FC2ブログ

トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

カテゴリー

FC2カウンター

カレンダー(月別)

02 ≪│2020/03│≫ 04
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

これまで書いた記事は・・・

全タイトルを表示

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Feed Me!

トランシルヴァニアへの扉  - Erdely kapuja-のRSSフィード

ブログ翻訳

祈り

カロタセグからの帰り道、
シギショアラのガソリンスタンドに立ち寄った。
日も傾きかけているころだった。

車を降りる旦那のところに、
一人のジプシー女性が近寄った。
棒に荷物をつるして、肩にかけた
見るからに物乞いのような姿の老婆だった。
「神様のご加護を・・・。」などを繰り返しながら、
何かを言い続けている。
なぜそんなに執拗についてくるのかとうかがわしく思っていると、
「ヘーヤシュ村まで連れて行ってって言っている。」と旦那。
こちらに意見を聞いてきたが、
「あなたの好きなように。」とだけ答えた。

ガソリンスタンドを出ると、
ジプシーの物乞いの子供たちが出口で待ち伏せていた。
そして、先ほどの物乞いらしき老婆もまだそこにいた。
旦那が支払いをしている間、
また来られると厄介だったので中に入って待つ。

おもむろに旦那が車の後部座席を片付けはじめた。
そこで、先ほどの老婆を載せていくことが分かったのだが、
私はどこか不安でいた。
もちろん貴重品はすべて私の身の回りにおいてあった。
無言で助手席に乗り、後部座席の後ろに
ジプシーの老婆が乗った。
その間も、先ほどの
神への感謝の言葉を唱えつづけていた。

車が動き、しばらく乗っていると
「神様、この人たちにご加護を与えて下さい。
子どももいますか。」と旦那に尋ねてから、
さらに子供たちのためにも祈りはじめた。
その祈りが延々と続くのだった。
ほかのジプシーの物乞いのように、
表面上で見せているのではなく、本物の信仰心からくる祈りであることがわかる。

曇り空からは小雨が降っていた。
後部から祈る傍ら、時々咳が聞こえてきた。
はじめ不安で仕方なかったのが、
だんだんとこの老婆に興味を持ちはじめた。

こんな時刻にどうして村に行くのだろう。
いや、きっと、彼女が病気のために
町の病院を訪れて、その帰りなのかもしれない。
行きは歩いてきたかもしれないが、
病気と疲れ、そして夜が近いために
差し迫られて(少し強引な)ヒッチハイクをしたのだろう。

私たちも若いころ、そして車がない7、8年前までは
ヒッチハイクをせざるを得ないことがよくあった。
やっと車という文明の利器を手にした今、
なるべく恩返しのために人を乗せるようにはしている。
それでも、マナーのない人も中にはいて、閉口することもある。

ルーマニアではだいたい公共交通機関の半分の値段の
お金を降りるときにお礼でするのが礼儀とされている。
一度カルパチア山脈の山間の町から
プロィエシュティの町まで乗った若い女性がいた。
子供連れで、大掛かりな荷物も持ち、
トランクに旦那の力を借りて入れた後は、
自分の気を引くようにおしゃべりをして、
1時間以上も乗った後、
降りるときには、道路の差し向かいのガソリンスタンドに入るように命令し、
旦那に荷物を下ろさせて、さようならだった。
いくらヒッチハイクで助けられた経験があっても、
こういう人間には腹が立つ。

多少の緊張もはらみながら、
だんだんと目的の村に近づいてきた。
「どこで降りますか。」と旦那が聞くと、
村のはずれの場所を差した。
お礼の言葉を告げて、老婆が降りた。

そこで、私は初めて
そのジプシーの女性の顔を見た。
彼女の顔に真剣さ、謙虚な面影が宿っているのを見ると、
自然とこちらも笑顔になった。
「さようなら。」と手を振ると、
老婆はドアを開けるように示した。
ドアから手を差し出すと、
その手に老婆はキスをしたのだった。
ドアを閉め、もう一度、私は笑顔で手を振った。

お金の問題ではない。
気持ちの問題なのだ。
良い判断をした旦那に感謝をしながら、
まるで右手に不思議な力でも宿ったかのように、
手の甲をさすった。














スポンサーサイト



comments(0)|trackback(0)|その他|2020-03-03_08:29|page top

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

コメントの投稿

非公開コメント