トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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2015年はじめの日

森のはずれの友人の家に、
3家族が集まってのささやかなパーティ。
去年と同じ部屋で迎える新年だった。

家の中は寒かった。
6畳部屋が二つあり、真ん中に小さな薪ストーブがある。
靴下を二枚重ねした上にフェルトのスリッパ、スキーズボンをはいているのに、
床下からとてつもない寒気が伝わってくる。
部屋の中なのに足は凍え、手はかじかむ。
何度も、火に当たりにストーブのそばへ通わなければならなかった。

ナースチャは、いつものように故郷のウドムルト料理のサラダを作っているところだ。
娘のカタがニンジンをすりおろす。
ガラスさらに、煮たジャガイモや赤ビーツ、ニンジンを幾層にも重ねて、
マヨネーズを薄く塗っていく。

キッチンと居間を兼ねた小さな部屋は、
時に楽器職人のミクロ―シュのアトリエとなる。
空間を余すことなく活かし、
美しい木彫りの細工や白樺の小物、自然療法の本などが並んでいる。

家族がテーブルを囲み、
所狭しとごちそうが並ぶのを見ているとすでに寒さを忘れていた。
大人も子どももその年最後の食事をゆっくり味わいながら、
ワイングラスで乾杯をして、時が過ぎるのを待つ。

新しい年がくるのが楽しみなのは、自分がまだ若いからだろうか。
年を取った人は、果たして新年が喜ばしいのか、
それとも年が過ぎるのが惜しまれるのか。

そういえば、昔話でこういうものがあった。
正月に年の神が現れ、すべての人に年を渡していく。
ある年寄りの夫婦がそれを恐れて逃げ、
どうにかして年をとらないようにとする。
結局は年の神に見つかり、年を重ねてしまうというものだった。

ロウソクに火をともし、テーブルにはカードゲームをひろげて時間を過ごす。
寝付けないのか、娘が何度も目を覚ました。
そうこうしている間に、新年が近づいた。
室内用の小さな花火に火をつけ、
シャンパンを抜いて乾杯をする。

オレンジ色の線香が、か細い銅線をほどばしる。
その輝きに魅せられながら、時の儚さが身に染みるようだった。
ぱっと火をまき散らし、やがて煙と燃えかすだけが残る。
人の一生も、きっと同じようなものかもしれない。

その夜、何度目かの娘の泣き声でゲームが中断となり、
皆が寝る支度をはじめた。
娘の横に寝そべった。
その手は氷のように冷たかった。
娘や友人の娘の泣き声が何度か、
眠る皆の上を飛び交った後、夜が明けた。

朝一番に目を覚ましたのは娘だった。
友達のロージャの名前を呼び、起こそうとするのを制して、
仕方なしに私もむっくりと体を起こした。

ぼんやりとした目に飛び込んできたのは、ガラスに映る「氷の華」。
氷点下10度以下の寒い日にだけ見られる、氷の模様だ。
勢いよく降り注ぐシャワーのような、
透明な鳥の羽根のような見事な模様の中に、
ふと一頭の馬が現れた。

ujev.jpg

新年初めての画を収めようと、
カメラを撮りだして、テーブルを乗り越えて窓に近づこうとする。
いくつか写真を撮ったあと、
いざ元の場所に戻ろうと振り返ったとき・・。
ガシャンと華々しい音がはじけた。
おそるおそる目を落としてみると、二個のグラスが割れている。

テーブルの下で横になっていた、主人と奥さんがゆっくりと体を起こした。
ミクロ―シュが「それは、幸運のしるしだよ。
グラスが割れるのは、そういうことなんだ。」と穏やかな口ぶりで言う。
そしてまた、何でもなかったかのように横になった。

何度も謝りながら、優しい主人の心遣いに感謝した。
賢く、そして謙虚なミクロ―シュは、
奥さんの郷のはるかロシアのウドムルトの地でハンガリー語教師をしていた。
その時に、ウドムルトの各地をめぐり民俗音楽を収集していた。
やっと助成金を得て、今年はその成果をまとめて本を出版することになったという。

その日は、いつになく寒さが厳しかった。
氷点下30度近くになった朝、娘を連れてそりをしに外に出たものの
手袋の下で手がかじかみ、すぐに家に戻らなければならなかった。

