トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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カロタセグ地方で出会った極上の衣装

カロタセグ滞在の4日目。
かつてから訪ねてみたいと思っていた、
人里はなれた小さな村を目指す。
すでにもう村を離れて、軽く6kmは歩いてきた。

何でもバスも電車も通らないというから、
ヒッチハイクで運試しを図る。
思ったよりも少ない交通量。
時間はどんどんと過ぎていく。

仕方なしに、村の女性と話をつけて
隣村まで運んでもらうことになった。

車は高い丘をのぼり、
羊使いくらいしか通らない小さな道をひたすら進む。
ひとつ丘を越えてしまうと、
向こう側の風景が見渡せた。
「 さあ、ここからは車道がないから、歩くといいわ。」

IMG_2791.jpg

トウモロコシ畑が続く丘をさらに登っても、
なかなか目指す村は見えてこない。
頭にかぶったスカーフを通して、
真昼の太陽光線が容赦なく降りそそぐ。

舗装のない砂利道で足をとられて、
まっすぐに歩くのがやっとだ。
休もうにも、日陰などどこにも見当たらない。
とにかく、前に前に進むのみ。

村のはずれが見えてくると、
足取りもいつしか速くなった。
村はしんと静まり返って、
人の気配もほとんどしない。

やがて人の声のする家に訪ねて聞いてみると、
ジプシーの若い女性が、
隣人の家へと案内してくれた。

「 この暑いなかを、よく歩いてきたわね。」
おばあさんが水を持ってきてくれた。

長い髪が黒い布と巻きつけられ、
ひとつに編みこまれている美しい髪型。

IMG_2799.jpg

手仕事の部屋を探していると告げると、
お隣さんを紹介してくれた。

一人で暮らすおばあさんの部屋には、
枕が高く積み上げられたベッド、
生活空間の中に手仕事が自然と溶け込んでいる。

IMG_2804.jpg

クロスステッチのベッドカバー、
織りの縞模様の枕がきちんと並べられている。

IMG_2805.jpg

「 この村は小さいから、
 パンも週に2回しか運ばれてこないわ。

 息子は町で暮らしているから、
 私はシャツを縫ったり、刺しゅうをしたりして生計を立てているのよ。」

やがておばあさんは、
たんすの奥から目にも鮮やかなエプロンをそっと取り出して見せる。

「 私の母親が作ったエプロンよ。
 かつてこれを着て、日曜日の礼拝に出かけていたの。」

IMG_2828.jpg

白熱灯の下でも分かるその美しい色、上質の光沢。
光の当たるベンチにそっと置いてみる。

花模様がうっすらと透けて見えるシルクの布。
その白と赤の鮮やかさは、
まるで日本の婚礼の着物を連想させる。

IMG_2835.jpg

四角くシルクのリボンで縁取られたものは、
「窓型のエプロン」といわれ、
カロタセグでもっとも特徴的な衣装である。

シルクの布に施された
豪華なバラもようのサテンステッチは、
ため息をさそう。

IMG_2837.jpg

漆黒のシルク布には、
黄色のチロリアンテープ。
「 昔はこのリボンは、パリでしか手に入らなかったのよ。
 やがてチェコにも運ばれてくるようになってからは、
 わざわざこれを買いに行ったものよ。」

くるくると巻いてあったリボンを解いてみると、
水玉もように刺しゅうがされてある。
極上の衣装は、後姿さえ美しい。

IMG_2831.jpg

日曜日にずっしりと重いエプロンを身につけて、
教会へと赴く。
それ自体が、神様に出会う儀式のように
洗練された行為のように思われる。

IMG_2830.jpg

見せてもらった写真たての中に、
おばあさんの母親がこのエプロンを身に着けて立っていた。
先ほど手に触れた衣装が、
この古い写真の中にも息づいている。
それは不思議な感覚だった。

