トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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町で一番寒い住まい

トランシルヴァニアに寒波が押し寄せてきたのは、
1月の後半。
朝目覚めると、窓ガラスがカチカチに凍って、
まるで押し花をしたような「氷の華」があらわれる。
連日続く極寒の日々に、
家のなかから外に出ることはほとんどなかった。

エルヌーおじさんを訪ねてみようと思ったのは、
その次の日。
熱いハーブティーと、
ジャガイモの煮込みをもって出かけた。

クリーム色の巨大な建物。
奥の薄暗い部屋からは、
かすかに話し声が聞こえてくる。

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中に入ると、
エルヌーおじさんともうひとり。
「 やあ、こんにちは。」
と思ったよりも張りのある声がひびく。

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窓は、かつてのビニール紙でしっかり固定されている。
焚き火が赤々と燃えているが、
燃え尽きた空気はどこにも逃げ場がなく、
部屋のなかを濁している。
小さな黒い粉が、
まるで虫のように空中をおよいでいた。

「 きのうの晩、警察がきたよ。
 俺を施設に連れて行こうとしてさ。
 でも、俺はがんとして行こうとしなかった。
 ちゃんとした住まいを与えてくれるならだけど、
 一晩だけ住まいがあったって仕方がない。」

「 病院に送ろうとしたやつもいた。
 でも、俺は病気じゃない。」

「 こんなところで、誰もが
 この寒い冬を越すことができると思うかい?」
行こうと思えば、逃げ場はあるはずなのに、
おじさんは何らかの強い意志でここにいるのだ。

「 きのうの晩は、何度あったか知っているかい?」
これまでで一番の冷え込みということだけは、
予想がつく。
「 マイナス35度さ。」
「 いいや、36度だよ。」ともうひとりが口をはさむ。

「 おとといから何も食べていなくて、
 お腹がぺこぺこだ。」と包みから出して、
ジャガイモの煮込みを食べはじめた。

パンを探すように友人に声をかけた。
袋から取り出したパンは、
どれもカチカチに凍っていた。
「 こいつらは凍っても、
 俺は大丈夫だった。」とにっこり微笑む。

「 寝るときに枕であたまを覆って寝るんだけれど、
 顔だけはそのままでね。
 いつか朝目覚めたときには、
 ひげがカチカチに凍っていた。

 もしエスキモーにもヒゲがあったら・・・
 と考えるとおかしくってね。
 ひとりで笑ってしまったよ。
 ほら、彼らは氷の家に住んでいるだろう。」

こんな寒い中でも、エルヌーおじさんのユーモアが聞かれて
ほっとする。

おじさんの友人は、
慣れた手つきで新聞紙で巻きタバコを作り、
火をつけ口にくわえた。

タバコのすい残しの黄色い部分を
新聞紙にくるんでまく。
「 タバコを買う、金がないんでね。」

ICIRIPICIRI30 179

しばらくいると、足の先が凍りつくようになる。
彼は、靴の裏を焚き火にかざして
寒さをしのいでいるようだ。

「 こうやって、よく見に来るんだ。
あいつがちゃんと生きているかどうか、
確かめにね。」

まだこの寒さは続くのだろうか・・・。



トランシルヴァニアをこころに・・・。

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comments(2)|trackback(0)|ジプシー文化|2010-01-30_12:22|page top

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マイナス30度ですか…寒すぎますね。
そしてそこでの おじさんの暮らし、言葉になりません。 tulipanさんのように何か食べ物を運ぶ地元の方はいるのでしょうか。
破れた窓、焚き火、着たきりの服、高齢、生きているのが奇跡みたいです。 寒波が来ると死者が出るニュースが聞かれるからです。
真っ黒な手が悲しいですね…。
Re: タイトルなし
こんな風に寒さが厳しい日には、
心配になってしまいます。

昔は地元のジプシーの方たちにも
職業があったらしいのですが、
今のような時代には
まったく見捨てられてしまった存在です。

おじさんだけでなく、
ちゃんと住まいがある人の中にも
ゴミ箱をあさっている人も多いです。

私の経験しえない人生を歩んでいて、
私たちにはないものをたくさん持っている
と思うので、
私は彼のことを尊敬しています。

あの手が黒いのは、
おそらくススのせいだと思います。
焚き火をしていたので・・。