トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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ドボイ村の秋の日

今年の秋は気味が悪いほどに晴天がつづく。
ふだんは森や野原で秋のキノコが顔を出しているのに、
もう二ヶ月以上雨が降らないので、
枯れ果てた草や干からびた土がむなしく広がっているばかりである。

私たちが久しぶりにドボイ村を訪れたのも、
そんな秋晴れの日だった。
ラツィおじさんのポンコツ車が、
村の中の急な坂道を上りつめていくと家の前で止まった。
いつもならUターンをして空き地に車を止めるのに・・・と不思議がっていると、
一気に家の庭にむけて突っ込んだ。
いつの間にか、家と道路をむすぶコンクリートの橋ができていたのだ。

doboly201109 014

私たちの家は相変わらず、丸太がむき出しになっているものの、
向かい側に見慣れぬ小屋が建っていた。
今ちょうど屋根を作っているところの丸太小屋は、倉庫になるらしい。
これがこの夏の仕事の成果のようだ。

「上へ登ってごらん。」そうダンナに言われて、
はしごをつたって這い上がる。
まだ板を乱暴にならべただけで、足場は心もとないことこの上ない。
いすを手渡され、その板の上において腰を下ろす。
息子がそれを見て、そろそろと登ってきた。

doboly201109 010

丘陵に面した村の、一番上の方にある土地なので、
眺めは格別にすばらしい。
お隣さんの庭ごしに、遠くの村を望むことができる。

doboly201109 007

丸太は、隣村の古い家を解体した木材を使っている。
そのために、所どころ切込みが入っていたり、歪んでいたりする。

doboly201109 013

その日の仕事は、クルミを採ること。
庭の真ん中に大きなクルミの木が生えている。
落ち葉の合間に、木材の隙間に
その硬い殻につつまれたクルミが落ちている。
木陰には、深い紫色をしたイヌサフランの花が凛と立っていた。

doboly201110 013

クルミを採るというのは、意外と大変な作業であることが分かった。
落ちたのを拾うのは簡単だが、
時には落とさないといけないこともある。
はじめはダンナが木によじ登り、ふるい落とした。
ザワッと大雨のような音がはじけて、
大きなクルミの弾丸が矢のように降ってきた。
その一つが息子の頭に命中したので、しくしくと泣きだした。

クルミの枝は折れやすい。
いつか村の男性がひとり落ちて死んだという話も聞いたことがある。
できるなら、他の手段を考えたほうがいい。
3m以上はある長い棒を手に、
ダンナが振り回すと、クルミが辺りに飛び散った。

どうしてそこまでしてクルミを採らないといけないかというと、
村に競争相手がいるからなのだ。
その相手は、音もなく忍び寄ってきては、
クルミの木に事もなくよじ登り、クルミをちぎっては家へと運びこんでしまう。
森のリスである。

doboly201109 015

秋は恵みの季節。
この土地では、リンゴやクルミ、プルーンの木が植えてあり、
水一つやらず、肥料一つやらないのに、
自分たちの力で花を咲かせ、実をいっぱいにつける。
その恵みを頂くことが生きていくこと。
今年も、その豊かな自然の恵みに心から感謝した。

doboly201109 018

家には、電気もガスも水道もない。
昼時になると、庭の一角に薪をくべて火をおこす。
金網でナスとパプリカを焼く。

doboly201110 043

真っ黒にこげた皮をていねいにナイフでそぎ落とし、
パプリカは甘酢漬け用にとっておき、
そしてナスは叩いてなめらかになるまでつぶす。

doboly201110 038

タマネギのみじん切りを加え、オリーブオイルを入れて
ボールでかき混ぜる。
塩コショウを振って、ナスのペーストの出来上がり。

doboly201110 046

昼食がすむと、向かいの家から
杖をついたおばあさんが出てきた。私たちの家の前の持ち主。
急いで出て行き、挨拶をしたのに忘れてしまったのか、
そっけない返事をしてあちらを向いてしまった。

