トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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ある家族との再会

時はさかのぼって、11月のはじめ。

5か月になったばかりの娘を連れて、
初めての長旅に出かけることに決めた。
日本で展示会をするにあたって、
どうしてもカロタセグの地を踏んでおきたかった。
その土地独特の空気に触れ、あの煌めく色合いに染まり、
それをそのまま日本へ持ち帰りたいと思った。
何よりも、新しい家族をおばあさんたちに会わせたいというのが本音だったかもしれない。

これまでは深夜列車でクルージを経由して、
約8時間旅をするのが常だった。
もし雪がなかったら、旦那の運転で行けるかもしれない。
思いのほか、暖かな秋の日和が続いたので、
途中で立ち止まりながら、車で行くことになった。

セーケイ地方から北西へと森を抜けて、
かつてドイツ系の民族が暮らしていたザクセン地方に入る。
それから、再びセーケイ人の住む町に到着した。

ここである人を探すことにしていた。
旦那が市で知り合ったおばあさん。
両親がカロタセグのある村の出身で、
第二次大戦中にその村がルーマニアに属することになったため、
村を捨てて町に引っ越した。
それから二度と村に住むことはなかったが、
母親が遺した手仕事を大切に保管しているという。
著名な民俗学者コーシュ・カーロイと収集をしていたというから、
よほどの珍しい品が見られるかもしれない。
ずいぶん前から電話で話を聞き、楽しみにしていた。

町についてすぐに電話を掛ける。
地図を片手に目的地に向かい、懐かしい街並みを辿っていくと、
どこか見覚えのある通りに出た。
古めかしい灰色の集合住宅が立ち並ぶ風景。
ルーマニアの町はどこも同じ様相だ。
それでも、長く住むとその微妙な違いすらわかるようになる。

約束もほとんど忘れそうになるほどに、
不思議な興奮を覚えて、車を止めてもらい、
あの懐かしい家族を訪ねることにした。

私がここを初めて訪れたのは、13年前のことだった。
当時大学生でクルージの大学に留学していた。
その時のクラスメイトの誘いで、彼女の英語の家庭教師をしていたある女性を訪ねた。
すらりと長身の赤毛の女性は、
ヨーロッパ女性には珍しいほど物腰がやわらかい。
やさしい彼女のご主人は日本人男性で、
茶色い巻き毛のかわいい女の子と一緒に暮らしていた。

やがて数年前にまたこの家族を訪ねたときは、
小さな女の子はお姉さんになっていて、かわいい妹たちがいた。
数年おきに再会し、そのたびに家族が増えて、
大きく成長するのを不思議な思いで見ていた。
いつも突然訪れる私たちをあたたかく迎えてくれる家族は、
年を追うごとに幸せが増していくようだった。

インターホンを心持ち緊張して鳴らす。
ドアが開かれ、通路を奥に進むと玄関があいた。
やさしい笑顔で迎える彼女の腕には、小さな赤ちゃんが抱かれていた。
すこし戸惑い、記憶をたどりながら何人目かなと考えていると、
「この夏に5人目が生まれたのよ。」と言った。

私の持つゆりかごに気が付くと、
「まあ、あなたにも!よかったわ。」と声を弾ませた。
丸々とした赤ちゃんは、娘の一か月後に生まれたようだ。
積もる話をどこから始めていいのかわからない。
もどかしい思いで、ひとつひとつ絡まった毛糸をほどくようにして
数年間の空白が埋まっていく。

一番気にかかっていた長女のことを尋ねると、
「今年の夏に演奏会に出たのよ。」とパソコンで探し始める。
なんと高校一年生の若さにして、
オーケストラにマリンバのソロ奏者として出演したのだという。
交響楽団の指揮者がたまたま日本人だったこともあり、
家族にとっては思い出深い出来事だったようだ。

年配の演奏家たちが列をなす中で、
若い少女がひとり大きな木の鍵盤をたたく様子は圧巻だった。
さまざまな音色が混ざり合い、
豊かな厚みを生み出してゆく層の上を、
ステップを踏むように軽やかな木琴のリズムが心地よく響く。
彼女は、まるで魔法のステッキを振り回す妖精のようだった。



家族の生活にはいつも音楽が欠かせなかった。
トランシルヴァニアの民俗音楽がスピーカーから奏でる中、
小さな子供たちが並んで和やかに食卓を囲んでいた。
その環境が、子どもたちの音楽的感性を育み、
そして彼女は努力によってその才能を開花させたのだ。

夏休みをどう過ごしたかと話していたとき、
「家族みんなで、子供部屋のベッドや勉強机、
玄関の靴置きの棚を作ったのよ。
ほら、うちは家族が多いでしょ。」とにこやかに話す。

やがて、表で遊んでいた子供たちが家に帰り着くと、
私たちは賑やかな子供たちの笑い声に囲まれた。
一家は、常に明るい光が点っているようで、
扉を閉じて家を出たあともなお、
無性に楽しく、興奮した心持ちで宿についた。












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Theme:海外の子育て
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comments(2)|trackback(0)|ルーマニアの育児|2014-02-02_07:16|page top

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No title
素晴らしい演奏ですね~。  マリンバ大好きです。
若い彼女のバチさばきが 本当に妖精のようです。
向こうのご家族も 聖子さんのお子様方に
びっくりされた事でしょうね。
年月が いい感じで過ぎていますね~。
日本でも 最近、若い女性がSTAP細胞を発見したり
ローザンヌバレエコンクールで 1,2,6位を取るなど
活躍が目立ちます。
もうすぐソチ五輪ですね。 いろいろ楽しみです。
Re: No title
霧のまちさん、まだ彼女は16歳くらいなので
これからが楽しみです。
いつか、日本で演奏する日が来るかも・・・なんて
想像するだけで嬉しいです。
何年を隔てていても、
時間が止まったように変わらない空気の人たちに会うとほっとします。

もうオリンピック始まっているのですね。
我が家にはテレビがないので、
こういう情報には疎いんです。
日本人が活躍するといいですね。