トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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セーク(シク)村の手仕事を訪ねて(前)

トランシルヴァニアの中でも、
とりわけ有名なセーク(シク)村。
以前訪ねたのは真冬の閉ざされた環境のせいか、
どこか閉鎖的なように感じられた。

なだらかな山が続くこの一帯は、
メズーシェーグと呼ばれる。
四方を丘で囲まれた環境のせいか、
フォークロアが豊かな地方として知られている。

ゲルレからバスに揺られること20分ほどで、
すぐにセークに入った。
緑の丘に抱かれた村は、
それだけでひとつの世界のようである。

村の中心の教会の前には、
美しい衣装の人たちが見られる。
ちょうど、日曜のミサが始まるところのようだ。

バスから飛び降りると、
吸いよせられるようにして
黒い衣装の女性の跡をついてゆく。

SzekesKalotaszeg 015

大きく広がったアコーディオン・プリーツは、
まさにセークの衣装の顔である。
夏の太陽に照らされて、
その陰影がくっきりと移し出される。

SzekesKalotaszeg 032

黒いベストにスカート、
白のブラウスの控えめな色合いが、
可憐な女性の美しさを引き出している。

肩に留まったバラ飾り、
そして黒いスカーフの赤いバラ刺しゅう、
スカーフの下から、
お下げと赤いリボンが長く腰まで垂れる。

szek2.jpg

男性は、麦わら帽子に青いベスト。
刺しゅうのネクタイが、
白いシャツの胸からそっと顔を見せている。

教会のミサが厳かにはじまった。
日曜日のミサには、晴れの衣装を見につける。
どこでもその規則は変わりないはずなのに、
中世の古い教会に、
これだけの人数がお揃いの衣装で並んでいると、
ぴんと厳かな空気が張りつめるようだ。
まるで、何百年もの時間をタイムスリップしたかのよう。

SzekesKalotaszeg 039

一時間のミサのあと、
重い荷物を下ろそうと宿を探す。
セークには三つの通りしかないと言われる。
昔は町と呼ばれたほど大きな村は、
三つの地域に分けられる。

SzekesKalotaszeg 072

手違いでペンションが予約されていなかったことが分かり、
炎天下のなか宿を探す羽目になった。
ハンガリーから大型バスで観光客が着ているため、
村のペンションはどこも一杯だという。
村人を探すにも、日曜日の午後は
しんと水を打ったように静かだ。

やがて親切なハンガリー人団体客の招きで、
ツアー観光の中へと入れてもらう。
急きょ、同じペンションで部屋を空けてもらい、
ほっと一安心。何とかなるものだ。

村のおばさんが、糸紡ぎのレクチャーをしているところ。
麻を育て、くしをかけて、叩き、それから糸を紡ぐ。

SzekesKalotaszeg 078

隣国ハンガリーにとっては、
トランシルヴァニア地方はノスタルジアをそそる、
文化のルーツともいえるところ。

荷物を置いて身軽になったので、
さっそく村を散策に出かける。
「 村の下の方に、刺しゅうをする人がいたと思うわ。」という
おぼろげな情報を頼りに通りを下っていく。
途中で道を尋ねたら、
その女性が「うちにもあるわよ。」と家へ招き入れてくれる。

一般にハンガリー語では「清潔の部屋」という
女性の手仕事をしまった部屋のことを、
ここでは「セークの部屋」と呼ぶ。

カラフルなウールの機織のベッドカバーが
幾層にも重ねられ、その上には
真紅の織りのクッションカバーが高く積み上げられる。
決して使われることのない、
生活用品はまさに目で愛でるべきもの。

