トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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イーラーショシュの縫い手を探しに

旅のはじまりは霧の中。
夢うつつの心持で、村の通りを歩いていた。
電車がくるのを告げるサイレンの音が、
まだ眠たい頭の中にうち響いている。

駅へと向かう一本道。
太陽が昇ってゆくにしたがって、まるで魔法のように霧が消えてゆく。

kalotaszeg osz2014 (11)

村人たちはおのおのボストンバッグや、
巨大な買い物袋を手に提げて、列車を待っていた。
どこか遠くへ旅行に行くのではない。
一年に一度の市に出かけるのだ。

もの凄い音を立てて列車が止まった。
列車の中はコンパートメントの中はもちろん、
通路まで人が立ち並んでいる。
娘を抱いて、なんとか通路を進もうとしているとき、
中から声をかけられた。
大学生くらいの若者が席を譲ってくれるらしい。
お礼を言って、席についた。

8人用のコンパートメントは、すべて大学生の男女で賑わっていた。
私たちの頃とは明らかに違う身なりや振る舞い。
15年ほど前、お金はないから買い物よりも
もしろ好奇心で出かけたものだった。
友人たちといっしょに農家の納屋で干し草の中で眠ったこともあった。

山間の村が見えてくると、気持ちがはやる。
無人駅で列車がゆっくりと動きを止めると、
プラットホームのない地面に列車から飛び降りなければならない。
気が付くと、人と物とでごった返す会場の中にいた。

着替えや娘のオムツ、食料などを積んだ大きなバックパックを知人の所に置いて、
買い物に出かける。
しばらく見た後、娘が疲れて眠ってしまったようだ。
紐でしばりつけられたカンガルーの親子のような私たちを見かねて、
娘を寝かせるようにと誰かが声をかけてくれた。
買ったばかりの子ども用スカートを上にかけて、
スヤスヤと寝息を立てている。

kalotaszeg osz2014 (12)

娘を置いて近場を散策していると、
しばらくして泣きわめく娘を抱いてその女性が現れた。
「通りかかった人が、大きなお人形を売っているのかと思ったようで
びっくりしていたわ。」と微笑む。

やがて買い物を終えた頃、駅の方に向かって歩き出した。
線路の近くの原っぱに、若者たちが座り込んでいる。
はや夕暮れ時に差し掛かっていた。

kalotaszeg osz2014 (17)

旦那と娘は、線路の間を走り回ったり、
線路に腰かけたりして遊んでいた。

kalotaszeg osz2014 (14)

列車の時間が近づくにつれ、人の群れが膨らみはじめた。
気がかりなのは、これだけの人が列車の中に入るかということだ。
目指す村に行くには、この列車しか止まらないので、
何としても乗らなくてはならないと意気込んだ。
期待と不安の混じった心持で私たちが見たものは、
わずか3両ばかりの列車だった。

あっけにとられて走るのも忘れてしまった。
群衆がまるでアリのように入り口にたかり、
列車をよじ登って何とか中に入ろうとしていた。
怒りよりも、むしろ笑いがこみあげてくる。

結局、次の急行列車で最寄りの町で降りることになった。
電話で話していた通り、友人が出迎えに車で着てくれたので、
快適に村の友人宅に到着した。




ハンガリーに住んでいるはずの友人とローカル列車で出くわしたのは、
今から3年ほど前のことだ。
カロタセグの村に住まいを決めて、引っ越したばかりの頃、
その時もまた葡萄がなっていたように記憶している。

kalotaszeg osz2014 (20)

あれから、彼らにも子どもが誕生した。
画家で修復家のレベンテとピアニストのレーカ。
理想の素敵な夫婦に育てられる息子さんは、どのように成長するだろうか。
一年前はねんねの赤ちゃんだった二人も、
大きく成長して通りを駆け回るようにまでなった。

kalotaszeg osz2014 (21)

ゆっくりと朝食を頂いた後、
荷物をまとめて出発しようとする私たちをレベンテが制した。
丘の向こうの隣村まで車で送ってくれるというのだ。

さりげない気遣いをする彼に、いつも甘えさせてもらっている。
大きなリュックと荷物、さらに娘を抱いて丘を越えるには、
優に一時間はかかっただろう。
あっという間に、私たちは村の中心広場に来ていた。

今回の旅の目的は、イーラーショシュの縫い手を探すことだ。
テーブルクロスを作ってほしいという依頼を受けて、考えた。
刺繍のうまいお姑さんに作ってもらうのは簡単だが、
むしろ村の女性に注文を渡した方がためになるのではないか。
それを知った村の人たちが、再び針を持つようになるかもしれない。
さらに、若い世代に繋がっていけばそれが理想だ。

ところが村が高齢化していることもあり、なかなか刺繍の作り手が見つからない。
村の牧師さんに尋ねると、「村に二人注文を受けてイーラーショシュを縫う人がいる。」との情報を得た。
名前をノートに書きつけて、出発した。

kalotaszeg osz2014 (22)

