トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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7月の結婚式

ある日、四角い招待状がとどいた。
折り線のついた正方形の紙には、色鉛筆で鳥の絵が描いてある。
エステルとネメレ。
9年間いっしょだった友人たちが、7月に結婚する。

IMG_0687.jpg

暑さが盛りの7月のはじめに、ビクファルヴァに呼ばれた。
村に土地をもっているものの、
世界をとびまわる現代アーティストのネメレは
ほとんどここにはいない。

町のアートスクールの校長先生だった父親と音楽教師の母親は、
定年後に貴族の屋敷をこの村で買い、ここで暮らしている。
そして、不思議なことには、
花嫁となるエステルの父親も音楽教師で同僚、
そして同じ村に家を買った。
そういう縁もあり、会場はビクファルヴァに決まったようだ。

村の学校の庭を借りて、
一泊二日の結婚式というから大掛かりだ。
ネメレの設計した模型。

IMG_0838.jpg

炎天下のもと、二日がかりで骨組みを作り、
ビニールのシートをかけて出来上がる。
結婚式のための会場設営は、
こうして一週間前から行われた。

IMG_0841.jpg

「今の時代にどうしたら、よい結婚式ができるだろう。」
今の若者たちは頭を悩ます。
いや、普通の人たちは何も考えずに、
式場のなされるがままにお金を払い、動くだけでいいので
何も考え込むことはないのかもしれない。

昔の村の結婚式は、
招かれた人たちはすべてお互いを知っており、
同じ文化と習慣の中で生まれ育った人たちだから、
結婚式のもつ意味合いも違っただろう。
今では、人々はあちこちを行きかい、
古い習慣はぬぎすてて、新しい価値観をどんどん取り入れていく。
そんな中で、果たして
参列者のみんなが共有できる何かを作ることができるのだろうか。
そんな話題を二度三度、友人たちと交わしたことがある。

果たして、結婚式の日がやってきた。
リュックに着替えとテント、寝袋をつめこんで出発。
電車で近くの村まで行き、そこからが問題だ。
ヒッチハイクのための小銭をかえようと、
お店に入っていったとき、
ダンナが呼び止めた。
ちょうどネメレのお兄さんが通りかかったので、
とりあえず息子だけは乗らせてもらった。
やがて、少し遅れて私たちもヒッチハイクに成功し、
村にたどり着いた。

結婚式は、まず花嫁の家に出かけることからはじまる。
ここで初めて、父親の手から
花婿の手へとお嫁さんが渡される。
昔は、契約のような儀式があったに違いない。
ふつうは、何度か別の女性を引き合わせて、
最後に花嫁が現われるという習慣も行われる。

目がくらむほど真っ白い漆喰の古い民家から、
妖精さながらの可憐な花嫁があらわれた。

IMG_1184.jpg

二人の幸福を祝福するように、
ハンガリーの民俗音楽の軽快なリズムが庭からあふれだす。
コントラバス奏者も、ネメレのお兄さん。

IMG_1207.jpg

門の周りには、村人たちがたくさんつめかけていた。
ジプシーの村人たちが、バケツに花をいっぱいにして祝福すると、
結婚式の参列者たちは、そこにお金を投げ入れる。

IMG_1236.jpg

ちいさな少女は、
花嫁にじっとあこがれのまなざしを注いでいる。

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ふたりが乗った車が出たかと思うと、途中で止まった。
何が起こったのか、前のほうが騒がしい。

IMG_1286.jpg

車の前に、一本の白い糸がひかれている。
ジプシーの男たちが、
通行料を求めているようだ。
一種のかわいらしい儀式に、
花婿は笑みをたたえながら札を手渡した。
ところが、まだ交渉が終わらない。
今度はパーリンカの瓶を手渡すと、大手を挙げて歓声を放った。
こうして、ひもは切られた。

IMG_1265.jpg

1700年代に建てられた屋敷を、
改築したネメレの実家。
ここから、ふたりは歩いて教会へと向かう。

IMG_1299.jpg

人がふたり並んでやっと通れるほどの小道。
花嫁花婿のあとを、行列がついていく。
細い小道に、ちいさな橋、そして木立から林へと坂をのぼっていく。
子どものころ、秘密の場所へ行った記憶をよみがえらせる。
わくわくした感触をあたえてくれるような風景がつぎつぎと広がる。

IMG_1304.jpg

大きなマロニエの木の下で、
参列者を待つ花婿たち。

IMG_1312.jpg

城壁だけの質素な教会は、改革派のしるし。
ささやかな式を望むふたりにふさわしい。
ひんやりした石作りの薄暗い教会の中は、
真夏の世界を断ち切って、
ひとつ新しい空間をふたりのために捧げているようである。

牧師の話や賛美歌によって祓い清められた空気の中を、
ふたりの誓いの言葉だけがあたたかな温度とともに伝わってくる。
そして、しずかに清らかな弦の音が響いた。
教会の中の静寂にそっと寄りそうようなメロディーは、
永遠につづくように思われる。
ふと音色がやむと、
私たちは新しい人生を踏みだすふたりへ心を向けていた。

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彼らを祝福するものは、音と光だった。

IMG_1336.jpg

そして、無垢な笑顔をむける人々。

IMG_1342.jpg

あとで聞いたところによると、
オーストリアに暮らすネメレの兄が弾いていたその楽器は、
中世フィドルといい、ヴァイオリンの原型といわれるそうだ。

こうして結婚式は終わり、会場は披露宴へと移った。
かつて結婚式は、一家総出ですべてを作っていた。
嫁入り道具はないけれど、
彼らも自分たちの手で見事に会場を作り上げた。

