして、ここまでフォークロアに執着したのだろう?
農村に生きる人たちの芸術が、
ただナイーブで新鮮だ・・・というだけではなく、
自分たちのかけがえのないルーツであると信じていた、
その思いが伝わってくるようである。

maros5.jpg

さて見学もそろそろ終わり・・・というところで、
上への階段がふと目に留まった。
思わず興奮して、上へと足がのびてゆく。
なんて斬新な花模様!

BETHREHEM 040

これまでの具象的で、繊細な植物もようとは打って変わって、
マットなエメラルドグリーンと、黒、カラフルな配色。
黒地にベネチアン・グラスをちりばめたよう。
アール・デコがここには到来したかのようだ。

奥に見られるのは
ハンガリーを代表する作曲家、フェレンツ・リストを模った
ステンドグラス。

maros7.jpg

このようにして、
文化会館・・・
アール・ヌーヴォーの宮殿の見学は終わった。
この二階には、最大の見所である「鏡の間」が控えていたが、
今回は仕方がなく見送ることにした。

ハンガリーの美術、工芸、建築・・・
あらゆる美と技術の結晶。
それに劇場の中のパイプオルガンは、
当時の世界最高レベルのものであるという。

どうして、トランシルヴァニアの中規模の町に
こんな大々的な建築物があったか・・・
それは、マロシュ・ヴァーシャルヘイ(現在の、トゥルグ・ムレシュ)の
市長の力によるところだという。

そして残念なことに、
鏡の間にあるステンドグラスのシリーズは、
国際博覧会へ出品する予定であったのが、
第一次大戦が始まったために、
世界の陽の目を浴びる機会を失ってしまったということだ。

それ以降、
アール・ヌーヴォーの流行が去るのと同時に、
ハンガリーの工芸は衰退していってしまった。

やがてトゥルグ・ムレシュを電車が離れ、
山を越えて待っていたのは
一面の雪景色だった。

BETHREHEM 063


トランシルバニアをあなたの心に・・・
                 クリックをお願いします。→にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ

*旧ソビエト製ヴィンテージ・ミシンについては、
 もうひとつのブログで。
スポンサーサイト

Theme:東欧
Genre:海外情報

comments(4)|trackback(0)|アート|2008-12-21_07:52|page top

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

コメントの投稿

非公開コメント

 素敵な建物の写真もさることながら造形の深いコメントによってその意味合いが更に興味深い物になりますね。
 勉強して好きであるということが強く伝わってきます。

 そうそう、例の雑誌注文して発送されたので今度の一時帰国でやっとお目にかかれます。楽しみ。
フォークロア的なもの
越後屋さん、ありがとうございます!
アール・ヌーヴォー建築をはじめとして、
世紀転換期の文化が好きです。
その思いが伝わったなら、大満足です・・。

この文化会館はこれで2度目なのですが、
初めて行ったときは前知識なしに見たので、
あまり細かく観察して見ませんでした。
今回はほんの10~20分ほどでしたが、
しっかりと見ることができました。
今度は、鏡の間を撮影したいです。

No title
美しいハンガリーの紹介を楽しく拝見させていただきました。
ありがとうございます。
Re: No title
ご訪問をありがとうございました。
ルーマニアの中の
ハンガリーを、また
お伝えできたらと思います。