トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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アーラパタクに刺しゅうを訪ねて(後)

ふだんよりも一段と強い太陽のひかりで、
雪もすっかり姿を消した。
アーラパタクの中心部には、
ドーム型のオーソドックス教会がそびえ立っている。
道行く人は、ほとんどがジプシー。

IMG_8040.jpg

道を尋ねると、本通から折れていく
小さな通りを指差さされる。
ここは、古くからの住民が多いとされる所。

IMG_8043.jpg

「 ジュルジ先生のお宅はどこですか?」と聞くと、
緑色の家だといわれる。
門を押して、中へとお邪魔させてもらう。

中庭からも、家の住人の個性がうかがえるような
たくさんの木彫りの飾り。

中から出迎えた老夫婦に、
目的を告げると喜んで中へ通してくれた。

ご主人のジュルジおじさんは
かつては先生をしていたのが、
今は木彫りをしている方。
手作り市などにもよく出品されるそう。

gyoribacsi.jpg

こちらが、奥さまのエニクーおばさん。

部屋の壁にずらりと並んだ木の板は、
シューイコローと呼ばれる
洗濯板のようなもの。
昔、村では男性が女性にささげる
愛の贈り物として、自らの手で彫ったものだった。
ハートやチューリップなど
愛のシンボルで埋め尽くされている。

IMG_8114.jpg

木彫りと赤の刺しゅうが、
あたたかく心地よい空間を生み出している。

IMG_8085.jpg

円のなかに花びらが浮かんだようなモチーフは、
ロゼッタと呼ばれる太陽のシンボル。
タペストリーには、ダンスを踊るセーケイの女性たちと、
音楽を奏でる男性が描かれている。

IMG_8086.jpg

プロテスタント教会で使われる
賛美歌のブックカバーも、刺しゅうの赤で包まれる。

IMG_8099.jpg

「 私はよその村からお嫁にきたんだけど、
 刺しゅうをはじめたのはそれから。」
熟練した刺しゅうの作品を前に、
彼女の努力の跡がうかがい知れた。

IMG_8125.jpg

この地方のクロスステッチは、
細長くのばした斜めのラインを、ダブルにして刺してゆく。
「編みクロスステッチ」と呼ばれる。
目にも留まらぬ速さの、刺しゅうテクニック。

IMG_8118.jpg

「 夏の間は、ここで作業をするのよ。」と
見せてくれたのは、屋外に設置された小さな部屋。
いまでも農村で見られる「夏のキッチン」ならぬ、
「夏のアトリエ」である。

IMG_8064.jpg

この家も、例にもれず強盗の被害にあったそう。
緑色の壁に、木彫りが目印の家。

IMG_8132.jpg

「 村にはまだ作り手がいるのよ。」
エニクーおばさんに導かれて、
民家をいくつか訪ねるがあいにく留守だった。
3軒目の家で、やっと家の主人に出会えた。

外から持ちだしてきた靴の泥を、
ホウキではたき落とす。
「 いいから。どうぞ、中へお入りなさい。」とエルザおばさん。

IMG_8135.jpg

エメラルドグリーンの壁に、
赤い刺しゅうが目に飛び込んでくる。

IMG_8139.jpg

「 うちの子供たちは気にも留めないけれど、
 この間、お医者さまにプレゼントしたら、
 それはそれは喜んでいたわ。
 ずっと、ひざの上でやさしく撫でていらしたの。」と微笑がもれる。

IMG_8157.jpg

刺しゅうもするけれど、エルザおばさんの得意なのは
ロイトと呼ばれるフリンジ作り。
村の女性から、注文を受けて作ることもあるそう。

IMG_8137.jpg

こちらは若い頃の作品。
自ら染めた糸で一面にクロスステッチを施した
ベッドカバー。
すそのフリンジも、同じウール毛糸でできている。

IMG_8170.jpg

フリンジを編むところを見たいという私のために、
奥から持ってきたのは編み台。

IMG_8188.jpg

いすに腰掛け、
細長い赤い糸の目を数えはじめる。
「 エテルカ先生から習いはじめたときは、
 きれいにできなくって。背中に汗が流れたわ。」と
懐かしそうに話す。

IMG_8226.jpg

「 いい。編むときのポイントはね、
 軸になるはじめの糸をきつく引っ張ることよ。」と
説明しながらも、手は結んだり、開いたり・・・。

自在にかたちを変える、
うつくしい手の動きに見とれていると、
赤い糸はねじられ寄せられて、
確実に模様が出来上がっていく。

IMG_8236.jpg

「 次は、花のかたちを作るわね。」と
今度はひとつひとつの糸を結びながら、
斜めに模様を作っていく。
先ほどとは違って、
横に引っ張るようにした細やかな手の動き。
 