皆でテーブルを囲み、朝食を取っていたとき、
誰かが「何てきれいな鳥。」とつぶやいた。
黄色い体の鳥が、代わる代わる
窓の外にかかった豚の脂身をつつきに飛んでくる。

ujev (2)

部屋は小さいけれど、家の中は寒いけれども、
温かく幸せな家族がここにいる。
新年は静かに、そして穏やかに明けた。



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Theme:ルーマニア
Genre:海外情報

comments(9)|trackback(0)|その他|2015-01-03_22:44|page top

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No title
明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。

穏やかな新年を迎えられたのですね。
ナースチャさん一家の暮らし振りは、私にもとても興味深いのですが、間近で接している聖子さんにも、良い気の巡りを与えているような、そんな印象を受けます。自然と仲良く暮らしていると、自ずとそうなるのかもしれませんね。

ウドムルド共和国がどの様な土地なのか、想像するしかないのですが、どんな音楽があるのかも、とても興味があります。最近知ったのですが、私の好きなフィギュア選手の、エリザヴェータ・トゥクタムィシェワはウドムルド出身らしく、黒髪に黒い瞳がエキゾチックな17歳の少女です。

私は昔旧ソ連の仕事をしていた時、会社の上司からタタール民謡のカセットを貰って聴いたことがあるのですが、ロシア民謡とはかなり異なり、どちらかというと中近東の音みたいでした。ロシアは多民族で、様々な文化が混ざりあっているのでしょうね。

今年も素敵な手仕事や、村の生活のお話を楽しみにしています。
Re: No title
Yuccalinaさん、明けましておめでとうございます!

ナースチャさん一家の暮らしぶりは、
他の人たちとは違う価値感で、家族が一つにまとまっている。
私たちの理想とする生活を一歩先に行っているようです。
さまざまな欲に囚われず、生活がそれでもしっかりできているんですよね。

トイレは表にあるのですが、朝早く思い切って出かけると、
トイレ小屋が斜めに偏っているんです。
腰かけた後、なかなか起き上がれず苦労しました。
外は氷点下30度ですし、不便なことも沢山あるはずなのに
誰もそれを口にせず、幸せそうなんです。

ウドムルド共和国の方は、アジア系のエキゾチックな容貌をしていますね。
ハンガリーのサマースクールで知り合ったウドムルトの男の子が、
どう見ても日本人にみえると日本人仲間の間で評判でした。
ハンガリー人と同じウラル語族で、少数民族の言語や文化を受け継ぐのに苦労しているようです。

また音楽のこともいろいろ聞いてみますね。
タタール人はルーマニアの東部、コンスタンツァにもいるそうです。
世界あちこちに分散している民族、面白いですね。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。
No title
聖子さん 新年おめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
零下30度・・・絶句です。 そういう時 ガラスにはこんな
美しい氷の柄が出来るんですね。
そんな寒さなのに ガラス戸一枚なんでしょうか?
雨戸とか二重窓などは使われていませんか。
質素な中にも 美しいかけがえの無い時間の流れが
感じられます。
また、それをキャッチする聖子さんの感性も素晴らしいですね~。
そちらではインフルエンザの流行などはありませんか?
Re: No title
霧のまちさん、新年明けましておめでとうございます。

窓ガラスでも、プラスティック性の最新式のガラス窓では
氷の模様ができないみたいです。
古い形のガラスが、町では少なくなってきていますね。
雨戸は古い一戸建てにあります、古いタイプのガラスは二重窓になっています。
友人の家は、窓が1枚だけで床も薄いみたいなので煮炊きストーブだけでは寒すぎました。

あまり寒いと病原菌も死ぬみたいで、寒い時に病気がはやらないのはいいことです。
日本ではインフルエンザが流行ったようで、新年早々病気をされた方が多かったと聞きます。
どうか今年もお元気で海外を飛び回ってくださいね。

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Re: お元気ですか?
Mちゃん、コメントをどうもありがとう!
あれからアドレスの方にメールをしたのだけれど、
無事に届いているかな?
もし届いていなかったら、ご連絡くれたら嬉しいです。
Re: おめでとう^_^
Kさま、コメントをどうもありがとうございます!
こちらの寒い冬もあと1、2ヶ月を残すところとなりました。
こもりがちな今の私にはちょうどいいかもしれません。

これから出産、子育てとまた忙しくなりますが、
強くたくましい母となれるようがんばります。
お会いできますのを楽しみにしていますね。