トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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ジプシー宮殿の出来事

ルーマニアにはジプシー宮殿と呼ばれる、
不思議な建物が存在する。
とてつもなく巨大で、
屋根にゴテゴテとしたアルミの飾りがついているのが特徴で、
そのほとんどが未完成のままである。
ガーボルジプシーという商人ジプシーの富を表すためとしか、
用途がまるで分からない不可思議な存在。
特に、フエディンの町はずれに連立する風景は圧巻である。

3年ほどまでに、このジプシー宮殿を取材しようと
町を歩き回り、幸運にも一軒の家に入ることもできた。
今回もお客を連れてきたのはいいが・・。

町のまだ中心部にいるときのこと。
一軒目のジプシー宮殿に遭遇して、
隣で写真を撮るのを見ていたら、
遠くからおばさんがなにやらすごい権幕で怒鳴り散らした。
自分たちのこととは露ほども思わず、
ぼんやりしていたら、さらに奥から恰幅のいいおじさんが出てきて、
頭から湯気が出そうになるほどに怒り狂っていた。

こうなったら、走って逃げるより他はなかった。
町外れの砂利道をひたすらに走って逃げる。
悪いことをしたという感覚がないから、
実感が半分沸かないまま、ただ走った。

それにしても、写真だけでどうしてあれほどにまで怒られる必要があるのだろう。
きっと、何か違法の建設か何かしていて、
警察に見られてまずいことでもあるのだろうか。
彼らジプシー男性が連れ立っているところは、
黒づくめの成金ファッションでいかにもマフィアらしい。
そう合点して、警察に連行されても
彼らの肩をもつことはないし、大丈夫だろうと思った。

背中ではノートパソコンを入れたリュックが肩に食い込みそうだ。
息を切らして、走っては歩きしながら、
ようやく追っ手が来ないことで心からほっとした。
訳も分からず走って逃げることになった同行者に
とりあえず自分の予想をしたことを説明して、
他のジプシー宮殿の並ぶ通りへ向かった。
もちろん、カメラはしまってもらうことにした。

他の家も相変わらず建設中のままだ。
人のいる気配がまったくない。
通りを曲がるところで、見知った顔のおじさんにばったり遭遇した。
それこそ、二年前に息子の家に入れてくれた人だった。
家を見させてほしいというと、
「ああ、家内がいるから行きなさい。」とそれきり行ってしまった。

不思議な建物の装飾などを笑う気持ちももう起こらなかった。
こっそりと観察しながら、目指す家へ向かった。
おととしの洪水で町は大きな被害を受け、
そのおじさんのボロ家も水につかってしまったらしい。
息子夫婦はとなりに真新しい宮殿を建てているのに、
おじさんの家の貧しい様子が不思議な対照をなしていた。

大きな鉄格子の門を開けて中に入る。
呼び鈴を押して、しばらくすると子どもたちがドアを開ける。
「おばあさんは・・。」と聞くと、
奥から花柄のファッションに身を包んだ、太ったおばさんが出てきた。
家の中を見せてほしいと告げ、プレゼントをちらつかせると、
「さあ。」と中へ案内された。

一室に、おばさんと子どもたちが身を寄せるようにして座っていた。
おばさんはインスリンを打っているところで、
室内もお世辞にも裕福そうとはいえない雰囲気だ。
子どもたちはどうして学校に行かないのだろう。
家の外観とはまったく正反対の家族の様子に、
虚しささえ感じられる。
写真撮影にも応じてくれなかったので、
どこか未消化のままその宅を出た。

帰り道。
脇の豪華な建物を見ながら、
これを作る人の努力は果たして報われるのだろうかと考えていた。
結局、どんな家に住んでも、
住む人の暮らしようではどこも同じのような気がする。
私たちは、おとぎ話に耳を傾けながら
豪華なお城の住人になることにいつから憧れ、
それを実現させようとひたすらに働きつづける。

とある建設中の家に車が入るのを見た。
思い切って、誰かと交渉して見ることにした。
車から出てきた、いかついジプシーの男たちの中からひとり、
存在感のある者が、英語でこういった。
「ここの持ち主はいない。
私たちは労働者だが、ここで写真を撮ってはいけない。
問題が起こるぞ。」と激しい口調だった。

すごすごと引き帰すしかなかった。
この不思議な建設中の建物の周りにある、
ピリピリとした空気の原因はいったい何なのだろう。
3年前に一人で写真を撮りながら、歩いていたときのことが思い出されて、
なお納得がいかない。
こうして、ジプシー宮殿を後にした。

後日、ダンナにこの出来事を話すと、
おそらく、ジプシー宮殿がどこかのメディアで
面白可笑しく取り上げられ、それに傷ついているのかもしれないと言った。
確かに面白可笑しい建物だか、それを分かっていて設計したのではないのだ。
ジプシーの不思議な誇りを感じながら、
周りの目を気にせずにいられない意外な一面を見るような思いだった。


*3年前のジプシー宮殿の様子はこちら。
トランシルヴァニアのジプシー宮殿











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Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(4)|trackback(0)|ジプシー文化|2012-11-10_17:06|page top

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非公開コメント

No title
Re: No title
Lakkaさん、ありがとうございます。
それだと思います。
記事には国名はおろか、詳しい地名も書いてありませんね。
こちらの家の人たちは、幸せそうに暮らしているように見えますが、
私が訪ねたところは、物乞いさえされる始末で、
家の外観と人の暮らしぶりがちぐはぐに思えました。
No title
前に拝見した宮殿・・・ですが、なるほどですね~。
どうして建設中で終わっているのでしょう。

やはり誇示したいのでしょうね、あの目立つ飾り。
古来から手仕事に長けていた民俗でしたし でも
家の中のインテリアなどは 成金と言うより
何か幼稚なハデハデ仕様ですね。(笑)

教育も文化の価値観も教えて貰えなかった民族の
悲しさも ちょっと感じますね。
Re: No title
霧のまちさん、
今回行ってもほとんど変わりありませんでした。
町の国道沿いにこの建物が連立する姿は異様でもあります。

ジプシーたちは、有形文化に乏しいということが言われていますが、
物をもたなかった民族がはじめて物を残そうと試みたはいいけれど、
伝統がないので何かいい水準のものが生み出せなかったのでしょうね。
ギリシャ様式の柱があったり、タージマハルみたいな要素があったり、
東洋の寺院を思わせる屋根をつけてみたり・・。
自分たちで作ったものを誇れないなんて、悲しいですね。
特にお金をかけている分だけ・・・。