IMG_2840.jpg

小さな村に再び出る。
あれほど強く世界を照らしていた光は、
少しやわらいでいた。

教会の壁にもたれるようにして、
いすに腰掛け、針仕事をするおばあさんたち。
こんなところで手芸の会が開かれている。

IMG_2854.jpg

教会の作る日陰の下で、
お隣さんとおしゃべりに花を咲かせて・・・。
きっと針仕事も、家の中よりずっと
はかどるのだろう。

IMG_2857.jpg

内の一人に、家の中を見せていただく。
カロタセグの透かし彫りの家には、
モミの木と狼のモチーフの飾り。

IMG_2867.jpg

桃色のカーテンに透かされた家の中。
おばあさんの自慢の手仕事は、
すべてこの部屋の中に封印されている。

IMG_2868.jpg

家具も花なら、クッションもカバーも花。
ランプまで花のもよう。
どうして、こんなに花を愛でるのが好きなのだろう。

IMG_2882.jpg

カロタセグ地方でも有名な、
イーラーショシュ刺しゅう。
おばあさんは、青い線だけの布を広げて見せてくれた。

「 この村でも、刺しゅうの図案を描く人がいてね。
 いつもそこへ持っていくのよ。」

IMG_2901.jpg

教会で賛美歌を歌う、アンナおばさんを訪ねた。
「 こんにちは!」と玄関から叫ぶと、
「 どなた?」と返ってくる。

少し返答に窮して、
旅行のものであることを答えると、
奥から出てきたのは、活発そうな女性。

「 まあ、誰が私のことを話したの?」といいながらも、
むしろ喜んでいる様子。

イーラーショシュの図案を描いているところを見たいと告げると、
たんすの中から、手織りの布をさっと取り出して、
「 それじゃあ、あなたのために特別な図案を描いてあげましょう。」
と唄うように言った。

IMG_2910.jpg

型紙の入った小箱から、
ひとつずつ可愛い形を取り出していく。
私の好きな鳥のもようを出すと、
すっと青いボールペンがその脇をなぞっていく。

IMG_2937.jpg

「 さあ、ここには大きな花をつけましょう。
 こんな風に、きれいな飾りをつけてね。」とおばさんのメルヘンの世界が、
その古いリネンの生地の上にどんどんと膨らんでいく。

IMG_2946.jpg

アンナおばさんは、最後まで笑顔で
外国で出稼ぎをしている息子や孫たちの話をしながら、
あっという間に、小さなクロスにフォークロアの花を咲かせた。

お支払いを・・という私を制して、
「 これは、心からの気持ちで描いたのよ。いらないわ。」ときっぱり答える。

「 刺しゅうができたら、
 きっと完成したものを見せてちょうだい。」

IMG_2979.jpg

小さな村。
村を後にしたのは、
もう日がオレンジ色にかすんで見えた頃だったけれど、
体は不思議と軽かった。
車も通らない、原っぱの中の道をどんどんと上っていく。

IMG_2997.jpg

太陽の光は、もう体を心地よく包むだけだった。
小さな丘をいくつも越えて、
元来た道とは違う方角へと歩みを進める。

IMG_3003.jpg

カロタセグの丘を足で歩いて、
探した手芸の旅。

冬に雪で閉ざされた中、
人々はどのように手芸と向き合っているのだろう。
まだまだ、旅はこれからも続きそうだ。

IMG_3011.jpg




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comments(4)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2010-09-11_06:37|page top

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No title
思いがけないほどの収穫でしたね。
美しくて涙が出そうでした。
あの、みやこうせいさんの写真集の衣装と
全く同じスカート(エプロン?)ですね。

図案を描く女性、凄いですね~。
年季の入った型紙を使って・・・。
tulipanさんも それを使って刺繍されますか?
Re: No title
私もこのエプロンを見て、
手で触れたときには、
心が震えるような感覚でした。

日本の古い着物のような、
絹の質感。そして刺しゅう。
それは美しい衣装です。
来年の展示会の目玉となるでしょう。

普通ならば、自分で持ってきた布に
アンナおばさんが伝統的な図案を描くのですが、
そのときはたんすから取り出した小さな布。
それに大きな鳥のモチーフを使って、
私だけのために模様を考えてくださったのです。

ほかには、穴を開けて、
青いインクを流して印刷する方法もあるみたいです。

この図案に必ず刺しゅうをして、
またこの村を訪れます。



アンティーク!!
またもや遅ればせながらのコメントで失礼します。この色合いのエプロンは初めて見て、感動しました。正にアンティークですね。作った人の思いと身に着けてきた人との思いが詰まった輝きを感じます。
Re: アンティーク!!
yuccalinaさん、こちらのエプロンをはじめて
見たときは私も胸が躍りました。
素晴らしい衣装のコレクションはたくさんありますが、
この二つのエプロンは、別格のような気がします。
丸くたたんだエプロンを解いて見るたびに、
いつも同じように心を捉えるんです。
夏の展示会でも、一つの大きな見所となったと思います。
生涯に一度、このような素晴らしいものを作った人は幸せでしょうね。