トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

カテゴリー

FC2カウンター

カレンダー(月別)

03 ≪│2017/04│≫ 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

これまで書いた記事は・・・

全タイトルを表示

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Feed Me!

トランシルヴァニアへの扉  - Erdely kapuja-のRSSフィード

ブログ翻訳

コロンドの灰色のアトリエ

薄暗い道をあるいて連れてきてもらったのは、
村に住む陶芸職人の家。
大きな帽子にスーツの肩をいからせて堂々と、
納屋のかたちをした奥のアトリエに歩んでいくガーボル。
知人のベンツィおじさんに表から声をかける。

「もう、仕事は終わりだよ。」そんなやり取りが聞こえたので、
無理をしなくていいと彼に伝える。
それでも何度か頼んでいる様子で、
ようやく納屋の中に明かりが灯され、私たちは中へ通された。

ベンツィおじさんは、口ひげをたくわえた恰幅のいい男だった。
不機嫌そうな表情は、仕事を終えたあとの疲れのせいなのか、
このおじさんの習慣なのか分からなかった。

小さな部屋に入ると、暖かい空気が体を包みこむ。
そして、部屋一面にきれいに並べられた灰色の器が目にとびこんできた。
「これは、キャベツ煮の鍋だよ。」とガーボルが教えてくれる。
トランシルヴァニアで古くから食されるキャベツから名前をとったのであるが、
実は何を料理してもいい。

壷のかたちをした鍋というのは、
たとえば民話の挿絵やアニメーションでもみられる。
有名な「石スープ」というお話では、
とんちの利く旅の男がこの壷のなかに石を入れてスープを作って見せるというもの。
途中で「味が足りない」などと言っては、
村のおばあさんにいろいろな食材をもたせて、ついには美味しいスープをこしらえてしまう。

Kolond 040

奥の部屋には立派な窯もあった。
この村では何でも40の窯元があるらしく、
それぞれの家庭に手づくりの窯がある。

ベンツィおじさんはふたたび仕事机に腰を下ろして、
灰色の泥のかたまりをまるめ、激しく手で打ちはじめた。
コンクリートの壁も、おじさんの服も、
そして泥の飛んだテーブルもすべてが灰色。

Kolond 064

足で勢いよくろくろを回しながら、
泥のかたまりを平たく押さえつけたり、
力をこめて引っ張って棒のように伸ばしたりした。
おじさんの手にかかっては、
魔法にかけられたように変形自在となる。

Kolond 085

細長い先っぽを糸で切り取ると、
それが水差しの先っぽになる。
いったん長い筒を壊してしまってから、
また新しく生命を吹き込む。

Kolond 087

壷のような形がみるみる内に丸みを帯びていき、
すがたが整えてられていくと、先ほどの口の部分を上にのせて水差しの形ができる。
首のところに白い塗料を塗ったあと、
かるく指で波型に線を入れていくだけ。

Kolond 128

コロンドの村で見るお土産品は、
どれも装飾的で華やかなのに対して、
こちらはベンツィおじさんその人そのもののように、
がっしりとした素朴な味わいである。

Kolond 134

おじさんの創作魂に火がついたのか、
それからもろくろは回転を止まることを知らない。
力こぶのできそうなたくましい両腕からは、
時に力強く泥がひねり出され、
時に神経質なほどの細やかな手が加えられて、
灰色の物体はいつしか私たちが何千年と培ってきた道具としての形を備えていく。

Kolond 168

目の前で格闘している物体から、
不意におじさんの目はこちらへと注がれる。
彼独特のポーズが決まる。
作業の間はほとんど口を利かないのだが、
その強い眼が雄弁にも作品の美しさを讃えているようである。

Kolond 173

壷や水差し、皿など一通りの作品を延々と作り上げて、
やがてろくろは回転を止めた。
納屋を改造したアトリエでやがて焼かれた壷は、
化学変化を起こして灰色の器にさらなる彩を与える。

Kolond 031

トランシルヴァニアの民陶は、
おそらく世界的には有名ではないだろう。
際立った特徴のないただの器かもしれない。
それでも、その素朴な大味な形や色が、
ここで人々が育ててきた文化のひとつであり、
たとえば「キャベツ煮」という名前ひとつとっても、
彼らの生活のぬくもりを生々しく伝える何かであるに違いない。

陶芸のアトリエで過ごしたその晩の興奮は、
空気の冷たい夜道を歩きながらも覚めやらなかった。
スポンサーサイト

Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(2)|trackback(0)|文化、習慣|2011-11-05_01:31|page top

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

コメントの投稿

非公開コメント

印象的な灰色の世界
コロンドの陶器はクルージの民芸品市でもよく目にしました。
時にはハンガリーの骨董市でも見かけました。
その細やかな模様にいつも目を引かれます。
でも、花模様や鳥模様だけではないんですね。
このベンツィおじさんの作り上げるものは
ぽってりとした丸みと厚みに、素朴な色と模様で
とてもあたたかみがあってまさに衒いのない美という印象です。
何より、灰色の世界の中でひねりあげられた灰色の粘土が
焼き上がるとこんな風合いになるということに感動しました。
この鍋で、名前のままの”キャベツ煮”を作ってみたいです。
Re: 印象的な灰色の世界
Yukiさん、どうもありがとうございます。
陶芸といえば、コロンドと言われるまでに有名になったのですが、
その歴史はまだ100年くらいのようです。
他の産地がなくなってしまったからなのでしょう。
私も例の花模様や鳥のデザインばかりかと思っていたら、
その窯によってスタイルが違います。
一定のスタイルがないところが、コロンドなのかもしれません。

次の日も二箇所で陶芸を見させていただきましたが、
この灰色のアトリエの印象が一番強烈に残っています。
何よりも息子がこの陶芸作りに影響を受けて、
いつか芸術学校で彫刻を勉強したいなどと話したのが嬉しかったです。
この日は予約済みだったので買えませんでしたが、
またキャベツ煮を買いに行きたいです。