トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

カテゴリー

FC2カウンター

カレンダー(月別)

09 ≪│2017/10│≫ 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

これまで書いた記事は・・・

全タイトルを表示

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Feed Me!

トランシルヴァニアへの扉  - Erdely kapuja-のRSSフィード

ブログ翻訳

針金細工のボクレータを学びに

セーケイ地方から北西へと車を走らせること、6時間。

カロタセグ地方の土を踏むのは、この春に訪れて以来のことだった。

夏と秋のはざま、9月の二週目が過ぎようとしていた。

それは、人々が長い夏を終えて、

平常の仕事ペースに戻ろうとゆるゆると重い腰を上げる頃。

新学期がはじまる、ちょうど前の週末だった。

 

長い夏の大半を日本で過ごしたため、休息とたまった仕事に費やしたこの8月。

すぐに次の旅へと気持ちを移すことができなかった。

しかし、どのように悔いても時間だけは元に戻らない。

 

秋のはじめは、まるで大波のように暑さと肌寒さが

代わるがわるに押し寄せてくる。

夜が更ける頃、ナーダシュ地方のエルジおばさんの家に到着すると、

石造りの家の中も外と変わらず身震いをする冷え込みだった。

張りのある大きな声と、がっちりした大きな体に肩を抱かれて、

長い旅の終わりを感じていた。

一人だけ連れてきた末っ子の瑞生は、

座りっぱなしの体をようやく伸ばして、おそるおそる家の中を探索しはじめた。

おばあさんは、この冬を越すための、荷馬車いっぱいの薪を買い込んだところだという。

そして、ここカロタセグでは薪用の丸太も年々値上がりが激しく、

大変な出費だとのことだった。

自家製のプルーンジャム入のロールパンはふわふわで、

やさしい味が旅の疲れもほぐしてくれるようだ。


 kalotaszeg osz (12)


長旅の疲れと温かい布団のお蔭で、ゆっくりと休んだ。

退院して二週間になるカティおばあさんを見舞ってから、

次なる目的地へと車を走らせた。

 

kalotaseg osz (6) 


今回は、ビーズの針金細工を習得するのがもうひとつの目的。

カロタセグのナーダシュ川流域の村では、

大都市クルージ・ナポカに近いため、流行の素材が手に入りやすかった。

そのため、色とりどりのビーズを散りばめた装身具を作り、

とりわけ華やかな衣装に身を固めるようになった。

針にビーズを通して刺繍をするビーズ刺繍の他に、

昔は針金にビーズを通してモチーフを作る、針金細工の帽子飾りを作っていた。


 kalotszeg osz 


面白いことに、同じカロタセグでも地方によって美意識が大いに異なる。

ナーダシュ流域ではきらめくビーズをふんだんに使うことにこの上なく誇りを持っており、

上下地方では、昔ながらの刺繍に磨きをかけ、統一感のある配色をもつ

自身の衣装こそが本物だと主張する。

はじめは、私も刺繍こそが美しく、ビーズは玩具のようなものと思っていた。

民俗学的にも、刺繍の本は山ほどあるが、ビーズを扱ったものは一つもない。

そんな先入観を大きく変えてくれたのは、カティおばあちゃんの手がけるボクレータであり、

古くにチェコから仕入れたビーズを使ったさまざまな装身具だった。

とりわけ磁器のように白の濃い目の細やかなビーズが、年代を経て塵や埃を吸い、

さながら影のように黒ずんだ表情が美しい。

 

山手にある村、イナクテルケ。

周辺の村の中でも、最も衣装が華やかだと言われている。

数年前に知り合ったカティおばさんを探すことにした。

一人息子が牧師をしているというおばさんは、穏やかでどこか知性を感じさせる話し方をする方。

針金細工を教えてほしいというと、快く受け入れてくれた。

「そう私の小さい頃にはね、丸いビーズが揺れる長いモチーフを3本作って、

バラをその間に埋めた飾りをつけていたのよ。踊ると針金飾りが揺れるので、

「レズグー(揺れる)」と呼んでいたわ。」

思い出し思い出ししながら、針金にビーズをくぐらせてねじる。


 kalotaseg osz (2) 


手仕事を片手に、村のおばあさんたちとおしゃべりするのも楽しい。

相手の顔を見ずしも、手仕事という共通点から、さらに相手との距離が近づく気がする。

「子供たちよ、昔この家の横で夏になるとフォークダンスのキャンプが開かれて、

ハンガリーからたくさんの人がきたわ。

その先生の一人娘がね、まだあの頃は8歳くらいだったかしら。

うちの家畜たちが好きで、よく見に来ていたの。そして、ある時こういったわ。

『おばさん、牛はどうなったの?』ちょうど主人がなくなったあとで、

私は女手ひとつで養っていく自信がなかったから、すべて売ってしまったところだった。

忘れもしない、その子は私の目をまっすぐ見ながらこういったわ。

『可哀想なおばさん。貧しくなってしまったわね。』

その子のいう通りだった。今、店で買う牛乳やサワークリームは、

自家製のものとは似ても似つかない代物。もう、あんな味は手に入らないのよ。」

現在は、村には一頭の牛もいないという。


 kalotaseg osz (3) 


「さあ、今度はあなたがやってみて。」とバトンタッチ。

時にビーズをほどくこともあったが、小さなバラのモチーフが出来上がった。

細くしなやかな工芸用の針金は、現地では手に入らないという。

「わたしもひとつ注文したいわ。孫に昔ながらの針金ボクレータを作りたいの。」

とカティおばさん。

物づくりの上で大切なものは素材。

素材がないために、姿を消してしまった美しい品々はたくさんある。

もしかしたら、もう一度古い針金細工ボクレータが復活するかもしれない。

淡い期待に胸を弾ませながら、夕暮れどきの道をエルジおばさんの待つ家へと車を急がせた。




スポンサーサイト
comments(2)|trackback(0)|カロタセグ地方の村|2017-10-10_20:22|page top

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

コメントの投稿

非公開コメント

No title
これはビーズを刺繍するのでなく、針金に通して曲げながら形を作るんですね。
細かい作業の繰り返しで根気が要りますね~。
このカラフルなビーズは国内で生産されているのでしょうか?
ビーズを作るのはなかなか繊細な大変な工程なんですが・・・。
Re: No title
霧のまちさん、
針金細工は針金に直接ビーズを通して作ります。
一見細かそうに見えますが、試した感じでは
ビーズ刺繍と同じ感覚です。
作るものは立体になるので、また違った楽しみがあります。
ビーズは昔はチェコ産のものを使っていたそうなのですが、
今はどこかアジアから輸入したものを使っているそうです。
古いビーズ作品を見ると、目も細かくて色も美しいです。

来年のクチュリエのコレクションで、
こちらが新作として登場します。
こちらはすべて国産の材料となり、また違った味わいになりそうです。