トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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ブダペスト旅行と行き先のない荷物

トランシルヴァニアのハンガリー人にとって、
ハンガリーは母国のような、
そうでない外国のような、
どっちつかずの場所のようだ。

国の首都はブカレスト。
それでも、文化的な首都はブダペスト。

ルーマニアのちょうど真ん中部分に位置する、
セントジュルジからは、ハンガリーの国境は遠い。
社会主義が崩壊して90年代に入ると、
たくさんのハンガリー系住民がハンガリーへ亡命した。
それから、ハンガリーの大学へ行く人々、
出稼ぎに行く人々も後を絶たなかった。


私たちはブダペスト行きのバスを待っていた。
夕方5時前、駅前のバスターミナル。
マイナス10度ちかくはあるだろうか。
じっと立ち尽くしていると、
足元からだんだんと凍りついていくようだ。

ふと見知った顔をみつけた。
アーラパタク村のおじさん。
ブダペスト行きのバスを待っているようだ。
「ブダペストにいる息子に、荷物を届けようと思っているんだ。」

バスの運転手に荷物を預けると、
私たちの買ったバス代と同じ金額がかかるという。
私たちは、顔を見合わせた。
「それなら、その荷物を預かりますよ。」

黒い旅行バックは、予想のほか重い。
おじさんが村で、
この間さばいたばかりの豚肉が入っているとのことだ。
生の豚肉を国境を越えて運んでいく。
なんとも不思議な役を引き受けてしまった。

町を出たのは、空がうす暗くなったころ。
フォガラシュ、シビウ、アラド方面から、
ハンガリーへと向かう。
50人乗りの大型バスは、ほぼ満員。
雪をたっぷりとのせた木々や家々、
キラキラと輝く電飾の光は、
クリスマス前の雰囲気を匂わせていた。


かつてブダペスト-ルーマニア間のバスは、
労働者でいっぱいだった。

バスに乗り込んだとたん、運転手が携帯電話がないと騒ぎ出した。
ためしに鳴らしてみたところ、
座席の中央付近で電話が鳴った。
その酔っ払いの男に大声で怒鳴り散らして、
バスがやっと出発。
後部座席では、ジプシーの一団が
カセットをかけて一晩中大騒ぎ。
ほとんど眠れないまま、15時間旅をした。

ダンナが乗ったバスは、
夜中にバスの中で煙が発生して、大騒ぎ。
驚いて誰かが、窓ガラスをかち割った。
幸い火事とはならなかったが、
バスの中は身も凍るような寒さだったという。


ハンガリーの国際バスターミナルに着いたのは、
翌朝の9時。予定より1時間以上も遅れた。
きっと、運転手が3回の休憩時間に、
30分以上も座っていたせいだろう。

荷物を降ろして、
例の待合人を探す。
「母親に似て黒い目、髪をした、長身の男だよ。」
ターミナルで話した声が、しっかりと記憶に残っている。
ダンナがその付近にいる人を、
残さず問いただしてみるが誰もが首を振る。
やがて私たちのほかに人はいなくなった。

その大きな荷物を残して、
どうしていいか途方にくれる。
せめて電話番号でも聞いておくべきだった。
仕方なく、ターミナル内の荷物預かり所まで引っ張っていく。

どうして、高い輸送費を払ってまで、
わざわざ豚肉を届けるのだろう。
「村で生まれ育っていないものには、きっと分からない。」とダンナがいう。
自分たちで育てて、
名前をつけて大切に可愛がった豚肉は、
格別なものだそうだ。

旅行バッグの中で
腐敗していく豚肉の姿が、旅の間にも頭にちらついた。
やがて、何度か国際電話でやり取りをしたあと、
翌日の朝に、その息子とターミナルで出会い、
荷物を手渡すことができた。

ブダペストで家をもち、高級車を乗り回す息子が、
その豚肉を食べながら故郷の村を思い描いているのだろうか。

budapest 095





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comments(8)|trackback(0)|その他|2010-12-24_06:17|page top