IMG_1350.jpg

ご馳走が並べられたテーブルには、
それぞれの名前の書かれた札が青リンゴにささっている。
原っぱでつんだ野の花がそれぞれの瓶に、
それぞれ違った花が生けられて、
レースで縁取りされた瓶がキャンドルとなっている。

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音楽が祝いの場を盛り上げ、
食事や飲み物、そしておしゃべりに花が咲いたころ、
暗くなった庭ではキャンプファイヤーが始まった。
円を描くように置かれた藁のベンチに腰掛け、
燃え盛る火をながめては、
民俗音楽がリズムを奏でるのに耳を傾ける。

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夜中になった。
先ほどまで庭で走り回っていた子どもたちは、
まるで虫たちのようにたいまつの火に群がっていた。
ちらぱった藁を拾っては、火をつけることに熱中している。
キャンプファイヤーやたいまつの火とともに、
この結婚式は忘れられないものとなるだろう。

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真夜中に、夜食やケーキが配られ、
そのあとも宴はつづく。
私たちは、眠くなった息子を連れてテントへと引き上げた。

次の日。リンゴの木の木陰には
だいぶん高くのぼった朝の光が注いでいた。
そろそろとテントを抜け出し、美しい庭を歩いていくと、
もうネメレの両親や高齢のお客さんは談笑していた。

会場の片づけをするのに借り出された。
テントを張って寝る人もいれば、
そのままシートだけ敷いて屋外でそのまま寝ている人もいる。

花嫁は衣装を脱ぎすて、
いつもの表情に戻っていた。
少女のために花の冠を作っている。

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モニカは、トランシルヴァニアのハンガリー人。
アメリカに音楽留学をして、
そこで知り合ったご主人とともに
アメリカ半分、トランシルヴァニア半分の生活をしている。
彼女の生まれた村で暮らしていたサライは、言う。
「アメリカ人はお金持ちすぎる。
大きな家も、庭も、車もすべて持っているから、
人々はどんどん孤立していってしまう。
ここでは、みんなお金がないと不満を言うけれど、
人々はまだお互いに助け合っていて、人間らしいよ。」

ミュージシャンのサライの弾くマンドリンの音色が、
午後の昼下がりのゆったりとした空気にこだまする。
これから家族はアメリカに帰る。

IMG_1461.jpg

会場の解体をほぼ終えて、
昨夜のキャンプファイヤーの跡が今度は弓道場となった。
友人のレベンテが複合弓を持ってきたが、
これはむかし遊牧民族だったハンガリー人が使っていた型のものらしい。
弦を張るときに弓を反らせて、反対側にひねる。
そのため力がかかり、長距離を射ることができるそうだ。

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息子も弓道の手ほどきをうけた。
弓が反っているため、力いっぱい弦を引いて放す。
的に当たると、喜びがいっぱいにあふれた。

IMG_1499.jpg

二日を過ごした村を、つぎつぎに参列客が離れていく。
トランシルヴァニアへ、ハンガリーへ、
それからさらに先へ。
世界の引力に引かれて、
あちこちに散らばった人たちが集まった週末だった。

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Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

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No title
いい絵だと思ったら、
ネメレさんは、現代アーティストなんですね。
結婚式の様子、興味深く拝見いたしました。
Re: No title
Thomasさん、いい絵ですよね。
実は、これは小学三年生の甥っ子さんが描いたものらしいです。
子どもの絵って、その土地柄が出ますよね。
ハンガリー人らしい絵だと思います。

そして、この招待状は折り線にあわせて折っていくと、
指を入れてパクパクする人形ができます。
こちらでは、反対側にして、塩入れと呼んでいるそうです。
はじめまして
はじめまして。
このブログ、大好きです。
毎日楽しみにしています。

全く違う文化なのにどこか懐かしさを感じてしまうのはどうしてでしょうか?
このブログを読んでは優しさと温かさ…いろんなものをいただいています。

開放的な結婚式。
みなさん表情が生き生きしていてとても素敵ですね。
これからも楽しみにしています。

長々と失礼いたしました。
Re: はじめまして
YURIさん、はじめまして!
大好きです、というお言葉
何よりもうれしい贈り物です。

違う文化でありながら、どこか懐かしさを感じていただけたこと。
私もそうです。
ちょうど10年ほど前のルーマニアで、
戦後の日本みたいですよねと誰かがおっしゃっていました。
私も知らない昔の日本にもあった面影を
どこかここトランシルヴァニアで探しているのかもしれません。

結婚式もこういう手作りで温かみのあるものが、
日本でも行われるといいですよね。
形式ではなくて、大切なのは心がこもっているということ。

なかなかあわただしくて更新ができませんが、
日々さまざまなことが起こり、
私の生活も動いています。
できるだけ早く、ご報告させていただきますね。
はじめまして
はじめまして。
今日初めてブログを拝見させていただきました。
日本の結婚式とはやっぱり違いますね。
ルーマニア語をもっと勉強しなくては・・・。
次の記事、楽しみにしてます。
Re: はじめまして
はじめまして、ルーマニア語をお勉強なさっているのですね。
言葉がわかると、世界が広がると思います。
この結婚式は世間一般のものとはすこし嗜好が違っていて、
自由な雰囲気でした。
また村の伝統的な結婚式も違います。
これからの若い人たちが、
どんな風に伝統を取り入れていくのか・・難しい課題だと思います。



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