トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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子どもたちのための謝肉祭(カーニバル)

ある日学校から帰った息子の顔を見て、仰天した。
左目を大きくかこむようにして白いマルが描かれ、
鼻は真っ黒く、3本ずつひげまで生えている。

「どうしたの?」とたずねると、
「今日、ファルシャングがあった。」という答え。
ファルシャングとはトランシルヴァニア地方の謝肉祭のことで、
2月の半ばに行われるお祭りのようなもの。
今ではただの仮装パーティと化してしまっているが、
伝統の残る村ではいまだに昔ながらの祭りの姿が残っている。

それにしても悔やまれるのは、
せっかく学校で謝肉祭のために作ったマスクを持っていかなかったこと。
息子のほかに何人か忘れて、
それぞれにライオンやネコなどの顔が顔にペイントされたようだ。
息子のはと聞くと、「犬。」という。
その顔をながめ、思わず噴出してしまった。

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それからしばらくの後、
子どもの家に行って日本語を教えていると、
外から騒がしい物音が聞こえてきた。
お父さんが大慌てで、「ああ、今日だったんだ。」といい、
「申し訳ないけれど、これからファルシャングに行かないと行けないんです。」
と子どもに出かける準備をさせる。

家のちょうど向かいから、ファルシャングの行列が出発するという。
ダンナにカメラを持ってきてもらうように頼んで、
私たちもペーテルといっしょに家を飛び出した。

大通りは通行止めになって、
車の代わりに、色とりどりの衣装に身をつつんだ大人や子どもたちが、
騒がしく音楽や歌を奏でながら練り歩いていた。

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目指すは、真っ白い雪の降りつもった公園のある一角。
円をえがくように木が植えてあるので、
そこだけ円形の広場になっている。

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すでに人の輪が囲んでいて、
円の中心で何が行われているのか見るのにも一苦労する。
息子は肩車で悠々と高いところから、祭りの見物をしていた。

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ちいさな妹のシャロルタは、家でお留守番。
ペーテルが言う。
「僕もほんの去年までは、実はちょっと怖かったんだよ。
あのワラの人間が狂ったようにしているからさ。」

その狂ったワラ人間とは、祭りの目玉でもある雄牛のこと。
身長2mほどの大男が中に隠れているのだから、
その姿はいやでも目に付く。
なにやら低い声でうなりながら、
子どもたちの群れへ突進したりして怖がらせている。
友人のバーリント・ゾリのことだから、「狂った」という表現に
思わず笑いがこみ上げた。

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ここから北に行ったハルギタ県との境にあるカーソン地方の習慣で、
「ビカ・ウテーシュ(雄牛打ち)」というものがある。
藁人形に陶器の頭をつけた雄牛を引いて、村中を回り、
売り買いの掛け合いをするのだが、話がまとまらず、
最後には橋の上で焼いてしまうというもの。

ここでも同じように、雄牛をめぐってやり取りをした後に、
この冬のいけにえは残酷にも、斧で頭をかち割られてしまう。

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やがて、頭のなくなった雄牛をつれて、
今度は元の出発地点に戻っていく。
ちいさな中庭には、人の群れと熱気があふれんばかり。
先ほどのワラを囲んで、ここでも
仮想の結婚式という習慣が取り入れられていた。

仮装した男女(実はどちらとも男)が結婚式のパレードをするというのは、
このセーケイ地方の伝統的なファルシャングの習慣である。
そこでは、男女のワラ人形を馬車で村中引き回したあと、
最後に広場で燃やしてしまう。
昔、未婚の若者がなくなったときに行われたという
「死者の婚礼」の名残を残しているかのようだ。

子どもたちの歌声や楽器のリズムが祭りを盛り上げると、
不意に目のまえのわらに真っ白い煙が立ちのぼった。
みるみる内に、赤くかがやく炎がワラを呑みこんでしまう。
私たちは身動きもできず、
ただ呆然とその赤い炎の神秘に酔いしれるようにして眺めつづける。

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氷の上で凍りついた足と体、
うんざりするような長い冬でなまった体と心。
そういう鬱憤が、この炎で目にもあざやかに焼き尽くされていくようだ。
こんな風にして、冬の終わりが子どもたちの目に焼きつくのだろう。

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ファルシャングが終わると、
キリスト教の暦では、ブイト(断肉)に入ることになる。
イースターまでの約一ヶ月間、肉を食べずに過ごすのだが、こういう解釈もある。
おそらく、クリスマスから続く長いお祭り騒ぎで、
たくさんの肉を食べてきた胃を休ませるという意味合いもあるそうだ。
今では、それも守る人はごく少数で、
イースターの金曜日にだけ肉を食べないという人がほとんどである。

これからイースターにかけて、雪が次第に溶け、
「再生の春」に向かって季節はすこしずつ変化していく。
謝肉祭は、再生への祈りでもあるのではないだろうか。



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