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No title
ああ・・・何だか物語を読んでいるような感じでした。
tulipanさんは 日本人ですから 日本の暮らしと
そちらの今を いつも何となく比べてしまうって
あるでしょうね。

100人乗りのバスは凄いですね~。 2輌続きですか?
酔っ払いと言い、うるさいジプシーと言い、なるほど
ですね~。
長時間 お疲れ様でした。
「息子」は そんな裕福な暮らしなんですか?
日本だったら宅配便や小包でカンタンなのに
運転手に預ける方法も あるんですね~。

とても 素晴らしい文で いろいろ 心に
沁みました。
Re: No title
霧のまちさん、
かつての出稼ぎ者でいっぱいのバス、
16時間のバスで豚肉を届けるという感覚・・・
いまでも不思議なことばかりです。

郵便事情は確かに悪く、
クール宅配便などありませんから、
運転手に預けるより仕方ないのかもしれません。
あとルーマニア国内では、
列車の運転手に荷物を預けるのが
いちばん早い方法だとも聞いています。

そうすると、
この豚肉の例のように、
行き場のない荷物もたくさんあったのでしょうか。

ごめんなさい。
100人乗りは間違いです。
普通の大型バスですが、
いっぱいに詰め込まれている感じがありました。

息子さんは、ベンツで現れたので驚きました。
ブダペストの中国市場でお店を持っているそうです。
このように仕事をすでにもち、
家庭を築いてしまうと、もう故郷には帰ることができなくなります。
トランシルヴァニアのハンガリー系住民が
このようにハンガリーに流れてしまうのも、
社会問題のひとつです。

びっくりしました。
こんばんは。
「なまの」豚肉を運んでいらしたとはほんとうに驚きました!
ついこちらの配送の充実ぶりと比べてしまいます。

しかしジプシーの一団は寝ないのでしょうか?
これでは眠れないですね。
ほんとうにお疲れさまでした。

寒くてバスに乗っているだけでも一苦労だと想うのですが。
う~ん、ひたすら驚いています。
Re: びっくりしました。
Dillaさん、こんばんは。

確実に荷物が届けられるのであれば、
問題はなかったのですが、
バスの遅れと届け先の人が現れなかったことは
本当に驚きでした。

気の弱いダンナは気が気でなかった様子で、
翌日に当人に渡したときは
今回の旅でいちばん幸せそうでした。

日本では想像もできないようなバスの旅、
若いうちは楽しめるのですが、
年をとると辛いものがありますね。
No title
こんにちは、
写真の建物は、
ブダペストですか?
良い感じで写ってますが^^
Re: No title
Thomasさん、こんにちは。
これは、ブダペストのドナウ川をはさんで見たブダの王宮です。
このスポットは、ライトアップされた橋もあり、
本当に美しいです。

ちなみにこの写真を撮ったときは、
氷点下10度くらいでかなり寒かったです。
No title
行き先のない荷物・・45年前には日本にもあった話です。
都会に働きに行ってる息子・娘に故郷の親は都会に行く人に荷物を預けたものでした。 私の母もミカンやチラシ寿司まで近所の人が大阪に行くと聞いて預けてくれました  あの頃 九州から大阪までは夜汽車で12時間くらいかかりました
なんだかとても懐かしくて若いときを思い出し・・
一人で暮らしている母を思い出しました。
ベンツに乗ってる息子さん親の気持ち受け取ってくださったらいいのになぁ~~
Re: No title
youkoさん、はじめまして。
日本でも45年前にはあった話なのですね。
今では飛行機で1時間なのに、
当時は九州-大阪間も半日がかり。
遠いふるさとなだけに、
きっと恋しい気持ちも今では考えられないくらいでしょう。

親の思いは、子どもにはなかなか伝わらないでしょうね。
きっと自分が親になってみて、
初めて分かるものでしょう。

あの息子さんも、仕事のために間に合わなかったと話していました。
ブダペストからさらに北に向かったバスを、
追いかけてとめたそうです。
豚肉は無駄になったかもしれませんが、
気持ちだけでもきちんと届けることができてよかったです。