トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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白い雪に包まれた村

クリスマス前の週末、
雪が原っぱを木々を真っ白に染め、厳しい真冬日が続いていた。
この分では、村へ行くのはおそらく無理だろう。
半ばあきらめていた。

最終日、朝6時の列車に乗る。
真っ黒の闇に、ぽつんぽつんと村の電灯が映しだされる。
早朝というよりは、
むしろ真夜中のような雰囲気。

途中下車のスタンプを駅で押してもらってから、
3km歩いて隣村へ向かった。
10月からずっと約束していた、
おばあさんに会いにいくためだった。

冬の早朝に、村の人たちは何をしているのだろう。
ダンナがこういった。
「家畜を飼っていたら、
冬でも朝から仕事が盛りだくさんだよ。
この時期は、子牛や子豚が生まれるときでね。
家族そろって、みんなでその誕生を見守っているものだよ。」

例のおばあさんの家は、門が閉まっていた。
しかたなく、隣の家のお宅に入れてもらい、
しばらくしてから外に出ると、
いつもの喪服に身を包んだおばあさんの姿があった。

家の中で少しおしゃべりした後、
次の電車で先に進む予定を話した。
「もう電車が来る時間よ。間に合わないと思うわ。」

家を飛び出し、
小さな無人駅へと駆けていく。
村の人たちがゆっくりとした足取りで進んでいたので、
ほっと胸をなでおろした。

budapest 177

いつものアシの小川も、
冬の寂しげな叙情であふれている。

budapest 178

無人駅でサイレンが鳴ると、
電車がくる合図。
一本道を最後の乗車客が走ってくる。
村に住んでいる、知人の奈美さんとアティラさんの二人だった。

列車では、
息子を連れた貝戸さん夫婦と落ち合う予定だった。
小さい電車の中ですぐに相手は見つかった。
ちょっとした日本人のコミュニティができる。

まだ最後まで迷っていたが、
列車があの駅に近づく前で決心が固まった。
雪の中を村を訪ねにいこう。

山の上にある小さな駅にとまると、
私たちは電車から飛び降りた。
ひたすらに雪の積もった道を下り、
また丘を越えて進んでいく。

裸の木々になっている玉のようなものは、ヤドリギ。
このわずかの緑色が、
冬枯れた風景の中にほんの少しの新鮮さをもたらしている。

木に寄生した小さな枝の固まりは、
どうしてきれいな円形を描いているのだろう。
真っ白くにごった玉をいっぱいにつけるので、
ハンガリー語では「木の真珠」と呼ばれる。

budapest 183

この白い実を好んで食べるのは鳥のようで、
その鳥たちが、新しい木の枝にわたって嘴をつついたところに、
またこのヤドリギが生まれる。
だから、この緑の玉が見られるところは、
かつて鳥たちが嘴でつついた跡なのだそうだ。

budapest 189

真っ白ななだらかな丘の風景に、
うす茶色をした塊が見えた。
ヒツジの放牧だ。
冷たい雪をかき分けて羊たちは、
ご馳走にありつく。

budapest 201

何もない風景が開け、
やっと村にたどり着いた。
村の真ん中には、家畜の水のみ場が横たわっている。

budapest 220

「おなかがすいた。」
長い道のりでも不服を言わずについてきた息子が、こぼした。
クリスマスの祝日が近いせいか、
村の商店はどこも休みだった。

やっと見つけたお店で、
ゼリー入りの菓子パンを手に取った。
お札を出すと、店のおばさんは首をふった。
「今は、これしかお釣りがないの。」
仕方なく、そのパンを元に戻す。
息子が泣きべそをかきはじめた。

おばさんがこういった。
「いいわよ。この子のためにクリスマスプレゼントだわ。」
やわらかなパンを両手に抱えて、
息子は涙を流すのをやめた。

budapest 213

この雪山を越えてはるばる着たのも、
ある女性に会いたいがためだった。
扉をトントンとたたくと、
「だあれ?」と唄うような声が聞こえてくる。
あの時と同じだ。

答えに窮していると、中の扉が開かれた。
教会の歌い手、アンナおばさんは、
長身の体をゆすって笑っていた。
「まあ、あなたたちなの?大歓迎よ。
 ちょうど、今からお菓子を焼こうとしていたところ。」

budapest 236

奥の部屋から、大きなクロスをいくつか持ってきて見せてくれる。
「今、教会からの依頼で、
 また図案を描いているところなのよ。」
イーラーショシュの図案を描く女性は、
もうカロタセグ地方にも少ないと聞く。

トランシルヴァニアのカルバン派教会では、
キリストの像や絵画の代わりに、民衆の手で作られた
フォークアートで壁面を埋めている。
クロスが古くなったから、
こうして村の女性たちに仕事がもたらされたのだ。

