トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

カテゴリー

FC2カウンター

カレンダー(月別)

05 ≪│2017/06│≫ 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

これまで書いた記事は・・・

全タイトルを表示

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Feed Me!

トランシルヴァニアへの扉  - Erdely kapuja-のRSSフィード

ブログ翻訳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
comments(-)|trackback(-)|スポンサー広告|--------_--:--|page top

エルージュド、一本松の教会

真冬の切れ間に、
私たちはとある村を訪ねるべく
ラツィおじさんのおんぼろ車に乗っていた。

アーラパタクの村を通り過ぎて、
はるか向こうのなだらかな丘がどんどん近くなっていく。
もうここは国道ではない、
小さな一本道。

真っ白な丘の斜面に
えぐられたような裸の岩肌がのぞいている。
黄土色の土は、
その表面になめらかなひだを刻みつけていた。

「エルージュドは、かつて土器文明が栄えていたところだよ。
 化石なんかも見つかるんだ。」とダンナが説明する。
いかにも文明の跡が残っていそうな、
どこか印象的な形の丘だった。

右を見やると、
セントジュルジから流れてきたオルト川が
大きなカーブを描いて続いている。

その村が姿を現したのは、
丘が開けてからやっとのことだった。
本通りも小さく、車がやっと二台すれ違うくらい。
中心のカルヴァン派教会を通り過ぎてから、車をとめる。
もう日曜のミサは始まっているようだ。

それから村のジプシーが属する、ペンテコステ派の集会場を通り過ぎた。
窓から光が漏れて、かすかに歌声が聞こえてくる。
ほうきを逆さまにしたような並木のつづく、
小さな小川のほとりを村の終わりに向かって歩いていた。

elosd 001

雪の中でも、色とりどりの洗濯物がひときわ目をひく。
左からルーマニア人の刺繍、
ハンガリー人の刺繍、
かつてプリントされて流行した刺繍に、
ジプシーの刺繍。
洗濯物が、村の文化背景を物語っているかのようだ。

elosd 003

「刺繍を見せて下さい。」と尋ねると、
小さな家からは家族が勢ぞろいして出てくる。
隣のアーラパタク村とは正反対で、
謙虚そうな穏やかな表情のジプシーたち。

elosd 008

杖をついて歩くおばあさんがルーマニア語で話していた。
「古い手仕事はありませんか?」ダンナが尋ねると、
「何もないわ。」といそいそと家へ入ってしまった。

elosd 011

村の中心では、すでにミサが終わったようだ。
教会の中を見たいので、牧師さんを探す。

村の中でもとりわけ古くて、立派なお屋敷がそうだった。
ちょうどミサの後で、食事時ではないだろうか。
不安に思いながら、ドアをたたくと、
「あちらの勝手口からどうぞ。」と明るい女性の声が答えた。

扉が開かれると、
子どもたちに囲まれた若い夫婦の姿があった。
「あの・・教会を見せていただきたいのですが。」
「ええ、もちろん。
 その前に・・・。どうぞこちらへ。ちょっとお茶でも。」
とはにかみながら、私たちの突然の訪問を
むしろ歓迎してくれるような空気に安心して、中へと入った。

elosd 012

自然の光で明るい応接間に、
すっきり映えるブルーの刺繍。
隣村アーラパタクの刺繍とまったく同じモチーフ。
アーラパタク、エルージュド、ヒドゥヴェーグの3つの村で、
この編みクロスステッチが見られるとは本に書いてあった。

「ここエルージュドは、アーラパタクほど刺繍は盛んではなく、
 残っているほとんどの刺繍は、50年代よりも前のもののようです。
 町に住んでいる私の姑が刺繍をするだけで、他にはもういないみたいですよ。」

