トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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あるジプシー老人の告白

その老人は、
ふらふらとおぼつかない足取りで
アパートの脇から出てきた。

黒い帽子に黒いチョッキ姿で、
杖をついている。
遠くからでも、すぐにそれとわかる姿に
思わず駆け出していた。
「 エルヌーおじさん!」

「 どうしたんですか?
お元気ですか?」と声をかけると、
おじさんはまだ寝ぼけたような顔で
わたしを見据えて、それから顔がほころんだ。
目の上には、ちいさなコブができている。

「 今ちょうど、マーリのところから来たんです。
子どもの洋服を届けに行っていて。」
おじさんの娘、マーリはウルクーで貧しい家に住んでいる。
一人で5人の子どもを育て、
牢屋に入っているご主人を待っている。

「 俺もね、孫たちに見つけてきたところさ。」
とビニールの包みを開いてみせる。
中には、封の開いた子どものお菓子や
乾いたパンなどが入っていた。

住宅地にある、小さな公園のベンチに腰掛けるおじさん。
「 前、約束した歌をうたってもらえませんか?」
「 ああ、いいよ。」とおじさん。

koszoru 055

「 ジプシー語の歌は、誰から習ったのですか?」
「 それはね・・。
 俺の母さんの母さん。
 俺のことを可愛がってくれた、祖父母だよ。」
おじいさんは、優しかったおばあさんの面影を思い出してか、
声を詰まらせていた。

「 母さんの名前は、ジュジャといった。
 ジプシーのロングスカートをはいて、
 エプロンをしていた。
 それから、今、君が着ているようなコートをね。
 それは美人で、踊りもうまかった。」

koszoru 061

途中、わたしの顔に
黒く汚れた指を差し出して、
結った髪からわずかに出た髪の毛を、やさしく払った。
「 こんな風に、顔に髪がかかっているのは
 気持ち悪いんだ。邪魔だろう?」

「 お母さんのお写真はありますか?」
「 ああ、もちろん。
 俺の妹の住む村にね。
 あそこへ行ったら、妹といっしょに踊ってやることもできるよ。」
気がつくと、話はどんどん脱線していた。

カメラを向けて、
「 ねえ、歌を歌ってくださいよ。」と仕掛けるダンナ。
「 おお、お前はなんていい奴なんだ。
 お前が好きだよ。
 もちろん、友人という意味でな。」
とダンナのひげ面を指でなでる。

koszoru 058

やがて聞きなれない言葉の響き、
しずかな低い声で不思議な音階がつむぎだされる。
歌い終わってから、
「今度は、ハンガリー語でうたうよ。」
と同じ歌がすこしだけ繰り返された。

koszoru 063

「 この歌はね、
俺の人生をうたったものなんだよ。」
それから、おじさんは急に真顔になって言った。
「 俺はね、うそをつくことが大嫌いだ。
 だから、本当のことを言おう。
 俺はね・・・自分の女房を殺めてしまったんだ。」

「 その理由はふたつある。
 ひとつは、俺を裏切って
 ほかの男を作ったことだ。
 ジプシーの掟では、妻の不義理は許されないとされている。
 そんなときには、こうしないといけないって。」
といって、突き刺すしぐさを見せた。

「 もうひとつは、
 俺と娘の関係を疑ったことだ。
 もちろん、これは嘘なんだが、あれは疑って信じなかった。」

「 ・・・以来、俺は20年間を牢屋で過ごしたんだ。」
よくみると、おじさんの手には、
無数の刺青が彫られてあった。

気がつくと、
手が冷たく凍えるようだ。
「 コーヒーを飲みますか?」
家へもどって、すばやくコーヒーを入れて
おじさんの手に渡した。
もう、アルコールは渡さないほうがいい。
少しのお金を渡しても、すべてあの毒薬に変えてしまうおじさん。

コーヒーをすすりながら、
胸からタバコを取り出して吸いはじめた。
「 それ、どうしたんですか?」
「 今朝買ったばかりなんだが、
 もうこれだけになってしまったよ。」
値上がりした今、ルーマニアでは贅沢品のタバコ。

koszoru 067

タバコをくゆらせながら、
「 君は、俺の質問に答えられるかい?」
私はつばを呑み、
「 ええ、できるだけやってみます。」とおそるおそる答える。
「 ノストラダムスは、いつ生まれたか知っているかい?」

拍子抜けした。分からないと言うと、
「 1893年だよ。」と自信たっぷりに言った。
「 子どもは何人いるか知っているか?」
もう、お手上げである。
「 明日、いっしょに図書館へ行こう。
ノストラダムスの本を探してやるから。」

調子付いたようで、話に拍車がかかる。

「 俺はね、イギリスに行ったことがあるんだ。」
「 そこで何をしていたんです?」
「 あそこで、俺は職業を学んだのさ。
 土木をね。」
「 へえ、すごいですね。」
「 エリザベス女王の宮殿だって、
俺が建てたんだからな。」
「 ・・・・・。」

「 中国にだって、行ったことがある。」
「 ・・・いつですか?」
「 77年だよ。そして78年には日本へわたった。
 空手を学びにね。」

きっと長い牢屋生活の間、
空想があちらこちらに飛んでいったに違いない。

「 待て、まだ話がある。」
と追い討ちをかけてくるおじさんに、
「 また、会いましょう。」と別れた。

きっと、近いうちにまた会えるだろう。
辛い人生を背負いながら、
ひたすらに酒をのみつづけるおじさん。
その低く、泣きすさぶような歌声が
いつまでも耳に残った。



トランシルヴァニアをあなたの心に。。。
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comments(0)|trackback(0)|ジプシー文化|2009-11-30_01:10|page top

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