「ここを私は少し変えようと思うのよ。」と元々の図案に、
アンナおばさん流の新しい解釈を加えて、
クロスは鮮やかに生まれ変わるはずだ。

budapest 237

ひざが隠れるくらいのプリントスカートは、
カロタセグ女性の装い。
その日の衣装は、グリーンに赤と白の水玉の生地がふんわりと広がり、
まるでチューリップの花のようだった。

budapest 243

次に目指したのは、
イーラーショシュの作り手のおばあさん。

ひっそりと静まり返った村は、
ぐっすりと眠っているようだ。
門を開けて中へ入ると、
ここでもお菓子作りの最中だった。

budapest 245

「10月に市場で村の誰かがあなたと会ってね。
ここへ来るって聞いたものだから、待っていたのよ。」
ずっと長い間、計画していたのに、
駅から離れたこの村には来ることができなかった。
どうやら、おばさんは少し怒っているらしい。

謝って訳を説明し、
おばさんは許してくれたようだ。
その間に、オーブンから焼きたてのお菓子を取り出し、
すばやい手つきで、粉砂糖にからませる。

budapest 251

真っ白に粉をふいたようなお菓子は、
「雪ふりのキフリ」と呼ばれるもの。
ポピーの花の紙ナプキンにさっと包んで、手渡してくれた。
まだあたたかいぬくもりが手の中に残る。

ひとつ口に入れる。
ほろりと生地がこぼれると、中のジャムと粉砂糖がからみ合って、
とろけるような甘さだった。
村の新鮮な食材と薪のオーブン、
そして優しいおばさんの手でできたから、
こんなにも美味しいのだ。

budapest 255

作りかけのイーラーショシュの赤は、
冬の寒さの中から生まれる赤なのだろう。
丁寧な村の生活が、
おばあさんの熟練の手の技からにじみ出ているようだ。

budapest 248

表へ出ると、
久々に見る太陽の光がまばゆかった。

budapest 258

子犬も、久々の太陽に戸惑っている。
チューリップが生き生きと伸びる門。
カロタセグの民は、飾ることを心から楽しんでいるかのようだ。

budapest 259

帰り道は、身も心も軽かった。
丘に囲まれた真っ白な道は、どこまでも遠く続いている。
上着の下が汗ばむほどの陽気。
雪もこの光で、あっという間に解けてしまうことだろう。

budapest 269

駅は遠かった。
丘を下り上りを繰り返すうちに、
足もあがらなくなってくる。
雪どけでびしょびしょになった道をいくので、
足場が悪いうえに、靴の中にもしみてくる。

budapest 282

駅に到着した。
手には、道すがら折ったヤドリギの小さな玉が、
光り輝くようだ。

budapest 284

列車は、雪に包まれた小さな村から
私たちを雑踏の町へと運んでいった。





トランシルヴァニアをこころに。

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comments(4)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2010-12-27_21:41|page top

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冬もすばらしい♪
なんてすてきな冬景色でしょう!
初めて北海道に行ったときのことを思い出しました。
物悲しさの中に漂うなんとも言えない雪の輝きが思い出されました。もう、30年以上も前のこと…(笑)
息子さん、割と薄着ですよね。だって、氷点下10度以上でしょ?もっとかな…。
それにしても、いつも見事な写真ありがとうございます。
また、感激させて下さい。
Re: 冬もすばらしい♪
田中さま、いつもご訪問を
どうもありがとうございます。

初めはなれなかった雪景色も、
今はこれなしには冬は考えられないほど
好きになりました。
日本で言うと、北海道の風景に似ているのだと思います。

これまでは氷点下10度くらいだったのですが、
この日は0度から上に上がったようです。
歩いていると、久しぶりにジャケットが煩わしく
感じられました。

どうぞ良いお年をお迎えください。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
No title
tulipanさん
新年おめでとうございます。
今年もどうぞ よろしくお願いいたします。

美しい白い村・・・寒そうですが 素敵です。
私の住む静岡県南部は 全く雪が降らず、
便利ですが こう言った風景が見られません。

宿り木のお話がありましたが こうして見ると
きれいですね~。
最近、フランス通の ある方のページで見ましたが
フランスでは 宿り木の固まりを採ってきて
室内に飾るそうで 少しびっくりでした。

冬には緑が乏しいので そう言ったことを
するんでしょうか。
日本では 宿り木に手を付けたりしませんね。(笑)

宿り木の白っぽい実を鳥が食べて また他の木にフンを
すると そこから同じように芽を出すと TVで
やっていました。 面白い習性の植物ですね。
Re: No title
霧のまちさん、
明けましておめでとうございます。
いつもブログをご訪問くださって、
感謝の気持ちでいっぱいです。

夏は緑でいっぱいの村も、
冬は白しか見られない風景に変わります。
はじめは寒さで十分に楽しめなかった雪景色ですが、
今は乾燥した故郷宮崎の冬景色では
物足りなくなりそうです。

こちらでも宿り木は、
市場などで売っていて、
家の玄関に飾るそうです。
何でも恋愛のシンボルのようです。

木にとってみれば、
害のある宿り木ですが、
これも冬独特の美しい風景です。

そうなんですか!
フンから新しい木が生えてくるのですね。
物知りのダンナは、嘴でつついたといっていましたので、
後で教えてあげないといけません。

今年も世界のあちこちへ飛んでいける、
ブログを楽しみにしています。
どうぞよろしくお願いします。