トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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古い一軒屋との出会い

夏のある日のことだった。
町外れに住む、お針子の知人を訪ねるために
小さな通りを歩いていた。

町で一番古い教会のすぐ横手にある道。
その先は原っぱが広がり、
さらに奥には炭酸水の湧き出る泉や森がある。
砂利道がちょうど舗装されるところだったから、
道路には砂が一面にしきつめられていた。

かつて共産主義時代の高層アパートが立ち並ぶ前は、
町の景観も今とは違って一軒屋が多く、
村のような佇まいだったという。
この地区はまだその頃の名残を留めているので、
歩きながらもつい、古い家並みを観察してしまう。

ふと、崩れそうになった小さな木の門に、
売り家と書かれた標識に目がとまった。
家は門ほどまではないけれども、
やはり人の手がかけられていない埃っぽさを感じさせる。

なんとなく心引かれて、庭の様子などをのぞき見しながら歩いていくと、
ダンナがこないのに気がついた。
近所のおばあさんと話をしていたらしい。
隣のおばあさんによると、あの家は彼女のもので
売りには出していないそうだ。
また別のご近所さんによると、そのおばあさんは頭がおかしくて、
狂言ばかり吐いては周りを困らせているということだ。
その不思議な家を後にして、知人の家へと向かった。

今年の夏の暑さは異常だった。
これまで熱帯夜というものを体験したことがなかったが、
今年は何日となくそういう日があった。
家にはクーラーはおろか扇風機さえない。
網戸もないため、窓を開けると大量の蚊が入ってくるから、
空けたくとも空けられない。
そのつらい夏の夜を重ねるたびに、
これが一軒屋だったらと恨めしく思われた。

アパートは窓越しに風景が見える。
それでも、ただの切り取られた風景であって、
手をのばして届く自然ではない。
それが一軒屋だったら、ドアを空けると外の世界がいっぱいに広がり、
花の香りや果物の色に、季節が肌で感じられる。

その古い小さな家は、なおも私たちの心を掴んで離さなかった。
持ち主と電話でのやり取りがつづいた後、
再び、その家に向かった。

IMG_2607.jpg

持ち主が亡くなって、相続者がいるだけで、
家は空き家のまま5年たっていた。
そのため家の価値はなきに等しいとされ、
土地の値段が売値となったようだ。

庭にはライラックの大木があって、
これだけ幹が太いのも珍しいという。
ほかに目ぼしい木は見られず、畑は荒地となっていた。
上り坂になった、細長い土地を歩いて隅まで行くと、
教会の裏手の墓地に突き当たる。
はるか遠くは、町外れの森まで見渡せる。

IMG_2600.jpg

家の中に入ると、前の持ち主が生活の匂いをそのままに封じ込めたかのような
さまざまな品があった。
古い箪笥には洋服がそのままにかけられ、
食器棚には古い磁器が埃をかぶってしまってある。
お風呂場の代わりに、たらい置き場があった。
「直すところが多いでしょう。」
そう家主に言われて、ダンナは首を振った。
「いいえ、できるだけこのままに残したいんです。」

もう一つ気に入ったのは、雨どいの飾り。
ジプシーの職人が、アルミを加工して作ったもので、
波打った花びらが美しい。
どこかの村で、ペイントされたものも見たことがある。

IMG_2608.jpg

小さな古い家に、私たちが生活の火をともすのはいつになるだろう。
来年の春には果物の木を植えよう。
そして、土を耕して野菜を育てよう。
これから待っている沢山の仕事を想いうかべ、
来年の春が待ち遠しい。

IMG_5820.jpg
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Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(8)|trackback(0)|トランシルヴァニアの町|2012-11-10_17:42|page top

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No title
エ!?  この家を購入される訳ではないんでしょ?
そこまで話が行ってないですよね。
かなり前から ずっと手作りで建てていた家は・・・
今、どうなりましたか?
Re: No title
霧のまちさん、
村に建てている家はまだ中断しています。
もちろん、こちらも完成させますが、
実際にそこで生活をするというのはすこし難しそうです。
というのは冬はまったく日が当たらない日陰ですし、
村の学校も4年生までしかなく、ジプシーの子どもたちばかりなんです。

