トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

カテゴリー

FC2カウンター

カレンダー(月別)

07 ≪│2017/08│≫ 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

これまで書いた記事は・・・

全タイトルを表示

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Feed Me!

トランシルヴァニアへの扉  - Erdely kapuja-のRSSフィード

ブログ翻訳

月夜の晩の出会い

いつものように、
毎週木曜日の家庭教師の時間がおわって、
かえり道。

いつもよりも数倍も明るい月のひかりを眺めながら、
ここちよく歩いていた。
ふと近所のスーパーから、
ひとりの帽子をかぶった老人が歩いてきた。

その風貌に、なにか思い出すものがあった。
しばらく、おじいさんの跡をつけて
歩きながらよく観察する。

勇気をふりしぼって、たずねてみた。
「 あのう、あなた踊りをする人ですよね?」
そのぼうしの頭が振りかえり、
私の目をじっとみつめた。
「 ああ、そうだよ。」

「 いつか、セントジュルジ祭で
踊っていらしたのを見たんです。
とってもお上手でしたよね。」とほめると、
その表情がふとやわらぎ、
ほほえみさえ浮かんだ。

「 あの後でビールをおごった奴、
誰だか知っているかい?
あれは、バラージュとかいう歌手なんだよ。」
NAPRA(ナプラ)という、ハンガリーのエスノ・ロックのバンドが
迫力あるコンサートをしていた。
そのとき突然に踊りだしたおじいさんのダンスがあまりに
素晴らしかった(味わいがあった)ので、
そのご褒美にビールを持ってきた男がいたのだ。

「 踊りを見せてくれませんか?」
「 どこで踊ったらいい?」
「 ウルクーの、どこにお住まいなのですか?」
ウルクーとは、この町のジプシー居住区のことである。
「 俺はいつでも、この地区にいるよ。
 このゴミ箱のあたりにね。」
私たちは、商店から離れて
うす暗い、ゴミ箱のあたりに立っていた。

「・・・恥ずかしいことに、俺は宿なしなんだ。」
「 こんなに寒いのに・・・。
 毛布はあるんですか?」
「 ああ、ゴミのあたりなら
 何か見つかる。」
おじいさんの息がアルコール臭いのに、
そのとき気が付いた。
あの祭りのときにも、確か飲んでいるようだった。

「 ご家族は、いらっしゃらないんですか?」
「 ああ、家内と別れたんでね。」
「 ご両親もいらっしゃらない・・・。」
「 ああ、父さんも母さんも、
 死んだんでね。」
母さんというところで、
おじいさんの黒い瞳がすこし潤んだようだった。

「 おじさんのお名前は?」
「 俺の名前は、ドイツ語なんだ。
 君には書けないはずだから、俺が書くよ。」
差しだしたボールペンをにぎって、
ノートにおぼつかない文字が並ぶ。
「 ディマ・エルンス」とやっとのこと解読できた。
ドイツ語の名前・・・ということは、彼の両親はドイツ系の住民だろうか。

「 どちらから、来られたんですか?」
「 インドからだよ。」
と大真面目な顔で、答えるおじいさん。
どうやらジプシーがどこから発祥したという意味で、
かん違いしたようす。

それから、
「 俺は、ブラショフ県の出身だよ。」
と寂しそうに答えた。

ポケットの中でいつしか握っていた紙幣、
「 パンはありますか?」とたずねると首をふった。
店にはしって、パンを買ってきて渡す。

「 あんたに、何をいいたいか分かるかい?
 俺はね、これでも高校まで出ているんだ。」
アメリカの何とかいう作家のはなし、
フランスの何とか二世とかいう王様のはなしをした。
どれも、聞いたことのない名前だった。

「 怒らないでおくれよ。
 俺はね、学のない人間だって
 馬鹿にされたくなかったんだ。」
「 いいえ、そんなこと思っていません。」
おじいさんの肩をたたいた。

私たちは、
土曜日の正午にその場所で
会うことを決めた。
「 じゃあ、
 土曜日の、教会の鐘がなるころに。」
私たちは別れた。

明るい月夜のした、
いつしか小走りに歩いていた。


トランシルヴァニアをあなたの心に・・・。
              
にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ



*2008年春のセントジュルジ祭の、
 コンサートの出来事は、こちらです。


スポンサーサイト

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(0)|trackback(0)|ジプシー文化|2009-11-05_20:56|page top

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

コメントの投稿

非公開コメント