トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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アーラパタクの刺しゅう展示会に向けて Vol.2

いつものように町はずれの通りに繰り出し、
炎天下でヒッチハイクをはじめる。

バスの往来が少ないこの方面では、
こうするしか仕方がない場面にもたびたび出会うから、
自然、哀れな旅行者に情けをかける車も多い。

待つこと30分ほどで成功。
この日は大型トラックだったので、
助手席にやっとのことで這い上がる。

「 この地方には、赤いアカシアが多いんだな。」
こう話をはじめたルーマニア人の運転手さん。
旦那としばらくのおしゃべりした後、
二番目の村で車から下ろしてもらった。

今年は雨が多いため、
小川の水も澱んでコーヒー色をしている。

IMG_7285.jpg

ノートを手に道を歩き周っていると、
「 誰か探しているのかい?」と声をかけてきた人がいる。
手芸を探していることを告げると、
親切にもこう教えてくれた。

「 この通りを終わりの方まで行くと、
 門にB.Jのイニシャルがあるだろう。そこを探してみるといいよ。」

やがて、茶色く塗られた鉄の門が姿を現すと、
中へと歩み寄った。

ここ2、30年の間に、
人口比が急激に変化したアーラパタクでは、
その治安の悪さを物語るように、
家には必ず大きな犬がいる。
門はしっかりと閉じられ、
往来にもあまりハンガリー人や
ルーマニア人の姿は見られない。

家の中から、
訝しげな表情でおばあさんが出てきた。
目的を告げると、
「 そんなもの、家にはないわ。」
とすぐに顔を曇らせる。

「 ぼろぼろの布でも何でもいいんです。
 少しだけ見せてくれませんか?」
と引き下がらない旦那。

仕方ないという表情で、
奥へ通してもらった。
そして、驚いた。
家の隅々、あらゆるところが刺しゅうで飾られている。
スペースを残すのが勿体ないかのように、
小さな工夫で凝らしてある。

IMG_0206.jpg

リュックサックのような形のものは、
ブラシ置き場。

IMG_0209.jpg

水道のない村の民家では、
今でもこういう桶が見られる。
手洗いの上にかけられた、
アンティークのクロス。

IMG_0208.jpg

奥の部屋に通されて、
ベッドの上に転がっている細長い枕を
何気にひっくり返すと、
姿を現したのはアンティークの枕カバー。
赤い刺しゅうの合間に、
糸を一本一本ひきぬいて縫いかがった
カットワークの細やかな仕事。

お孫さんが気持ちよさそうに、
刺しゅう枕と戯れている。

IMG_0171.jpg

はじめは半信半疑だったのが、
次第に自分の自慢のコレクションを見せたい気持ちからか、
親切に見せてくれたルイーザおばあさん。

「 それでも、本当に返してくれという保障はあるのかしら。
 これは私にとって、大切なものだからね。」

若い頃の自分、自分の母親が手で縫ったものは、
お金に換えることのできない価値をもつ品。
それが分かるだけに、なかなか説得するのも難しい。

IMG_0186.jpg


何軒かの家を回って、
体力的にも気力的にも疲れが出てきた頃、
帰る間際にこういう提案が出た。
「 ねえ、あのジプシーの家も見てみようか。」

16.06.2010 21-01-41

一軒目は、刺しゅうといっても
私たちが思っていたものと違うものが出てきた。

「 あの家の庭で、いつか赤い刺しゅうを見たことがある。」
と二軒目の家へと近づいていく。
洗濯物を指差して何かを伝えていると、
中へ入るように言われた。

犬が怖いので、
おそるおそる中へと入る。
洗濯物が万国国旗のように吊るされている。

05.08.2010 23-24-55

小さな家の庭に、
たくさんの子どもたち。

05.08.2010 23-13-11

「 こんなものもあるのよ。」
鮮やかなバラの刺しゅうは、
いかにもジプシーらしいデザインと色彩。

「 これはいくら?」と聞くと、
しばらく考えた後、
「 やっぱり、これはあげられないわ。」といった。

05.08.2010 23-14-13

「 少し待っていて。」といわれたので、
庭に腰掛け待っていると、
近所の家に探しに行っているらしい。
旦那もお金の両替に行ったので、
しかたなく一人で待つことになる。

