トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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夏の旅の終わりに

流れるように過ぎていった夏。
長い旅から小さな家に戻ると、ぐったりと眠りについた。
夜は空いっぱいにまたたく星の数を数え、
朝は目がくらむほどのまぶしい光に迎えられて目が覚める。

村での生活がはじまったころ、
息子がおもちゃがなくて退屈だと言い出した。
「遊ぶものはいっぱいあるじゃないか!」と旦那がしかりつける。
庭中に散らばっている青リンゴを集め、
黙々とナイフで彫りはじめた。
酸っぱくて食べられない役立たずのリンゴが、
ちいさな彫刻品に生まれ変わる。

kalotaszeg2012aug2 009

またリンゴに木の枝を刺して、人形や馬を作ったこともあった。
息子の目は輝きはじめ、
やがて遊びに没頭するようになった。

小枝で私たちの住む家のような、ちいさな小屋を作ったこともある。
食事のときには息子も薪を集め、
火をおこすのを手伝ったりもした。

kalotaszeg2012aug 072

おもちゃは何一つなかったけれど、庭には砂場があった。
家主が工事のために集めた砂や砂利が、
子どもたちの絶好の遊び場となった。
ご近所のお母さんがやってきては、
子どもをしばらく置いていくこともあり、
村はこんな風にお互いを助けあうことが自然に行われているようだ。

kalotaszeg2012aug 084

ゾルターンのおじいさんは、養蜂家。
父親から学んだ養蜂の技術を今も磨きつづける。
若いころは、車であちこちへ蜜を集めにも行ったことがあるが、
今は自宅でミツバチを飼っている。
甘い香りがいっぱいの部屋の中、
おじいさんがハチの巣をドラム缶の中にいれ、
もち手を回すと、遠心力で勢いよく蜜が振り落とされる。

「春の蜂蜜と、夏の蜂蜜はまた味が違うんだよ。」
春に採れた蜂蜜は、レモン色でキャラメル状にねっとりとしていて、
それでいてさわやかな香りがする。
夏の採りたての蜂蜜は、ベッコウ飴のような色をしていてとろりと滴り落ちる。
こくがあって甘い。

そのとき気がついた。
トランシルヴァニアの蜂蜜の味は、
あの無数の種類の野の花の混ざった味なのだ。
その香りに包まれ、甘い蜜をなめていると、
目の奥に緑色の野原が広がった。

kalotaszeg2012aug 109

隣村で知り合ったスコットランド人の夫妻。
カロタセグ地方をこよなく愛し、
古い民家を買い取っては自分たちの手で丁寧に修復をしている。
私たちも何かの引力に引き込まれるように、
村で古い民家を探しはじめた。
透かし彫りの彫刻が彩る、理想的な民家を見つけた。
家の中は、昔そのままの状態にしてあり、
かつての持ち主が今もそこで暮らしているようだった。
そこで生活をする自分たちを思い描いては、幸せな気持ちになった。

kalotaszeg2012aug2 534

隣村へと歩いていく。
距離は4キロほどだが、
途中の道には所々に羊の放牧があるので危険がいっぱいだ。
野原は美しい曲線をえがいてどこまでも続き、
大海原に出たかのような開放感に包まれる。
枯れた原っぱの中には、
ベージュ色した羊や白や黒のヤギの群れが点々と見渡せる。
あちらへこちらへと流れ雲のように移動する羊の群れはまだしも、
木の柵で四角く区切られた羊の小屋には注意しなければならない。

小屋を守る番犬は、野生動物をかみ殺すようにしつけてあり、
それが人間だとしても躊躇することはない。
近くに羊飼いがいれば安全かもしれない。
または主人がいても、しつけがなっていない犬などは
人に危害を加えることもあるといわれる。
村から帰る途中で、三度も羊小屋に遭遇し、
何匹かの猟犬にほえられ、冷や汗をかいたこともあった。

kalotaszeg2012aug2 704

村に帰ってくると、不思議な光景を目にした。
人が入れるくらいの大きな木の桶を、馬車で行商している姿。
傾いた太陽の光と物売りのおじさんの低く響く声に、
幼いころに聴いた豆腐屋さんや野菜やさんのそれを重ね合わせていた。

kalotaszeg2012aug2 713

2012年の夏は、記録的な日照りと暑さだった。
いつもより厳しい夏の真っただ中を、
村から村へと渡り歩いた。
色を失った原っぱも、絞りたての牛乳の味も、
青リンゴのぼとんと落ちる音も、甘いハチミツの香りも・・・。
カロタセグの夏の思い出として、
刺しゅうといっしょに縫いこまれるだろう。

kalotaszeg2012aug2 523

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comments(6)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2012-10-04_02:00|page top

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No title
そちらも もう秋の気配を感じますね。
日本は 10月は かつて無いほど暑い気温。
なんか、温暖化をストレートに感じます。
子供って おもちゃが無くても 何でも遊べて
しまいますね。 羨ましいほどです。
いい体験をされましたね~。 きっと記憶に
残る時間になりますよ~。
Re: No title
霧のまちさん、こちらも秋らしくなりましたが、
まだ日記は8月のものなんですよ(笑)。
朝晩は冷えますが、昼間は夏の日差しで、
こちらもどこかおかしいような暖かな秋です。

この夏の一ヶ月は、日常から離れて、
便利なものも何もない中で過ごしました。
私たちもこういう生活を夢見ていましたし、
本当に実現するのではないかと理想に近づいたような手ごたえを感じました。
村では夕方に村の子どもたちが集まって真っ暗になるまで遊ぶのですが、
町の子どもたちよりずっとのびのびとしていて、
最高の夏休みになったようです。
No title
今年は、こちらも暑かった!!
これまでの最高記録を更新したんじゃなかったか?
Re: No title
thomasさん、
日本列島の先でも暑いなら、
ほかのところはもっとだったのでしょうね。

こちらも初めて寝苦しい夜を何度か経験しました。
クーラーはおろか、扇風機もないので。
夏が長かったなというのが感想です。

No title
リンゴの彫刻、きれいです!
なんというか、豊かです・・・
そういう環境で育つ息子さんも、きっと豊かな人なんでしょうね。
リンゴで作った馬と聞いて、お盆の時に作ったナスの馬を思い出しちゃいました。

趣きのあるお宅ですね。
射し込む光が優しくきれいです。

こちらでは紅葉が徐々に始まりました。
お体に気を付けてお過ごしください。
Re: No title
Yuriさん、いつもどうもありがとうございます。
このリンゴの彫刻を見て、
息子もナイフをもち、自分で模様を刻みました。
私たちがここで息子に与えられるものは、
自然と遊ぶことくらいでしょうか。
これが精一杯の教育だと思っています。
ただのちいさな小屋でしたが、
私たちにとっては思い出深い一ヶ月を与えてくれた環境でした。

お盆にナスの馬を作られるのですか!
私もこういう伝統的なお盆の姿を息子に見せてあげたいです。

こちらも紅葉がだんだんと鮮やかになってきています。
雨も降ったので、色とりどりのキノコにまた出会えるでしょうか。
Yuriさんも、どうぞお体にお気をつけて
美しい秋を楽しんでくださいね。