トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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90歳のピアニスト

声を聞いただけで、安心感をあたえてくれる人がいる。
「あなた、去年カロタセグの村で会ったことがあったわね。
声に聞き覚えがあるわ。」
こちらが名乗る前から、彼女は私のことがわかったらしい。
木彫り職人のご主人と刺繍をするマーリアは、宿屋を営んでいる。
息子を連れての旅立ったため、確実に泊まれる場所があることは心強かった。

町の大きな通りに面した、アパート。
階段を上って、屋根裏部屋の一室が私たちの部屋だった。
二階は夫婦の居間や寝室があり、
一階はアトリエや小さな展示室となっている。
古くからのアパートらしく、通路となったベランダからは
大木や小さな畑で緑一色になった中庭が見渡せる。

朝目覚めて、階段を下りていくと、
どこからかピアノの音が聴こえてきた。
朝日の入りこむ通路に、ゆったりとした生命感をあたえているようだった。

居間で朝食をとらせてもらっていると、マリアがこう言った。
「私の祖父母は、どちらもクルージにある
ハージョンガリ墓地にお墓があるんだけれどね。
最近、変な法律ができてしまって、その墓のために税金がたくさんかかることになったのよ。」

トランシルヴァニアの歴史的、文化的中心地は今も昔もクルージ・ナポカである。
その墓地では、トランシルヴァニアを代表する偉人や知識人、貴族などが眠っている。
貴族をはじめとする裕福層だった人たちは、
社会主義化されると、
国外に亡命をしたり、財産を没収させられたりして、
不遇な時代をすごすこととなった。
やっと最近になって、先祖代々の土地を返却されたという話も聞くことがある。

「私の父は、もう90になるんだけれど、
一日中ピアノを弾いているのよ。聴こえてきたでしょう。」
やがて、その本人がガウンを着て入ってきた。
私たちと同じテーブルにつき、
朝食をつまんではおしゃべりをする。
ピアノを弾いているところをぜひ見たいとお願いをすると、
快い返事がかえってきた。

居間から階段をはさんで、向こう側にある部屋がそうだった。
部屋の扉をあけてもらうと、
先ほどまで聴こえていたほのかな音が大きく力強いものへ一変した。
年のせいで確かにゆっくりとしているが、ひとつひとつの音が力強い。
音楽の世界に浸りながら、
ひとり過ごすことができるなんてなんて幸せなことだろう。

IMG_9139.jpg

ピアノの音色とともに、その部屋の雰囲気に圧倒される。
壁をうめつくす油絵や古い写真、古く品のよい調度品の数々。
ある写真を指差して、マーリアが言う。
「これは、バルトークなどの弟子だった有名なピアニストで、
後にアメリカに渡ったんだけれどね。
私の父も彼から習ったのよ。」
医科大に通う前は、
音大の試験を受けてピアノ課にも在籍したことがあるという。

さらに、棚の上に置かれたトロフィーの数々は、
テニス選手という老人のもうひとつの顔を物語っている。
「この町にテニスコートを作ったのは、父が初めてだったのよ。」
長生きの秘訣はと尋ねたら、
きっとテニスとピアノという答えが返ってくるに違いない。


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Theme:ルーマニア
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comments(0)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2012-06-17_14:21|page top

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