トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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クレジャニのヴァイオリン弾き (後)

収録のあと、
タラフのメンバー、イオンも加わって
カリウの家で昼食をご馳走になる。
映画「 ラッチョ・ドローム」の演奏場面で
ツィンバロムを弾いていた少年は、
小腹のでた青年になっていた。

キャベツと鶏肉のトマト煮込みと
ルーマニア名物のハンバーグ、ミッチ。

「 もう、演奏でおなかがいっぱい。」
といいながらも、美味しい食事をいただく。
ビールの栓もぬかれて、
もう宴会気分。

カリウは、
「 君たちに敬意をしめして、
ヴァイオリンを譲るよ。」と話す。
おじいさんから伝わる古いヴァイオリン。
丹羽さんは、
「 ぜひ、来週のMeanの展示会で飾りたい。」と
嬉しそう。

それから、小さな衣裳部屋でも
カリウの演奏が始まった。
「 君たちのために心を込めて。」と
哀しげなバラードを弾きはじめる。
YUUMIさんは涙をながしていた。

あとで見たら、
そのヴァイオリンには弦が一本足りなかった。
そんなことを微塵も感じさせないのは、
まさしくプロ。
カリウの人柄、そして素晴らしい演奏に
感服した。

撮影旅行、最終日の午後。
普通なら、これで大満足で
一日を終えたかったのだが、
その足でモデル撮影に出かけた。

やがて疲れて帰ってくる私たちに、
「 問題があるんだ。」と困った表情でカリウ。
イオンが借りた車を今日返すとかで、
お金を貸してほしいとの話。

いつものパターン。
どうしてもジプシーの撮影では、
こうしたお金の問題がつきまとう。
きっと呼び寄せたイオンにお金が必要だったのだ。
何度も、もうお金がないことを説明した。
それでも必死で、食い下がらない彼ら。

YUUMIさんは、
「 お願い、カリウ。
もうそれ以上、言わないで。
あなたのこと、好きでいたいから。」と相手の目を見つめる。
すっかり困り果ててしまう、私たち。

急いで、荷物をたたんで
ここから出ないと。
丹羽さんに伝え、
私たちは荷造りをはじめた。
その間も、廊下では
ヴァイオリンの音がこだましていた。
まるで追い立てられるかのように、必死だった。

おもての様子をみにいくと、
例のキッチンの扉のすきまから
ヴァイオリンを練習するカリウのすがた。

ヴァイオリンの弦に
糸を結びつけて、ひっぱる。
ヴァイオリンが啜り泣くような、
胸を引っかかれるような音。
かつて、偉大なヴァイオニスト、
ニコラエがやっていたのと同じように。

私は後ろ髪ひかれる思いで、
発つことを覚悟した。
荷物を外に出すと、
音楽がこだましていた。
その音のほうへいく。

オレンジ色のスポットライト、
その扉のさきに
ヴァイオリンを弾くカリウとアコーディオンのマリンが立っていた。
私たちを見ていた。
何もなかったかのように、
満面の笑みを浮かべて演奏するカリウ。

キッチンには、カリウの小さな孫たちもいっしょだった。
可愛らしい表情で、
声をふりしぼって唄う男の子。
やさしくヴァイオリンを向けるカリウ。

あまりにうつくしすぎる光景に、
胸がふるえた。
気が付くと、冷たいものが
頬をながれていた。

これがジプシーの姿。
私たち、ガッジョ(よそ者)とは
一線を引く同胞意識の強さ。
そして、憎くむことのできない人間臭さ・・・。

先ほどの出来事をすっかり放り投げて、
抱きしめてしまいたくなる愛らしさ。
涙が止まらなかった。

デザイナーであり、
社長である丹羽さんにみなの目が向かう。
どうしたら、いいのだろう・・・。
丹羽さんは、長年のパートナーであるアラタさんに相談した。
「 ここは、お前の判断に任せる。」という返事に、
丹羽さんは、しばらく考えているようだ。

