トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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ジプシーの髪結いの儀式

深夜11時。
カチカチに凍った白い道を、
おそるおそる歩んで向かうのは、花婿の家。

ちょうど私たちの前で車が止まり、
ジプシーの家族が家の中へと入ってゆく。
私たちも後に続いた。

扉が開かれると、
部屋の中のひかりとあたたかな空気、
騒がしいリズムと、大勢の人のむせ返る熱気とが
一気になだれこんできた。

カティおばさんに言われたとおり、
ジプシー語で祝いの言葉を投げかける。

黒いハットをかぶった、
口ひげのガーボル・ジプシーたちに囲まれた。
ビデオカメラをかかえ、
カメラで写真を連発する東洋人たちに
興味の目がつきささる。
「 Speak English?」
「 イタリアーノ?」
「 エスパニョール?」
「 ロムネシュティ?」
「 マジャルル?」

せわしそうにお皿にのせた料理を運ぶ、
ジプシー女性たち。
スカートはいつもの花柄だけれど、
いつもよりずっと華やかに着飾っている。

奥の部屋にどうにかしてたどり着き、
すすめられたいすに腰かける。
裸電球がひとつの小さな部屋には、
テーブルが並べられ、
コンクリートのはげかけた壁には
ペルシャじゅうたんがかかっている。

DSC06709.jpg

DSC06706.jpg

見慣れないグレーのペットボトルを、誰かが手渡した。
「 これ、なに?」
「 エネルギー・ドリンクだよ。」
カフェインたっぷりの栄養ドリンクを飲んで、
みんな朝までのパーティに備えるようだ。

隣にいたガーボルが声をかけた。
「 いいかい。ここにいるのは、
ブリバーノシュだよ。ジプシーの長さ。」
グレーの帽子をかぶった、恰幅のいい男だった。

花嫁と花婿を探しに、
また先ほどの玄関口に引き返す。
花嫁婿は別室で控えているから、
まだ出てこないようだ。

小柄のガーボルがやってきて、こういった。
「 俺たちは、ガーボルというジプシーだ。
 一言でジプシーといっても、色々でね・・。
 ほら、見れば分かるだろう?
 口ひげに、もみ上げ、そしてこの帽子だよ。」
どこか愛嬌があって、親しみやすい。
ハンガリー語を流暢にあやつる。

ふと、向こうの部屋がざわつき始めた。
例の帽子のおじさんたちが、
大声で何かを叫んでいる。

花婿のお兄さんが、困ったような顔でやってきた。
「 君たちには悪いんだけどね・・。
 困ったことになったんだ。
 君たちがビデオをまわしたり、カメラに撮るのをよく思わない連中がいるんだ。」
その雰囲気を察して、尋ねた。
「 ・・・では、帰ったほうがいい?」
「 ああ、そのほうがいい。
 少し食べたり、飲んだりしてからでいいよ。」と申し訳なさそうだが、
きっぱりとした口調だった。

ポーズをとるジプシーの女性たちにカメラを向け、
談笑しているてるこさんに事情を説明する。
「 ビデオやカメラなしなら、大丈夫かしら?」

「 こんなお祝いの席で、
 皆さんに不快感を与えたくありません。
 カメラやビデオを置くから、この目で見させてください。
 そして、新郎新婦を祝福させてください。」
花婿のお兄さんに頼むと、
「 ああ、それなら大丈夫だよ。」
と今度は口調も明るくなった。

「 その代わり、そのビデオやカメラをここにしまってくれ。」
たくさんの人のいる中で、
大切な仕事道具を置いていくのは、決心のいること。
けれども、ここで誠意を見せないといけない。
てるこさんたちは承知して、
部屋のたんすのなかにすべての持ち物をおいた。

先ほどのガーボルが来て、こう説明する。
「 俺たち、ジプシーの間では
 こういう儀式を写真に撮ったりしないんだ。
 君たちには君たちだけの習慣があるように、
 こちらにはこちらの習慣がある。」

これからは、しっかり周りの様子に気をつけて、
何か不穏な感じがあったらすぐに出て行かないと。
ただ問題は、彼ら同士の言葉が分からないことだ。

玄関口で、向こう側の様子をうかがうと
まだ口論が続いているようす。
イェッドの女性たちに聞いてみた。
「 ねえ、私たちのこと?」
「 ええ、そうよ。」
と申し訳なさそうに、うなづく。

ダンス音楽が鳴り響いた。
ふり返ると、ビデオ担当のトシさんがジプシーのおばあちゃんと
仲良く頬をよせて踊っている。
音楽がやむと、おばあちゃんに
「 踊りが上手ですね!」とほめる。
「 私はカティのいとこよ。
 会ったら言っておくれ。ギダに会ったってね。」

先ほどの花婿の兄は、てるこさんが気に入った様子。
「 君はうつくしい。嫁にきておくれ。」
と私に愛の言葉を通訳させる。
「 ロマ(ジプシー)?ハーザッシャーグ(結婚)?」とおどけて
手をさしだすのに、キスをするジプシーの男。
本気で連れ去ってしまったらどうしよう、
とはらはらする。

