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トランシルヴァニアへの扉 - Erdely kapuja-

古きよきヨーロッパの面影を残す、トランシルヴァニアへの扉をそっと開いてみませんか?

::自己紹介::

谷崎 聖子

Author:谷崎 聖子
1978年宮﨑生まれ。
大阪外大、ハンガリー語学科卒業。
ブダペスト大学で民俗学を専攻。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方のフォークロアに惹かれて、セーケイ地方に移住、結婚。
三人の子育て中。

伝統手芸研究家。
トランシルヴァニアの文化、手しごとを広める活動をしています。主な著書「トランシルヴァニアの伝統刺繍 イーラーショシュ」、「カロタセグのきらめく伝統刺繍」。

東欧雑貨ICIRI PICIRIFOLK ART Transylvaniaのオーナー。

詳しくは、森の彼方-トランシルヴァニアへの扉をご覧ください。

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ピロシュカおばあちゃんと手仕事

ゆったりとした春の後で、 
夏はあわただしく私たちの周りを駆け抜けていこうとしている。
何か予定を立てていたわけでもないのに、 
次々いろいろなことが舞い込んできて、 気が付けばもう8月も半ば。
久々に、アーラパタク村のピロシュカおばあさんのところへ立ち寄った。 
しばらく音沙汰がないと、おばあさんが心配をする。
 一人暮らしのおばあさんは、体の自由が利かない分、 
頭だけはいろいろと思いめぐらすのだろう。 

さきほど市場で買ったばかりの野菜や果物をもって 門の前に車を止めると、 
おばあさんがお隣さんの家からゆっくりとした足取りでこちらに向かってきた。 
「つえをなくしてね。 もしかしたら、隣に置いてきたのじゃないかと思ったんだけれど。
 やっぱり、ここにあった。」
 門に立てかけた箒のすぐ後ろに、木の棒が置いてあった。 

「今は夏だから、外で寝るのよ。」 
そこは、おばあさんのベッドがやっと入るくらいの小さな小屋だった。 
薪で煮炊きをするから、夏の間は寝室が過ごしやすいようにと、 
住まいを分けるのが習慣だ。 

村で病気にかかった人の話、通りの下水工事の話、
庭の野菜の、毎週日曜日の教会の話など、おばあさんの近況に耳を傾けていると、 
ふと何かを思い出したようで、食糧庫の中で探し物をしている。 
「あの布がここにあったと思ったんだけれど。」
 やっと見つけた袋から、布と赤い巻き糸が出てきた。

「もう、縫うことはできないわ。
だから、返そうと思って。」
以前、おばあさんに刺繍を縫ってもらおうと思って預けた
クロスステッチ布と糸だった。
不意の言葉に、さみしい思いでその包みを手にしていた。
すると思い返したように、小さな布切れだけは取って、
「これだけはもらっておくわ。しおりなら作れるかもしれないからね。」

そういえば、何年か前にもそういうことがあった。
もう縫えない。
細かい布の目を数える編みクロスステッチは、
手先の器用さはもちろん、集中力を要するものだ。
自分の力の極限を感じながら、
それでも、膨大な時間をどう過ごしていいかわからず、
やっぱり手にとり、刺繍で時間を過ごしてきたのだろう。

  IMG_0878.jpg


86歳のピロシュカおばあちゃんのしわしわの手が、
ベッドの上の枕の下を探り、
ふたつの靴下を見つけ出した。
「これは、あなたとお嬢さんのよ。」
毛糸で編んだ靴下は、しっかりとした厚みとぬくもりが感じられた。

「昔着ていたセーターをほどいて、編むのよ。
私はもう昔の服が着れなくなったから。」
この冬はおばあちゃんの靴下のおかげで足は寒くないだろう。
「おばあさん、秋になったら
私も編み棒をもってくるから、編み物を教えてくれませんか。」
私はとっさにそう口に出していた。
「ええ、もちろんよ。刺繍を教えたみたいにね。」

こうして、おばあさんと私をつなぐものは刺繍だけでなく、
編み物も含めた手仕事となった。
いつか一緒に編み棒の針を動かしながら、
おしゃべりをしよう。
そして、讃美歌の歌を歌おう。
この冬にそうしたように。


IMG_0886.jpg
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comments(1)|trackback(0)|セーケイ地方の村|2020-08-15_02:49|page top

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