トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

カテゴリー

FC2カウンター

カレンダー(月別)

03 ≪│2017/04│≫ 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

これまで書いた記事は・・・

全タイトルを表示

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Feed Me!

トランシルヴァニアへの扉  - Erdely kapuja-のRSSフィード

ブログ翻訳

カロタセグ地方の合同ミサ

カロタセグ地方での最後の朝、
日曜日のミサがはじまる前にある約束をしていた。

滞在していた家のご主人エーヴァが、
村はずれの丘に貝の化石のある場所へ案内してくれることになっていた。
「万が一、猟犬に遭ってしまったら困るから。」
と言って手には長い木の杖を持っていた。

車で丘の上まで行き、そこからは歩きとなる。
右を見ると、原っぱでは牛たちが群れをなして静かに草を食んでいた。
エーヴァによると、新しい法律により
国の援助を得て羊を飼うことができるようになったのだそうだ。
それで羊の群れも増えたため、猟犬の数も多くなった。
恐ろしいことに、猟犬をきちんと仕付けていない飼い主も多く、
もし人を襲いかかっても、なすすべもないという。

kalotaszegi konferencia 217

見渡すかぎりに広がる茶色い草原。
やがてエーヴァは足を止めると、
腰をかがめて灰色の小さな石ころを拾いあげた。
「ほら、これがその化石よ。」

その辺りに落ちている小石、
なかでも丸くふくらんだものをひっくり返すと、
子どもが粘土細工で作ったような素朴な形があらわれ、心をくすぐる。

ハイニも私も、エーヴァにつられて夢中で化石を探しつづけた。
あっという間に、渦巻きもようの石ころで袋がいっぱいになっていく。

kalotaszegi konferencia 213

教会のオルガン奏者であるエーヴァは、
11時のミサのために準備をしなくてはならない。
朝の心地よい遠足を早々に切り上げて、私たちは村に戻った。

身支度をととのえて教会へ入ると、美しい女性の後姿が目に飛びこんできた。
輝くような黒いサテン生地のムスイ。
腰の周りにわずかに黒と青の縞模様が刺しゅうされているばかり。
すそは鋭くとがって、裏地の黒いベルベット生地をあでやかに見せていた。
刺しゅうがびっしりと施されたべストは体にぴったりと沿い、
袖のプリーツの広がりをさらに強調しているようだ。

kalotaszegi konferencia 244

このフォーラムの主催者であるシンコー・カタリンだった。
時にぶっきら棒ではっきりとした物の言い方は、
愛情深い彼女の心をそのままに示していて好感が持てた。

ジャルマティ婦人という女性がカロタセグ地方の村で生まれ、
19世紀転換期の時勢にのってカロタセグ地方の手芸をヨーロッパ全土に紹介した。
それによって、カロタセグの女性たちは手芸が生活の手段に代わり、
今日にまで至っている。

彼女自身も、カロタセグ地方のひいてはトランシルヴァニアの手芸を生き残らせるには、
国内だけではなく、広くよそへと広めていくべきだと思っている。
故郷のイーラーショシュと呼ばれる刺しゅうを収集した彼女の著作は、
カロタセグ地方の民俗文化の豊かさを余すことなく伝えている。

kalotaszegi konferencia 276

教会の鐘が鳴り響いた。
庭に出ると、もう村の人たちが盛装してやってきたところだった。
昔から農業に適しない土地に暮らしてきた人々は、
代わりに自分たちの手で美しいものを生み出すことに努力してきた。
その結晶が、彼らの衣装であり、美しい手仕事であった。

kalotaszegi konferencia 286

人生の節目節目には、必ず美しい衣装を着る。
輝くように美しい若い男女は、これから結ばれるところなのだろうか。

kalotaszegi konferencia 319

教会の中へ、
村人たちのほかに沢山のお客が続いた。
この週末のために、トランシルヴァニア全土そしてハンガリーから人が集まってきた。
それぞれの地方の民俗衣装に身を包んで。

賛美歌にあわせて、
その日はツィテラの演奏が教会に鳴り響いた。
その弦楽器は、ハンガリー中世の楽曲の雰囲気をかもし出していた。

kalotaszegi konferencia 353

教会の中心を占める席には、うら若き少女が腰掛けていた。
その冠のせいか、民俗衣装に身をつつんだ彼女たちは
気品で満ち溢れている。

kalotaszegi konferencia 356

村の教会の二階席は、世にも美しいペイント家具で彩られている。
土着の刺しゅうとも密接なかかわりをもつ、
このルネサンス文化を起源とする植物模様。

kalotaszegi konferencia 365

村人たち、そしてトランシルヴァニア、ハンガリーの参加者が
ともに祈りをささげ、歌をうたった。
その日曜日の1時間が過ぎると、教会の中は再び静寂で満たされる。
そしてハンガリー人の人口が激減してしまった村も、
また元の静かな様相に戻るのだろう。

kalotaszegi konferencia 371

教会を出ると、黒尽くめのおばあさんたちの間に見知った顔があった。
30年前に書かれたそのイーラーショシュの本で名前を見つけて、
やっと探し当てたボルバラおばあさん。
「コーヒーでもいかが」とやさしく声をかけてくれた。

kalotaszegi konferencia 382

そもそもフォーラムに参加したきっかけは、
日本について話をするように頼まれたためだった。
私は着物をいくつか持参し、手短に着物の染と織の技術について説明した。

嬉しかったのは、二人の女性がぜひとも着物を着てみたいと言ってきたことだった。
ひとりは牧師さんの奥さん。
黒髪の小柄な彼女に、紺色の絣の着物を羽織らせた。
つかのまに日本女性に変身した彼女を、若い牧師さんは誇らしそうに眺めていた。

kalotaszegi konferencia 428

出発の時は迫っていた。
新たに知り合った人たちに別れを告げ、
宿を与えてくれたエーヴァに感謝の言葉を伝えて、
カロタセグ地方を旅立った。

kalotaszegi konferencia 422

はるか東のセーケイ地方へと向かうミニバスの中、
ハンガリー民謡とともにその移り行く景色を楽しんだ。
スポンサーサイト

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(8)|trackback(1)|カロタセグ地方の村|2011-09-18_15:54|page top

