トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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エテルカおばあちゃんを訪ねて

アーラパタクへ手芸のおばあさんを訪ねたのは、
今年の夏のこと(→)。
初めに下見を兼ねて訪ねてから、
雑誌「ホーム・スウィート・クラフト」のための写真を二度とりに行った。

おばあちゃんの体調の不具合は知っていたから、
なるべく早く出来上がった雑誌を渡しに行きたいと思っていた。
里帰りからかえって12月の初め、
私たちはアーラパタク行きのバスへと乗り込んだ。

バスが山間の道に入っていくと、
すべてが真っ白な雪で包まれていた。
たっぷりと雪をかぶったモミの木や
可愛らしい民家の並ぶようすは、
おとぎの国さながら。

00998.jpg

やがてバスはアーラパタクの中心で止まった。
通りを行きかうのは、ほとんどがジプシーの姿。

nap 182

夏に写真撮影をしに行ったある日のこと。
門を開けて入ると、
庭でぐったりといすに座った
エテルカおばあちゃんの姿がまだ目に焼きついている。
もう83歳のご高齢だから、無理もない。
お元気でいらっしゃるように、
と祈るような思いで門をたたいた。

すると、エテルカおばあちゃん本人が現れた。
「 あの、夏に写真を撮りに来た日本人の・・・」と言うと、
「 まあ、どうぞ中へいらっしゃい。」という返事。

nap 149

毛糸の服をモコモコに着込んだおばあちゃんは、
夏にお会いしたときよりも、ずっとお元気そう。
日本から送られてきた雑誌を手渡した。

3つの居間と、キッチンがあるが、
冬にはひとつの部屋だけを暖める。
私たちが通されたのは、奥の方の部屋だ。
エテルカおばあちゃんの弟さんの、ゾルティおじさんも。
近くに住んでいらして、毎日通っていらっしゃるそうだ。
おじいさんは私たちにワインを勧め、一緒に乾杯をした。

nap 175

おじさんは若いときは地理の先生で、
若い頃にはモルドヴァ地方のチャーンゴーと呼ばれる
ハンガリーを話す村で、
最後のハンガリー語教師をしていたという。
50年代のことだったが、
それ以来は、ハンガリー語教育はなくなってしまった。

当時は村の教師だから給料は少なかったが、
村の人たちの好意で、お肉や野菜や卵、さらにはお酒まで・・・
なんでも必要なものは持ってきてくれたという。
「 水の中の魚のように、快適だったよ。」とおじいさんは笑って語る。

それからハンガリー語の学校が閉鎖されてからは、
この村で校長先生をしていた
エテルカおばあちゃんの同僚となったという。

nap 151

「 私たちが子供の頃にね、
 この村と隣村の境が、ハンガリーとルーマニアの国境となったんだ。
 当時は、セントジュルジの学校に通っていたから、
 故郷の家に帰るには、山の抜け道を行くしかなかった。
 国境には、見張りがいたからね。」とおじいさん。

第一次大戦で敗戦国となったハンガリーは、トランシルヴァニアを失った。
やがてナチズムの台頭とともに、その失った領土を取り戻した
わずか10年ほどの期間。
第二次大戦前のことである。

ある日突然、自分の故郷が外国になってしまう。
ほとんど私たちには、想像もできないような出来事だ。

このように歴史に翻弄されたこの村には、
国に誇る素晴らしい手仕事があった。
エテルカおばあちゃんは教員の傍ら、
この土地の手芸を研究して、女性たちに教えていたそうだ。

