トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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ナースチャと家族

子どもが誕生して、私たちの生活も一変した。
昨日と今日との区別がつかないほど、
毎日が過ぎていくのが早い。

あらん限りの声を振り絞って泣き、
必死で胸に吸い付いて乳を飲み、
ようやく安心して眠りにつく。
娘の成長を見ながら、人は生まれながらに、
何かに必死でしがみつきながら
成長をつづけていく生き物なのだと思った。

生後二週間経って、
日々のリズムにようやく慣れてきた頃、
閉め切ったアパートの部屋を抜け出した。
こちらの生活6年目にして、やっと手に入れた中古車。
免許歴10年の新米ドライバーのダンナと子どもたちと、
村に住む友人たちを訪ねることにした。

ゆりかご代わりにもなる、小さなベビーシート。
子どもの成長とともに、
少しずつ行動範囲が広くなっていくだろう。

IMG_6474.jpg

息子のクラスメイトの家族は、お母さんがウドムルト人。
ウドムルトというのは、ロシアのウラル山脈の近くに住む少数民族で、
ハンガリー人と言語的に近いと言われている。
ナースチャは、町で生まれ育ったが、
自分のルーツであるウドムルト語を学べる学校に入った。
高校生の時にハンガリー語を専攻してから、
ハンガリーに留学をして、今のご主人さんと知り合ったという。

一人はロシアのウドムルト人、
もう一人はルーマニアのハンガリー人。
はじめはハンガリーのペーチ近郊の村に住んでいたが、
3年ほどウドムルトの地方に暮らし、
ここトランシルヴァニアに越して5年ほどになる。
二人の小学生になるお嬢さんといっしょに、ここで暮らしている。

民俗楽器を作るミクローシュと、
フェルト細工を作るナースチャの姿をよく手作り市で見かけるたびに、
どんな暮らしをしているのか興味を持っていた。

町を出て、国道沿いの道をそれると、
突然、畑の中を突っ切る田舎道に入る。
昔、アルコール工場のあったウゾンの村を通り過ぎ、
今度は左手に山を見ながら国道を進み、
二つ目の村がそれだ。

ビクファルヴァは、山の斜面にある小さな村。
19世紀以前に建てられた貴族の屋敷がいくつもあり、
文化的な匂いがするため、
ここ最近は町から移住する人も増えた。

村の中心から奥へ奥へと、
山に向かってどんどん坂道を登っていく。
やっと車が入るくらいの小道をいくつも曲がっていくと、
人家も絶え絶えに、もの寂しい風景がつづくので、
さすがに不安になってきた。
電話をしてみようかと思った頃、
「ここだ。」とダンナが言って止まった。

こんもりと木々が茂っている中に、
黒い布がつぎはぎになった屋根が見えた。
不思議の国に迷い込んだような、
ぼんやりとした目に笑顔で迎える家族の姿が映った。
「さあ、おいでよ。」

西に傾きつつある太陽の光を受けて、
大きなクルミの木が心地よい影を作っている。
その下にテーブルが置かれ、椅子が並んでいた。
すると、ナースチャが家の中から木いちごやお菓子を持ってきた。
「ウドムルトのお菓子よ。」
餃子のような形で包まれた中には、
細かく刻んだ赤ビーツとクミンが入っている。
ほんのりと甘く、噛めば噛むほどに味わい深い味は、
彼らの庭にぴったりで、心地よい。

IMG_6488.jpg

気がつくと、先ほどまで娘の座っていたシートに、
子ねこが居心地よさそうに乗っている。
ナースチャはそれを見て、シッと追い払った。

IMG_6489.jpg

大人がおしゃべりをする間、
子どもたちはクルミの木に作られたアスレチック広場で遊んでいる。
ブランコやロープ遊びなど、
素朴な遊びに目を輝かせる子どもたち。

IMG_6499.jpg

「庭を見てみる?」との声に、腰を上げて、
裸足で歩くナースチャの後についていく。
大木が通せんぼしてよく見えなかったが、
実は細長く広い土地のようだ。
木々のカーテンが開くと、あっと声を上げたくなるほど、
明るい風景がひらけた。
周りは一面に森が続いているのに、
ここだけはぽっかりと穴があいたよう。
首をかしげたようなりんごの木が一本だけ立ち、
印象的な風景を作っていた。

IMG_6501.jpg

そこは畑だった。
ジャガイモや玉ねぎやにんじんなど、さまざまな種類が植えてある。
エンドウのさやから、つやつやとした丸い緑の玉を取ると、
そのまま口に放り込んでる。
「どうぞ。」と差し出され、私も口に入れた。
無農薬のグリーンピースは甘く、お菓子のようだった。
子どもたちはすでにエンドウをつんでは、どんどん食べている。

この隠れ家のような土地に魅せられて引越し、
去年の秋にようやく町に古い民家を見つけてここまで運んだ。
寒い冬の間は、その家に身を寄せるようにして四人で寝ていたが、
夏はずっとテントを張ってここで夜を明かすという。
「熊は怖くないの?」
カルパチア山脈に接するこの辺りでは、
熊が多く、付近の村にも深刻な被害を与えている。
「ええ、お隣さんの庭には出たみたいだけど・・。」

