トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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旧セントラルヒーティングの中で

閑静な住宅地の中にひっそりとたたずむ、
時代おくれのクリーム色した建物。

DSC05709.jpg

鉄の扉をひらいて、
おそるおそる中へと入りこむ。
昼間なのにうす暗い室内。

割れたガラスに、
ペットボトルや食べ物のゴミ・・・。
その荒れ果てた広間のすみに、
見なれたおじさんの姿を見た。

「 エルヌーおじさん!」
私をみると、いつもの笑顔がうかんだ。
「 ここにお住まいなんですね。」

「 ああ、ここが俺の住まいだよ。
 さあ、冷えるからここにお座り。」
おじさんは、プラスティックのバケツをひっくり返した
いすを勧める。

がらんとした無機質な部屋。
かまどのようなものが
奥に並んでいるのが見える。
その横に、おじさんのベッドがあった。

IMG_6710.jpg

窓は、建物の上部のほうに
いくつかあるだけ。
それもほとんどが割られていて、
外の冷たい空気が容赦なく入ってくる。

「 ここは寒いですね。」
「 寒いから、夜は飲まないとやってられないよ。
 どうしようもないときは、あそこで薪をたくしかない。」

「 去年、一番寒かったころ、
 俺がどこで眠っていたか知っているかい?
 外のゴミ箱の横さ。
 ああ、本当だよ。
 それでも、ほらこうやって生きている。」と両手をひろげてみせた。

一番寒いときは、マイナス30度近くにはなるこの地方・・・。
本当の話なんだろうか?

「 俺はね、小さいときから孤児だったんだ。
 そう、昔から乞食をしていたんだ。
 一番年上だったから、小さい兄弟たちを連れて、
 森のなかで煮炊きをしたこともあった。
 それで、嫁をとることになった。
 彼女は、マリはまだ13歳だった。
 俺は17歳。
 彼女は、兄弟の面倒をよく見てくれたよ。」

「 あれにジプシーの言葉も教えてやった。
 それは難しかったけれど、
 ふたりだけしか分からない言葉を話すのは便利だった。」

「 俺はね、北極にも行ったことがあるんだ。
 友達を訪ねてね。やつが急に海の中へ飛び込んだかと思うと、
 アザラシの背中にのって海の底から出てきた。
 それでね、俺たちはそいつを焼いて、食べたんだ。
 アザラシの肉さ。
 あいつはスパイスをたっぷりつけて焼いていたが、それはうまかった。」

「 それからね、アフリカにも行ったことがある。
 こっそり船に乗り込んでね。
 隠れないといけなかったから、
 一週間、ずっと飲まず食わずでいたのさ。
 それはきつかった。」

いつしか身の上話から、
世界旅行の話になっていた。
どこまでが本当で、どこからが架空の話なのか分からないが、
とにかく面白い。

長く座っていると、
コンクリートに面した足の裏は芯から冷えてくる。
まさに底冷えがする寒さ。
そう長居はできない。

おじさんにカメラを向けると、
先ほどとは打って変わって、真剣な面持ちで語りはじめる。
まるで、自分の生き様を記録されることを
望んでいるかのように。

生い立ちの話から、
世界旅行の話・・・淡々と話をつづけるおじさん。
「 俺の人生は、ひどく辛いものだ。ひどく。」

「 俺は、自分の妻をこの手で殺めた。
 あれが、ほかの男を愛してしまったからだ。
 俺たち、ジプシーの間ではこれはあっていけないことだ。
 妻が浮気をするのは・・・もちろん夫もいけないが、
 あってはならないことなんだ。」

不意に、着ていたものを上にあげて
腹部を見せた。
「 ここの、胸のところを二回突いたんだ。
 まだキズの痕が残っている。」
冷たい、凍えるような息が私のからだから
しずかに吐きだされる。

今度は袖をまくって、腕を見せる。
刺青の入った腕のなかに、
いくつかのミミズばれのような痕があった。
「 ここは、血管を切ろうとしたところだ。」

「 これも、すべては妻のためさ。
 ・・・愛していたんだ。
 それでも、あいつは俺を裏切った。」

「 そして、ここで寝て起きている。
 これが、俺の人生さ。」
その指の先には、
彼の貧しい寝床があるだけだった。

IMG_6725.jpg


トランシルヴァニアをあなたの心に。。。
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comments(0)|trackback(0)|ジプシー文化|2009-12-17_01:53|page top

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