壁掛けは美しいばかりでなく、
冷たい壁をあたたかくするのにも役立っている。
モミの葉のモチーフが、クロスステッチで表現される。

nap 155

教会でも、このように刺しゅうされたブックカバーが見られる。
賛美歌か聖書が包まれているのだろう。

 nap 161

花びんとお花のモチーフは、中世に起源を発するもの。
フォークアートでよく見られるモチーフ。

nap 160

ルーリンツ家のネコは、美しい織物の上でいかにも気持ち良さそう。

nap 157

1982年に、息子さん2人が絵付けをした家具。
セーケイ地方では、このような花模様の家具が多く見られる。
たんすそのものは、おそらく100年くらい経っているだろう。

nap 153

ホーローの可愛いコップも、家具にぴったりと合っている。

nap 150

おばあさんにお願いして、
他の部屋も見せてもらうことにした。
春のイースターが来ると、
女性が男性客に渡すイースターエッグ。
細い針で描くのだが、おばあちゃんはこの絵付けの名人でもある。
中央の大きいのはダチョウの卵。

nap 171

おばあちゃんが見せてくれたのは、
タペストリーの端に見られるマクラメの図案集。
針で複雑なもようを編んでいくそうだ。

nap 166

私たちの住むこの地域は、セーケイ地方と呼ばれる。
そのセーケイの民俗衣装を着て踊る男女の姿。
結婚式の習慣がテーマになっている。
ちなみにこのカーテンは、ガーゼのように薄い素材を
手織りで作られたものだ。
高度なテクニックには、目を見張るばかり。

nap 170

こちらがおばあちゃんの玄関。
いつでもお客様をあたたかく迎える、手仕事の数々。

nap 178

春にまた再会を約束して、お別れをする。
帰りがけに、「 今度は電話をしてから来ますね、おばあちゃん。」と告げた。
「 私は、日本人の・・ですよ。」と念を押して言う私に、
青い瞳を丸くして、エテルカおばあちゃんはこう言った。
「 まあ、あなた日本人だったの?
 なんて、可愛い!」
もうすっかり、私のことを忘れてしまったようだ。
エテルカおばあちゃん、いつまでもお元気でいて欲しい。

nap 179

私たちは、まだ雪の残る道を引き返していった。
春が待ち遠しい。

nap 180


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comments(16)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2009-01-05_16:58|page top

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非公開コメント

4日、5日と素朴ながら素晴らしい暮しを垣間見せて頂きました。 何か、映画を見ているような画像の数々で いろんな事に思いを馳せます。
厳しい寒さも伝わって来ますよ。
おばぁちゃんチの家具 素敵ですね~。
細かな花模様…長い閉ざされた冬を持つ地域には そう言った花を待ちわびる模様が生まれるのでしょうね。

また いつもtulipanさんの写真と文章には確かな思いとしっかりした視線が感じられます。
素敵なブログに巡り合った事に本当に感謝しています。
セーケイの花模様
霧のまちさん、いつもいつもお褒めの言葉をありがとうございます。
トランシルヴァニアの冬の雰囲気は独特です。
寒いし暗い冬だから、なおさら人々は
暖かい室内で団欒を求めるのでしょうね。
特に村では農閑期なので、皆がのんびりと暮らしています。

日本人のインテリア感覚からは、想像も出来ないほど
たくさんの花もようで埋め尽くされています。
霧のまちさんのおっしゃるとおりです。
この明るい色と華やかさに対する憧れ・・・
その思いの強さが感じられます。

トランシルヴァニアのフォークロアの素晴らしさを
少しでもご紹介していけたら・・・と思います。
エテルカおばあちゃんの手仕事の世界、素晴らしいですね。
おうちがまるでミュージアム!
赤い色で作られたモチーフ、かわいらしい織りの図案…
なんとも言えないあたたかみがあります。
ため息をつきながら読ませてもらいました。

おばあちゃんの技術は女性たちに継承されてるということですよね?
エテルカおばあちゃんの世界、この先もずっと受け継がれていくといいですね。
おばあちゃん、お元気そうで良かったです。
取材の時、体調を崩してらしたので心配でした。
でも、近くに弟さんがいらしてお家に通ってらっしゃると
聞いて安心です。

前回、エテルカおばあちゃんのお部屋を見て、
他のお部屋も見てみたいな~って思ってたんです!
お部屋のいたるところに刺繍作品がありますね。
家具も素敵です。
カーテンの民族衣装の男女、完成までに、どれだけの
時間を費やすのでしょうか。
いつまでもいつまでも見ていたい感じです。

早く本を買わなきゃ!

