トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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カロタセグ地方手芸の旅、2011/10

昨夜のジプシーパーティの興奮も冷めやらぬまま、
私たちは夜行列車に乗った。
行き先は、クルージナポカ。

ルーマニアの列車は、
ここ数年の間に新旧さまざまなタイプのものが行きかうようになった。
やってきたのは、ボタン式で開閉ができる比較的あたらしいもの。
中は、コンパートメントに区切られた部分と
ローカル列車のように、ひとつの空間に座席が並んでいるものとがある。

切符に指定された席を探すと、すでに誰かが横たわっていた。
私たちが近づくと、席を退いてどこかへ消えてしまった。
白い蛍光灯のひかりが、肩を抱いてうたたねをする親子や、
長い足をよこに投げ出したまま動かない男たちをぼんやりと映し出す。

入ってきたときから、むっと臭ってくる何かが
私の嗅覚をたえず刺激する。トイレが故障したのだろうか。
しばらく横になってはみたものの、とてもこんなところでは眠れそうにない。

少し行ったところのコンパートメントをのぞき見ると、
幸運にも人ひとりいない場所があった。
しっかりと扉をしめると、臭いもそれほど気にならない。
座席に体を長く伸ばして横たわり、どのくらい時間がたったのだろう。
ふと気がつくと、車窓の外は白々と夜が明けていた。

「マロシュ川があそこに流れている。」とダンナの指すほうを見ると、
枯れた草原の上を、濃い霧がときに雲のように固まり、
ときに淡くただよいながらどこまでも続いている。
むかし盆地の町クルージに暮らしていた頃、
毎朝、ふかい霧の中をバスで大学に通っていたことが思い出される。

kalotaszeg201110 028

やがて中継地点のデージに着いた。
ルーマニアの万国旗がひらめく町並みは、
ここクルージ周辺の町によく見られる風景である。
少数民族として暮らすものに対しては、大きな威圧感を与える。

kalotaszeg201110 042

町の広場には、ハンガリー人のプロテスタント教会が
天を突きさすようにして立っていた。

kalotaszeg201110 036

ゴシック様式の教会に、古い石造りの壁は、
彼らが歴史の中に大きな存在をもって暮らしてきたことをしっかりと裏付けているようだ。

kalotaszeg201110 038

朝の散歩をした後、ゆっくりと駅へと戻る。
もう日は高く昇っていた。

kalotaszeg201110 047

クルージ・ナポカは、中世からずっとトランシルヴァニア地方の大きな中心地だった。
トランシルヴァニアの経済、学術の機関、たくさんの人がここに集まっている。
ここでローカル列車に乗り継いで、さらに目的地へと向かう。

ちいさな無人駅に下り立つと、風花のむこうに
吸いこまれるほどの真っ青な空が広がっていた。
もう昼はとうに過ぎている。

kalotaszeg201110 052

私たちの背丈よりずっと高く、
黄色い秋の花が大きく背伸びをして立っていた。

kalotaszeg201110 055

初夏におばあさんを訪ねたら、
何かの拍子に倒れて顔にあざをつくっていた。
それ以来、おばあさんが元気だろうかと気にかかるようになった。
耳の遠いおばあさんには電話がないため、
いつも突然に訪ねるのが決まりとなっていた。

ビニールカーテンの隙間から、
おばあさんがうつむき、何か手仕事をしている姿が見えた。
「カティおばあさん!」と声を上げて、部屋に入る。

kalotaszeg201110 071

「まあまあ、秋風が運んできたのかしら?」と
やりかけの手仕事をテーブルにそっと置き、腰を上げる。
「ちょうど市が近いから、
あなたたちのことを考えていたのよ。
もうトウモロコシの収穫を終えて、ほっと一息ついていたところよ。」
80歳を過ぎても、働く手を休めない。

展示会の葉書を手渡すと、
「まあ、こんなところにちゃんと私が記録されているわ。」と笑顔がうかんだ。

kalotaszeg201110 060

秋の青空のような色をした、おばあさんの部屋。
キッチンと寝室と居間がひとつになったその空間で、
おばあさんはひとりで全てをこなしている。

kalotaszeg201110 136

その柔らかな手で針をにぎり、
小さな小さなビーズの目をすくい留めていく。
ゆっくりとしたおばあさんの指の動きに、
丁寧な物づくりというものが何であるかが痛々しいまでに伝わってくる。

kalotaszeg201110 114

針を入れて、そしてすばやく引く。
針を動かすその動作は、
同じことの繰り返しであるだけに神秘的な美しさを伴う。
その動きそのものが、おばさんの呼吸であり、脈であり、
あたかも生きていることそのものであるかのように。

kalotaszeg201110 098


私たちは次の列車で、また旅をした。
実は夜行列車の中から、すでに体全体がけだるく、
風邪がぶり返したような心持がしていたのだ。
これから5日間も持つだろうか。
さらには、週末には悪天候が予想されている。

町の中でふらりとレストランへ寄った。
あたたかいスープを飲んだら、ふたたび体に力がわいてきた。
外でヒッチハイクをして、どれくらい経っただろうか。
若い男が車に乗るようにと促す。
車で村をいくつか過ぎ、そこからは歩いて村へと向かう。

kalotaszeg201110 162

町のはずれまで来たとき、最後の家の主が声をかけた。
「そこから先は、羊の番犬がいるから行かないほうがいいぞ。」
どうしたらいいだろう?
番犬に備えるべく、棒を手にたずさえて行こうとしたとき、
後ろから車がやってきた。

車が止まる。
後部座席には花輪が乗っていた。
明日、村で葬式があるとのことだった。
なじみのおばあさんの家に着くと、
おばあさんは私たちの姿を見て驚き、そして言った。
「今夜は、知り合いのお通夜なのよ。
その人の息子の洗礼親になったからね。どうしても抜けられなくて・・。」

私たちは顔を見合わせ、こういった。
「では、また明日帰ってきます。」
さらに隣村まで歩かなくてはならない。
もう日は沈みかけていた。

プリンをひっくり返したような丘が広がり、
道なりには野ばらの実が赤く色づいている。
隣村の知人に電話をかけると、ぶっきら棒だけれど温かいおばさんの声が響いた。
「今どこにいるの?安心してうちに着なさい。」
ほっと安堵して、2kmの道のりも
夕暮れ時の散歩のように気安く感じられた。

kalotaszeg201110 163

村につくと、もう空は西のかなたに沈み、
真っ赤な太陽の名残だけが空に色づいていた。

kalotaszeg201110 167
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Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(2)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2011-10-13_00:25|page top

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No title
そちらで展示会をされるんですね。
今、手芸を担っているのは 本当に高齢の方ばかりですね。
この先 どんなことになって行くのか 気になります。
日本のように 素早く移動が出来ない地域・・・訪問だけでも大変なんですね。
Re: No title
霧のまちさん、
おばあちゃんに手渡した葉書は、夏の日本での展示会のDMなんです。
こちらでも展示会をしたいと思って
コンセプトは考えているのですが、
今はまだ援助してもらう機関を探している段階です。

トランシルヴァニア地方はまだ高速道路もありませんし、
車のない私たちは、電車やヒッチハイク、徒歩での移動となります。
不便な分、旅の面白さはまだまだ残っていると思います。