「 やっぱり、やりたいですね。」
ときっぱりした丹羽さんの一声で、
現場はまた動いた。

少ないけれども最後のお金を渡して、
交渉が成立。

薄暗いガレージの中で、
裸電球をともして演奏がはじまった。
カリウの指先が
ナイロンの糸を引っぱり、
ヴァイオリンの音が
痛々しいほど唸る。

アコーディオンがリズムを奏で、
マリンの歌がくわわった。
「 チャウセスク・二コラエは・・・」と映画でも取り上げられた、
あの有名なバラード。



かつてはヴァイオリンと歌を
ニコラエおじいさんがしていたのが、
今度はこのふたり。
熱く、素晴らしい演奏が終わりを告げ、
ビデオカメラの電源を切ると、
あたたかい拍手が鳴り響いた。

後は、モデル撮影をして終了。
キッチンに戻ると、
最後にまた、演奏をプレゼントしてくれるとのこと。

再びヴァイオリン、アコーディオンと
歌声が私たちを包みこむ。
レコーダーもビデオもまわっていない。
私たちスタッフひとりひとりの顔を
見つめ、演奏が流れていく。

もうすぐに肩が触れてしまうほどの
最高の客席で、
彼らの音楽のエネルギーを受けていると
また涙がこぼれた。
音楽で
こころが救われる、
そんな気がした。

部屋の中で、ただ独り
カリウとロベルトの演奏を収録したアラタさんの言葉を思い出す。
「 たまげるってね、
 魂が消えるという意味なんだけど、
 まさにそんな感じだったな。」
ビデオを撮影する手が震えたそうだ。

外に出て別れるときには、
もう寒さのせいか興奮のせいか
からだがガタガタ震えていた。

カリウが言う。
「 俺たちも、イニマ(こころ)をこめて弾いた。
そうしたら、君たちもイニマ(こころ)で聴いてくれたね。
それが確かに伝わってきたよ。」

「 良い旅を!」という言葉に、
私たちも「ありがとう。」と返す。
こんなときに、何かふさわしい言葉がないだろうか。

YUUMIさんが
ふと思いついたように、
「 ラッチョ・ドローム!」と言った。

彼らタラフも出演した、
ジプシーを追った映画のタイトル。
彼らの言葉、ロマ語で「 良い旅を!」という意味だ。

みなで口々に、「 ラッチョ・ドローム!」と言う。
そして、私たちは
最後の村クレジャニをあとにした。

一週間の撮影旅行が、これで終わった。

まだ頭の中では、
ぐるぐると彼らの音楽が鳴り響いて止まなかった。



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comments(4)|trackback(0)|ジプシー文化|2009-10-20_09:56|page top

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おつかれさまです。
人の文章であの時間を思い出すのも良いですね。
知らなかった事実とかもあって。
僕もなかなか東京に馴染めません。

そして僕、今日友達のライブで彼らが言っていた「ケイコ」さんに会いました(笑)。ルーマニア前にNYに追いかけて写真を撮りに行ったミュージシャンのライブだったですが、それに関わっていた会社が日本でのタラフのマネージメントをしてるのです。昨日クレジャニから帰って来たと言ったらびっくりしてました。
こういうのは繋がるもんですね。

「たまげる」ですね「魂消える」です。

ではまた。
Re: タイトルなし
すごい、偶然ですね!
クレジャニでさんざん話に聞いていた、
あのケイコさんにお会いしたのですね。
つながるものですね・・。

そして、まだ帰国して間もないのに
ライブに行かれたり、編集だったりで
相変わらずお忙しそうですね。

たまげる、でした!
すみません、ルーマニア語のまえに
まず日本語の聞き取りが問題ですね、私・・・。

たましいが消える、
なかなか思いつかない表現です。
何の取材の旅行なのか分からないけど、
Tulipanさんの文章力はすごいね。
全然知らない土地のことだけど、
まるで見て感じているようだよ。

またの記事も楽しみにしています。

お疲れ様でした。
Re: タイトルなし
なちゅさん、ゴメンね。
いきなりの最終日から
書き始めてしまいました。
そうでないと、こころが落ち着かない
そんな気がしたので・・。

今回は私は通訳に専念して
写真が少なく、分かりづらいと思うけど、
また探して編集しなおします。

Meanの服と
ジプシー文化が
うまく融合されたと思います。
素晴らしいスタッフの方々の力で。