トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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イーラーショシュのおばあちゃんとの出会い3

朝からまぶしいほどの青い空が浮かんでいた。

クルージから貝戸さんご夫妻を誘って、小さな遠足に出かけた。
電車に揺られて降立ったのは、山間の小さな駅。

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あたたかな太陽のひかり。
春の兆しが、今にも音を立てて地面からはちきれそうだ。
ふさふさとした枯れ葉は、
動物の毛のようにやわらかく暖かな眺め。

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時折、ねずみ色をした裸の木の枝に、
鮮かな緑色の芽が見られる。
宿り木は、そこだけが春を運んできたような感じを与えてくれる。

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春のはじまりは、微妙な色の変化。
暗く乾いた色を見慣れた目は、
そのささやかな兆しをも敏感に感じ取ることが出来る。

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丘の向こう側から、羊の群れがやってきた。
真っ白な塊は、次第に一匹一匹の羊の形をあらわにしていく。
私たちを飼い主だと思ったのだろうか。

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どんどん近く寄ってきても、まったく恐れるそぶりを見せない。
なめらかなその毛は長く、白というよりはクリーム色をしている。

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群れから遅れて、いつしか主人がやってきていた。
羊飼いはこういった。
「 後ろに生まれたばかりの子羊がいるんだ。
 見にくるかい?」

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春のはじめは出産の季節である。
昨夜生まれたばかりの子羊は母親の乳を飲み、
しっかりとその細い足を地面におろしていた。

自然の厳しさ、暖かさを肌で感じ生活している羊使い。
その朴訥とした様は、まぶしいほどの清らかさ、美しさを感じる。

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隣村はもうすぐそこだった。
広場には洗濯場があって、
おばあさんが冷たい水に手をいれて仕事に精を出す。
清らかな水面には、真っ青な青空が映っていた。

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木製の古びたドアには、
塗料のはげかけた植物が大きな枝を広げていた。

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天井を隙間なく埋めている、植物模様の絵。
赤いイーラーショシュの花が、
あたたかな生命を古い教会に吹き込んでいるようだ。

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実はこの赤は、このカロタセグ地方に一番かけている色なのではないか。
大らかな曲線を描き、あふれんばかりの生命をアピールするその花々。
女性たちは色鮮やかな花で満ちた春を思いえがき、
長い冬を過ごしてきたのに違いない。

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紅色の菊の花が細長く編みこまれている。
これはと尋ねると、
「 去年、村で結婚式があった時の飾りだよ。」という返事。
半年立っても色あせない花飾りが、いとおしい。

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私たちは、さらに先へと進む。
野焼きされて黒く焦げた草原に、
夢のようにほのかに浮かび上がる春の兆し。
芽を吹くまえの枝は、こんな風に山吹色に色づく。

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白い真珠のついた大きな宿木を折った。
丸く枝を張った様子は、緑の冠のよう。

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原っぱの真ん中で、パンにペーストぬった昼ごはんをとった後、
さらに先へ先へと進む。
丘を下ったところに、その小さな村は横たわっていた。

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この村を訪ねたのには訳があった。
去年の冬に注文したイーラーショシュを取りに来たのだ。
知り合いのおばさんは、すでに他所へ売ってしまったという返事。
しかたなく、お隣さんのところへと行く。

膝丈のスカート姿で薪を切るおばあさんは、
この上なくたくましく愛らしい。
「 さあ、うちへいらっしゃい。」
仕事をすぐにやめて、家へと案内してくれた。

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濃い群青色の壁が目にまぶしい。
窓が小さく、部屋の明かりも少ない民家では、
この青が限りなく明るい色とされ好まれた。
お土産の宿り木をそっと置く。

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「 あんな遠くから、わざわざ歩いてきたの?」
他に交通機関のない村は、よそから遮断されたような環境である。
それにもかかわらず、こんなに落ち着く感じがするのは、
おばあさんたちのゆったりとした暮らしぶり、
その中で生まれた包容力のせいかもしれない。

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この冬に作りためたおばあさんの、
手作りのピロカバーをかばんにしまった。

ご近所では若い男性が、祖父母の家を引き継いで、
引越しをしているところだった。
ダンナが蔵漁りをしている合間にも、
時間が惜しいので図案描きのおばさんの所へ急いだ。

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先ほどは、玄関の前にほうきがかかっていたのに、
今はすっかり取り払われている。
家に帰ったというしるし。