快活で優しそうな奥さんが、牧師さん。
彼女が話す間も、4人の子どもたちが控えめに、
それでも好奇心たっぷりのようすでテーブルを囲んでいた。

温かいお茶とおしゃべりの後、出かける準備をすると、
「ねえ、私たちも行ってもいい?」
子どもたちもみな急いで身支度をはじめた。

丸い石垣でぐるりと囲まれた小さな白い教会。
一本の高い松の木が隣に身をよせている。

elosd 021

「昔は二本松だったのだけれど、古くて切ってしまったんです。」
右となりには、兄弟の木が立っていたのだろう。
白い風景に、黒味を帯びた緑色が不思議と目を引いた。

elosd 023

扉を開いて中へ。
冬の寒空のような淡いブルーのペイントが迎え入れる。
湿った冷たい空気が漂っている。
「ハンガリー住人も少ないし、冬はここを使わないんです。」

elosd 025

カセット型の天井画がある。
これまで見たどのタイプとも違うペイント。
まるで、現代アーティストがきまぐれに
描きなぐったかのよう。

elosd 029

寒々しいブルーに、
黒い花があちこちにばらまかれ、
小さな黒い点が線となってそこら辺を飛び交う。

elosd 030

くらげのような三角形は、プロビデンスの目といわれるシンボル。
あらゆるものを見通す神の目が、じっと見下ろしている。

elosd 032

彼女は子どもたちをつれて、
村のおばあさんの元へと案内してくれた。
村で信頼を集める牧師さんである彼女がいると、
人々は快く家へと通してくれる。

アーラパタクの収集の際には誰も頼るものがいなく、
よそ者の私たちが村の人々の信頼を得るのには
とても苦労をした。

見ると、先ほどの杖をついたおばあさんの家だった。
「一人暮らしだからね。誰でも家に入れるわけには行かないのよ。」
先ほどであったばかりなので、きまり悪そうにこういった。

ハンガリー人のおばあさんがルーマニア人と話すときは、ルーマニア語だ。
だから、ハンガリー人であるとは気がつかなかった。

奥の部屋から、藁入れカバーをもってきて広げてくれる。
もう必要のなくなった藁入れは、
そのままの形ではほとんど残っていない。

elosd 064

長い年月をいっぱいに吸い込んだ古いピロカバーが、
確かにおばあさんの部屋で呼吸をしている。
メテーレーシュと呼ばれるカットワークのテクニックは、
カロタセグ地方から広まったといわれている。

elosd 052

村の本当の価値は、外から見ただけでは分からない。
そこで暮らす人々と、
人の手の生み出したもの。

村では美しい彫刻のなされたスピンドルがあったという。
糸を紡ぐ必要もなくなり、それも姿を消してしまった。
村の文化が空っぽにならないように、
そうしたものを集めて村にとどめておくべきだ。

私たちは聡明な牧師さんと、
いつか夏に収集活動に来ることを約束をした。




トランシルヴァニアをこころに。

にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ


にほんブログ村


スポンサーサイト

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(4)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2011-02-15_03:03|page top

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

コメントの投稿

非公開コメント

No title
雪に閉ざされた外からは分からない味わいが
家の中にはありますね。

いい牧師さんがいて 本当によかったですね~。
こうして一軒一軒 発掘するように見ていかないと
眠っている手芸品や 古い芸術を見ることは
不可能ですね。

たぶん 日本でもこうして無くなっていくものが
ヒトに知られる事もなく 増えているんだろうと思います。
Re: No title
霧のまちさん、
村において牧師さんとは、
村のことを何でも知っている知識人であると言われています。
それでも、人によっては日曜日のお説教をするだけで、
他には心を向けない人もいます。

人の家に入るということは
それだけこちらも緊張します。
できるだけいい印象を与えるように、
気を配りますが、なかなか信頼を得るのは難しいです。

日本でも素晴らしい工芸品、手仕事などが
人の目にふれることなく消えていき、
骨董業者に買い取られていったりするのでしょうね。
こちらの手仕事、古いものを知れば知るほど、
日本のものに興味が注がれます。

おばさんが亡き曾祖母の形見だった
輪島塗の椀を捨てていたのを、
いち早く見つけたのはダンナでした。
そういうものかもしれませんね。

はじめまして
いつも、東欧で暮らす方たちの素朴な笑顔や、
手仕事に囲まれた暮らしの美しさを
ご紹介下さり有難うございます

こんなに素敵なものを、日本の自分のお部屋の中で
堪能させていただいていいのかしら?と思いながら・・i-228

以前「ヤコブへの手紙」という北欧の映画を見たときに
光が少なく、灰色の空のしたで繰り広げられるドラマに
人生の厳しさを感じ、ひどく悲しかったのですが
その中で時々背景の一部に映される、ベッドカバーのレースや
コーヒーカップの模様、教会のデザインなどから
自分でも驚くほどの慰め、ぬくもりが伝わってくるのを感じました
形、模様、色の力は、文字の無い時代からの
人の、いのちへの想い、祈りなどを思い起こさせます・・

等々、興味が尽きないので、
実はリンクさせていただきたいのですが、
大丈夫でしょうか?i-179
Re: はじめまして
hasutamaさま、はじめまして。
ブログにお越しいただきまして、
どうもありがとうございます。

小さなデザインのかけらに、
その地方の人たちを知る何かが秘められているようですね。
トランシルヴァニアは、
さまざまな民族が混ざり合い暮らしてきた地方ですが、
それぞれに特徴があって、面白いです。
言葉も宗教も、衣装もすべて違う。
その多様さが魅力でもあると思います。

リンクをどうもありがとうございます。
どうぞよろしくお願いします。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。