村の家は、来年、お姑さんが定年してから、
夏の別荘のように使うと思います。
年金生活でも、やはりあそこで冬を越すのは大変なようです。

車のない私たちの生活で、
無理なく過ごせる町はずれの家に決まりそうです。
薪で火をたいたり、井戸を使ったり、
そういう生活の基本は変わらないと思います。
No title
炭酸水の湧き出る泉
>これ気になりました?
炭酸水はつくるものだと思っていましたが、
湧いてる?
それは、飲めるのですか?
私は、近年、山の湧き水を利用しているので、
ちょっと驚きです。
Re: No title
Thomasさん、ご無沙汰しています。
ここは山脈のふもとで、
炭酸のまま湧き水わくことで有名な土地です。
村によって、さまざまな炭酸水があって
有名な水のメーカー名になっているところもあります。
まだ近所の炭酸水は、水汲み場が整備されていないので
飲んでいませんが、これから楽しみです。

日本でも、いくつか微炭酸水が沸いているところがあると思います。
霧島のふもとの温泉地でも飲みましたよ。
No title
古くても、一軒家というのは格別ですね。
欧州だと、築100年の家でも住んでいることが
多いけれど、日本だとどうでしょうか。よほど
しっかりした町家でないと難しい。これは
木造建築、建築仕様の問題ですが、地震多発
地帯ゆえでもあります。でも、欧州大陸は
自身は少ないでしょう。たとえばリトアニア、
戦前「命のビザ」の杉原領事の居宅は、戦後も
民家で使われ、今は記念館になりました。

暑さは困りますね。ただ、見方を変えると、
幼児のときに空調の効いたところで育つと、
汗腺が発達せず、熱中症や低体温に将来
なりやすい。たとえ空調がなくても、
風通しのよい部屋で、夏には蚊帳を使って
おけば、なんとかしのげます。

だから、古くても愛着の湧く家に住まれることが
できますよう、遠くから祈念しております。

Re: No title
H.A.さん、はじめまして。
大変参考になるコメントをどうもありがとうございます。

ここルーマニアでは都市部にいくと、社会主義時代に
労働者を押し込むための高層アパートがひしめいていますが、
農村部や町外れですと、このように100年ほど経ったふるい建物が今でも見られます。
そして、大工さんなどではなく、普通の村人たちが自分たちで作った家や納屋が
幾世代をも経て大切に使われています。
日本のように地震があるわけでもなく、
冬に風が吹いて火事を起こすわけでもなく、
そういう意味では住環境に恵まれているのでしょう。

ただこちらでは古い民家は、恐ろしいほど底冷えがします。
降水量は少ないにもかかわらず、不思議な湿気があります。
もちろん二重窓があったり、今では便利な断熱材も手に入りますので、
いろいろ手を加えて、住みやすい家にしたいと思っています。

私もこちらでは空調のない生活に慣れていますので、
体のためにも工夫をして暑さ対策をしたいですね。
夏の熱帯夜のときには、こちらは乾燥していますから、
パジャマを水にぬらして眠ったこともありました。

杉原領事は、確かユダヤ人にビザを支給した方でしたよね。
記念館になって残っているとのこと、すばらしいです。

まずは門と柵を作ることからはじまりそうです。
この土地独特の木彫りの門を作ってもらう予定です。
春が来るのが楽しみです。
No title
すごく素敵なお家ですね。
アルミの雨どいはもちろん、窓枠も外壁も屋根も良い雰囲気ですね。
このまま残したいと思うバーリントさんの気持ちがよく分かります。
ライラックの大木も生活をより豊かにしてくれそうですね。

私もクルージで素敵な一軒家が売りにでているのを見かける度に
こんな家でゆっくり暮らせたらいいなと思っていましたので、
聖子さん家族の新しい暮らしぶりがとても楽しみです。

5年も眠っていた家が3人の生活によって息を吹き返し、
これからいくつもの素敵な物語が生まれていきそうですね。
Re: No title
哲弥さん、ご無沙汰しています。
古い家なのですが、つくりは村の民家と同じで、
木造で漆喰がぬられ、壁には模様のついたペンキが塗られています。
部屋に入ったときは、まだ誰かが住んでいるかのようにそのままの状態でした。

まずは門と柵を作ることからはじめないといけませんが、
来年の春から少しずつ作業していきます。
哲弥さんたちのように、丁寧な美しい生活ができるようにと思っています。

小動物を飼って、畑を作って、果物の木を植える。
そういう生活をずっとしたいと思っていたので、楽しみです。
そして、いつかご家族でいらしたときに、
ここでおもてなしできる日を楽しみにしています。