トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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のどかな日曜日の午後

朝から重い灰色の雲が覆いかぶさっていた。
待ちに待った雨がいよいよ降ってくるのかと、
天を見上げていたら、雨つぶがしたたりはじめた。

住みなれた村から離れ、友人たちの家に来ていた。
車を出そうとするレベンテを制して、
「歩いていくから、大丈夫。」というものの、
「用事があるから。」といってエンジンをかける。

車のガラスが水でにじみ、雨音が聞こえてきた。
これから丘を越えて、隣村へいかなければならない。
雨が降るのは歓迎だが、さえぎるもののない
裸の丘の上でびしょぬれになるのは困ったものだ。

村を越えてもなお車は進み、
やがて道のない原っぱをつきぬけて、
坂道にさしかかるところで止まった。
「ここまでで、いいかい?」
目指す村は見えないけれど、すぐ丘の下にある。
友人の親切に感謝して外へ出ると、
まばらな雨がひんやりと体をぬらしはじめた。

風に背中を押されて、
私たちはひたすらに丘を進み、坂を下っていった。
村につくころには、雨はすっかり止んでいた。
朝の天気がうそのように、
澄み切った青空に入道雲が勢いよくのびていた。

kalotaszeg2012aug 429

今日は日曜日。
教会のミサは、その日は例外で午後に行われるという話だった。
甲高い鐘の音が、ちいさな村いっぱいに鳴り響く。
やがて小奇麗に身支度をしたおばあさんたちが、
ゆっくりと白い建物を目指して歩いてくる。
名札はないけれど、どこの席か決まっているかのように
おばあさんたちはどっかりと腰を下ろして、おしゃべりを始めた。

kalotaszeg2012aug 443

賛美歌を包んでいるのは、
刺繍でできた色とりどりの花たち。

kalotaszeg2012aug 457

18世紀に作られた古いパイプオルガンを弾くのは、アンナおばさん。
力いっぱいの音をたてて、メロディーがこだまする。
後ろでは、もう一人のおばさんが足でペダルを踏みながら、
よく通る声で歌を歌っていた。

kalotaszeg2012aug 446

長い牧師さんのお説教にため息をつきながらも、
お祈りをし、歌を歌っているうちに一時間が過ぎた。

kalotaszeg2012aug 449

天井桟敷には、子供たちが座るというのが習慣だ。
私の横には、村では珍しい二人の少女が座っていた。
人懐っこい姉妹は、普段は町に住んでいるが、
週末や夏休みをここで過ごすという。
「私たち、ここの村が大好きなの。
数えてみたら、去年の一年で
週末に村にいなかったことはたったの6回だけだわ。」
美しい少女は、大人そのものの外見とはうらはらに
あどけない子どもの表情をみせてこう言った。

息子がいるので、いっしょに子供たちと遠足に出かけることにした。
村のはずれの丘を登っていくと、プルーンの林がある。
今年は日照りのため実りが悪く、気の毒なほど小さい。
落ちているプルーンをほおばりながら、
砂ぼこりを立てて丘を登っていく。
だんだんと、ちいさな村が遠く小さくなっていく。

kalotaszeg2012aug 466

「ここでよく貝の化石を見つけるの。」と少女の案内で、
今度は発掘がはじまった。
手のひらくらいの大きな貝から小さな巻貝まで、
かつての海の記憶を残す石が、土の中からつぎつぎと現れた。

「ほら、これを見てよ。」と息子が捕まえたのは、
体は乾いた土色なのに、内側には透明の赤い羽根をもつバッタ。
今年の大発見のようで、行く先々でこのバッタの話をしていた。
バッタは嫌いといいながらも、
少女たちもやがて夢中でバッタ探しをはじめた。

やがて丘を降りると、
原っぱにぽつんと大きな木が立っていた。
よく見ると、丸い緑の宿り木がいっぱいについている。

kalotaszeg2012aug 479

人里はなれた小さな村のもつ悲しい宿命で、
村は深刻な過疎化がつづいている。
昨年には村の牧師さんまでもが3人の子供をつれて、
村を去ってしまった。
子供の数が少なくなって、学校がなくなってしまったからだ。
ついに、この村には子供たちの笑い声が消えてしまった。

それでも、村を愛し、
純粋なやさしい心を持ちつづける少女たちがいることに
少しほっとする思いだった。

kalotaszeg2012aug 481

美しい家は、つぎつぎと町の人々の別荘となっていく。
普段の村はひっそりとして、
一人暮らしのおばあさんたちが住んでいるばかり。

kalotaszeg2012aug 486

夕方、私たちはあぜ道へ来ていた。
人がほとんど行き来をしないため、村の外はほとんど羊の放牧地となり、
いつどこで群れに出会うかわからない。
猟犬は誰であろうと牙を向けるから、危険なことこの上ない。
私たちは棒と石を手に、野原を歩いた。

kalotaszeg2012aug 700

なだらかな丘が目の前をふさぎ、
その先に何が待っているのか見えてこない。
耳をすますと、羊の首輪の音が聞こえてくるようだった。
とっさに向きを変えて、
道から大きくそれて遠回りをする。
危険を察知するように、耳が不思議なほど研ぎ澄まされる。
吹きすさぶ風が、
どうか私たちの草を踏む音、
人間の匂いをかき消してくれるように祈った。
やがて目の前が大きく開けて、
私たちは静かな原っぱの真ん中にいた。

kalotaszeg2012aug 711

厚い雲がいきおいよく流れていき、
西に傾く太陽の光が大地にとどいた。
やがて隣村に到着するころ
私たちはポケットに詰め込んでいた固い石をぜんぶほうり投げた。


★トランシルヴァニアの手芸に関しては、
もうひとつのブログにて。
3つの刺繍のある教会
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Theme:ルーマニア
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comments(0)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2012-09-03_05:59|page top

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