トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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アーラパタクのおばあさんとの再会

ヨーロッパのお盆の日のことだった。

舅の墓に向かう途中で立ち寄ったのは、老人ホーム。

アーラパタクの村のおばあさんがここに入所したと聞いて、

渡したかった写真を届けたかったから。


それは普通のアパートを改造しただけの、活気のない建物だった。

受付で彼女の名を告げようとして、はじめて名前しか知らないことに気が付いた。

そこで手元にある写真を見せると、女性の顔がすぐに明るくなった。


白衣の女性の後について、電気のない薄暗い通路を通って二階へ上がる。

広いロビーでは、お年寄りの方たちが椅子に腰掛け、

何を話すというわけでもなく集まっている様子。

部屋に通されると、長かった髪をバッサリと切った白髪の女性が

テレビの前に腰掛けているところだった。

同時に目に飛び込んできたのは、壁一面に飾られた赤いクロスステッチ刺繍のタペストリー。

おばあさんは私に抱きつき、涙を流しているようだった。

「彼女のために刺繍をしたのよ。それを、日本へ持って行って・・。」と受付の女性に話している。

日本で展示会のために、いくつか編みクロスステッチの作品をオーダーしたことがあった。

何度か足を運んだあと、年のせいでもう縫えないと彼女はいった。

目に見えて年をとった彼女の姿に狼狽しながら、

持ってきた写真を目の前に広げて見せた。


それは、3年ほど前に日本のフォトグラファーを伴って訪れたときの写真だった。

ご主人のジュリおじさんが木彫りと、

奥さんのエ二クーの編みクロスステッチの刺繍。

気の合うふたりそのもののように、調和していた。

手作りの作品に囲まれた居間でくつろぐ姿が目に浮かんでくる。


szobabelso.jpg 

「2年前に、ジュリおじさんが突然亡くなって、

私も病気をしたからここに来たのよ。

それから家にも強盗がはいったのだけれど、辛うじて手仕事だけは運んできたわ。」

村の人口がジプシーが過半数という村は、

一人暮らしのお年寄りにとって危険この上ない。

おじさんには前妻との間にふたりの娘があったようだが、

おばさんには身寄りが他にないようだった。


迷っていたのは、写真を全部渡してしまおうか、

それともジュリおじさんの身内に渡そうかということだった。

「ジュリおじさんの写真は?」と尋ねると、

「残しておいてください。」

白髪のおばあさんはまっすぐに目をみてこういった。


ゆっくり話を聞いてあげたかったが、先を急がねばならない。

また家族とゆっくり訪ねてくると約束をすると、

「いくつかの手仕事はあなたたちに渡すわ。」と耳元でささやいた。

赤い刺繍に見守られて、彼女は残された日々を過ごしていく。

しばらくの間、エメラルドグリーンの壁に幾何学の赤が目に焼き付いていた。





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comments(0)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2016-11-11_05:15|page top

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