SzekesKalotaszeg 065

青い壁には、所狭しと
機織のクロスにアンティークの皿、
家族の写真や、絵画などが飾られている。

SzekesKalotaszeg 093

「 刺しゅうはされますか?」と尋ねると、
奥の部屋から、作りかけの刺しゅうを見せてくれる。
1mほどはある大きな刺しゅう枠は、
まるでキャンバスのようだ。

SzekesKalotaszeg 115

その大きなキャンバスを胸に抱き、
ひと針入れては、裏からひと針を出す。
ただひたすら、その繰り返し。

SzekesKalotaszeg 110

「 あ、これなら。私にもできそう。」
友人がそうつぶやいた。
そうフォークアートは、本々は難しい技術を要するものではない。
畑仕事や家事、育児・・・
たくさんの仕事の傍らに、物質的に豊かでなかった村の生活を
より美しく生活を彩ろうと努力してきた、
その証なのだから。

エルジおばさんの家を出ると、
先ほどまでの青空は跡形もなく、
だんだん雲行きが怪しくなってきた。

SzekesKalotaszeg 158

小川のほとりの小さな一軒家。
おばあさんが招き入れてくれた。
富の象徴である「セークの部屋」もなく、
ささやかな老夫婦の生活が垣間見られるような部屋。

SzekesKalotaszeg 169

ハンガリー語を流暢に話す、ルーマニア人のおばあさん。
「 私の子どもたちはみんな、遠くへ行ってしまったわ。
 もう80だからね、いくら呼ばれたってどこへも行けないわ。」

SzekesKalotaszeg 173

先ほどエルジおばさんから聞いていた、
機織の名人のおばあさんを探す。
「 ああ。カティおばさんは、すぐそこよ。
 ねえ、うちにもいいものがあるから、寄っていかない?」

SzekesKalotaszeg 182

もう、ここは村のはずれ。
この先はただ緑の丘がつづくだけ。
村はずれの家の門を開いて、中へ入った。

SzekesKalotaszeg 175



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comments(8)|trackback(0)|その他の地方の村|2010-07-13_09:39|page top

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No title
びっくりしました。 みやこうせいさんの写真と
同じ世界がまだ広がっていて。
長いおさげに赤いリボン、細かいプリーツの
ブラウス。 観光とは関係なく村で昔から
まもられて来た正装なんですね。

確か、シクと言った地名が出てきたと思いますが
もしかしたらセーク村の事でしょうか。

室内の壁の色は水色やエメラルドグリーンが
多いですね。  赤い刺繍が映えるからですか。
電気が薄暗くても明るく見えるのかな。

手の込んだ刺繍、本当に素敵ですね。
貧しく質素な暮らしを刺繍で和ませる・・・
日本では昔、何だったのだろうと考えます。
Re: No title
霧のまちさん、
セークもやはり時代の流れとともに
変わりつつありますが、
みやこうせいさんが取材された80年代は、
もっと伝統が生活に息づいていたのだと思います。

今の中高年の方々は、
民俗衣装を普段着として身につけていますが、
今の若い世代の人たちは、いくら刺しゅうをしても、
もう身につけません。

ここはハンガリー系の村ですから
セークと表記しました。
公式に地図に載っている名前は、
ルーマニア語のシクです。

村の民家の明るい色の壁は、大好きです。
窓が小さく家の中が暗いので、
ブルーやグリーンに塗るのでしょうね。
セークは特にブルーが多かったです。

私の母は手芸を仕事としていますが、
日本ではなく、アメリカのパッチワークや
ハワイアンキルトです。
日本でも、伝統が途切れる前に
しっかりと受け渡しができたら・・・と残念です。
技術はいくら本で学べても、
やはり手芸は生活と密接に関わっていますから、
実際に作るのを見ながら自然に覚えるのが
一番だと思います。
No title
アコーディオンプリーツの美しいブラウス!
日曜のミサごとに、その衣装をみなさんが着られるのでしょうか?
なんともそのプリーツを手で触って
肌に触れてみたいものです。
教会も私にとっては、まるで映画のようで
でも、そこでは毎週
行なわれている日常なんですね。