トントンと扉をたたくと、いつものように
「 ハーイ。どなた?」という明るい声が響いた。
アンナおばさんは、長いおさげの髪を頭の上の方でくるくるっと巻いている。
「 あら、おチビちゃんはつれてこなかったのね。」
おしゃべりしながらも、出来たばかりの図案を次々と広げて見せてくれる。

それから、3mほどの長い布が広げられた。
それはまぎれもなく、去年、私が持ってきた布だった。
そこにメルヘンの世界がおとぎ話の絵本をひも解くように目の前に現れると、
ただ圧倒してその絵に見入ってしまった。
「 同じ図案は二つとないわ。
 少しずつ変えたのよ。」とおばさんの瞳が輝いた。

そのデコラティブな花模様の一つ一つに魂が込められ、
アンナおばさんの豊かな想像の世界が生き生きと描かれている。
それは伝統として伝わったものを超える、
新しいフォーク・アート。

「 ひとつ図案を描いてください。」とお願いをすると、
紙の小箱から秘密の小道具が次々と姿をあらわす。

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ハンガリー人の好むチューリップは、
微妙に形がちがい、サイズもさまざま。
この型を使って、彼女たち図案師は布に生命を吹き込むのだ。

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まず型をとり、そして装飾を加えて、より一層華やかにする。
「レース」や「パイプ」、「鳥の目」など小さな装飾を使って、
図案をいかに華やかに、密に彩るかが図案師の腕の見せ所。

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バラの花の中には、モミの枝の模様が加わった。
彼女の大きな手は、常に針や筆ばかりを持ったわけでない。
この芸術的な仕事の裏には、植物や動物を、
自然を相手にした厳しい村の仕事がある。

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カロタセグの手仕事は、ハンガリーの民俗学者たちが思っているような
絶望的な状態ではないと悟った。
この村に古いイーラーショシュがなくとも、
いまだに新しいイーラーショシュは生まれつづけ、
こうして村の女性たちの手によって赤や青や黒に色づけられている。

ダンナは背に古い木のいすを背負い、
私はイーラーショシュのピロカバーや図案の描かれた布を、
哲弥さんには陶器の破片などをもってもらい、
由希さんには宿り木を。
一雨こないうちにと、帰り道を急いだ。

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いくつもの丘をこえ谷をこえて、
元の鉄道駅についた頃は汗だくだった。
太陽はその日いちにち、惜しげなく光を降りそそぎ、
乾いた大地には心なしか、うっすらと緑が芽生えてきたようだった。







トランシルヴァニアをこころに。

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comments(7)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2011-04-08_20:47|page top

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非公開コメント

No title
図案が描かれていてよかったですね~。
どんなステキなものか 楽しみです。

チューリップなどの型紙、年季が入ってますね。
日本人の私たちが想像もしないデザイン・・・
それが そこの伝統なんですね。

本当に大事にしないと・・・でも おばさんの
後にも それをやる人がいるんでしょうか?

tulipanさん 少しずつ習得して受け継がれたら
どうでしょうか??
Re: No title
霧のまちさん、どれも素晴らしい図案ばかりでした。
日本人の感覚からいうと、
こういう花模様が大きくそして密に描かれることはあまりないですよね。
やはりこの文化の中で生まれ、
育った人にしか作れない世界だと思います。
簡単には真似できない。
だからこそ、素晴らしいと思うんです。

私に出来ることは、
この伝統を少しでも多く記録して伝えることだと思っています。
もちろん作ることもしたいし、
図案も描いてみたいです。
No title
宿り木をお土産とか?
何かいいものなのですか宿り木って?
気になりまして^^
Re: No title
宿り木は、クリスマスの時期に
よく市場で売られています。

その下でキスをするといいというのはイギリスの習慣ですが、
こちらでは、色のない冬に見られるめずらしい緑なので
重宝されるのかもしれません。
白い実が真珠みたいできれいですよね。

春の花の記事、もうすぐ公開しますので、
待っていてくださいね。
もう今頃は森は花盛りでしょう。
羊飼いと羊
羊は自分の主人の声を聞き分けるといいますけどほんとうですか?
別なグループに混じってしまったりはしないんでしょうか…。
Re: 羊飼いと羊
たぶん、家畜はほとんど
主人の声を聞き分けられるのだと思います。
牛たちも放牧から帰ると
自分の家の門に一人で入っていきますし、
羊の場合は、もし群れに迷いそうになれば
猟犬が導いてくれますしね。

Re: No title
大晦日に宿り木の下で、
キスをするというロマンティックな習慣が知られていますが、
ハンガリー人には特別そういう習慣はないようです。

冬になると売られていますので、
またよく尋ねてみますね。