トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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カロタセグの成人式

昨年の3月。
イースターより少し早い春のはじめに、
カロタセグ地方に来ていた。
それは、「花の日曜日」と呼ばれるキリスト教の祝日。

ナーダシュ地方では、この時期にカルバン派の信仰告白式が行われる。
16歳を迎えた少年少女たちが、正式に信仰を受け入れる儀式であり、
いわば成人式といってもいい。

まだ日が昇って間もない早朝だった。
ある知人のつてで、16歳の少女のいる家庭を訪問した。
家族に挨拶をして、一室に通される。
テーブルにはきれいに折りたたんだ衣装が並べられ、
少女が部屋着のまま腰かけていた。
この日のために作られたビーズ刺繍のエプロンが、
まるで宝石のように朝日をうけて輝いている。

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少女はそわそわとどこか落ち着かないようだ。
それもそのはず、この日の礼拝の後には、
長い質疑応答の試験のようなものがあり、
晴れてカルバン派教徒になるからだ。
家族や親せきの他、村人たちの目が耳がその若者たちに注目する瞬間だ。
何より、これから衣装に着替えて
礼拝の前に行われる予行練習に間に合わなければならない。

やがて、ブラウスや色とりどりのリボンを抱えて、
おばあさんが到着した。
孫娘の衣装はほとんど、祖母であるエルジおばあさんが手掛けたという。
「うちの娘はお馬鹿だよ、本当に。
せっかくのきれいな髪を切ってしまったんだからね。」
チッラは、美容師になることを夢見る少女。
しかし昔は、村の女性たちは髪を生涯切ることはなかった。
カロタセグ地方では、少女はひとつに三つ編みにするのが習慣だった。

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慣れた手つきで、5メートル以上はあろうかという布の塊をほどき、
少女にかぶらせて紐を引っ張る。
スカートの下にはくペチコートは、
起毛したような厚いコットン地で、背中のところでたっぷりとギャザーを寄せる。
それだけでもボリューム感があるのに、
4枚も5枚も重ねるのだから
誰しもがふくよかな腰つきになる。

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それから、仕上げは白いプリーツスカート。
村によって、信仰告白式に着るスカートやエプロンの色が違う。
そして、これから始まるイースターの金曜日、土曜日、日曜日でも
装う色が変わるところもあるのだから、衣装はいくつあっても足りない。

それから、アンティークの朱赤の刺繍ブラウスがくる。
うすいコットン生地を青く染めるのは、この村の特徴でもある。
プリーツが解けないように丁寧に、糸でぬい留めたしつけを解いていく。

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100年以上も経たブラウスなのに、
新品そのもののような美しい状態。
いかに大切にとっておかれたかが伺い知れる。

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青に朱赤が冴え冴えとするブラウス。
肩に繰り返しつづく連続模様は、
遠くからでは確認することができないほどに密集している。
まるで、作り手が装い手に遺した一つの暗号のようだ。

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やがて、ずっしりと重いビーズ刺繍のエプロンの紐を結ぶ。
どうしたら着くずれしないでいられるのかと思っていたら、
おばあさんが針と糸でしっかり縫いとめていくからだった。
まるで人形を作るように、器用にエプロンも、ベストも、リボンも縫いつけていく。
「チッラは、縫い目だらけね。」とおばあさんが笑う。

2016年チッラと年号や名前まで刺繍された、
お祖母さんの愛情が込められた衣装。
カロタセグでは、何年がかりで衣装の準備に取り掛かるのだ。

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鎧のように上半身を覆うのは、村に住む職人さんが作る刺繍のベスト。
余白がないほどにびっしりと色や文様が重ねられる。
ロゼッタとも回転するバラとも呼ばれる模様が並ぶのは、
大切な少女を難から守りたいという親心の表れかもしれない。

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赤いガラス石のネックレスを纏うと、
少女の顔が一段と大人に近づいていく。

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少女から大人へ。
カロタセグの人々にとって、その大切な段階のひとつが
衣装を装うことにあるに違いない。
それは、何世代もの先祖から受け継いだ彼らの大切な文化であるからだ。

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ビーズの輝きに魅せられた人々は、
20世紀後半になっても衣装をさらに華やかに進化させていった。
ひとつの流行が来ては去り、
さらに新しい流行が追いかける。
それは、今もなお衣装という文化が生きている証なのである。

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そして、腕にも。

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信仰告白式に臨む少女は、
大きなリボン飾りを頭につける。

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これから行われる試練に合格して、
はじめてパールタと呼ばれるビーズの冠を被ることができるのだ。
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娘の晴れ姿を満足そうに見つめるおばあさん。
そして、部屋の外でそわそわと行方を見守るお父さん。
まるで、結婚式の予行練習さながらである。

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ハンカチーフを手に、聖書を脇にかかえて教会へと向かう。

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行く先々では、ご近所さんたちが
「立派ね。」「よく似合っているわ。」などと声をかける。

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20世紀から21世紀にかけて、
私たちを取り巻く世界は大きく変わった。
けれども、先祖から続く土地で生まれ育った人たちが、
昔と変わらぬ衣装をまとって人生の節目を迎えようとしている。
変わらない何かを、ある瞬間に見出すことができる。

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教会の礼拝がはじまった。
刺繍の施されたクロスが何重にも折り重なった下に、
パンとワインが保管される。
信仰告白式を終えた信者は、聖餐(せいさん)を受けることができる。
信仰の意味を探り、やがてキリストの血と肉を分かち合い、
はじめて信仰が彼らの精神に宿るのだ。

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チッラは、朝とは打って変わった
晴れ晴れとした笑顔で階段を降りてきた。
村人たちの見守る中で成人になった彼女は、
これからどんな人生を歩むことだろう。
その日半日付き添った私自身も誇らしく、
晴れやかな気持ちが宿っていた。
 
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comments(2)|trackback(0)|トランシルヴァニア食文化|2017-04-03_15:40|page top

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No title
ああ・・・何て素敵な 夢を見てるようです。
腰回りが皆さん大きいと思っていましたが 何枚も重ねるんですね~。
まばゆいばかりの刺繍やビーズで根を詰めて作られた宝物ですね。
こうして年配者の技術や作業がまだ十分に生きている社会は
今はとても貴重です。 何もかもがどんどん変わってしまう日本の
現状には 皆ついて行けず、心の病などを得ることになって行きます。
FBでも拝見しましたが、お嬢さんの素敵な衣装に驚きました。
衣装だけでなく 周りの雰囲気もマッチしてて一枚の絵のようですね。
Re: No title
霧のまちさん、いまもカロタセグ地方が
こうして手仕事の文化を保っているのは、
この成人式が大きな役割を担っているようです。
この日のためだけに何年も前から家族が準備をすすめ、
衣装を作ったり、作らせたりする。
それだけ、村の共同体に認められて一人前になることが
大きな行事であることがわかります。
衣装を着させるのにも、1時間くらいかかりました。
丁寧に、ひとつずつ。
おばあさんが孫娘を着させると、
だんだん彼女の表情も変わっていくのが分かりました。

娘もカロタセグの衣装を着せることができて、
私も感無量でした。