大物たちが集まる、向こうの部屋では
髪結いの儀式がそろそろ始まる頃だ。
たくさんの人の後ろで、
向こうはほとんど見えない。

ジプシー男性たちの大合唱が聞こえてきた。
ハンガリー語だ、と思った。
酒に酔い、気持ちよさそうに歌う大きなハットの男性たち。
ただ部屋が仕切られているというだけではない。
ジプシーとガッジョ(よそ者)の
境界線をしっかりと肌で感じる。

やがて花嫁の長い髪を、
お母さんとお姑さんが二つに編んでいく儀式がはじまったようだ。
それから、後ろでひとつにまとめ上げて
スカーフを結ぶ。
結婚式の深夜0時に、
少女が成人の女性に生まれ変わるのだ。

「 ほら、花嫁のお母さんが泣いているよ。」
イェッドのジプシー女性が耳にささやきかける。
壁にそっと顔を押しつけて背伸びをすると、
まだ若い母親が目をふせ、
うつくしい娘の髪を結っていた。

「 幸せで、泣いているんだよ。」と今度は
花婿の弟が話す。

中では、参列者が携帯電話でその様子を撮っている。
「 彼らは、撮ってもいいのね。」と苦笑する
てるこさん。

それから、花嫁ダンスがはじまった。
カティおばさんが言っていたように、
お金をしっかりとポケットに入れて順番をまつ。

隣に立っていたのは、花嫁の父親ではなく
あのジプシーの親分。
「 花嫁さんと、踊ってもいいでしょうか?」とたずねると、
自分の頬を指差す。
挨拶のキスだ、ととっさに判断して、
おじさんの頬にキスをした。
周りがわっと、盛り上がった。

赤いエプロンを見につけた
ういういしい若奥さま。
そのポケットにお札をいれる。
ダンスの音楽が鳴って、
花嫁さんのかわいらしい手をとって、
くるくるとコマのように回す。
一分ほどで終了。

ケーキののったお皿を渡すおかみさんが、
「 まあ、キスなんかして!」と怒っているようす。

誰かが言った。
「 ジプシーの男にキスをしたら、いけないんだよ。」
「 ええ、そんなこと知らなかった!」と叫ぶ。
 
そう話している間にも、てるこさんは
ジプシーの親分の前に深々と土下座をして、
もうキスをしてしまった!
まわりが、先ほどより大きくドッとわきあがった。

慌ててその場を去ると、
いすに腰掛けて、チョコレートケーキをほおばる。
舌がしびれるほどの、濃厚な甘さが口いっぱいに広がる。
ジプシーの喜怒哀楽の激しさ、
古臭いダンス音楽、
キッチュな洋服のセンス・・・すべてがミックスされて、
その味といっしょに溶け込んだ。

隣に座っていたジプシー女性に尋ねる。
「 花嫁と花婿はどんなふうに知り合ったの?」
「 どこかの噂で、花嫁の美しいことを聞いて、
 そこの村に会いに行ったそうよ。
 会って二回目で、そのまま家に連れ去ったのよ。」

あまりにも突然で、衝動的な結婚・・・。
ジプシーの結婚は、よく「駆け落ち」とか、
「花嫁を盗む」とかいう言葉で表現される。

相手のことをよく知らずに、結婚相手を選ぶ。
その場合、もちろん女性の意思よりも
男性の意思が尊重される。
もしも、少女の両親が気に入らない相手ならば
娘を連れ戻すこともあるそう。

一週間ほどで、
花嫁の両親がやってきて、
髪結いの儀式が行われ、正式に夫婦とされる。
それから、法的に結婚届を出すのは、
ずっと後になることが多いといわれる。

「 私の場合は、4年付き合ったんだけどね。
 そこにいるのが、主人よ。」
ダンスがはじまり、
ものすごいステップでジプシーダンスを踊る人たち。

身支度をはじめると、
例のジプシーのボスが缶ビールを手渡して言った。
「 俺たちは、同じ人間だ。
 ハンガリー人だろうが、ルーマニア人であろうが、ロマ(ジプシー)であろうが・・・、
 日本人であろうがね。
 大切なのは、ここなんだ。」
と自分の胸を指差した。
先ほどの口論の口火をきった張本人が、
今はこうして私たちに真心を伝えようとしている。

理解しづらいしきたりや常識の違い。
私たちが枠の外側にあるという事実は、
依然として変わらない。
けれども、
そのこころをふとその枠の隙間から
のぞき見したような夜だった。




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comments(12)|trackback(0)|ジプシー文化|2010-01-08_15:04|page top

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非公開コメント

 貴重な経験をいつも沢山されていますよね。本当に。
 髪結いの儀式、長い髪が美しいとされるジプシーならではという感じですね。
Re: タイトルなし
越後やさん、遅らせながら
あけましておめでとうございます。