そして、糸紡ぎ!
ぜひ、となりで教えて頂きたい。
こうしたことを
ぜひ、その国の若いかたがたが
受け継いで欲しいと思います。
私も時々、姉に日本刺繍を教わろうかとも思います。
無地の反物に刺繍で絵を刺していくのですから、、、
同じだと思うのです。
どちらも限りなく美しい。


隣りで見る。
隣りでずっと見ていたい。
そう思います。
Re: No title
セークの衣装でも一番うつくしい
アコーディオンプリーツ。
その日は、16歳の若者たちの洗礼があったので
たくさんの方が着ていらっしゃいましたが、
日曜には見られると思います。

年々、教会の力も弱くなってきていますが、
村で一生を過ごしてきたお年寄りにとっては、
教会のミサは大切な儀式で、
社交の場でもあります。

今の時代、
時間とお金を物差しにかけて
なんでも図ってしまいがちですが、
その労働の美しさ、そして作品の上質さには
代えることができません。

フォークアート刺しゅうはなんと言っても、
糸から紡がれ、織られたホームリネンの素材が
一番なのです。

隣で見ているように、
身近に感じていただけたら嬉しいです。

はじめまして

いつも拝見させていただいています。

淡々と[手違いで宿が]と書き綴られるところ、バイタリティを感じます

民族学(民俗学?)を勉強されたのですか?
いつも素敵なブログを楽しみにしてます。

小生、昨夏トゥルグムレシュを拠点に四日間の滞在でルーマニアを訪れました。
教会修復業の知人に素朴な村々を案内してもらったのですが、
村の様子を拝見して、改めてトランシルウ゛ァニアを再び訪れたくなってしまいました。
残念ながら今年も夏季休暇は6日しか取れないので、諦めているのですが…。
いつも心の奥深くに刻まれたトランシルウ゛ァニアの村々が忘れられません。
寝る前や心が疲れた時にブログを拝見させていただくのが日課になってます。

今後も素敵な写真とルポを楽しみにしております
Re: タイトルなし
三郎さま、はじめまして。
ブログをご訪問くださいまして、
どうもありがとうございます。

はい、民俗学といっても
自分の興味のある分野を研究していただけですが、
99年にトランシルヴァニアを初めて訪れて以来、
村の文化、特にフォークアートに興味を惹かれるようになりました。

ルーマニアで生活が長くなると、
予想を裏切る出来事が数多くあるため、
大抵のことではめげなくなりました。
この時は、日本の友人がいたので申し訳なかったですが・・。
裏を返せば、
どんなに窮地に陥ってもなんとかなる、
というのがいい所です。

トゥルグ・ムレシュの周辺の村も素敵ですよね。
私も新しい場所に行くたびに、
その村が一番と思うくらい好きになります。
私は経験したことのない、
昔の日本に対するノスタルジーと重なるようです。

ブログを読んでいただくことで
私と同じように、
トランシルヴァニアを愛してくれたら・・
と願っています。
No title
日本のこぎん刺しと同じですね、制約が多い中で少しでも暖かく丈夫で少しでも美しく装うために発達した刺繍。

こぎん刺しもただひたすら糸を数えて縫って行くだけで簡単なのですが、その中に規則性を備えた美を見いだした昔の青森の方は本当に凄かったですね。

そしてセークの刺繍もまた同じ意味で凄いと思います。
赤のものも素敵ですが青一色もまた素敵です。
私も近くだったら実際に文化に触れてみたい地域の一つです。
Re: No title
本当に、刺しゅうは上げ下げの繰り返し。
その単調な作業が、
あれだけ密集して美しい形を生み出します。

まっすぐの糸の縫い目のなかに
規則性を生み出すこと、
とても想像力の豊かでないと
できないことですね。

昔は繊維を数えてする
クロスステッチが発達していたそうですが、
やがて貴族の手芸の影響をうけて、
このような曲線の多い模様が生まれてきたそうです。

赤は生活を彩る糸で、
紺色はもともとは喪の色だったと聞きます。

トランシルヴァニアへ
いつかぜひ、ご覧にお越しください。