トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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ジプシーの踊り手、エルヌーおじさん

土曜日の正午。
ジプシーのおじさんとの約束の場所へと向かった。

あの時は勢いでどこででも
踊ってもらおうと思っていたけれど、
よく考えたら、通りでは無理。
踊りの音楽もいる。
・・・というわけで、
場所を確保するのが先だと気が付いた。

例のゴミ箱の前、人は誰もいない。
もうひとつのごみ置き場にも、
やっぱりいない。

あの時、酔っ払っていて
すっかり約束のことを忘れてしまったのだろうか。
おじいさんは腕時計を持っている風でもなかったし、
どうやって時間が分かるのだろう。
そういえば、お昼に教会の鐘はなっただろうか。

たいして期待が裏切られたようなショックもなく、
息子の手をひいてぶらぶら歩いていた。
公園で、友達のイザベラらと出会う。
子どもたちはすぐに意気投合して、遊びはじめた。

久々に出会った友人に、
いきさつを話す。
「 私ね、ジプシーのおじいさんを探して、
 踊ってもらおうと思っていたんだけど、
 見つからないの。それも、宿無しのおじいさんなの。」

彼女は目を丸くして、噴き出した。
「 それじゃあ、もう忘れてしまったのかもね!」

そうして、もと来た道の方をみやると、
帽子をかぶったそれらしき姿が見える。
友人と息子を置いて、
「 ちょっと行ってくる。」と駆け出した。

小さな野菜市場のそばの、ごみ置き場。
おじいさんは、いつものように
帽子をかぶり、ステッキを持って歩いている。
ちょうど近くに来たときには、
小さな残飯袋を手に握っていた。

「 こんにちは。」と声をかけると、
おじいさんは嬉しそうに微笑んだ。
かろうじて私のことは覚えているらしい。

「 お昼に、この前会った場所で
探していたんですけど、見つからなくて。
そうだ、スープを持ってきたんです。」
とおじいさんの手に、袋を手渡した。

「 ありがとう。」としずかに微笑んだ。
おでこのところに、赤く血がにじんでいる。
どこかで、酔っ払って転んだんだろうか。

「 今日も、あちこち、ゴミを探して
 うろうろしていたからね。」
その日も、やっぱり酒臭かった。

「 おじさん、どこで寝ていらっしゃるんですか?」
「 俺がどこで寝ているのか、教えてやろう。
 ほら、あそこ。扉が見えるだろう。」
指を差しているのは、ちょうど今来た公園のあたり。

「 あの、建物を誰かが買い取って
 レストランにするんだけど。
 それまでは、そこで寝泊りして良いってことになってるんだ。」
かつて共産主義時代に、この一帯の集合住宅を暖めていた、
セントラルヒーティングの施設があった建物。
あれから、ずっと何にも使われていない。

今日はビデオ撮影ができないこと、
それまで場所を探しておくから、
月曜日にまた探しに来ることを告げた。

「 それでも、俺も何時か知っておかなくちゃ。」
と偉そうに言うおじいさん。
「 そうね、午後の3時にしましょう。」
そういいながらも、多分また
彼を探すことになるだろうと思った。

IMG_5681.jpg




火曜日の朝、やっとジプシーの長である
ディマ・ミハーイ氏と電話がつながった。
ウルクーの公民館へ出向いて、話をする。
公民館は、いつでも大丈夫との許可が下りた。

「 そういえば、エルヌーおじさんが
 昨日、ここに来たな。
 何でもダンスを踊ってほしい人がいるって。
 誰も信じなかったけれど。」
エルヌーおじさん、きっと覚えていないだろうと
思っていたのに・・・すこし胸が痛んだ。

帰り道、歩いていると
「 いつ写真を持ってきてくれるんだ?」といつものように
呼び止められる。
いつか愛馬と愛娘といっしょに、
何枚もの写真を撮らせた青年。
「 家にあるから、今度もって来るわ。」と納得させる。

すると後ろから、また私を呼び止める声。
振り返ると、女性が何人か歩いてくる。
「 あの失礼のないようにお願いしたいんだけど、
私の家と、子どもたちの写真を撮ってくれません?」と中年くらいの女性。

なにか深刻そうな顔。
事情を聞くと、どうやら県からの援助をもらうために
自分の住環境を知らせる必要があるらしい。
ご主人様は、森に木を切りに行って捕まったそうだ。
以来、5人の子どもたちを一人で育てているという。

「 また、いつここに来るんですか?」と聞かれたので、
「 今日か明日、
 ここでダンスを踊ってもらいたい人がいるから。」と答える。
「 エルヌーおじさんでしょ。
 私のお父さんよ。」と彼女。
本当に、あのエルヌーおじさんのお父さんなのだろうか。
だって、浮浪者なのに。

「 お父さんはね、うちに住んでいるんだけれど
 けんかすると、ふらりと出て行っちゃうのよ。
 いつも飲んでばかりだし。」
身寄りのない、浮浪者のおじいさんだと思っていたのが、
なんだか安心した。