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

トランシルヴァニアへの手工芸品
トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja- カロタセグ地方の合同ミサ 最近、トランシルヴァニアの踊りを紹介(いつもの如く、テキトー&大雑把だけど)する機会を得た流れで、現地に在住の日本人、谷...

コメントの投稿

非公開コメント

No title
素晴らしい風景ですね~。 あの みやこうせいの世界です。
思えば、村にハレとケを作ることは 暮らしの大きな節目の輝きですね。
時々に合った衣装を着ることは どんなに気持ちが華やぐことか・・・身を持って見せていただいた気がします。
Re: No title
霧のまちさん、まるで夢のように美しい一日でした。
これも村の人たちが、舞台である教会を美しく彩りつづけ、
民俗衣装を守ってきたからこそだと思います。

村のハンガリー人の人口は減少の一途をたどっていますが、
教会を中心とした行事によって、
その文化的生活が成り立っているのだと思います。
若い人たちにできるだけ村の文化の美しさを肌で感じてほしいと思います。

No title
いつも、ステキな写真と素晴らしい手工芸の世界、そして生活日々を
かいま見せていただいております。東京でのルーマニアの人々の作
品を、見に行く事が出来なくて残念でした。ブログこれからも楽しませ
いただきます。

Re: No title
ななさん、コメントをどうもありがとうございます。

トランシルヴァニアでの生活、
日本のそれよりずっとスローペースですが、
こちらにいるからこそ体験できる
さまざまな出来事に日々感謝しています。

東京では、また展示会をする機会があればと思っています。
それまで、こちらで情報を収集して
日本の方々に還元できるよう努力していきますね。

ブログもマイペースで続けていきますので、
どうぞよろしくお願いします。
No title
取材に出かけたりで、しばらくご無沙汰していました。
見事な装飾と衣装が「生きている」のを見るのは、幸せな気分になりますよね。
前回のツィテラの記事も、拝見しました。
ツィテラのマイナー・チューンの曲が、中世風でとても好きなのですが(ブダペストのストリート・ミュージシャンに聞きほれてました^^)、サーチをかけてもCD化されているのを、こちらでは見つけることができませんでした。
そちらやハンガリーでは、CDとしてもいろいろリリースされているのですか?
心豊かなスローライフとは、こちらも程遠いロンドンですが(笑)、また、拝見に来ますねー。
Re: No title
Kotomiさん、ご無沙汰しています。

箱彫刻家の方の素敵な作品とインテリアの世界、
しっかり堪能させていただきました。
Kotomiさんのお写真はいつも素晴らしく、
遠い昔の貴族文化の香りが漂っているようです。
ここ元社会主義国では、残念ながらこうした貴族文化が荒廃してしまいました。

Visual標本箱、まだすべて見尽くしていないのですが、
Adrian McCourt氏によるKotomiさんのポートレート写真の格好よさに声を失いそうでした。
ご主人さまは気品がおありで素敵でした。

ツィテラの音楽について、
いろいろお調べしてまたメールさせていただきますね。
No title
体制や経済にかかわらず、これだけ美しいハンドクラフトが村に生き残っているのは、それこそが、そこに暮らす人々の気品だと思いますよ。そして、お嬢さん方の優美なことといったら・・・ため息が出ます^^。
あ、ポートレート写真見つかってしまいましたね、お恥ずかしい(笑)。
ぜひまた、お時間あるときに、ツティラ音楽に関して教えてくださいね。よろしくお願いします。
Re: No title
Kotomiさん、村に今もこれだけの質のものが残っているのは、
本物のフォークアートに対する需要があるからだと思います。
それが村人たちの美意識の中に揺るがない価値として、いまだに残っているから。

私も、トランシルヴァニアの農村において
Kotomiさんがおっしゃる気品があることに驚かされました。
このカルパチア盆地においては、絶えず他所の民族に脅かされ、占領された歴史があります。
貴族文化がところどころで断絶してしまった代わりに、農村文化の中にはその持続性が見られるのだと思います。
だからこそ、19世紀転換期にヨーロッパ全土でアールヌーヴォーが大流行したときに、
ハンガリーでは農村文化と結びつけるかたちをとったのだと思います。
これこそ、本物のハンガリー人の文化だと。(もちろん同じハンガリー人といっても、場所によって実にさまざまな形が残っているんです。その多様性がひとつの魅力だと思います。)

Kotomiさんのブログはとても格調が高く、
まるで雑誌をめくっているかのような完成度があります。
同じ日本人として、強い個性や美しさをもっていらっしゃることに誇りに思います。
あのポートレート写真、日本の雑誌などでぜひ紹介してほしいですね。

またメールさせていただきますね。