門を開けて、家の扉をたたくときに緊張する。
見知らぬ旅人を快く受け入れてくれるだろうか。
このような大作を、私を信頼して引き受けてくれるだろうか。
「エルジおばさんですか?」
やせて眼鏡をかけたおばあさんがうなずく。

青いタペストリーのかかったこじんまりとした部屋。
テーブルには、温かいスープが置いてあった。
教会から戻ってきて、ちょうど昼食を取るところだったのだ。

kalotaszeg osz2014 (23)

悪い時に来たにもかからわず、焼き菓子を切って勧め、
私の話を聞いてくれた。
「私もたくさんイーラーショシュを縫ったわ。」と静かな声がいった。
作品を見せてほしいというと、奥の部屋に通された。
玄関では、やりかけの刺繍のクロスが横たえてあった。

kalotaszeg osz2014 (24)

イーラーショシュは、70年代に大きな流行があったため、
誰でも簡単にできるポピュラーな刺繍として知られるようになった。
ここカロタセグ地方では、19世紀末からすでに
ヨーロッパ各地の博覧会に出品され、王侯貴族の女性たちに愛されるようになった。
村の貧しい女性たちに仕事を与えようと、
「カロタセグの偉大な母」といわれるジャルマティ夫人が村に注文をもたらしたのだ。

その当時と大きく違うのは、村の女性たちが
本来の意味での刺繍文化から大きく遠ざかってしまったことである。
手仕事が生活の中に深く根ざし、
娯楽と必要とを兼ねていた時代は終わってしまった。

kalotaszeg osz2014 (27)

ただ今でも、かろうじて村で出会うことができるのは、
美しいものはすべて自分の手で生み出さなければならなかった時代を経験し、
よそから伝わる流行ではなく、
生まれ育った村に古くから残る価値観や美意識をよしとする世代の人々。
彼らは刺繍を通じて、先人たちの知恵や技術、精神のあり方を今に伝えているのだ。

kalotaszeg osz2014 (25)

最後に、エルジおばさんに刺繍をするところを見せてもらった。
しずかな部屋で、おばあさんが針を上に引く音のみが聞こえてくる。
まるで、ここだけ時間が止まったようになる。
白い布に、赤い糸がゆっくりと広がっていった。

kalotaszeg osz2014 (29)

幸運にも、始めの村ですぐに縫い手が見つかり、肩の荷が下りた。
村のはずれの木陰でパンをかじったあと、駅に向かって歩み始める。
白い犬が私たちを導くように、目の前を走っていく。

kalotaszeg osz2014 (31)

そうして、目の前に開けたのはなだらかな丘の続く風景。
羊の毛の色のような枯草に、まばらに緑が広がり、
森の木々は赤や黄色に色づいている。
丘の向こうの森の中に、目指す駅がある。

kalotaszeg osz2014 (33)

眠りに入った娘をしばし、木陰に横たえる。
穏やかな秋の日は、永遠に続くもののように思わせる。
あらゆる生命が姿を消す、暗くて厳しい冬がくることなど、知らないかのように。
ただ穏やかな色を投げかけている。

kalotaszeg osz2014 (35)

背中の重い荷物さえなければ、最高のハイキングだっただろう。
坂道を下ると、小さな小川の橋があって、さらに上道がつづく。
動悸が激しくなり、手に汗がにじむ。
坂を上り切った所で、目の前が開けて駅が現れた。

冷たい湧水を飲んだり、木から落ちたクルミの実を拾ったりしている内に、
待ち時間も過ぎていった。
宿泊をするエルジおばさんの家に帰りつくと、
リンゴの木に小さな花がついていた。
まるでその日いちにちのご褒美のように、
真っ赤なリンゴに混ざって甘い香りを放っていた。

kalotaszeg osz2014 (36)
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comments(2)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2014-12-04_21:29|page top

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非公開コメント

No title
野生のリンゴですか? 何かステキですね。
小さな娘さんを ちょっと置いておいても 村の人々はいろんな手を貸してくださるんですね~。
日本だったらどうだろう・・・などと考えてしまいました。
ししゅうをする方が見つかってよかったです。
そうやって探さないと もうなかなか捕まえられないのですね。
なだらかな丘陵地帯、聖子さんの写真を何度見ても 日本とは違う時間が流れているなぁと感じます。
Re: No title
霧のまちさん、こちら庭のリンゴです。
小さくて傷だらけなので、なんだか野生みたいですよね。

思えば知らない方だったのですが、
知っている村の出身だったので安心して預けました。
子ども好きの方が多いので、助かります。

知らない村で何かを探す時は不安もありますが、
今回はうまく目的を達成できてよかったです。
この地域は、カロタセグの中でも好きなところのひとつです。
秋の日の陽気と美しい自然と、ゆったりとした時間・・・。
それだけで満足してしまいます。
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