トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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幸運の麦の粒

365日を駆けぬけて、
一年でいちばん長い夜を過ごしたあと、
新しい年がやってくる。

わたしたち誰もが新しく生まれ変わることを望み、
すべてを白紙にもどして1からスタートをきる。
新しい年がはじまる。


大晦日の12時まえ。
いっぱいに洋服を着こんで、
真っ暗な闇の中へと飛びこんだ。
手にはグラスとシャンパン、そして線香花火をもって。

目指すのは、教会のそばの鐘つき台。
つるつるすべる氷の上を、
足先に細心の注意をこめて一歩一歩と前に踏みだした。
村は、しんと水を打ったように静かだった。

ひときわ高くそびえる石造りの塔の、
せまい入り口に吸いこまれるようにして入っていく。
中にひとり、鐘つき番のおばあさんがいた。
「村の鐘も、いまや自動で打てるようになったからね。
ボタンを押すだけなのよ。」
12時前の鐘が高く鳴りつづけているところだった。

一定の間隔で鳴りつづける鐘の音を聴きおわると、
埃っぽい石づくりの塔を上へ上へと登りはじめた。
木のはしごは、一人がやっと登れるほどの広さだ。

シャンパンの栓が抜かれると、
心地よい音とともに黄金色した液体がグラスに注がれる。
線香花火にも火がともされ、
まばゆい光をほどばしらせ、かがやいた。
やがて時計の針は12時を打った。
新しい年が幕を明けると、
グラスを鳴らし、互いのほおに口づける。
「あけまして、おめでとう。」

カーン、カーンと高らかに唄う鐘の音が、
腹の底まで響いていく。
黄金色した飲み物は無数の泡をはじかせて、
甘い香りをただよわせてのどにしみわたる。
その余韻をいつまでも味わいたくて、
埃だらけの石の壁をただじっと見つめていた。
2012年の朝がはじまろうとしていた。



朝。
おそい朝食を友人宅でとっていると、
ひとりの老人がこちらにやってくるのが見えた。
「ねえ、お客よ。」と声をかけると、
友人夫妻は「ああ。」と気のない返事をした。
すぐに戸を開けて、その老人が入ってきた。

ポケットをさぐって何かをつかみ取ると、
机の上にそっと置いた。
ちいさな麦の粒だった。
「あんたと、あんたと、あんたにね。麦が幸運を運ぶように。」
友人はポケットから小銭をとりだすと、うすよごれたおじいさんの手に渡した。
彼はちょっと首をひねるようにしてから、
一言二言交わして出て行った。

友人は言う。
「村はどこの家も、門が閉じてあったよ。
あの人は、耳が聞こえないんだ。
毎年ああやって家々を回っているんだ。」

「君だって、ご近所さんを回れば、
すぐにさっきのお金なんて返ってくるだろう。」とだんなが冗談を言う。
やがて気を取り直したように、
「それにしても、どこの家もこういう古い習慣を拒んでしまうなんて
さみしいことだな。」とつづけた。

無造作に机の上にばらまかれた麦の粒を、
息子が口にいれた。
「おいしいよ、パンの味がする。」
私も一粒を口に入れて、噛んでみた。
ほのかな麦の香りと甘さが心地よく広がった。

その幸運の麦の粒をポケットに入れて、
大切に持ち帰った。


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comments(2)|trackback(0)|その他|2012-01-03_16:41|page top

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No title
明けましておめでとうございます。
村の鐘つき台で新年を迎えられたのですね。
白い吐息と綺麗な花火の映像は、昨年の年越しを思い出します。
そしてトランシルヴァニアでの素晴らしい時の流れを羨ましく思います。
今年もブログを楽しみに読ませていただきます。
Re: No title
哲弥さん、由希さん、
明けましておめでとうございます!
去年はシギショアラで新年を迎えられたのでしたよね。
私たちにとってザラーン村で過ごすのは二度目で、
この鐘つき台が一番印象深いです。
村の人たちは、だれも外に出ていませんでした。
麦を配って歩いたおじさんのような人も、
これからはいなくなるのかもしれません。
寂しいけれど、
新年の過ごし方も少しずつ変わっていくのでしょうね。
世界中どこにいても、
お二人の素敵な空気は変わらないと思います。
今年もどうぞよろしくお願いします。