ここ半年はずっと
ジプシーテーマばかりでしたが、
たくさんの貴重な体験をさせてもらいました。

保守的だからこそ、
こんなに古く面白い習慣がたくさん
残っているのでしょうね。
髪結いの儀式、
ジプシー女性のうつくしさを象徴するものだからこそ、
こんなにも感慨深いのですね。
前回のコメントに回答していただき、ありがとうございます。

髪結いの儀式を、自分までtulipanと一緒に体験している気になり、カメラやキスの件でドキドキしました。
が、彼らの習慣を尊重しようとする姿がみえるため、tulipanさんたちが失敗しても彼らも許してくれたのでしょうね。
はじめまして。
いつも興味深くブログを拝見させて頂いております。

髪結いの儀式、素敵です。

僕はレディースファッションブランドをしています。
以前より音楽や映画を通じてではありますが
ジプシー文化に憧れがあり
多大な影響を受けています。

ブランドではオリジナル商品の他に
リメイク物も作っています。
普段、材料の古着はアメリカ経由のものですが
いつかは本物のジプシーの服や生地
アクセサリーや雑貨を使い、商品を
作りたいと思っています。

これからもブログ頑張って下さい。
応援しています☆
Re: タイトルなし
マリチカさん、どうもありがとうございます。

ジプシーの男性にキスをしていけない、
ということは後でカティおばさんに聞いてみたら、
「 そんなことはない。」とのことでした。
どうやら、彼ら流のジョークだったようです。

でもカメラのことは、本気だったようです。
習慣が違うジプシーの儀式ですので、
緊張しました。
Re: タイトルなし
関とおる さん、はじめまして。
ジプシーをテーマに
洋服作りをしていらっしゃるのですか。
とても興味ひかれます。

彼ら独特の色彩感覚には
いつもハッとさせられます。
そして、着たり飾ったりすることに
お金をかけるのも特徴のようです。
いつかジプシーのファッションデザイナーが
でてきたら、また面白いかもしれませんね。

ジプシースカートの生地は、
今よりも少し昔のものが素材もよく
発色もきれいです。
ジプシースカートや、
三つ編みヘア、ぜひ日本で流行させてくださいね。

ご訪問くださって、どうもありがとうございます。
遅くなりましたが、、、
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願い致します。

ジプシーの結婚式への参列、貴重な体験ですね。
喜びから怒りへ一瞬にして空気が切り替わり、緊張感が走る様子がとてもよく伝わってきます。
でも、保守的でありながらもどこかで心を通わせてくれる彼らが愛おしいですね。

今年は日本には帰られないのですか?
機会がありましたら遊びに来てくださいね。
突然のお知らせなのですが、お店を3月いっぱいで閉めることにしました。
今年中にそちらに行けたらいいなと思っています。今度は長期滞在する予定です。
ブログを読んでいると、一刻も早く行きたくなります、、、。

白銀の世界のなか、お身体壊しませんようご自愛くださいね。
Re: タイトルなし
由希さん、あけましておめでとうございます。

そうなんです。
色々あっても、結局は
こころでものを伝えようとする彼らが
愛おしいのですよね。
またジプシーの結婚式、参加したいです。
今度は近くで髪結いを見たいです。

実は、2月のはじめに息子を連れて一時帰国します。
お店のこと、残念です・・・。
もしお邪魔でなかったら、
2月に一度うかがいたいです。

ルーマニアに長期滞在!
楽しみです。
この環境だからできる、作品づくりの
形もあると思います。
近くの町だったら、うれしいです。

では、日本でまたお会いしましょう!
お返事ありがとうございます。

ひとつお聞きしたいのですが
昔のジプシースカートやその生地はどのようにしたら手に入るのでしょうか?

よろしければお知らせ下さい。

Re: タイトルなし
関とおる さん、
ご訪問をありがとうございます。

ジプシースカートの古いものは、
手に入れるのはなかなか難しいと思います。
ジプシーの人たちは
洋服などをあまり長くとっておかない様子です。

生地は、今、お店で買えるものは
薄くて、染色もあまり質がよいものでは
なさそうです。
確か、韓国製だとか聞きました。

もしどうしてもお求めになりたいのでしたら、
実際に村をまわって、
交渉するよりほかはないと思います。
お返事ありがとうございます。

なるほど。
ICIRI・PICIRIでは古いジプシースカートなどは
扱ったりしないのですか?

現状、金銭的な面で直接出向くのは
厳しそうなのでいつかは
そちらに行けたらと考えています。

知人にmeanの方と知り合いがいるので
そちらからもいろいろお話を聞いてみます。
Re: タイトルなし
ジプシーのファッションに
こんなにも関心をよせていただけて
うれしいです。

古いジプシースカートもそうですが、民俗衣装に関しても
すでに作り手がいないモノは、
自分でコレクションをしてしまいます。
値段がつけられないと思うからです。

ジプシースカート、それ自体は
まだ作り手がいますし、
需要もあるものです。

ただ日本人の嗜好にあうように
素材やデザインを変えていったほうがいいと思います。

トランシルヴァニアへ
お越しになって、ぜひ本物の
ジプシーファッションをご覧ください。
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