ようやく家の庭にまで来てから、わかったようだ。
おばあさんは耳が悪い。目も悪い。
そのため、よくおしゃべりをする。
息子が羊の猟犬たちに襲われ、
その苦痛に耐えきれずに命を絶ってしまったという悲しい話を
何度も話して聞かせる。

doboly201109 025

夕方になると、村は急に活気づく。
ひと仕事終えた人たちは、
手持ち無沙汰で門を出てはあちこちで立ち話をはじめる。
ご近所さんたちと話していると、そばに見慣れぬひとりの少女がいた。
外国人ははじめてなのか、穴があくほどよく見られているのを感じる。
そのうちに、彼女は息子に目を向けて
いつしか一緒に遊びはじめた。

doboly201109 027

村の子どもたちはどこか町の子どもとは違う。
人に対する好奇心がとりわけ強くて、
容易に話しかけてくるわけではないが、
一度心をひらくと昔からの知り合いのように人懐こくなる。

doboly201109 032

息子は近所の子どもたちとサッカーをはじめ、
眺めていた私もいつしか子どもたちの輪に入って、
かくれんぼなどを始めていた。
やがて、日も暮れていく。

doboly201109 033

その日一日の収穫物であった、クルミは家の中に入れておく。
今はシャリシャリで水分が多く味気ないクルミが、
乾燥して次第に甘みを帯びてまろやかな味になる。

doboly201110 044

食べること、働くこと。
すべてがただ淡々と流れていく、村の暮らし。
その新鮮な空気を腹いっぱいに吸い、
時に体を動かして、時に人と語らう内に、
いかに自分が空腹であるかが分かる。

村に行くとお腹がすく。
そして食べ物が美味しいといわれる。
人間がありのままに、当たり前のことをしながら
毎日が過ぎていく。
食べることは大切だと、村の生活は教えてくれる。
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Theme:ルーマニア
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comments(6)|trackback(0)|村に家を建てる|2011-10-03_05:53|page top

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No title
もうクルミが採れるんですね~。
昔 小さい頃、うちにもクルミの木がありましたよ。
更に皮を被っていて それを腐らせないと あの固いクルミにならないんですね。
ナスのペースト 私も最近 中東で食べましたよ。
日本ではあまり やらないけど 美味しいものですね。
Re: No title
霧のまちさん、
私はくるみの木を見たのはトランシルヴァニアで初めてでした。
てっきりあの茶色い殻のままなっているものと思っていましたから、
緑色の実を見て驚いたものです。

そしてあの緑の実はものすごい染料なんですよね。
私の手は真っ黒になり、
いくら石鹸で洗っても落ちません。
昔は糸を染めていたそうです。

ナスのペーストは、
中東でも食べるんですね。
この時期はどこの家からも焼きなすのいい香りが漂ってきます。
秋の風物詩です。
No title
のどかで、自然でいい暮らしですねぇ。
今年はうちの庭では、調理用のりんごがいつになく豊作。ノルマンディーでも、りんごが豊作だったとか。そちらは、りんごはいかがですか?
窓を開けていたら、庭から(うちは3階なのに)リスがキッチンに乱入。鳥用の種のパックを、窓の近くにおいていたのを見つけて、めちゃくちゃに食べ散らかしてくれました。当分キッチンの窓が開けられません・・・(笑)。
リスは冬に備えて、アグレッシブに備蓄モードです・・・やれやれ。
なすペーストは、生のまま叩くのですか?ぜひ私も作ってみよう^^。
はじめまして
はじめまして。ふらりと立ち寄りましたが、素敵なサイトですね。
海外での自然豊かな暮らしぶり、うらやましく拝見させていただきました。

クルミ採り、なつかしいです。
私も実家の畑に大きなクルミの木がありました。父母は畑の仕事が忙しくて手が回らず、クルミ採りは私と弟の仕事でした。
緑の実が頭に落ちるとすごく痛いんですよね~。
のんびりした村の雰囲気も、とてもいいですね。
またお邪魔させていただきます。よろしくお願いします。
Re: No title
Kotomiさん、イギリスのお庭、美しいのでしょうね。
こちらも調理用のリンゴは豊作でしたが、
プルーンは生りませんでした。
5月の花の時期に雪が降ったりして、悪天候だったせいらしいです。

リスが家にまで入ってくるんですか!
この村の家も完成したら、リスには油断できなくなりそうですね。
もう一つの土地には、リスが食べた後のクルミの殻がたくさん落ちていました。
冬は長いので、たくさん貯めておかないといけないのでしょうね。

なすのペーストは、
とろとろになるまでしっかり焼いてから叩きます。
なすとタマネギ、油、塩だけなので簡単です。
ここセーケイ地方名物のジャガイモパンにとてもよく合うんです。
Re: はじめまして
はじめまして、ゆうさん。
私は東京、それから九州で育ちましたので、
クルミの木を間近に見たのはトランシルヴァニアが初めてでした。
緑の実をほぐした時の染料が真っ黒く手を染め、
一週間ほどたった今でもまだ残っています。
昔はこれで糸を染めていたそうです。

日本では南国の田舎暮らし、
ルーマニアでは北国の田舎暮らしが体験できるので、
子どもにとってもよい経験だと思います。

これからもどうぞよろしくお願いします。