最後に家を見せてもらうことにした。
2間のうち、ひとつが家族の部屋で、もうひとつがアトリエ。

IMG_6512.jpg

6畳くらいの空間に、キッチンとテーブル、
小さなベッドが二つがやっと収まるほどだ。
新鮮な野菜や果物を瓶詰めにして、長い冬に備える。
主婦は、夏に仕事が多い。

IMG_6506.jpg

いつからか人は家に贅沢をするようになったのだろう。
あれこれと注文をつけては、窓はいくついるかとか、
子どものためにそれぞれ部屋をそろえて・・ときりがない。
彼らは、この美しい庭に魅せられて移住することを決め、
どんな大きさの家でもまったく気にしない。

IMG_6515.jpg

ナースチャの幸福そうな笑顔を見て、
家族にとって何が一番大切なのか気づかせられる。
みんなが同じことに価値を見出し、
自分たちの足元を見て生活していくこと。

IMG_6518.jpg

帰り道、夕焼けにまぶしく照らされるのどかな田舎道を眺めながら、車を走らせる。
彼らが毎日子どもたちといっしょに目にする風景を思い、
こちらまで夢心地の気分になった。
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comments(6)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2013-08-03_00:20|page top

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非公開コメント

No title
そうそう、穫れたてで日本のグリンピース程熟し過ぎない時点で食べるグリンピースは本当に甘くてつやつやしていて美味しいですね。
私もこちらに来て、生の物食べて美味しいと知りました。
日本にいた時は土とは縁遠い生活だったら何も知らなかった。
ウドムルトのお菓子、ぜひ作ってみたいのですが、ロシア語名判りますか?
調べてみたい。
ビーツとクミンをどれ位の割り合いで混ぜるのかとか味つけするのかとか凄く興味あります。
最近以前ブログで見かけて作った芥子の実入りの生地とカスタードとクッキーのケーキが食べたくて仕方有りません。
もう少しで移動に入るからお菓子作りがなかなか出来ないのだけど。

夏は保存食を作って長く厳しい冬に備える、こちらも同じ。
彼らは当たり前のこととして繰り返しているけれど、庭で収穫した物で作る保存食って豊かで贅沢な事だと常々思っています。
Re: No title
越後やさん、ありがとうございます。
自分の作った野菜や果物を食べられるなんて幸せですね。
保存食のある生活も私たちには馴染みがありませんね。
煮るまではいいのですが、これを上手く瓶詰めにするのが難しいです。
何度か、食料庫の中で腐らせてしまいました。

ウドムルトのお菓子、名前やレシピなど聞いておきますね。
あの辺りではいろいろな種類の穀物を食べるそうです。
どうぞ日本へ気をつけてお帰りください。
知足的生活
今回も素敵なお話をありがとうございます。ナースチャさんは様々な価値観に惑わされず、足るを知った生活をされているのですね。日本でもきっと、自然に寄り添った生活をしている人には、そういう心の安定があるのかもしれません。
ところで、餃子のようなお菓子、興味深いですね。クミン入りということは、少しカレーっぽいのでしょうか。確かチベットにモモという餃子みたいな料理がありましたが。世界は繋がってますね。
No title
本当にそうです。何が幸せかって・・・価値観が同じことですね。  立派な家やモノは要らないように思います。
素敵なご家族ですね~。
クルマを購入されたんですね。 行動範囲が広がっていいですね。
赤ちゃん 可愛くお元気に育ってて 微笑ましいです。

それにしても、ギョーザに似たお菓子、赤ビーツとクミン入りですか! 味の想像が付きません。(笑)
Re: 知足的生活
yuccalinaさん、どうもありがとうございます。
今の時代にしっかりと自分の価値観を持って生活することが
いかに難しいかよく分かるので、すばらしい家族だなと思います。
「足るを知る」そこに人が幸せになれるヒントがある。
今から二千年以上も前から言われていたことなのに、
どうして忘れてしまうのでしょうか。

実は、私も古い民家の改装を前にして、
窓が小さくて暗いだの、子どもたちが大きくなったら、
1キッチン、1リビングでは困るとか、いろいろ考えていたんです。
それでも、彼らの生活を見てはっとさせられました。
一番大切なものを見失わないようにしないといけませんね。

チベットにも似たような料理があるのですか。
味は至ってシンプルな、わずかに砂糖が入っている感じでした。
クミンで清涼感のある味付けができますものね。
ここでは、クミンを煮出してお茶を作りますが、
結構味が強いです。
またレシピを尋ねておきますね。
Re: No title
霧のまちさん、どうもありがとうございます。
これまで素敵な家族をいくつも見てきましたが、
共通するのは同じ価値観で生きていることだと思いました。
日本は子どもが少ないのが問題ですが、
こういう家族のあり方をもっと知ってほしいです。

車があると便利ですね。
特にここルーマニアは公共交通が不便ですので。
さすがに、赤子を連れてヒッチハイクはできませんし・・。

この餃子みたいなお菓子、ちょっとおかずっぽいですが、
シンプルな味付けなので癖になる味でした。
ここの素敵な庭で頂いたので、さらに美味しかったです。