小さな女の子をあやすおばあさん。
彼女がこの家の主人のようだ。

05.08.2010 23-21-28

旦那が両替のために買ってきたクッキーは、
一口サイズが全部で20個ほどの小さなもの。
あきれた。
子どもたちの数というと、
もう10は軽くこえている。

「 ひとり一個、二個ほどだね。」と苦笑しながら、
一人ずつ子どもたちに配った。

05.08.2010 23-32-02

やがて家の主が、布でパンパンにふくれた
買い物袋をふたつほど抱えてきた。
ピロカバーの表部分、
大きなタペストリー、クロスなど
合わせて20個ほどがテーブルに詰まれた。

それをひとつずつ、
丁寧に広げて、観察する。
どれも状態がきれいなもの。
どうやってこんなに集めたのか・・・。

「 ハンガリー人が家を売り払ったときに、
 おそらくこういう布もそのまま家に残ったんだろうね。」

人によっては、その価値が分からず、
自分の親が縫ったものでも
平気で焼いたり捨てたりする人もいるという。

「 今の若い人たちは、
 もうこんなもの好まないからね。」
「 もう流行おくれだそうよ。」
と当然のことのように言う村の人たちにも出会った。

今の時代だからこそ、
手で何かを生み出すことに価値があると思うのだが、
村で生まれ育った若者たちに限って、
その価値が分からない人が多いのは哀しいことだ。

そういう村の人々の意識を変えるためにも、
展示会をする必要がある。
後で気づいた時には、
もう何も残っていないということにならないためにも。

05.08.2010 23-41-18

私たちは手持ちのお金をほとんど使い果たし、
袋一杯の手芸品に換えて、
ジプシーの家を後にした。



トランシルヴァニアをこころに。

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comments(6)|trackback(1)|セーケイ地方の村|2010-08-17_02:10|page top

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宝もの探しですね!
大変ご無沙汰しています。レンタルの携帯から失礼します。素晴らしく美しいものばかりですね。しかしあまりに大変なことばかりで……ほんとうにご苦労様です。
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Re: 宝もの探しですね!
Dillaさん、
どうもありがとうございます。

美しいものを探すのは、
宝探しのようです。
いまにもその文化が消えようとしているのを
見るのは悲しいです。

展示会で、少しでも
村の人々の意識に働きかけることができたらと思っています。
集めたものをどう見せるのか、というのも腕の見せ所なので、
これからがんばろうと思います。

No title
先の記事でも素敵な刺繍を拝見しました。こういった物は素敵ですが、若い人にはなかなか受け入れられないというのも現実なのかなとは確かに思います。
日本も同じですね、伝統工芸という名が付いてしまうということは既に生活の中から専門家の手に移行してしまっているということですし。
それでもこぎん刺しのようにファッションの通信販売のハンドクラフト部門で取り上げられて少しずつまた新しい層に裾野が広がることもあるのだから、この展示会が新しい価値観として若い人にまた広がって行くと良いですね。
Re: No title
若い人が今はその価値がわからなくても、
きっと後になって、わかるはずと思うのですが・・。

ただの手芸品、工芸品ではなく、
それはその村にしか伝わらない、
自分の親や祖母やもっと前のご先祖さまが作ったもの。
それを粗末にしてしまうのは、
ほんとうに心苦しいです。

今のルーマニアの手芸は、
本物のフォークアートはもうたんすの中だけで、
過去の遺産。
わずかに続いているのは、
職人さんの仕事とお土産産業のようです。

アーラパタクの刺しゅう展示会では、
町に住む趣味で手芸をする人たちにも
つなげていけたらと思っています。
町の人がその価値を認めたら、
きっと村の若い人たちもやがては
その仕事を見直していくと信じています。