偶然の縁で出会った、
娘さんとお孫さんと家のほうへ歩いていく。
これから、娘さんはエルヌーおじさんを探し出し、
あとでウルクーで会うことに決まった。

家のそばのゴミ捨て場。
ジプシーのおばさんが佇んでいた。
「 エルヌーおじさんを見ませんでした?」と聞くと、
「 もう家に帰ったよ。
 寒いから、帰るって行っていたわ。」とおばさん。
「 あのおじさんは、誰かが情けをかけてお金をあげたりするんだけど、
 すぐに飲んでしまうのよ。
 青い酒(消毒用のアルコール)を飲んで
 ここにひっくり返っていて、病院に運ばれたこともあったわ。」
それから、声をひそめて言った。
「 ねえ、パンになるものをおくれよ。
 きっと、あなたはよい事をしたって神様はいうから。」

それからビデオ役のダンナと息子を連れて、
ウルクー地区に向かった。

IMG_5708.jpg

先ほど会った、お孫さんのリベゼラを呼び出すと
すぐに迎えに来てくれた。
家の中へ通される。
子どもたち、そして女性たちでいっぱいの部屋。
エルヌーおじさんの姿はどこにも見られない。

「 探したんだけれど、どこにもいなかったのよ。」と娘のマリさん。
ピカピカのCDプレイヤーや、ペルシャじゅうたん、
きれいなコーヒーカップの並んだ棚。
ジプシーらしい、鮮やかなインテリアの
思ったよりも裕福そうな家。
ここは、マリさんのお姉さんの家のようだ。

IMG_5717.jpg

仕方がないので、世間話を少ししてから帰ろう。
「 そういえば、ジプシーの音楽はありますか?
 ちょっとかけてくれません?」と聞くと、
思っていた民謡調のものではなく、
ルーマニア語のダンス音楽だった。

3歳になるという女の子。
お母さんは、ジプシースカートを上から着させる。
リベゼラのお兄さんもやってきて、
ジプシーダンスがはじまった。

IMG_5761.jpg

IMG_5767.jpg

エルヌーおじさんから娘さん、
お孫さん、ひ孫さんにまでつながるダンサーの血。
「 ジプシーの血の中に、
 リズム感がしっかり根付いている。」とはよく言われるが、
その通りなのだろう。
リズムに合わせて、からだを揺らす
その小さな少女を見ながら思う。

泥でぬかるんだ道を、ひきかえす。
そこには、野犬のごとく普通にブタが歩いている。

IMG_5774.jpg

彼ら、ジプシーたちのぎりぎりの生活。
いかにも必死そうな、
実はそうでないような生き方。
不幸そうでもあり、
ユーモアがありそうでもある。
目を背けたくなるときもあるが、
何かひきつけて止まないものもある。

いつ、エルヌーおじさんに会えるだろう。



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comments(6)|trackback(0)|ジプシー文化|2009-11-10_16:01|page top

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楽しみしていた物語の続きを見つけたように、
どきどきしながらいっきに読みきりました。

いつも素敵な感動をありがとうございます。

Re: タイトルなし
どうもありがとうございます!
楽しみにしていただいたなんて、
本当に嬉しいです。

不思議な出会いでしたので、
すぐにご報告したかったのですが・・
おじいさんがなかなか捕まらないようです。

またふとした時に、出会うのかもしれませんね。
満月の夜にでも・・。
私もいつも更新を楽しみにしています。

同じルーマニアにいながら、とても不思議な世界。
そして、素敵な人々のお話。
きっとこれもtulipanさんの人柄のあらわれなんでしょうね。
Re: タイトルなし
マリチカさん、どうもありがとうございます!
同じルーマニアにお住まいの方に
訪問していただけて嬉しいです。

同じルーマニアでも、
ここはハンガリー系のセーケイ人が住む地域。
また見るもの、聞くものも違うと思います。

お恥ずかしいのですがルーマニア語には
ほとんど接しない日常生活、
マリチカさんのようには、
ルーマニアの情報はまったく詳しくないんです。

私ももっと、ルーマニア語を勉強して
ルーマニア的な世界にも接してみたいと思うのですが・・。
ルーマニア正教やコリンダなどの習慣に興味があります。
時計の無い世界
こんにちは~

この不思議な世界は、実在してるんだろうか…と、
不安になりながら、読み進めているんですよ~
いつどこに出没するかわからない、エルヌーおじさんの、
人懐こい笑顔にほっとしつつ、実は家族がいたなんて…二重にびっくりです。
日本だったら、こんな自由に生きられるのは、
フーテンの寅さんくらいじゃないかと思い至り、
羨ましいような気もしています。

おじさんのダンスの披露が楽しみです。

豚の後姿を眺めながら、私が子どもの頃(40年ほど前?)、
日本でも街の中心から少し離れると、
どこででもこんな風景に出会えた事を思い出しました。
今では住宅地が広がって、郊外大型店舗が濫立しています。



Re: 時計の無い世界
ホリホックさん、こんにちは。
トランシルヴァニアには、まだ昔の日本を
想いださせる風景が見られるのだと思います。
私はそれを経験していませんが、
それでも何だか不思議とほっとするのです。

ジプシーの人たちには、
社会の端っこにいながら、
なんだか気楽で安心させるようなところがあります。
大家族で、鼻歌をうたいながら
馬車で移動したり・・・。
こんな人たちがいても、いいのではないかと。
今の社会では、どこにも
そういう寛容な部分がないのが残念です。

またおじさんのダンス、
ぜひビデオに撮ってお披露目しますね。
どうぞお楽しみに。