Re: タイトルなし
rummilkmint さん、どうもありがとうございます!
エテルカおばあちゃんは、お若い頃に
地元の女性を集めて指導をしていらしたそうですが、
残念ながら後を継ぐ方はいらっしゃらないようです・・・
おばあちゃんの亡き後は、
この作品すべてを町のセーケイ博物館に寄付するそうです。

それでも、この家で見たような
生活と一体化した感じはきっと伝わらないと思います。
おばあちゃんがお元気なうちに、見ることができて
よかったと心から思います。
Re: タイトルなし
carina さん、どうもありがとうございます!
もう83歳のご高齢、日によって体調がまちまちのようです。
そうですよね、これだけ至るところに
手仕事が飾られている、それも
お一人の手で作られたものですから、感動です。

あのカーテンは、薄くて細い糸で織られていました。
そこに太い糸でモチーフが織りこまれています。
あれだけ細かい模様を、糸が裂けたり、
たるんだりせずに作られているのですから・・・
相当な熟練が必要でしょうね。

次はイースターエッグの季節に伺いたいと思います。
 以前に見たときも素晴らしいと思いましたが、今回もまた素晴らしい手仕事の数々.本当にこういった作品が残っているのは素晴らしいですね。
 私が住む村は伝統とはうらはらの若い村で色々な地域から入植させられた人達の集まりなので、ここ独自の伝統はまだ無い状態です。
 そして各地域の伝統はあるようですが、それをかいま見る事はほとんど無いのが残念です。

 おばあさん、やはり高齢なので心配ですが少しでも元気に長生きしてもらいたいですね。
Re: タイトルなし
越後屋さん、ありがとうございます!
ロシアも広いですから、
なかなかすべてを把握するのは難しいでしょうね。
トランシルヴァニアのハンガリー系住民は、
その点マイノリティーですので伝統を守ろうという
意識が強いようです。

エテルカおばあちゃんのお部屋は見るたびに発見があって、
いつ行っても感動してしまいます。
他にも、このように古き美しき文化を守る方が
たくさんいらっしゃるといいです。
もう少し早くにお知り合いになっていたら、
私も刺しゅうを習いにいったんですけれど・・・残念です。
ロシアがウクライナ方面へのガス供給を打ち切ったそうですね。昨日のニュースが伝えていました。
ハンガリー、ルーマニア方面の方々は非常に困る事態ではないでしょうか。
今は一番寒い季節ですし、何だか他人事とは思えなかったです。
そうなんですか?!
全然知らなかったです・・・
恥ずかしながら、ルーマニアのガスは
どこから来るのか知りません。
この寒い時期に・・・値上がりすると大変困ります。
気をつけてニュースを聞いてみます。
どうもありがとうございました。
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はじめまして
フィンランドに住むmacoと申します。
kippsiちゃんの所でお見かけして、トランシルバニアへお住まいということで遊びに来てみました。

私は以前から東欧の手刺繍や布などフォークロアな物がとても好きでこちらで紹介されている刺繍や図案とても可愛くて感激しました!
フィンランドも織りなど手仕事が盛んな国ですが、またルーマニアとは少しテイストが違いますねー。
近いうちにルーマニア、ハンガリー、ポーランド、ブルガリア、チェコなどを旅行してみたいと思っていたので、こちらのブログこれからも覗かせていただきますね!

はじめまして、maco さん。
初めまして、maco さん。
フィンランドにお住まいの方に、来ていただけてとても嬉しいです。

ルーマニアを初め、
元共産主義国はフォークロアなるものが
前体制のもとで守られていた部分があるので
(単にモノがなかったという部分もありますが)
刺しゅうや織りはもちろん、フォークダンスや音楽まで、
非常に豊かだと思います。
東欧諸国をご旅行されるのですか?
ぜひトランシルヴァニアにもお寄りください。
その際には、村へ行かれることをおすすめします。


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Re: ルーマニアび来ました!
さかいさま、はじめまして。
ルーマニアをご旅行なさっているのですね。
Arapatakはハンガリー語読みで、
ルーマニア語ではAraciになります。
ブラショフの近くですので、そちらからは遠くなりますね。
それではよいご旅行を。