IMG_8263.jpg

まったく違う、二つの編み方が出来上がった。
糸の太さでも、質でもまた雰囲気が変わるそうだ。
「 やっぱり細い糸の方が、きれいだけどね。」とエルザおばさん。

IMG_8280.jpg

帰り間際に、こんな話になった。
「 この村は、よそと比べてすっかり立ち遅れてしまったわ。
 人が少なくなればなるほど、村人たちは協力するどころか、
 お互いに冷たくなっていってしまった。」

機織機を探しにきたはずが、
いつしか手芸を訪ねる旅となった。
この活気を失った村に、
まだ明かりは灯っている。
ただその火を絶やさないようにしないといけない。

IMG_8289.jpg

手仕事の村アーラパタク。
もしかしたら、
女性の手のチカラで
何かを変えていけるかもしれない。

IMG_8291.jpg



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comments(6)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2010-01-19_08:29|page top

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美しいですね~。
やはり赤ばかりなんですね。 伝統を守ると言うことはそういうことかな。
日本なら…赤ばかりじゃなんだから 他の色も使ってなどと考えてしまうんですが。(笑)
フリンジも素晴らしいですね。  マクラメ編みなんですね~。  どこの国でもそうですが手仕事が消えて行くんですね。機械化や合理化で。
失った寂しさを知るのは はるか後…。
Re: タイトルなし
霧のまちさん、
赤一色の世界ですよね。
お店で糸や生地が手に入るまでは、
皆さん自宅で糸を作り、
それを染めていたそうです。
何から染めていたのか、気になります。

刺しゅうができる人はまだ多いそうですが、
このマクラメ編みの作り手は少ないそうです。

もう子どもさんの世代では、
こういうものに見向きもしないそうで
それを聞くのは寂しいですね。

 これは目の前で見て教わりたい位です。何時もこちらで見る刺繍等の手仕事の図案が本になれば良いのにって思います。なかなか写真では細かいところまで私には判らないので。どうしてもクロスステッチへの苦手意識が抜けなくてなかなか挑戦出来ません(苦笑)
 だからついつい、クロスステッチで表現されているものを編込みで表現して楽しんでしまいます。
 村で良く見るクロスステッチは米印のように真ん中に1本はいるものやクロスが太くて四角く見える程のものが多いです。といってもこちらのものは伝統的なものではないみたいですけれど。村は前にも書きましたが、新しい村なのでフォークロア的なものは無いのです。
 そのかわり流通している商品にはフォークロア調のパッケージが多いのですけどね。
Re: タイトルなし
このアーラパタク村へご案内したいです。

クロスステッチって、どうしても
目を数えてするから細やかなイメージがありますが、
かつての自家製のリネン素材は、
繊維も荒く、必ずしもまっすぐではないのです。
糸も太いですしね。
もともと、農村の女性が農閑期にしていたものなので
ある意味、大らかさがあってもいいと思います。

この図案、織りものやニットにしても、
きっと素敵でしょうね。
素敵です♪
こんばんわ!

刺繍~素敵です。
赤の色がとてもいいですね~
私も少し戸塚刺繍というのを習いましたが
自由に出来ない組織があり辞めました。

クロスステッチやマクラメ・・基本はあるんでしょうね?
でも自由な感じがします。
tulipanさんは実物が見れて
良いですね~



Re: 素敵です♪
magnoliaさん、こんにちは。

こちらの刺しゅうでも、
もちろん伝統的なモチーフを刺しますよ。
ただ物によっては、
その作り手のテクニックや創作性を重んじて、
新しいものを作る場合もあります。

たとえば、婚約のしるしとして贈られたハンカチーフや
シャツなどは、あえて誰が刺したのか
分かるようにしたそうです。

基本ももちろん大切ですが、
一番は本人が楽しめること。
そのために規則で雁字搦めにするのは
おかしいですよね。
ジプシーの刺しゅう、あの自由さは
ほかに代えられない美しさがあると思います。
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